上 下
129 / 323
第22章 冒険者ではないお仕事

第183話 見本品の納入

しおりを挟む
 説明が終わって解散した後、私は更なる製作と研究に励む。
 まずはワイヤー、どれを使うべきか実験して調べる作業から。

 ワイヤーは太ければいいというものでもない。太すぎるとワイヤーの重さだけでとんでもない事になる。しかも太すぎるとプーリー等で方向を制御するのも大変だ。必要十分な強度があるなら細い方がいい。
 
 ただ机上計算だけで必要強度を出せるような知識は私にはない。私の知識は日本の中学校まで。だから実際に斜面を作ってどれくらいの力がかかるか調べ、そこから計算して求めようと思う。

 斜面を作るのは簡単。大量にアイテムボックスに入っている土を出して、土壌改良魔法である程度固めた後、レールを出して礫で固定すればいい。

 本物と同じ大きさを作る必要もない。模型で十分。実物との誤差はまあ、その分余裕を見ておくという事で。

 斜面、ミニチュアのレール、そのサイズの台車、それを引っ張る細めのワイヤーとプーリーを作る。

 傾斜の角度は水平方向100指100cmに対して垂直方向5指5cm。これは図面から見た坑道の最大傾斜が100対4斜面となっていたから。

 模型作り、やってみるとなかなか楽しい。こういう趣味にはまる人の気持ちがよく分かる。魔法とスキルが使えない環境では私には無理だけれど。

 ワイヤーの先をプーリー経由でバネばかりに接続して実験装置製作完了。なおバネばかりはリディナが小麦粉等を小分けする際に使っているのを拝借したものだ。

 1重6kgの錘をつくり、台車につけたり外したりしてバネばかりが表示する値を確認。うーん、思った以上に小さい。40軽240g程度だ。
 しかし位置を変えても値はほとんど変わらない。つまりこの値は正しいのだろう、きっと。

 それならワイヤー、やたら太いものにする必要はない。勿論速度変化である程度の負担はかかる筈。しかしロケットのように10Gとか20Gとかかかる事はないだろう。

 ワイヤーの長さ、台車を最大につける場合の個数、その場合の加重などを計算し、更に数倍の余裕を持ってワイヤーを選ぶ。

 直径1指半15mmのワイヤーでも必要にして十分以上だな。ただ台車がワイヤーを掴んだり離したりする。だからその分の余裕を加味して直径2指半25mmのワイヤーにしておこう。

 これでワイヤーの仕様も決まった。つまり魔法金属が必要な巻取機以外は全て製作可能となった。
 ならば台車もこのワイヤーに最適化して、更に分岐器も作って……

 ◇◇◇

 3日目の昼過ぎ。
 ついに巻取機以外の全ての試作品が完成した。
 
 車両は2種類作った。
 鉱石や土を入れるホッパ車と、ゴーレムや工事資材等を入れる無蓋貨車。
 終点部分に設置するポイントと留置線も、その下に埋め込むワイヤー巻き取り用のプーリーも完成。

 今回は量産作業を私がやらなくてもいい。
 車両2種類もレールやポイントも見本と数だけ出してお願いすればいいだけ。
 なおレールやポイントはあらかじめ枕木と組み合わせて固定した状態にした。
 こうすれば敷設が簡単だから。

 ただ一部のカーブレールは現場で私が現物合わせで作ろうと思っている。ある程度は直線のレールを魔法加工して曲げればいいけれど、それが現場に即さない場合もあるかもしれないから。
 その辺の予備として必要な数も全部計算。

 見本と計算書、更に何処に何を使うという説明書類を作って、森林組合事務所へ突撃だ。

「あ、フミノさん。どう、順調?」

 ふっふっふっ。よくぞ聞いてくれたイオラさん。

「ゴーレム技術を使う巻取機以外は見本を作り終わった。必要数も計算済み」

 そう告げて計算書と説明書類を渡す。

「もう出来た……でも初日にあれだけ作ってしまうフミノさんなら、まあそんなものか。ちょっと待って、まずはこれを読むから」

 イオラさんは説明資料を手に取る。

「なら外に見本品を並べておく」

 外に出て、いつもの場所に気持ちよく見本品を並べていく。 

 レールと枕木のセットは簡単に交換ができるよう、接続部分を更に改良した。ポイントも人、犬型ゴーレムどちらでも操作しやすい形状に設計。

 更に車両の動力用の他に非常用ワイヤーを通した。これは動力用ワイヤーが切れた時等いざという際に、車両のブレーキ装置を直接叩く装置を起動させるものだ。

 車両はワイヤー固定部分が二重になるよう再設計。更にホッパ車の荷台を車外装置で左右に自動で倒す装置まで設置。
 これで車両は線路の内側に仕掛けた突起物により、
  ① ワイヤを掴む動作
  ② ワイヤを離す動作
  ③ ブレーキ作動
  ④(ホッパ車のみ)荷台を倒す動作
が自動で出来るようになった。

 それぞれの部品は耐久性と作りやすさを考え大きく単純になるよう考えて作った。坑内用だからある程度は土を被る事も考え、その辺への許容とか、水洗いしやすさとか、注油しやすさとかまで考慮した。

 お金を貰って製品を作り、納めるというのは初めての作業。だから設計も製造もいつも以上に注意したつもりだ。
 さて、評価はどうだろう。個人的には予想以上のものが出来たと思っているのだけれど。

 おっと、イオラさんがやってきた。

「何かもうとんでもないわね。いざという時とか、すぐには思いつかないようなところまでしっかり考えて作ってあるし。
 それにこうやって見ると何か圧倒されるわ。見た事がない、でも間違いなく便利な新しいものに囲まれている感じ」

 よしよしよしよしよし。反応は上々だ。

「それで質問がいくつかあるけれどいい?」

 もちろんだ。私は頷く。

「それじゃまず、この線路をつなぐ部分。ここ、必ずある程度隙間を空けてあるよね。これはわざと? それとも繋げてしまっていい?」

 これはお約束の質問だ。だから回答は簡単。

「鉄も伸び縮みする。繋げると伸びた時、この鉄が曲がってしまう可能性がある。だからあえて隙間を空けている」

「なるほど、そんな理由で、そしてそこまで考えてあると」

 イオラさんはうんうんと頷く。わかってくれたようだ。
しおりを挟む
感想 113

あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。