上 下
134 / 323
第22章 冒険者ではないお仕事

第188話 ゴーレム牽引トロッコの説明

しおりを挟む
「ところでその鉱石用ではない荷車は何に使うんだ? 何かゴーレムが乗るのに適した感じだけれど」

 そう言えば制御台車について説明していなかったな。

「下りの時は此処にゴーレムを乗せて操作する。ここのワイヤーか先頭車両の同じ部分にあるワイヤーを操作しないと荷車全体が動かないようになっている。坂で勝手に動いて事故にならないようにする為。
 今回は私が操作するから気にしなくていい」

 ワイヤーを引っ張ればブレーキが解除される仕組みだ。操作しなければブレーキがかかりっぱなしになる。

「よく考えてあるなあ。それじゃ普段は荷物を引っ張りながらこのワイヤーも操作する訳か」

「牽引用ゴーレムはこのワイヤーを自動で接続できるようになっている。だから意識しなくても問題無い」

「あとで牽引用のゴーレムも見せて欲しいな。どんな感じか試してみたい」

 確かにそうだろうなと思う。ならば出すとしよう。

「持ってきてある。これ。此処の採掘用ゴーレムから改造した」

 ゴーレムがいる坑道では無く私達のいる部屋に05君を出す。

「これが牽引用ゴーレムですか。脚部分が少し違いますね。あと背中と胸から出ている後ろに伸ばせそうなものが引っ張る為の装置ですか?」

 これはシモーヌさんだ。

「そう。脚は長さを変えられる。これは引っ張る荷車やコースの傾斜にあわせて、速度と牽引力を変化させる為。牽引用装置は後ろに伸ばして荷車の牽引装置にはめ込めば、そのままブレーキ操作までできるようになる」

 連結器にブレーキ制御用ワイヤーの連結装置も仕込んである。だから連結・解放すればブレーキ制御用ワイヤーも同時に連結・解除される。

 なお牽引用ゴーレムや車両を連結・解放する動作はワンタッチだ。牽引用ゴーレムは勿論、現在使用している採掘用ゴーレムの足でも操作する必要があるから。

 更に牽引用ゴーレムは細かい操作が可能なフレキシブルアームを尻尾位置に内蔵している。これは万が一線路や付属施設に不具合を発見した場合、その場で直す為のもの。

 そういった事をひととおり説明。

「それじゃ荷車を引いて選鉱場まで戻ろうか」

 フェデリカさんのゴーレムに合わせてシェリーちゃんもワイヤーを引いてブレーキを解除する。
 6両編成の車両が動き始めた。

「動き出しだけは少し重いが、あとは思った以上に軽いな」

「傾斜によっては結構重い。ただ平坦なら割とどうにでもなる」

「確かにそんな感じだ。チャックは採掘用ゴーレムよりは力が無い筈なんだけれど、それでもかなり余裕がある。これならあと5倍は積んでも大丈夫だろう」

 フェデリカさんのゴーレム、チャックという名前のようだ。

「牽引可能な量については一度戻って、この専用ゴーレムで試してみましょう」

 シモーヌさんの台詞にフェデリカさんは頷く。

「確かにそうだ。それに鉱石を下ろす動作も確認しないと」

 チャック君はゆっくりだが確実に6両編成を引っ張って選鉱場の上、鍋の縁部分に到着。

「ここで止めて中の鉱石や土を下ろすにはどうすればいい?」

「専用ゴーレムの場合、ゴーレムと荷車の連結を外すだけ。そうすれば荷車にブレーキがかかって止まる」

 今回はシェリーちゃんがブレーキワイヤーを手放せばいい。

「そうしたら荷車の横、下ろすのと反対側へと回る」

 ゴーレム2体は鍋の中心と反対側へ移動。チャック君がシェリーちゃんの横からのぞいている状態になる。

「あとは荷車についたこの部分を動かすだけ」

 鉱石運搬ホッパ車の下部にはいくつかレバーがついている。このうち外側の1本ずつが荷台操作用だ。これをゴーレムの足等で蹴り上げるように動かせば、自動で荷台が反対側に傾く。

「線路のこの部分に、斜めに削った鉄の柱を立てておいてもいい。そうすれば引っ張って荷車が通った時、鉄の柱にこのレバーが当たって自動で荷台が傾く。
 荷台が空になれば、傾いた荷台は自動で元に戻る」

 この辺は私のオリジナルではない。日本で使われていた鉱石運搬ホッパ車に実際にあった仕組みだ。Web上にあった軽便鉄道やトロッコ等の趣味ページに載っていたものを参考に作った。

 我ながらよくこんな知識を覚えていたなと思う。しかも異世界で使う事になるとは。世の中何が役に立つかわからない。

「つまりその装置を作れば、牽引用のゴーレムは通り過ぎるだけで荷下ろしが出来るのか」

「坑内へ戻る際は先頭方向が逆になる。だから一度、先の分岐器ポイントの更に先までこれを引っ張って、そこでゴーレムを反対方向に付け替える。そうして引っ張れば、今度は鉱石を下ろした時と違う線路を通って、採掘現場に向かう事が出来る」

 つまり此処で行き違いも出来る訳だ。
 シモーヌさんが首を傾げつつ口を開く。

「牽引用ゴーレムが1頭だけの運用ならそこまで考えなくていいですよね。つまりこの折り返し場所は更に牽引用ゴーレムを増やした時用の措置って事でいいのでしょうか?」

「それもある。あとは使える技術の見本も兼ねて。この試験線で使った方法があればこの先更にこの線路や牽引用ゴーレムを増やす事が出来る。行き帰りの線路を別にする事も、途中で上り下りが行き違いをする場所を作る事も可能」

「つまりこれはこの運搬システム全体の見本でもある訳ですね。しかしこれはゴーレム製作者とはまた違う知識のように思えます。何か何処かで先例があるものなのでしょうか」

 こういう質問はいつものお約束通りの回答だ。

「私の生まれ故郷、東の方はるか遠くにある国に実在するもの。ただ魔法で飛ばされてきたからどれくらい遠いかもわからない」

 東の日出ずる国、日本の知識だ。
 この世界にはきっと存在しないけれども。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう
ファンタジー
旧題:手乗りドラゴンと行く追放公爵令息の冒険譚 〇書籍化決定しました!! 竜使い一族であるドラグネイズ公爵家に生まれたレクス。彼は生まれながらにして前世の記憶を持ち、両親や兄、妹にも隠して生きてきた。 十六歳になったある日、妹と共に『竜誕の儀』という一族の秘伝儀式を受け、天から『ドラゴン』を授かるのだが……レクスが授かったドラゴンは、真っ白でフワフワした手乗りサイズの小さなドラゴン。 特に何かできるわけでもない。ただ小さくて可愛いだけのドラゴン。一族の恥と言われ、レクスはついに実家から追放されてしまう。 レクスは少しだけ悲しんだが……偶然出会った『婚約破棄され実家を追放された少女』と気が合い、共に世界を旅することに。 手乗りドラゴンに前世で飼っていた犬と同じ『ムサシ』と名付け、二人と一匹で広い世界を冒険する!

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。