上 下
141 / 323
第23章 リハビリの海辺

第195話 リハビリ失敗?

しおりを挟む
 ゲームなら待ったは3回まで。しかし今回は5回も使ってしまった。

 もちろんゲームではない。廃道終点からこの入り江に来るまでの間、リディナ達について行けなくなってだ。

 身体強化も使ったし回復魔法も使った。縮地は人が歩くペースにあわせて動く場合には役に立たなかった。

「……やっぱり鍛えた方がいいかもしれない」

 出した3階建てのお家の1階リビング。私は人駄目ソファーに埋もれた状態で足に回復魔法をかけている。
 回復魔法は自然治癒力を超強化する魔法。だから効いている最中に筋肉痛なんかも出てくるので動けない。

「まあ3ヶ月ずっと作る仕事をしていたしね。そのうち少しずつ戻ると思うよ」

 リディナはそう慰めてくれる。
 しかし原因はそれだけじゃない。何せ最近の私、歩いていない。基本的にゴーレム車だ。大きな街だと街の中すらゴーレム車。

 そういえばこの前の迷宮ダンジョンもゴーレム車に乗ったまま討伐したのだった。ラクーラ側の洞窟に入る部分以外、ほとんど歩いていない。

 今の私の体力、どれくらいなのだろう。そう思ってふと気づく。
 そうだ、ステータス表示という便利なものがあるのだった。早速確認だ。

『生命力:180 魔力:582 腕力:55 持久力:55 器用さ:98 素早さ:58 知力:93』

 まずい気がする。以前は80以下の能力は無かった筈なのだ。何かメモは無かったかな……
 アイテムボックスを探る。ステータスをメモしたものが見つかった。これはミメイさんにステータスについて説明した時のものだな。

『生命力:155 魔力:320 腕力:85 持久力:91 器用さ:95 素早さ:88 知力:93』

 やばい。腕力と持久力と素早さ、大幅に下がっている。これって下から数えて何パーセントかという値だったよな。

 更に公にできないプライベートな数値も変化している。身長も少し伸びたがそれ以上に体●が……
 成長期だからと誤魔化しきれない値だ。

 よし、決めた。特訓、いやリハビリ開始だ。
 さしあたっては腕力の為に筋トレ、素早さは反復横跳びでもやって鍛えればいいだろうか。両方まとめてバービートレーニングでもいいか。

 でも持久力はどうしよう。ただ歩くだけでは面白くない。楽しく足腰を鍛える事が出来るもの、何かないだろうか……

 そうだ、スワンボートだ。
 優雅に泳ぐ白鳥も水面下では必死に足をもがいている。実はこれ、嘘知識らしいけれど、それを具現化したのがスワンボートだ。

 あれ、頑張って漕いでもなかなか進まないらしい。普通のボートの方がよっぽど速くて楽だと聞いた。
 なお私はどちらも乗った事が無い。だから本当のところはよくわからないけれど。

 そのスワンボート、まあ形まで白鳥にする事はないから足漕ぎ式のボートを作れば、さぞかし楽しいに違いない。だからきっと足も鍛えられる。

 よし決めた。作ろう、足漕ぎ式のボートを。
 アコチェーノエンジュは木としては重め。だから安定して浮くにはそれなりの内容積が必要。だから船体は少し大きめに。

 動力伝達部分は外装式にしよう。水漏れを防ぐいい素材が思い浮かばないから。動力伝達はチェーンとシャフトどちらにしようか。やはりシャフトかな。伸びないしチェーンよりは水に強そうだから。

 よし、そうと決まれば筋肉痛なんかに構っていられない。リハビリの為に作ろう、足漕ぎ式ボートを。
 私は人駄目ソファーから起き上がる。

「あ、フミノ、もう大丈夫?」

「やる事が出来た。足腰のリハビリ用道具を作る」

 船を作るにはこのリビング、少し狭い。だから外で作ろう。天気はいいし外は気持ち良さそうだし。
 力をかけるとまだ足が微妙な反応。動かすと微妙に痛い。だから少しばかり妙な歩き方になってしまう。

「大丈夫? フミノ」

「すぐそこ、外に出るだけ。だから大丈夫」

 さあ作るぞ! 足漕ぎボート!

 ◇◇◇

 ここは湾状になっているし、面している海も内海みたいな広さ。だから波はそれほどではない。

 それでも一応海なので、船はそこそこ問題無いように作る。全長3腕6m、幅1腕2m。形そのものは沿岸用の和船イメージ。流石にスワン形状にはしなかった。

 動力伝達部分はシャフト&継ぎ手式。このシャフトや継ぎ手は革や木で作ったパイプ状のものでカバー。

 カバー内は鹿の脂を精製した常温では固形の脂で満たしている。最初に動かす時は少し固いけれど、ある程度動かせば問題無くなる筈だ。

 そして足漕ぎ部分は自転車と同じようなペダル式。漕ぐ姿勢はリカンベントをイメージ。普通の自転車方式だと重心が高くなるから。
 漕ぎながら操舵も出来るようになっている。

 うん、なかなかいい出来だ。もうすぐ夕暮れだから今日はテストできない。しかし明日からはこれでリハビリ出来るだろう。
 私はリハビリ風景を思い浮かべる。うん、なかなか楽しそうだ。

「船まで作ったの!」

「これなら沖でも釣りが出来ますね」

 リディナ達が帰ってきて船を見ている。

「足腰リハビリ用。ここを漕いで進む」

「オールで漕いだり帆を張ったりじゃないんだ」

「リハビリ用だから」

 完璧な出来という訳では無い。特にスクリューの形、最適化を極めていないから推進効率はきっと今ひとつ。前世の記憶で覚えていた形状にして、実際に水を出して少し改良した程度。

 ただ実用上は問題無い筈だし多少効率が悪くても構わない。これはリハビリ用だから。

「それじゃ明日はこれで海の上に出ようか」

「楽しそうです」

 うんうんそうだろう。私は大きく頷いた。

「それじゃ御飯を作るよ。今日もそこそこいい魚が捕れたしね」

 ◇◇◇

 翌日、朝食後。
 
「これで沖にいる魚も釣れるよね」

「餌も仕掛けも多めに用意しました。沖の深いところにいる魚が釣れると面白いです」

「お弁当も持ったしたっぷり楽しもうね」

 という事で出航。なおこの船のためにアイテムボックススキルと土属性魔法で専用の桟橋を作ったりもした。
 ここを出る時にはちゃんと砂で埋め戻す予定。だからきっと問題は無い。

 あと足漕ぎ航行、確かにリハビリになりそう。大変だけれど楽しい。漕ぐと少しだけ遅れて船がぬーっという感じで進むし。

 ただ漕ぐのに集中すると魚を探すのに集中できなくなる。だから今日は魚探役をリディナにお願いした。

「あと100腕200mくらいまっすぐで、そこから少し左に向けてくれるかな。どれくらい曲げるかはその時言うから。
 海中に大きな岩があって、その周辺に魚が群れているの。上の方は小さい魚中心だけれど、底の方は大きいのも結構いるみたい」

 なるほど、それは良さそうだ。私は漕ぎ漕ぎして言われた通りの方向へ向かう。

 うん、間違いなくリハビリになる。足腰を使いまくるから。でも楽しいからいい。海の上をすいすい進むのは快感だ。

「ここでちょっと左、そう、それくらい。それで前進30腕60mくらい」

 漕ぐのが大変。しかしリハビリの為だからこれが正解。漕ぐのに集中、いち、に、いち、に……

「ありがとう、ちょうどこの辺」

「魚がいっぱいいます。これは面白そうですね」

 無事着いた。うん、いい運動になった。まさに思い描いていたスワンボートな運動だ。体勢も船の形も違うけれど。
 ただ少し疲れたな。

「フミノは釣らないの?」

「少し海を見ている」

 疲れのせいで釣りまでやる余裕が無い。でもいいんだ、リハビリだから……

 ◇◇◇

「ただいま-」

 リディナ達が帰ってきた。

「どうだった、釣り」

「面白かったです。いつもと違う魚がいっぱい釣れました。それにあの船も面白いですね。思った通りに進んでくれますし、その気になれば結構速いです」

 何故私が家にいて、リディナとセレスが船釣りをしていたのか。
 理由は簡単、私がお昼前にバテてしまったからだ。

 私の体力にはあの船は重すぎ、辛すぎた。そんな訳で2時間もしないうちに私はダウン。
 さらに船に酔いそうになったので漕ぎ役をリディナに代わってもらい、陸上へ帰還。

 その後リディナとセレスが再び船で沖に出て、今帰ってきたという状況だ。

「明日は私が漕ぎますからフミノさんも行きましょう。小さいのも大きいのもよりどりみどりで面白いですよ」

 確かに楽しそうだ。しかしそれではリハビリにならない。

「ちょっと考えておく」

 うん、あの船は私にはまだ早い。
 よし決めた。明日からは歩こう。まずはこの近辺を、潮干狩りとか磯遊びとかをしながら。

 そこから始めて少しずつ鍛えないと駄目だ。小さな事からこつこつと。

「どうしたんですかフミノさん、何か難しい顔ですけれど」

「大丈夫だよ。考え事をしているだけだから。明日からどうしようかって。多分明日は船に乗らないと思うけれど」

 やはりリディナに私の考えを読まれている気がする。いつものことだけれど何故わかるのだろう。そんなに私ってわかりやすいのだろうか。
 リディナになら読まれても問題はないけれども。

※ バーピートレーニング (バーピー、バーピ
ージャンプとも)
  フミノは『バービー』と言っているが本当はビではなくピ。割と皆さん間違えて覚えている。他ならぬ書き手自身も……
  以下の3動作を1組として繰り返すトレーニング。体育会の連中がよくやっている。真面目にやるとかなりしんどい。
➀ 直立した状態から、腕立て伏せのように床に胸をつけた姿勢に
② 両足を揃えて立ち上がり、再び直立の姿勢に戻る
③ 軽くジャンプして頭上で両手を叩く
しおりを挟む
感想 113

あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。