ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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第22章 冒険者ではないお仕事

第188話 ゴーレム牽引トロッコの説明

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「ところでその鉱石用ではない荷車は何に使うんだ? 何かゴーレムが乗るのに適した感じだけれど」

 そう言えば制御台車について説明していなかったな。

「下りの時は此処にゴーレムを乗せて操作する。ここのワイヤーか先頭車両の同じ部分にあるワイヤーを操作しないと荷車全体が動かないようになっている。坂で勝手に動いて事故にならないようにする為。
 今回は私が操作するから気にしなくていい」

 ワイヤーを引っ張ればブレーキが解除される仕組みだ。操作しなければブレーキがかかりっぱなしになる。

「よく考えてあるなあ。それじゃ普段は荷物を引っ張りながらこのワイヤーも操作する訳か」

「牽引用ゴーレムはこのワイヤーを自動で接続できるようになっている。だから意識しなくても問題無い」

「あとで牽引用のゴーレムも見せて欲しいな。どんな感じか試してみたい」

 確かにそうだろうなと思う。ならば出すとしよう。

「持ってきてある。これ。此処の採掘用ゴーレムから改造した」

 ゴーレムがいる坑道では無く私達のいる部屋に05君を出す。

「これが牽引用ゴーレムですか。脚部分が少し違いますね。あと背中と胸から出ている後ろに伸ばせそうなものが引っ張る為の装置ですか?」

 これはシモーヌさんだ。

「そう。脚は長さを変えられる。これは引っ張る荷車やコースの傾斜にあわせて、速度と牽引力を変化させる為。牽引用装置は後ろに伸ばして荷車の牽引装置にはめ込めば、そのままブレーキ操作までできるようになる」

 連結器にブレーキ制御用ワイヤーの連結装置も仕込んである。だから連結・解放すればブレーキ制御用ワイヤーも同時に連結・解除される。

 なお牽引用ゴーレムや車両を連結・解放する動作はワンタッチだ。牽引用ゴーレムは勿論、現在使用している採掘用ゴーレムの足でも操作する必要があるから。

 更に牽引用ゴーレムは細かい操作が可能なフレキシブルアームを尻尾位置に内蔵している。これは万が一線路や付属施設に不具合を発見した場合、その場で直す為のもの。

 そういった事をひととおり説明。

「それじゃ荷車を引いて選鉱場まで戻ろうか」

 フェデリカさんのゴーレムに合わせてシェリーちゃんもワイヤーを引いてブレーキを解除する。
 6両編成の車両が動き始めた。

「動き出しだけは少し重いが、あとは思った以上に軽いな」

「傾斜によっては結構重い。ただ平坦なら割とどうにでもなる」

「確かにそんな感じだ。チャックは採掘用ゴーレムよりは力が無い筈なんだけれど、それでもかなり余裕がある。これならあと5倍は積んでも大丈夫だろう」

 フェデリカさんのゴーレム、チャックという名前のようだ。

「牽引可能な量については一度戻って、この専用ゴーレムで試してみましょう」

 シモーヌさんの台詞にフェデリカさんは頷く。

「確かにそうだ。それに鉱石を下ろす動作も確認しないと」

 チャック君はゆっくりだが確実に6両編成を引っ張って選鉱場の上、鍋の縁部分に到着。

「ここで止めて中の鉱石や土を下ろすにはどうすればいい?」

「専用ゴーレムの場合、ゴーレムと荷車の連結を外すだけ。そうすれば荷車にブレーキがかかって止まる」

 今回はシェリーちゃんがブレーキワイヤーを手放せばいい。

「そうしたら荷車の横、下ろすのと反対側へと回る」

 ゴーレム2体は鍋の中心と反対側へ移動。チャック君がシェリーちゃんの横からのぞいている状態になる。

「あとは荷車についたこの部分を動かすだけ」

 鉱石運搬ホッパ車の下部にはいくつかレバーがついている。このうち外側の1本ずつが荷台操作用だ。これをゴーレムの足等で蹴り上げるように動かせば、自動で荷台が反対側に傾く。

「線路のこの部分に、斜めに削った鉄の柱を立てておいてもいい。そうすれば引っ張って荷車が通った時、鉄の柱にこのレバーが当たって自動で荷台が傾く。
 荷台が空になれば、傾いた荷台は自動で元に戻る」

 この辺は私のオリジナルではない。日本で使われていた鉱石運搬ホッパ車に実際にあった仕組みだ。Web上にあった軽便鉄道やトロッコ等の趣味ページに載っていたものを参考に作った。

 我ながらよくこんな知識を覚えていたなと思う。しかも異世界で使う事になるとは。世の中何が役に立つかわからない。

「つまりその装置を作れば、牽引用のゴーレムは通り過ぎるだけで荷下ろしが出来るのか」

「坑内へ戻る際は先頭方向が逆になる。だから一度、先の分岐器ポイントの更に先までこれを引っ張って、そこでゴーレムを反対方向に付け替える。そうして引っ張れば、今度は鉱石を下ろした時と違う線路を通って、採掘現場に向かう事が出来る」

 つまり此処で行き違いも出来る訳だ。
 シモーヌさんが首を傾げつつ口を開く。

「牽引用ゴーレムが1頭だけの運用ならそこまで考えなくていいですよね。つまりこの折り返し場所は更に牽引用ゴーレムを増やした時用の措置って事でいいのでしょうか?」

「それもある。あとは使える技術の見本も兼ねて。この試験線で使った方法があればこの先更にこの線路や牽引用ゴーレムを増やす事が出来る。行き帰りの線路を別にする事も、途中で上り下りが行き違いをする場所を作る事も可能」

「つまりこれはこの運搬システム全体の見本でもある訳ですね。しかしこれはゴーレム製作者とはまた違う知識のように思えます。何か何処かで先例があるものなのでしょうか」

 こういう質問はいつものお約束通りの回答だ。

「私の生まれ故郷、東の方はるか遠くにある国に実在するもの。ただ魔法で飛ばされてきたからどれくらい遠いかもわからない」

 東の日出ずる国、日本の知識だ。
 この世界にはきっと存在しないけれども。
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