ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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第24章 南へ

第203話 見覚えのある建物

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 リディナやセレスの考え通りに市場で買い物をして、そして更に図書館にも寄った後、バーリの街を出発。

 その後2日間、魔物を倒しながら街道を進む。途中で新しく作っている最中の街を6つ通過。

「領都でさえ建設中のところが多いんですね」

 カタサーロという街を通過中、セレスがそんな事を言う。なお街の名前は街門を通った時に聞いた。

「もともと街がなかったところだから大変だよね。0から人を集めなければならないし。でもまあ資力的な問題は無いと思うよ。カレンさん達以外は今まで別の領地で貴族をやっていたようだから、それなりの蓄えはあると思うし」

 リディナがライ君を操縦しながらそう説明。

「ところでフミノ、討伐の方は大丈夫? もっとゆっくり走らせたほうがいいかな?」

「大丈夫。問題ない」

 そんな感じで南へ、そして海岸線に出たら西へ。

 そして3日目。宿泊した森を出て1時間ほどゴーレム車で走り、ようやくカラバーラに到着。
 街門を入る際にリディナがゴーレム車を降りて手続き。ライ君はセレスが操縦。

 荷物があるのでゴーレム車を収納せず、そのまま歩く程度の速さで街に入る。

「ここは元から街があるんですね」

 確かにバーリから先で通過した街と違い、建物がそこそこ古い。地図や百科事典で調べたな。確か……

「東西航路の為の港があったからね。ただ伯爵家の領都というような大きさはないかな。これから作っていくんだろうけれど」

 そうそう、航路の為の風待ち港だった。あとは水の補給地。

 さてこの街だけれど私的には微妙に怖い。普通の街とくらべると強そうな男の人が多いから。

 ただ領地そのものが開拓地みたいなものだと思えば仕方ないだろう。それに強そうな人が多いけれど悪そうなのは普通の街と比べても多くない。

 これについて以前リディナが言っていたな。
『そういう柄の悪いのは概して腕もいまいちだから、本当に魔獣を相手にするような場所には行かないと思うし』
 きっとその通りなのだろう。

「まずは領役所かな。その後市場、ギルドという順番でいいよね」

「そうですね。どんな場所があるのか気になります」

 確かにそうだな。でも領役所は何処だろう。

「この先まっすぐで大丈夫だよ。大きい旗が出ていてすぐにわかるから」

 リディナありがとう。
 なお私が何も言っていないうちに場所を教えてくれた事に関してはスルーで。リディナは私の思考が読めるのだ、多分きっと。

 リディナの言うとおり領役所はすぐにわかった。馬車止めがあったのでそこにゴーレム車を停める。
 降りた後、アイテムボックス経由で車内につっかえ棒を出してロック。ライ君は収納して役所へ入る。

 中は冒険者ギルドや商業ギルドと同じような造りだ。カウンターがあって掲示板があって、中央は待合室状態で奥に相談用の個室がある。
 広さはかなり大きい冒険者ギルド、たとえばこの前行ったバーリのギルドよりさらに広い。

 ただ開拓者や一般の人はほとんどいない。見た限りは3人だけ。事務所部分で働いている人は十数人いるけれど。

「此処だと場所的に船で来る人が多いんだと思うよ、開拓団もそれ以外の入植者も。そういった船が着くとここもいっぱいになるんじゃないかな」

 リディナの台詞になるほど、そういう事かと思う。

 元南方直轄領以外から此処は遠い。歩きでは日数がかかりすぎる。そして普通の入植者は馬車等を持っていないだろう。
 それなら此処へ来るには船を使うのが一番楽で安い。馬車のチャーターなんてとんでもない額になるだろうから。

 なお私の口に出していない疑問にリディナが答えているのはいつものことなので省略。

「まずは掲示板を見てみませんか」

「そうだね」

 3人で掲示板の前へ。

 カラバーラの周辺地図が大きく貼られていた。そして地図上の所々が赤や青、緑、黄色で囲まれている。

 注意書きによるとこの色はそれぞれ『農地専用』、『牧場可』、『無料期間付き宅地』、『商店併用住宅』を意味するようだ。

 なお地図の横にはそれぞれの詳細が書かれた紙も貼ってある。

「セレス、どんなところがいいのかな」

「水利は絶対条件です。あとは現在植物が生えているところですね。草地ではなく森がいいです。それだけ環境がいいという事ですから。
 ただ下草に注意して下さい。湿気すぎていると後が大変という事があります。あとは街にある程度出やすい場所で」

「ならフミノ、調べてもらっていいかな?」

「わかった」

 偵察魔法で視界を3つ飛ばして調査開始。
 水利は絶対。これは湧き水等を作れそうという事でもいいだろう。ならこの辺の台地でも山に近い方は大丈夫そうだ。

 そして植物は……海近くの草地はやめておいた方がいいという事か。そして森の中の植生はどうだ。仮に作られたらしい道のうち、ゴーレム車で通りやすそうな場所から順に確認していく。

 そして私は森の中に発見した。以前見たものとよく似た建物を。

 現在は使われていないようだ。蔦のような植物に覆われ緑の塊状態になっている。扉などの木製であったと思われる部分は既に朽ちて形がない。古い。そしてかなり傷んでいる。

 それでも私には原型がわかる。石造りのドームがついた大きな建物。そう、あのヴィラル司祭がいたのと全く同じ建物だ。
 中を確認する。残念ながら植物が生い茂っていてよくわからない。それでも神像と思われるものが見えた。間違いない。

 どうしようか。位置を地図で確認し、そして周囲の状況を確認する。

 街までの行き来は大丈夫だろう。この土地に隣接した道がある。距離はあるがライ君を使えば問題無い。土地の内部については私が土魔法を駆使して道を作ればいい。

 水も大丈夫。川はないけれどこの土地内、東側にある崖近くまで帯水層が来ている。ここを掘り抜けば水が出るはずだ。
 植生も問題ない。あくまで私の知識でだけれども。

 ここからの距離は……5離10km先か。リディナやセレスの偵察魔法では届かない距離だ。
 しかしゴーレムならおそらく操縦可能範囲。なら実際に2人に現場を見て貰おう。

「最高にいいという訳ではないかもしれない。でも気になる場所を見つけた。リディナとセレスにも確認して欲しい」

 事務員さんや他の人から見えないようにデュオ君とトロワ君を出す。

「これを起動すればいいのね」

「そう。アイテムボックス経由で現地におくる」

 そう言った後、付け加えておいた方がいい事を思い出す。

「ただアイテムボックス内はゴーレムの視覚で見ない方がいい」

「わかった。それじゃ現地に出したら教えて」

 リディナとセレスがゴーレムを起動したところでアイテムボックスに収納、すぐにあの建物の前に出す。

「出した。この建物、どう思う?」

「……アリサちゃん達が行った、あの開拓村のと同じですよね」

「私もそう思う。此処って地図だと何処になるのかな」
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