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第17章 開拓団の村

第141話 長い夜の前に

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 人型ゴーレム、シェリーちゃんはあっさり起動した。早速操縦してあたりを歩いてみる。

 実際に動かしてみて気付く。シェリーちゃんとバーボン君、出来る事がかなり違う。

 力そのものはバーボン君が遥かに上だ。高価な魔法銀ミスリル素材を使っているから仕方ない。
 しかし移動速度はシェリーちゃんの方が上。私とほぼ同じ程度の身体能力を持っている。

 更にシェリーちゃんは人間型。だから会話をする事も出来る。人間と同じように手を使って作業する事だって可能だ。勿論バーボン君と同じように魔法を使う事も出来る。

 これなら私の分身として行動させる事も可能かもしれない。ただ私自身とシェリーちゃん、同時に動かすのは無理だ。どうしても片方ずつになる。それならあまり意味はないかもしれない。

 ヴィラル司祭はゴーレムを走らせつつ自分は別の行動なんてしていた。しかし今の私では無理だ。この辺は熟練あるのみなのだろうか。

 それに私は偵察魔法で視界を動かせる。そして認識できる範囲ならアイテムボックススキルを起動できる。また途中に閉じた場所が無ければ魔法だって遠隔で使える。

 そう考えたらシェリーちゃんの使い道、あまりないかも……

 まあいい。ゴーレムを作れる事、人型のゴーレムで出来る事を確認しただけでも成果は充分だ。

 あとはラツィオで魔法銀ミスリルを買いゴーレム馬を作れば旅ももっと快適になるだろう。

 ゴーレム馬の名前は何にしようか。もうこの路線ならライ君でいいか。
 完全に名前が黒の組織潜入者&脱退者シリーズになってしまった。でも構わない。この世界にわかる人はいないから。

 偵察魔法が知っている人2人が近づいてくるのを捉えた。勿論リディナとセレスだ。

 ◇◇◇

 家にいた私ではなく外に出ていたリディナとセレスが夕食を作る。
 これはどう考えても不合理だ。でも仕方ない。腕も熱意も違う。

 本日の夕食のメインは羚羊肉の麦酒酵母漬けを焼いたもの。
 麦酒酵母とは麦酒を造った時に出るカスを圧縮して塩漬けしたものだ。少し味噌っぽい味で、これと水飴とを練った物に漬けたお肉は無茶苦茶美味しい。

 この甘辛味がご飯にあうんだよな。そう思いつつかっ込んでいたらセレスが私の方を見て言った。

「フミノさん。以前私がフミノさんに作って貰った、文字や数字を勉強する本やおはじき、もし宜しければいただけませんか?
 アリサやミルコは明日の休養日から文字の勉強をするそうなので、その助けになるかなと思って」

 なるほど。あの試作教材はセレスには少し簡単すぎた。しかしアリサちゃん達用ならちょうどいいだろう。

「わかった。あとでおはじきセットも一緒に出しておく」

 そう言って、そしてふとある事を思いつく。文字の読み書きや計算だけでなく、もう少し便利な教材について。
 しかしこの件、私だけではいいかどうか判断できない。2人に聞いてみよう。

「セレス、そしてリディナ。あの私が翻訳した魔法の教本、此処へ置いていって大丈夫だと思う?」

「えっ。でもあれって確か、フミノさんのですよね。あれ一部しかないし申し訳ないです」

「その辺は何とかなる。最悪もう1回訳せばそれで済む」

 元の大事典があるから問題ない。また訳せばそれで済む。少し時間はかかるけれど2回目だ。前よりは楽だろう。

「フミノはここの開拓団にあの本を置いていって大丈夫だと思う?」

 逆にリディナに聞かれた。どうだろう。少し考えて答える。

「多分大丈夫。載っている魔法はレベル2まで。日常生活を便利にする程度の範囲。それにここの開拓団なら有効に活用できる。それに此処のトップは信用していい」

「なら問題ないんじゃないかな」

 ほっとした。リディナにそう言って貰うとそれだけで安心できる。

「でも本当にいいんですか、そこまでして」

 私はセレスに頷く。

「勿論。私がそうしたいから。明日私からあの本は責任者に渡しておく。此処の皆に勉強して貰えるように」

 うん、これでいい。私はそう感じた。これで此処の開拓村に出来る事は出来たかな、そう思った。
 あとは司祭や他の人達に任せよう。今の状態ならこの村は大丈夫だろう。

 ただもう一度訳すのは正直面倒かなと思う。かと言って書き写すのも大変だ。訳したのは大事典の魔法部分だけだけれど、それでも数時間で書き写せるような分量ではない。

 ならコピー、魔法で出来ないだろうか。魔法は魔力の流れとイメージ。だから方法を強くイメージできれば出来る筈。
 よし、風呂からあがったら試してみよう。

 あと教材についても複写できるならしておこう。それにセレス用につくりかけた教材は途中で必要ないと判断したので出来が少し中途半端だ。その辺も出来る部分までは作っておきたい。

 ならばだ。

「セレスに教材などを渡すの、明日朝でいい?」

「勿論ですけれど」

「なら準備しておく」

 よし、今夜する事が出来た。
  ① コピー魔法を開発する
  ② ①で開発出来たら、大事典の魔法部分、翻訳済みの場所を全部コピーする
  ③ 教材をある程度完成させておく
 以上だ。

 今夜は長くなりそうだ。しかしその気になれば治癒魔法や回復魔法で睡眠不足を誤魔化す事も可能。だからきっと問題ない。

 よし、やるぞ。
 まずは風呂に入ってからだけれども。
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