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第17章 開拓団の村

第128話 夕食の後で

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 聖堂から外へ出る。
 もう辺りは暗くなり始めていた。

「ところでフミノ、どうかしたの? いきなり倒れたりいつにない事を聞いたり、何かいつもと違うけれど」

 リディナはヴィラル司祭のステータスを見なかったようだ。もしくはその部分を見逃したのか。

 それならわざわざ言う事はないだろう。でもそれでは不審に思われるかもしれない。
 だからリディナやセレス、仲間内になら多分言っても大丈夫な事だけを言うことにする。

「あの神像の1柱が知っている神様と似ていた。それで少し驚いた」

「それってフミノの国の神様?」

 私は頷く。実際にそうなのかはわからない。しかしあの神社で拾って貰ったのだ。あの神社の神様だと思う方が自然だろう。なら日本の神様である事には違いない。

「後でもっとよく見て確認する。まずは泊まる準備」

 タチアナさん達はこれから住む部屋へと行った。だから残っているのはリディナとセレスと私の3人。
 そして3人ならゴーレム車で泊まる事が出来る。

 まずは司祭が言っていた石造りの聖堂の横、石畳の広場の隅にゴーレム車を出す。

 勿論寝泊りするなら大きい家の方が楽だ。しかしアイテムボックスの能力は知られない方がいい。
 だからタチアナさん達も知っているゴーレム車が無難だ。

「そろそろ夕食の時間かな。今日は前に作ったものでいいよね」

「それでいいと思います」

「ならフミノ、適当に出して貰っていい?」

「わかった」

 在庫はいくらでもある。

 メインは羚羊のすね肉煮込みでいいかな。すき焼き風ではなくトマトシチュー風の奴で。
 他に黒鯛とコチのカルパッチョ風サラダ、ジャガイモと豆のスープ。あとはいつもと同じでパン、ご飯、ラルド。

「ミルコとアリサはちゃんとしたものを食べているでしょうか」

 セレスは先ほど別れた子供2人の事が気になるようだ。

「何なら差し入れ持って行ってみれば?」

「ありがとうございます。でも差し入れは保存する場所があるかわかりませんし、今後の事もありますからやめておきます」

「確かにその方が無難かな。でも行くだけなら問題ないと思うよ」

「わかりました」

 私も少し出る予定だ。今のうちに言っておこう。

「此処をベッドモードにした後、少し出かける。適当に戻る」

「わかった」

「そう言えばこのゴーレム車で泊まるのは初めてですね」

 確かにそうだ。しかもベッドモードにした状態をまだ2人には見せていない。だから一応言っておこう。

「ベッドモードにした場合、セレスの場所には横の扉からだけ出入りできるようになる。リディナは後ろから、私は前から」

「まだ試した事無いけれど、やっぱり全部個室?」

「そう。ベッドと最低限の机だけだけれど。あとリディナの部分はベッド下が食料品倉庫」

「その部分だけはタチアナさん達が来た時に動かしたかな」

 そう言えばそうだった。

「でもどうやって此処が個室になるのでしょうか?」

「このテーブルを外して立てて、両側側扉の横の板を手前に倒せば前半分が個室になる。後ろは椅子を中間位置まで下げた後、背もたれの後ろを上に伸ばして引っかければほぼ隙間無く壁になる」

「でもそれだと一番後ろ、私の場所が他より広くない?」

「その代わり倉庫部分が全てそこに入る。あと出口がベッドの向こう側になるから出入りが少し大変」

「倉庫は基本的に私が漬けている食べ物ばかりだからね。だからむしろ利点かな。あと出入りがベッドの奥で車輪の向こうなのはフミノがいる前部分も同じだよね」

「前はベッドより前に少しスペースがある分楽」

「そのくらいは大丈夫よ。でもわかった。ただ疑問が一つあるんだけれどいい?」

 何だろう。私は頷く。

「フミノのアイテムボックスなら内部構造を総取り替えするなんて方法が使えるし、それが一番簡単だよね。
 何故こうやってあちこちを動かして形を変えて変化させる仕組みにしたの? この方が作るの難しいんじゃない?」

 その通りだ。しかし勿論理由はある。

 実は昔、寝台電車なんてものに憧れた事があるのだ。サンライズ何とかではなく月光形のそれもB寝台。あの椅子を変形させてベッドにする仕組み。

 あの雰囲気を是非ともこのゴーレム車にも取り入れたかった。実際は機構等は全然違う物になってしまったけれど。
 理由はそれだけだ。

 しかし説明が難しい。だから結論を端的に言ってごまかすことにする。

「変形はロマン」

「……よくわからないけれど、まあフミノがそう言うならいいか」

 うん、なんとか納得して貰った。

 そんな訳で夕食後はベッドモードへ変形だ。

 ただゴーレム車の寝台モードはお家と比べて欠点が3つある。
 全員が起きないとテーブルモードに出来ない事と風呂が無い事、あと本棚が出せない事だ。

 風呂とテーブル変形は仕方ない。でも本は事前に用意出来る。だから2人に聞いておく。

「何か読みたい本があれば出しておくけれどどうする?」

「それではあのフミノさんが翻訳した魔法の解説書、いいでしょうか」

「わかった。リディナは?」

「百科事典のエールダリア教会が載っている部分と、セドナ教会が載っている部分、あといにしえの神々について載ってそうな部分いいかな。結構多いと思うけれど」

 うーむ、確かに多そうだ。ならこうしよう。

「リディナの寝室部分、ベッドの横に百科事典を積んでおく。それでいい?」

「ありがとう」

 ボンヘー社のスティヴァレ大百科事典は全部で35巻もある。
 ただリディナの寝場所であるゴーレム車後部は前部や中央部よりやや広いし物置スペースもある。
 だから工夫すれば床やベッドの上以外の場所に置ける。

 味噌漬けや、間違っても魚醤漬けに汚染されないように注意する必要はあるけれども。

 一通り就寝準備が出来た。

「すこし出てくる」

「気をつけてね」

 私は聖堂へ、セレスは連棟式建物の方へ。

 タチアナさん達が何処の部屋にいるかは聞いていない。しかし今のセレスは監視魔法を使える。知っている人が50腕100m以内にいれば場所がわかるから問題ない。

 さて、私は聖堂へ。
 扉に手をやる。あっさり開いた。ヴィラル司祭が言った通り鍵はかかっていない。

 開いた扉の内側は暗い。星明かりがある外よりも照明がない建物内の方が暗いのは当たり前だけれど。

 人の気配が無い事を確認して私は灯火魔法を起動する。最低限の明るさで。

 祭壇のある一番前へ。神像のうち右から3番目の前に立つ。

 間違いない。私をこの世界へ連れ出してくれたあの神様だ。あの時はっきり見た訳ではないのに何故か確信できる。

 とりあえず感謝しておこう。向こうに通じるかはわからないけれど。

 この世界での拝み方など知らないのでとりあえず目を閉じて手を合わせる。心の中で言葉を念じるように祈る。
 
 ありがとうございました。おかげでこっちでは楽しくやれています。

 神像が微笑んだように感じた。勿論気のせいだろう。
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