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第21章 馴染みの街
第175話 久しぶりのアコチェーノ
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周囲の風景に微妙に見覚えがあるなと感じる。何処だっけ、そう思った直後に見覚えある壁と門を発見。
そう、あの男爵領、アコチェーノと反対側の門だ。
門は開いていて、衛士が4名立っている。こちらを見て一瞬ぎょっとした表情をしたが、すぐにゴーレム車とわかった模様。
しかし念のためこちらも20腕手前でゴーレム車を停め、リディナが降りる。
「身分証の提示は結構です。ここはまだ街ではありませんから。どうぞお通り下さい」
「此処は確か元デゾルバ男爵領ですよね、噂では領民に逃げられたという。もう住民が戻られたのですか」
リディナがそんな台詞で状況を尋ねる。
「現在はフェルマ伯爵領に編入されています。ですがまだ誰も住んでいない状態です。魔物に住み着かれると面倒なのでこうして警戒しています。
つまり単なる魔物警戒ですのでその車に乗ったままで結構です。向こうの門にも衛士がおりますが、そのまま通過して問題ありません」
「わかりました。教えて頂いてありがとうございます」
リディナは一礼した後、ゴーレム車に乗車。
「男爵領にしては随分大きい街ですね」
外から見ればセレスの言う通りだ。しかし私もリディナもその理由を知っている。
「中は小さい村だよ。大きいのは中に畑なんかも入っているから」
リディナがそう説明。そして私はライ君を操縦して門の中へ。
中は以前とはかなり変わっている。
畑は概ね以前とほぼ同じ。収穫が終わった後放置されているようだけれども。
しかし村人の家々のほとんどが解体されている。残っているのは以前男爵やその家来の家だったところだけだ。
「本当に中は村なんですね。でも何で家のほとんどが解体されているんでしょうか」
「元々の家が狭いし居住性も悪いしボロボロだったからね。直すよりも新しく作った方がいいと判断したんじゃないかな」
「リディナさん達は以前の此処をよく知っているんですね」
「ちょっとした事があってね。その辺は今夜にでも話すね」
知っているどころではない。何せここの村人を脱出させたのは私とリディナ。公に言うような話じゃないから今まで話していなかった。けれどセレスに話すくらいならいいだろう。
あの村跡を出て、再びライ君の速度を上げる。ここからアコチェーノは夜中、老人や子供連れで歩いても3時間かからなかった距離だ。
半時間も経たない間に見覚えのある街が見えてきた。ついリディナにこんな事を言ってしまう。
「何回目だっけ、アコチェーノに来るの」
「山越えで1回、トンネルで1回、夜中に1回でそして今回。だから4回目だよね、これで」
「何かこの街にあるんですか?」
セレスが? という顔をしている。その疑問は当然だ。しかし何かと言われると答に困る。
「基本的には成り行きかな。此処自体は普通の田舎の街だよ。ちょっと特殊な樹木が生えていて、あとトンネルで繋がった向こう側に鉄鉱山と製鉄所があるだけの」
「特殊な樹木って何ですか」
「フミノがよく使っているあの少し暗い色の頑丈な木材、あれだよ。生育が異常に早くて5年で普通の木材に出来る大きさに育つの。ただ成長が早い分手間もかかるらしいけれどね。
さて、ここからは歩いて行こうか。今度はちゃんとした街だし」
門の手前30腕程度のところでゴーレム車を停めた。全員が降りた後ライ君とゴーレム車を仕舞い、そこからは歩きで門まで。
私ももう普通に衛士がいるくらいなら問題無い。冒険者証を提示して門の中へ。
この街を出たのはつい半年前だ。しかしかなり前のような気がする。
そう感じるのはセレスと出会った等、色々あったからだけではない。街が明らかに賑やかになっている気がするのだ。人が多いし店なんかも増えた気がする。
思い出した。製鉄所も林業関係も人を増やそうとしていたなと。実際あの男爵領の分は確実に人が増えた筈。そうやって人口が増えたおかげで活気が出たのだろうか。
そんな事を思いながら街を歩く。
「まずは森林組合でいいよね、木を買うなら。あとは鍛冶組合か鉄工所かな。フミノの事だから」
鉄の事までバレている。しかしリディナが私の考えに気づいているのはいつもの事。だから特に驚かないし気にしない。
「前に比べて随分人が多く感じるよね。これじゃこの前の処に家を出すのは無理かな」
どうやらリディナも私と同じように感じている模様だ。
森林組合は東側の門から入ると街の中心部を越えた反対側になる。だから図書館や役所を越えて森林組合のある場所へ。
こちらも予想外だった。いや、森林組合の場所や建物は以前と同じ。ただこの辺り、以前は街の端部分だった筈。それなのにこの先、まだまだ家々が続いている。
「そういえば街壁を新しく作って広げたりしたよね」
そうだった。しかもその工事をやったのも私だ。それにしてもリディナ、本当に私の考えている事を読んでいるようだ。
森林組合の事務所に入る。受付に居たのは知っている顔だった。
「あ、リディナさん、フミノさん、お久しぶりです。こちらに戻られたのですか」
イオラさんだ。
「ぐるっと回って戻ってきてしまいました。それで間伐材か、なければ普通の木材を購入したいんですけれど大丈夫ですか」
「勿論です。どうぞどうぞ」
カウンターにつくとイオラさんがすぐにメニューのようなものを持ってくる。
「人が増えたのでこんな感じで板材や角材、柱材等を提供できるようになりました。木炭もかなり出ていますよ。ちょうど冬ですし、ローラッテの製鉄所も順調に稼働していますから」
渡された紙には丸太から板、角材、木炭等、サイズや種類別に値段や注文可能数量等が整理されて書かれている。
まさにメニューだ。
「あれからまだ半年経っていないのに随分変わりましたね」
「あの後いろんな事がいい感じで循環しまくったんです。トンネルが出来て売り上げが増えて、人も増えて更に出来る事が増えて、それでまた売り上げが増えてという形で。
材木として使えない、剪定していない樹形が悪いアコチェーノエンジュでも、切って揃えれば木炭には出来ます。木炭は作れば製鉄所が使ってくれますし、最近は他にもお客さんが増えてきています。堅くて高熱になり火の持ちがいいという事で。
製鉄所のおかげでアコチェーノもローラッテも景気がよくなって人もかなり増えました。街が大きくなった分建物も増えましたし、当然木材も需要が増えています。
森林組合はリディナさんやフミノさんのおかげで人手を確保できたので、需要に先立って体制を増強できました。ですので今は本当に絶好調ですよ。
まあフェルマ伯爵領そのものが今は絶好調なんですけれどね」
なるほど、それは良かった。そう私は思う。ここは好きな場所だから。
そう、あの男爵領、アコチェーノと反対側の門だ。
門は開いていて、衛士が4名立っている。こちらを見て一瞬ぎょっとした表情をしたが、すぐにゴーレム車とわかった模様。
しかし念のためこちらも20腕手前でゴーレム車を停め、リディナが降りる。
「身分証の提示は結構です。ここはまだ街ではありませんから。どうぞお通り下さい」
「此処は確か元デゾルバ男爵領ですよね、噂では領民に逃げられたという。もう住民が戻られたのですか」
リディナがそんな台詞で状況を尋ねる。
「現在はフェルマ伯爵領に編入されています。ですがまだ誰も住んでいない状態です。魔物に住み着かれると面倒なのでこうして警戒しています。
つまり単なる魔物警戒ですのでその車に乗ったままで結構です。向こうの門にも衛士がおりますが、そのまま通過して問題ありません」
「わかりました。教えて頂いてありがとうございます」
リディナは一礼した後、ゴーレム車に乗車。
「男爵領にしては随分大きい街ですね」
外から見ればセレスの言う通りだ。しかし私もリディナもその理由を知っている。
「中は小さい村だよ。大きいのは中に畑なんかも入っているから」
リディナがそう説明。そして私はライ君を操縦して門の中へ。
中は以前とはかなり変わっている。
畑は概ね以前とほぼ同じ。収穫が終わった後放置されているようだけれども。
しかし村人の家々のほとんどが解体されている。残っているのは以前男爵やその家来の家だったところだけだ。
「本当に中は村なんですね。でも何で家のほとんどが解体されているんでしょうか」
「元々の家が狭いし居住性も悪いしボロボロだったからね。直すよりも新しく作った方がいいと判断したんじゃないかな」
「リディナさん達は以前の此処をよく知っているんですね」
「ちょっとした事があってね。その辺は今夜にでも話すね」
知っているどころではない。何せここの村人を脱出させたのは私とリディナ。公に言うような話じゃないから今まで話していなかった。けれどセレスに話すくらいならいいだろう。
あの村跡を出て、再びライ君の速度を上げる。ここからアコチェーノは夜中、老人や子供連れで歩いても3時間かからなかった距離だ。
半時間も経たない間に見覚えのある街が見えてきた。ついリディナにこんな事を言ってしまう。
「何回目だっけ、アコチェーノに来るの」
「山越えで1回、トンネルで1回、夜中に1回でそして今回。だから4回目だよね、これで」
「何かこの街にあるんですか?」
セレスが? という顔をしている。その疑問は当然だ。しかし何かと言われると答に困る。
「基本的には成り行きかな。此処自体は普通の田舎の街だよ。ちょっと特殊な樹木が生えていて、あとトンネルで繋がった向こう側に鉄鉱山と製鉄所があるだけの」
「特殊な樹木って何ですか」
「フミノがよく使っているあの少し暗い色の頑丈な木材、あれだよ。生育が異常に早くて5年で普通の木材に出来る大きさに育つの。ただ成長が早い分手間もかかるらしいけれどね。
さて、ここからは歩いて行こうか。今度はちゃんとした街だし」
門の手前30腕程度のところでゴーレム車を停めた。全員が降りた後ライ君とゴーレム車を仕舞い、そこからは歩きで門まで。
私ももう普通に衛士がいるくらいなら問題無い。冒険者証を提示して門の中へ。
この街を出たのはつい半年前だ。しかしかなり前のような気がする。
そう感じるのはセレスと出会った等、色々あったからだけではない。街が明らかに賑やかになっている気がするのだ。人が多いし店なんかも増えた気がする。
思い出した。製鉄所も林業関係も人を増やそうとしていたなと。実際あの男爵領の分は確実に人が増えた筈。そうやって人口が増えたおかげで活気が出たのだろうか。
そんな事を思いながら街を歩く。
「まずは森林組合でいいよね、木を買うなら。あとは鍛冶組合か鉄工所かな。フミノの事だから」
鉄の事までバレている。しかしリディナが私の考えに気づいているのはいつもの事。だから特に驚かないし気にしない。
「前に比べて随分人が多く感じるよね。これじゃこの前の処に家を出すのは無理かな」
どうやらリディナも私と同じように感じている模様だ。
森林組合は東側の門から入ると街の中心部を越えた反対側になる。だから図書館や役所を越えて森林組合のある場所へ。
こちらも予想外だった。いや、森林組合の場所や建物は以前と同じ。ただこの辺り、以前は街の端部分だった筈。それなのにこの先、まだまだ家々が続いている。
「そういえば街壁を新しく作って広げたりしたよね」
そうだった。しかもその工事をやったのも私だ。それにしてもリディナ、本当に私の考えている事を読んでいるようだ。
森林組合の事務所に入る。受付に居たのは知っている顔だった。
「あ、リディナさん、フミノさん、お久しぶりです。こちらに戻られたのですか」
イオラさんだ。
「ぐるっと回って戻ってきてしまいました。それで間伐材か、なければ普通の木材を購入したいんですけれど大丈夫ですか」
「勿論です。どうぞどうぞ」
カウンターにつくとイオラさんがすぐにメニューのようなものを持ってくる。
「人が増えたのでこんな感じで板材や角材、柱材等を提供できるようになりました。木炭もかなり出ていますよ。ちょうど冬ですし、ローラッテの製鉄所も順調に稼働していますから」
渡された紙には丸太から板、角材、木炭等、サイズや種類別に値段や注文可能数量等が整理されて書かれている。
まさにメニューだ。
「あれからまだ半年経っていないのに随分変わりましたね」
「あの後いろんな事がいい感じで循環しまくったんです。トンネルが出来て売り上げが増えて、人も増えて更に出来る事が増えて、それでまた売り上げが増えてという形で。
材木として使えない、剪定していない樹形が悪いアコチェーノエンジュでも、切って揃えれば木炭には出来ます。木炭は作れば製鉄所が使ってくれますし、最近は他にもお客さんが増えてきています。堅くて高熱になり火の持ちがいいという事で。
製鉄所のおかげでアコチェーノもローラッテも景気がよくなって人もかなり増えました。街が大きくなった分建物も増えましたし、当然木材も需要が増えています。
森林組合はリディナさんやフミノさんのおかげで人手を確保できたので、需要に先立って体制を増強できました。ですので今は本当に絶好調ですよ。
まあフェルマ伯爵領そのものが今は絶好調なんですけれどね」
なるほど、それは良かった。そう私は思う。ここは好きな場所だから。
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