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第18章 再会の季節

第155話 引きこもりの日

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 翌朝、朝食後。

「明日の朝まで此処にいるならカバーの受け取りは明日朝でいいよね。なら今日は一日、一人で出かけていいかな。六の鐘過ぎには戻るから」

 リディナは単独行。学校時代の友人に会うのだろう。

「そうですね。私も買い物や名所巡りをしてこようと思います。フミノさんもどうですか」

 セレスに誘われた。しかし私は遠慮しておこうと思う。セレスといると人が多いところを引き回されそうだ。悪意があってやる訳では無いけれども。
 それに私はするべき事がある。

「今日は居残って新しいゴーレムを作りたい」

 せっかく魔法金属を手に入れたのだ。ここはやっぱりゴーレム車牽引用新型ゴーレムの製作にとりかかるべきだろう。
 魔法金属以外の金属も在庫豊富な今、やらない訳にはいかない。

「なら作業用の部屋を用意しましょう。広くて家具がない、作業用にちょうどいい部屋がいくつかあります。使用人もそこへ入らないようにすればフミノさんも作業に集中できるでしょう」
 
 そんなカレンさんのありがたい申し出を受け、借り受けた部屋に籠もる。広いしトイレも近いし最高の環境で工作開始だ。

 新型ゴーレムの名前はライ君と決めている。
 基本的な設計はバーボン君のスケールアップでいい。ただ全体のプロポーションが馬に見えるようにする必要はある。

 顔や首が長くなるのは受容体を大きめにする為にはちょうどいい。そして……

 ◇◇◇

「フミノ、フミノ……」

 うん、やはり視界はある程度の高さがあった方がいい。それに前脚以外に人間の腕があると作業にも近接攻撃にも使いやすい。人馬兵 プロマキス形態にして正解だ。

 魔法銅オリハルコン、値段の割に性能はいい。値段は魔法銀ミスリルの5分の1だが受容体としての性能は2分の1より上。
 これを頭部と背中に惜しむ事無く使った結果、受容体の容量はバーボン君比で10倍以上。出力もそれに比例している筈だ。

 これなら通常の4頭立て馬車も目ではない。早馬と互角の速度でゴーレム車を……

「フミノ!」

 ん?
 振り返ったらリディナがいた。あれ?

「リディナ、出かけたんじゃなかった?」

「もう夕方よ」

 えっ?
 窓の外を見れば確かに暗くなり始めている。

「気づかなかった」

「それでこれは何?」

 ふっふっふっ。

「バーボン君の代わりに車を牽くゴーレム。名前はライ君」

「何故人型の上半身と両腕があるの?」

「作業したりする際に便利だから。この方が道具も魔法も使いやすい」

「……まあいいけれどね。夕ご飯だよ」

「わかった」

 ライ君をはじめ、工具や道具、出した素材等一切をアイテムボックスに収納。
 リディナに続いて部屋を出る。

「ずっと部屋に籠もってあれを作っていたの?」

 私は頷く。

「最初は普通の馬の形で作った。でも操縦時の一体感が足りなかった。他にも不満な点があった。だから一部を作り直した」

 具体的にはまず視界。馬のように両目が左右離れていると前を見たときの距離感がつかみにくい。
 さらに口の形もだ。あれでは喋るのが難しい。前脚では作業が出来ない……etc.

 なお、馬から人型へ変形するなんてのも考えてみた。しかし設計がやたら面倒になりそうだったので断念。結果が今の人馬兵プロマキス形態という訳だ。

 今朝も朝食をいただいた部屋に到着。もうカレンさんをはじめ全員揃っている。
  
「遅れてすみません」

「いえいえ。工作の方は順調ですか」

「ほぼ完成。明日には試験運用予定」

 ライ君で牽引した場合、ゴーレム車の速度もかなり上げられる。だから試験運用でゴーレム車のサスペンション設定も調整する必要があるだろう。

「それではいただきましょうか」

 夕食開始。今日も豪華だ。

「今日はリディナさんはどちらへお出かけでしたか?」

「中等学校時代の友人のところへ。今は国立の中等学校も騎士団による剣技訓練以外はお休みですので時間が余っているようです」

「高等学校以下の学校教育はエールダリア教会の管轄でしたからね。
 現在、各教会管轄だった業務を全て国が直轄で管理するように制度を改革中です。ですが学校は教育内容の精査やそれに伴う教材の準備、教員の確保も必要。ですのでもうしばらくはかかるでしょう」

「確かに授業の半分は意味がない内容ではありましたしね。エールダリア教会の教義だの歴史だの聖人伝だので」

「そうだったんですか?」

 セレスが尋ねる。

「ええ、そうですね。教育はエールダリア教会の専権でしたから。救護院がセドナ教会の運営で、騎士団の戦技研究所をナイケ教会が担当しているように。
 その辺もこの機会に一気に変える事になっています。こういった機会でないと既得権者の抵抗で何も出来ませんから」

 なるほど。国王が頂点の専制国家であってもその辺を変えるのは大変なのか。

「冒険者ギルドの方も大変ではないのでしょうか?」

 カレンさんは頷く。

「ええ。こちらもやるべき事項が多いですね。

 魔法やステータス閲覧の件についてはギルド職員対象に講習会を開いて周知を図っているところです。現在はようやく地方のギルド支部まで最低1人は講習修了者を配置できたという段階です。

 これで小さなギルドでも冒険者のステータス確認が出来るようにはなりました。いずれはギルド職員全員にこの講習を受けさせる予定ですが、それはまだ当分先になりそうですね。

 魔法やステータス閲覧についての教本もようやくほぼ及第点のものが出来たところです。この辺はフミノさんに教えていただいた事をミメイが書き起こしたものが元になっています。
 もう少しギルド職員相手の講習会で使用して内容を詰めた後、一般相手の教本として外に出す予定です」

 なるほど。その辺も進めている訳か。
 ミメイさんがその辺書き起こしたのなら私の持っている大事典の翻訳とそう内容は変わらないだろう。ならあの複写は無くても大丈夫かなと思う。
 勿論必要なら複写は簡単だし、カレンさんやミメイさんになら渡してもいいと思うけれども。

「なら一般の冒険者や国民も魔法が使えるようになるのでしょうか」

 これはセレスだ。

「それは難しいかもしれません。最大の難問は文字の読み書きです。せめて文字が読めないとステータス閲覧が出来ません。その辺の教育までやるとなると流石に冒険者ギルドの手に余ります」

 確かに義務教育なんてのは国の仕事だよな。でも国立の中等学校でさえ授業が停止している現状ではその辺まで期待するのは難しそうだ。

「あと皆様に関係する話と言えばクロッカリの件ですが、今のところ新しい情報は入ってきておりません。現在も部隊が確認場所に近い3箇所の冒険者ギルドで待機中です」

 そっちの方も進展無しと。
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