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第18章 再会の季節
第153話 いい方の話
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中へ入り、カレンさん達の後をついていく。
つくりそのものはきちんとした貴族屋敷だ。ただ中に人がいない。普通の貴族屋敷というものを私は知らないが、とにかく人の気配を感じない。
そんな中廊下を抜け階段をのぼり、そしてカレンさんはある部屋の扉を開ける。
中は会議室といった雰囲気の部屋だ。大テーブルがあり、右側に3名分、左側に2名分の食器やカトラリーが置かれている。
しかし料理類は無い。代わりに自在袋が置かれている。
「まだこの屋敷はほとんど人を雇えていません。衛士以外は臨時でフェルマ伯爵家に御願いし、通っていただいている状態です。
ですのでお誘いしたのに恐縮ですが、給仕無しでご容赦ください。
またそういう事情ですので、本来は順番に出す料理ですが、一度に全てを出させていただきます」
カレンさんとミメイさんが自在袋から料理を出し始めた。
料理そのものはなかなか豪華だ。
各種塩漬け肉とチーズの盛り合わせ、サラダ、魚料理、肉料理、スープ、パン、ラルドやバター等。更にデザートらしい林檎のタルトっぽいものまである。
「豪華ですね」
「作ったのはフェルマ伯爵家のシェフです。ですから味は確かだと思います。ただ以前アコチェーノにいた時にご馳走になったような目新しいものはありませんけれども。
それではいただきましょうか」
そんな訳で夕食会、開始だ。
内容的にコース料理っぽいが、何か食べる順番があるのだろうか。なんて思ったらミメイさんがパンの上に盛り合わせの塩漬け肉とチーズをのせ、魔法で熱を加えて食べている。
あまり気にしなくていいようだ。そう感じてほっとする。ならミメイさんの真似をしよう。確かに美味しそうだから。
口に運ぶ。やはり美味しい。そう思った時だった。
「まず私事ですが、婚約が正式に決まりました」
カレンさんからいきなりそんな台詞が出た。
「おめでとうございます」
「わあ、おめでとうございます」
リディナとセレスからそう祝福の言葉が出る。
私もそう言おうかと思ったけれど少しひっかかる事があって口に出せなかった。政略結婚ではないか、相手は意に沿わない相手ではないか。そんな疑念がどうしてもぬぐえなかったから。
「ありがとうございます。あとフミノさん、心配していただいてありがとうございます」
どうやらそんな私の心情はバレバレだったようだ。
カレンさんはさらに話を続ける。
「今回の婚約は確かに政治的な意味が大きいものです。ですが幸い相手は学生時代からよく知っている方で、性格も能力も信頼できます」
「おめでとうございます」
今度は素直に言えた。
「ありがとうございます。
婚約相手はメレナム様で、フェルマ伯爵の次男にあたります。
ご存知かもしれませんが私は魔法が使えないという事で高等学校卒業と同時に王家を追放され、フェルマ伯爵家預かりとなりました。
メレナム様は学生時代からの友人です。王家追放時にもお世話になっています。
それにしても学生時代は実らない恋のつもりだったのですけれどね。そういう意味では追放された事も悪くないかと今は思えます」
うわあ、甘い! 私でさえ思わず顔の筋肉が緩んでしまいそうだ。
リディナも笑顔だしセレスなんてもう表情溶けているし。
「決まった後何度も惚気られた」
そんな事を言うミメイさんも目が笑っている。
「私自身は王家から追放された身。ですのでもう一度戻る訳にはいきません。
そこで跡継ぎではない彼を私と結婚させ、新たに領地を与えて貴族に叙爵する事で私の名誉回復とするつもりなのでしょう。
なお先週付で私は名目上、フェルマ伯爵の籍から外れ、タウフェン公爵預かりとなっています。タウフェン公爵は冒険者ギルドスティヴァレ支部の名誉顧問でもありますので、その関係です。あくまで名目上ですけれども。
このようになったのもフミノさんにステータス閲覧や魔法の新しい知識について教えて頂いたおかげです。本当にありがとうございました」
いやカレンさん。めでたいけれどそれは違う。
「この知識を広めて周知の事としたのはカレンさんの功績。私はたいした事はしていない」
「そう言われるとは思いました。ですがこの知識のおかげでこの国も変わりつつあります。その事を含めお礼を言わせていただきます」
まあいい方に変わったなら悪くない。私も軽く頭を下げておく。
「それで御婚姻や叙爵は何時頃行われる予定なのでしょうか」
「来月の予定です。ただ現在、貴族に対する功績と実績による領地配分見直しを実施中です。王宮も官庁も変化に伴う業務多忙中で業務的に余裕があまりありません。
更にメレナム様は現在ネイプルにある南方領土直轄局で業務引継ぎ中です。王都に戻られるのは早くて2週後。ですので式典の準備等もそれからとなります。
ですから叙爵も婚姻の儀もあまり大々的にやらない予定です」
なるほど。確かに大変なのだろうなと思う。これもまあ私のせい、そしてカレンさん自身のせいとも言えるけれど。
「ここまでがいい事。ただ悪い話もある。クロッカリが脱走した」
クロッカリ? 誰だそれは。
つくりそのものはきちんとした貴族屋敷だ。ただ中に人がいない。普通の貴族屋敷というものを私は知らないが、とにかく人の気配を感じない。
そんな中廊下を抜け階段をのぼり、そしてカレンさんはある部屋の扉を開ける。
中は会議室といった雰囲気の部屋だ。大テーブルがあり、右側に3名分、左側に2名分の食器やカトラリーが置かれている。
しかし料理類は無い。代わりに自在袋が置かれている。
「まだこの屋敷はほとんど人を雇えていません。衛士以外は臨時でフェルマ伯爵家に御願いし、通っていただいている状態です。
ですのでお誘いしたのに恐縮ですが、給仕無しでご容赦ください。
またそういう事情ですので、本来は順番に出す料理ですが、一度に全てを出させていただきます」
カレンさんとミメイさんが自在袋から料理を出し始めた。
料理そのものはなかなか豪華だ。
各種塩漬け肉とチーズの盛り合わせ、サラダ、魚料理、肉料理、スープ、パン、ラルドやバター等。更にデザートらしい林檎のタルトっぽいものまである。
「豪華ですね」
「作ったのはフェルマ伯爵家のシェフです。ですから味は確かだと思います。ただ以前アコチェーノにいた時にご馳走になったような目新しいものはありませんけれども。
それではいただきましょうか」
そんな訳で夕食会、開始だ。
内容的にコース料理っぽいが、何か食べる順番があるのだろうか。なんて思ったらミメイさんがパンの上に盛り合わせの塩漬け肉とチーズをのせ、魔法で熱を加えて食べている。
あまり気にしなくていいようだ。そう感じてほっとする。ならミメイさんの真似をしよう。確かに美味しそうだから。
口に運ぶ。やはり美味しい。そう思った時だった。
「まず私事ですが、婚約が正式に決まりました」
カレンさんからいきなりそんな台詞が出た。
「おめでとうございます」
「わあ、おめでとうございます」
リディナとセレスからそう祝福の言葉が出る。
私もそう言おうかと思ったけれど少しひっかかる事があって口に出せなかった。政略結婚ではないか、相手は意に沿わない相手ではないか。そんな疑念がどうしてもぬぐえなかったから。
「ありがとうございます。あとフミノさん、心配していただいてありがとうございます」
どうやらそんな私の心情はバレバレだったようだ。
カレンさんはさらに話を続ける。
「今回の婚約は確かに政治的な意味が大きいものです。ですが幸い相手は学生時代からよく知っている方で、性格も能力も信頼できます」
「おめでとうございます」
今度は素直に言えた。
「ありがとうございます。
婚約相手はメレナム様で、フェルマ伯爵の次男にあたります。
ご存知かもしれませんが私は魔法が使えないという事で高等学校卒業と同時に王家を追放され、フェルマ伯爵家預かりとなりました。
メレナム様は学生時代からの友人です。王家追放時にもお世話になっています。
それにしても学生時代は実らない恋のつもりだったのですけれどね。そういう意味では追放された事も悪くないかと今は思えます」
うわあ、甘い! 私でさえ思わず顔の筋肉が緩んでしまいそうだ。
リディナも笑顔だしセレスなんてもう表情溶けているし。
「決まった後何度も惚気られた」
そんな事を言うミメイさんも目が笑っている。
「私自身は王家から追放された身。ですのでもう一度戻る訳にはいきません。
そこで跡継ぎではない彼を私と結婚させ、新たに領地を与えて貴族に叙爵する事で私の名誉回復とするつもりなのでしょう。
なお先週付で私は名目上、フェルマ伯爵の籍から外れ、タウフェン公爵預かりとなっています。タウフェン公爵は冒険者ギルドスティヴァレ支部の名誉顧問でもありますので、その関係です。あくまで名目上ですけれども。
このようになったのもフミノさんにステータス閲覧や魔法の新しい知識について教えて頂いたおかげです。本当にありがとうございました」
いやカレンさん。めでたいけれどそれは違う。
「この知識を広めて周知の事としたのはカレンさんの功績。私はたいした事はしていない」
「そう言われるとは思いました。ですがこの知識のおかげでこの国も変わりつつあります。その事を含めお礼を言わせていただきます」
まあいい方に変わったなら悪くない。私も軽く頭を下げておく。
「それで御婚姻や叙爵は何時頃行われる予定なのでしょうか」
「来月の予定です。ただ現在、貴族に対する功績と実績による領地配分見直しを実施中です。王宮も官庁も変化に伴う業務多忙中で業務的に余裕があまりありません。
更にメレナム様は現在ネイプルにある南方領土直轄局で業務引継ぎ中です。王都に戻られるのは早くて2週後。ですので式典の準備等もそれからとなります。
ですから叙爵も婚姻の儀もあまり大々的にやらない予定です」
なるほど。確かに大変なのだろうなと思う。これもまあ私のせい、そしてカレンさん自身のせいとも言えるけれど。
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