上 下
121 / 323
第21章 馴染みの街

第175話 久しぶりのアコチェーノ

しおりを挟む
 周囲の風景に微妙に見覚えがあるなと感じる。何処だっけ、そう思った直後に見覚えある壁と門を発見。
 そう、あの男爵領、アコチェーノと反対側の門だ。

 門は開いていて、衛士が4名立っている。こちらを見て一瞬ぎょっとした表情をしたが、すぐにゴーレム車とわかった模様。
 しかし念のためこちらも20腕40m手前でゴーレム車を停め、リディナが降りる。

「身分証の提示は結構です。ここはまだ街ではありませんから。どうぞお通り下さい」

「此処は確か元デゾルバ男爵領ですよね、噂では領民に逃げられたという。もう住民が戻られたのですか」

 リディナがそんな台詞で状況を尋ねる。

「現在はフェルマ伯爵領に編入されています。ですがまだ誰も住んでいない状態です。魔物に住み着かれると面倒なのでこうして警戒しています。
 つまり単なる魔物警戒ですのでその車に乗ったままで結構です。向こうの門にも衛士がおりますが、そのまま通過して問題ありません」

「わかりました。教えて頂いてありがとうございます」

 リディナは一礼した後、ゴーレム車に乗車。

「男爵領にしては随分大きい街ですね」

 外から見ればセレスの言う通りだ。しかし私もリディナもその理由を知っている。

「中は小さい村だよ。大きいのは中に畑なんかも入っているから」

 リディナがそう説明。そして私はライ君を操縦して門の中へ。

 中は以前とはかなり変わっている。
 畑は概ね以前とほぼ同じ。収穫が終わった後放置されているようだけれども。
 しかし村人の家々のほとんどが解体されている。残っているのは以前男爵やその家来の家だったところだけだ。

「本当に中は村なんですね。でも何で家のほとんどが解体されているんでしょうか」

「元々の家が狭いし居住性も悪いしボロボロだったからね。直すよりも新しく作った方がいいと判断したんじゃないかな」

「リディナさん達は以前の此処をよく知っているんですね」

「ちょっとした事があってね。その辺は今夜にでも話すね」

 知っているどころではない。何せここの村人を脱出させたのは私とリディナ。公に言うような話じゃないから今まで話していなかった。けれどセレスに話すくらいならいいだろう。

 あの村跡を出て、再びライ君の速度を上げる。ここからアコチェーノは夜中、老人や子供連れで歩いても3時間かからなかった距離だ。
 半時間30分も経たない間に見覚えのある街が見えてきた。ついリディナにこんな事を言ってしまう。

「何回目だっけ、アコチェーノに来るの」

「山越えで1回、トンネルで1回、夜中に1回でそして今回。だから4回目だよね、これで」

「何かこの街にあるんですか?」

 セレスが? という顔をしている。その疑問は当然だ。しかし何かと言われると答に困る。

「基本的には成り行きかな。此処自体は普通の田舎の街だよ。ちょっと特殊な樹木が生えていて、あとトンネルで繋がった向こう側に鉄鉱山と製鉄所があるだけの」

「特殊な樹木って何ですか」

「フミノがよく使っているあの少し暗い色の頑丈な木材、あれだよ。生育が異常に早くて5年で普通の木材に出来る大きさに育つの。ただ成長が早い分手間もかかるらしいけれどね。
 さて、ここからは歩いて行こうか。今度はちゃんとした街だし」

 門の手前30腕60m程度のところでゴーレム車を停めた。全員が降りた後ライ君とゴーレム車を仕舞い、そこからは歩きで門まで。

 私ももう普通に衛士がいるくらいなら問題無い。冒険者証を提示して門の中へ。

 この街を出たのはつい半年前だ。しかしかなり前のような気がする。
 そう感じるのはセレスと出会った等、色々あったからだけではない。街が明らかに賑やかになっている気がするのだ。人が多いし店なんかも増えた気がする。

 思い出した。製鉄所も林業関係も人を増やそうとしていたなと。実際あの男爵領の分は確実に人が増えた筈。そうやって人口が増えたおかげで活気が出たのだろうか。

 そんな事を思いながら街を歩く。

「まずは森林組合ギルドでいいよね、木を買うなら。あとは鍛冶組合か鉄工所かな。フミノの事だから」

 鉄の事までバレている。しかしリディナが私の考えに気づいているのはいつもの事。だから特に驚かないし気にしない。

「前に比べて随分人が多く感じるよね。これじゃこの前の処に家を出すのは無理かな」

 どうやらリディナも私と同じように感じている模様だ。

 森林組合ギルドは東側の門から入ると街の中心部を越えた反対側になる。だから図書館や役所を越えて森林組合ギルドのある場所へ。

 こちらも予想外だった。いや、森林組合ギルドの場所や建物は以前と同じ。ただこの辺り、以前は街の端部分だった筈。それなのにこの先、まだまだ家々が続いている。

「そういえば街壁を新しく作って広げたりしたよね」

 そうだった。しかもその工事をやったのも私だ。それにしてもリディナ、本当に私の考えている事を読んでいるようだ。

 森林組合ギルドの事務所に入る。受付に居たのは知っている顔だった。

「あ、リディナさん、フミノさん、お久しぶりです。こちらに戻られたのですか」

 イオラさんだ。

「ぐるっと回って戻ってきてしまいました。それで間伐材か、なければ普通の木材を購入したいんですけれど大丈夫ですか」

「勿論です。どうぞどうぞ」

 カウンターにつくとイオラさんがすぐにメニューのようなものを持ってくる。

「人が増えたのでこんな感じで板材や角材、柱材等を提供できるようになりました。木炭もかなり出ていますよ。ちょうど冬ですし、ローラッテの製鉄所も順調に稼働していますから」

 渡された紙には丸太から板、角材、木炭等、サイズや種類別に値段や注文可能数量等が整理されて書かれている。
 まさにメニューだ。

「あれからまだ半年経っていないのに随分変わりましたね」

「あの後いろんな事がいい感じで循環しまくったんです。トンネルが出来て売り上げが増えて、人も増えて更に出来る事が増えて、それでまた売り上げが増えてという形で。

 材木として使えない、剪定していない樹形が悪いアコチェーノエンジュでも、切って揃えれば木炭には出来ます。木炭は作れば製鉄所が使ってくれますし、最近は他にもお客さんが増えてきています。堅くて高熱になり火の持ちがいいという事で。

 製鉄所のおかげでアコチェーノもローラッテも景気がよくなって人もかなり増えました。街が大きくなった分建物も増えましたし、当然木材も需要が増えています。

 森林組合ギルドはリディナさんやフミノさんのおかげで人手を確保できたので、需要に先立って体制を増強できました。ですので今は本当に絶好調ですよ。

 まあフェルマ伯爵領そのものが今は絶好調なんですけれどね」

 なるほど、それは良かった。そう私は思う。ここは好きな場所だから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。