ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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第21章 馴染みの街

第179話 相談の内容

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「フミノはいいの? 本を買わなくて」

 図書館で会計時にそうリディナに聞かれてしまった。
 なおリディナは小説と何かの専門書をあわせて4冊、セレスも小説3冊を購入している。

「問題無い。欲しい資料は複写した」

 白書等は閲覧専用で購入出来ないようだ。しかし筆写等はOK。だからしっかり必要部分は複写しておいた。

 これで更にライ君やバーボン君、シェリーちゃん、ヒイロ君達が改良出来る。とりあえず魔法銅オリハルコンを何処かで買って、そして……
 ああ夢が広がる。

 途中、以前は無かった惣菜屋を発見。リディナが見逃すはずはなく、当然中で出来合い惣菜デリを物色。
 以前屋台で買って私がはまったスティックサラダや棒チーズ肉巻き串、お焼きテジュラなんかもあったので思わず購入。

「欲しい物は買ったし、いい一日だったかな」

「そうですね」

「同感」

 そんな感じで森林組合へと戻る。
 今日も家をここに出す事は事前にイオラさんに言ってある。それでも一応挨拶をしておこう。そう思って事務所へ。

「こんにちは。今日も宜しくお願いします」

「あ、おかえりなさい。あとごめんなさい、面倒をかけてしまって」

 イオラさんにそんな事を言われた。何だろう。

「面倒って何でしょうか」

「製鉄所のかたから何か言われなかったでしょうか? ローラッテの鉄鉱山で起きている問題についての相談をしたいと」

 その話がもう此処に伝わっているのか。
 
「いえ、そう言われただけですし特に何かあった訳じゃないですけれど。その問題って何ですか?」

「確かにそれだけ聞いたら気になりますよね。ですので説明だけしておきましょうか。本当は気にしなくていいのですけれど。
 とりあえずお座りください」

 いつものカウンターにつく。

「何かあったんですか?」

「ローラッテの鉱山の奥で、新しい鉱脈が発見されたのです」

「おめでとうございます」

 とりあえずここの土地的にはめでたい事だろう。

「そこまでめでたくも無いのです。この図面を見てみて下さい」

 イオラさんは何枚かの図面を取り出し、うち1つを広げて指で示す。

「ここが坑口で、今掘っているのはこの辺です。そして新しく発見された鉱脈はこの辺から始まっています」

 今までの現場や坑口から見るとかなり遠い。トンネルをずっと長く掘った先の場所だ。

「坑口から結構離れているようですね。この間はどれくらいなんですか」

2離4kmちょっとです。鉱脈の埋蔵量確認の為にゴーレムで掘り進めた結果わかったのですけれども。

 この鉱脈、鉄ではなくて銅で、品質もかなり良いようです。いいニュースなのでこの件についてはあっという間に広まってしまいました。もちろん鉱山の組織内では、です。部外には秘密にしていますけれども。

 鉱山内ではすぐにでも採掘したいという意見が大半を占めています。ですが今のままでは坑口から遠すぎて採算がとれません」

「遠すぎて採掘は難しい、そういう事ですか」

 イオラさんは頷く。

「そういう事です。採掘するには鉱石や掘った土を外に出さないといけません。でも坑口まで2離4kmあるので往復だけで2時間以上かかってしまいます。1回の勤務時間では2往復がやっと。これに中で作業する時間もあるわけです」

 鉱山用のゴーレムは鈍足だ。それはバーボン君でわかっている。
 そして鉱脈といっても鉱石ばかりある訳では無い。更に坑道の分も掘らなければならない。結果運び出す土の量は膨大になる訳だ。

 図面を見直す。新しい鉱脈のもっと近くに新たに坑口を作れないか確認。無理か。新しい鉱脈は山の内側に向かっている方向にある。だから地上に近い別の場所なんてのは無い。

 そうなると……
 問題を整理する目的を兼ね、聞いてみる。

「ゴーレムを改良して土や鉱石を短時間で運べないか。そういう事?」

「現場はそう思った訳です。そうすれば解決できるかもしれないと」

 イオラさんは頷いて、そして更に続ける。

「今のゴーレムですと新型に台車をつけて、更に最大容量の自在袋をつけた状態でも700重4,200kg程度が限界です。
 
 現在採掘している鉱脈は露天から少しだけ掘り進んだ場所です。ゴーレムでも5半時間12分で往復と積み卸しが出来ます。だから全量ゴーレム採掘なんて事も出来る訳です。

 しかし今回の鉱脈は遠すぎます。確かに鉄より銅の方が高く売れますけれど、それでも1往復2時間では採算がとれません。

 領主的には採算が取れないし放っておけというところです。でも鉱山の方では何としても産業化したいという声が大半で。
 何なら鉱山の中に人が住める拠点を作ってしまおう。そんな話まで出ている位です。事故が起こると洒落になりませんから抑えていますけれども。

そんな中、ほとんどいないゴーレム製造者登録証持ちが来たので、つい期待してしまった訳です」

 なるほど、状況は理解した。

「でもそれなら私達がここに泊まっているからですよね。その話がここまで持ち込まれてしまったのは。
 むしろイオラさんにご迷惑をかけてしまったようで、かえって申し訳ないです」

 そう言えば確かにそうだなと思う。
 ここは鉱山ではなく森林組合、木材と木工が仕事の筈だし。

「いいえ、私も元々この件については把握していますから。一応立場上、森林組合関係だけでなく領地全般の話も私のところまで来ますし。基本的には父やアノルドお兄様の仕事なのですけれども」

 えっ? 何か今、とんでもない台詞が流れたような……

「イオラさんはフェルマ伯爵家の方《かた》なのでしょうか?」

 リディナの口調まで改まってしまっている。
 どうやらさっきの台詞、私の聞き間違いでは無かったようだ。

「ええ、一応は。ですが今まで通りの言葉使いでいいですよ。親が貴族というだけです。
 ばれたついでに今後は口調、普段の調子に戻すわね。実際のところ丁寧に話すの、正直疲れるし。
 元々私、学校でも浮いていたし社交界とやらもあわなかったし。それに領地経営って真面目にやるととんでもなく大変だって知っているし。
 だから私はここの森林組合で十分。この土地に愛着もあるし」

 確かに一気に口調が変わった。雰囲気も一気に変わる。ただ悪い感じでは無い。むしろ親しみやすい感じだ。

「それでも何故受付なんてしているのでしょうか」

「ここ、受付兼組合長席。中に引きこもっているより仕事全般が見やすいからそうしている。フリーのお客さんは滅多に来ないから他の業務もできる、来たら来たで今後の業務の参考にできるし。
 実業系の人ばかりで受付担当がいなかったというのもあるけれど。それに私が此処にいれば受付1人分の費用も削減できるし一石二鳥」

 うーん、何と言うか。今の豹変具合を含め、ツッコミたい事が結構あるような……
 しかし考えてみれば確かにそれっぽい所もあったような気もする。前にカレンさんが何となく親しげに呼びかけていたし、此処の裏庭を私達に宿泊場所として独断で貸し出したりもしたし。
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