ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

文字の大きさ
表紙へ
上 下
50 / 279
第18章 再会の季節

第145話 ラツィオ到着

しおりを挟む
 翌日。
 11の鐘より少し前にラツィオの街門前に到着。しかしすぐには入れない。街に入ろうという人や馬車等で長い列が出来ている。

 列の最後尾にゴーレム車を移動させている途中、セレスがリディナに尋ねた。

「魔物や魔獣がいないのにどうして立派な街壁があるんですか」

 確かに私も疑問に思う。
 村壁や街壁は普通は魔物や魔獣から街を守るためのもの。それらがいない管理区域には必要が無い筈だ。

 かつて魔物がこの辺にいた頃の名残りだというならわからないでもない。でもそれなら街門を開放してもよさそうに思う。

「犯罪者や政変、戦争対策よ。王都だから出入りする人の確認が厳重なの」

「私達は大丈夫でしょうか」

「正規の身分証があって犯罪歴が無ければ大丈夫。だから私達は問題ない筈よ。
 ただこの長さだと1時間くらいかかるかな」

 列はどう見ても100腕200m以上ある。確かにそれくらいはかかりそうだ。

「私とセレスで交代で外に出ているね。外に1人いないと順番を抜かされる事があるから。フミノは中で私達に合わせてゴーレム車を前進させて」

「ありがとう」

 列なんていう前後に人がうじゃうじゃいる環境、私にはかなり辛い。だからリディナとセレスに頭を下げる。

「フミノさんはここまでずっとバーボン君を動かしてくれていますから」

「そうそう」

「ありがとう」

 私はもう一度頭を下げた。

 ◇◇◇

 やはり城門から入るのには1時間かかった。昼12の鐘が聞こえたから間違いない。
 
「さてどうする? 早めに宿屋を確保する? それとも買い物を優先する?」

「裁縫店が先の方がいいと思います。特注でお願いすると時間がかかるので。早く注文すればその分早く作って貰えますから」

 なるほど。セレスの言う通りだな。そう思ったので私は頷く。

「ところで裁縫店ってどの辺?」

 土地勘が無いのでその辺全く分からない。

「もう少し真っすぐでいいかな。そうすると広場に出るから、そこから左。そうすると市場街の入口に出るから、そこでバーボン君達をしまって歩きね」

「わかった」

 事前に行きそうな場所について調べているのか、元々この街を知っているのか、それとも街の構造なんて見る人が見ればわかるのか。
 
 新しく訪れた街でもリディナの言う通り行けば行きたい場所にたどり着く。今まで常にそうだった。
 だから今回も特に気にせずリディナの言う通りゴーレム車を動かす。

「歩く人がパスカラより地味ですね。王都だからもっといい服を着た人が多いと思っていたのですけれど」

 通り行く人をゴーレム車内から見てセレスがそんな事を言う。 

「この辺は下町だからね。貴族やお金持ちはこの先、少し高くなった辺りに住んでいるよ」
 
「それでももう少し色気のある服装をしてもいいと思います」

「エールダリア教会の影響も大きいのかな。教義で華美な服装を禁じていたからね。信仰していたのは主に貴族だけれど、その関係の仕事をする人達も服装をあわせていたから」

「開拓村ではそんな事を感じませんでしたけれど」

「あそこにいたのは教会でもかなり穏健というか、まともな人達なんじゃないかな。そうでない連中は国外追放か、何処かへ逃げたとかで。
 何せ濃いめに染色した服を着ていると、神の教えにそぐわないとして没収されたりしたらしいしね。更に免罪祈祷料としてお布施をとられるとか」

 何だそのあくどいコンボ技は。

「そんな事までしていたんですか」

「私も聞いた話だけれどね。他の教会ではそういう事はないと思うけれど。
 少なくとも生命の神セドナ教会や商売の神マーセス教会、勝利の神ナイケ教会ではそういうのは無い筈。芸術の神マリナハ教会では明るい色は人の心を引き立てるとむしろ奨励している位だしね」

 うーむ、リディナ、よく知っている。

 さて、リディナがさっき言ったとおり広場を左折。そうすると私の偵察魔法でも市場街らしき場所がわかるようになった。
 なるほど、ここだな。そう思った場所でバーボン君を停める。

「この辺?」

「うん。ありがとう」

 ゴーレム車を降り、バーボン君とゴーレム車を収納。市場街に入る。
 やはり人が多いので私は落ち着けない。恐怖耐性は耐えられる能力スキルで怖くなくなる能力スキルではないから。

「ところでリディナさん、裁縫店でおすすめってありますか?」

「場所的にはこの先、少し歩いたところの左側の路地。幾つか裁縫店が並んでいたと思う。ただおすすめまではわからないかな。この辺で買い物をした事がないから」

 この言い方だとリディナ、この街そのものは知っている感じだ。やはり学校の寮にいた頃の話だろうか。

 セレスは歩きながらそっちへ視線をやる。

「見えました。なら私が店を選んでいいですか」

「お願いしていいかな。私はあまりわからないから」

「任せて下さい」

 うーむ。こんな遠方の知らない街で、しかも生鮮食品とは違う分野でもセレスは店の良しあしとかが分かるのだろうか。

 セレスも偵察魔法を使える。だからこの場所からでも店の中を見たりする事は可能だ。

 しかし私が偵察魔法で見ても店にそう差があるように見えない。その辺は何かポイントがあるのだろうか。

 ゴーレム車の中で人駄目ソファーについての要求事項については話してある。だからどのようなものを選ぶべきかはセレスもわかっている。

 だからここはセレスに任せよう。私はどうせ何もわからないから。
しおりを挟む
表紙へ
感想 115

あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。