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第13章 事件発生

第99話 救出

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 意識的にゆっくり呼吸しながら他の連中のステータスを確認する。
 他は盗賊だ。それも昨日今日なったばかりという奴じゃない。逝ってよし。勿論殺しまではしないけれど。

 ならあの子を救出に向かおう。
 一瞬だけリディナのところへ報告に戻ろうかという考えが浮かんだ。本当ならそれが正しい。

 でも無理だ。あの子をあのままにしておけない。私には出来ない。

 どう倒そうか。考えても選択肢はそれほど無い。私は攻撃魔法を持たないし武器も持っていない。
 攻撃に使えるのはアイテムボックスのスキルだけだ。土を出して埋めるか、穴を作って埋めるか。

 なら念のため土を補充しておこう。ちょうど歩いている途中に崖が見えた。木の生えていない部分を狙って崖を削らせていただく。土中の生物分魔力が減ったが大した事はない。

 足が走りたくてうずうずしている。早く奴らを倒してあの子を救いたいと思っている。嫌なのだ。自分だろうと他人だろうと襲われるのは、暴行されるのは。信条ではなく生理的に。

 しかもあの子、怪我をしている。今の状態程度なら私の魔法で何とかなる。身体の怪我なら。でもきっと被害はそれだけではない。だからこそ早く救わないと。そう思う。

 焦るな私。失敗する訳にはいかない。準備は大丈夫か。方法は問題無いか。
 武器である土の補充は充分だ。敵はボス以外、基本的に土を出して動けなくするだけ。

 ボスだけは魔法が使えないように閉じ込める必要がある。土で部屋を囲んで閉じ込める程度では駄目だ。レベルの高い火属性魔法は土ですら融解させてしまう。

 穴だ。深い穴に落とせばいい。奴が使える魔法をもう一度確認する。属性そのものは各属性1以上の適性があるが、使える魔法は火属性のみ。
 なら穴に落としてしまえば脱出は出来ないだろう。熱で横穴を掘るなんてやったら自分が高温で御陀仏だ。

 奴は空属性の魔法は持っていない。だから見えない場所から仕留めてしまえば抵抗出来ない。問題ない。

 方針が決まった。そう思うとほぼ同時に抑えていた私のアイテムボックススキルが起動した。

 最初は門番2人。あっと言う間に首まで埋まった状態になる。
次は建物の壁の一部を収納。これは内部まで魔法やスキルが通るようにする為だ。
 中にいる盗賊どもを手あたり次第埋めて動けなくする。呼吸以外出来ないように。

 4人埋めたところで人の動きが変わった。気づかれたようだ。

 かまわない。私のスキルを防ぐ方法などない。私はただ逃がさないように注意しながら土を出していけばいい。
 これは戦闘ではない。作業だ。

 興奮しているのか冷静なのか自分でもわからない。しかし着実に盗賊は行動不能になっていく。

 ついにボスが部屋を出て走り始めた。逃げだそうとでもしているのだろうか。取り敢えず土を大量に出して足止めしておこう。

 奴が動けない間に残りの盗賊を行動不能に。
 爆発が起きた。ボスの魔法だ。爆発で自分の周囲の土をどけた。流石レベル6の魔法使い。しかしそれくらいは予想の範囲内。

 さあ逃げろ。そう思いつつ私はやつの動きを偵察魔法で注視する。やはり逃げる気だ。
 奴は玄関が部下を封じた土で通れないのを確認、ホールの壁を熱魔法で壊して穴をあけ、外へ出る。手入れが放置された庭に出て村の方へと走る。
 ただ足は遅い。太すぎる体形的に見合った走り方だ。

 よし、奴の下周辺2腕4mの土を深さ2腕4m収納。底まで落ちたのを確認して更に1腕2m程収納。

 これで深さ3腕6mの穴だ。そう簡単に逃げられまい。そう思った時予想外の事態発生。
 穴の途中から水が出始めた。まずい。これでは水を使って脱出される恐れがある。どうする。

 考えつつも縮地で近くへ移動する。

 案ずるまでもなかった。奴め自分の魔法で土を焼いて水を止めた。どうやら水が出るのがお気に召さなかったようだ。ひょっとしてカナヅチなのだろうか。浮きやすそうな体形なのに。

 いずれにせよこれでOKかな。そう思った直後、穴の端が爆発した。縁が削れる。爆発で穴をひろげて坂を緩やかにして脱出するつもりのようだ。

 すぐに思いつく対策は1つ。もっと穴を深くする事。ボスの下の土を更に収納する。より深く、周囲を削っても脱出前に生き埋めになる位まで。

2腕4mずつ3回、計12m程下まで落とした。爆発は止む。脱出不能と悟ったのだろう。

 その代わり穴の周囲、土が落ちない範囲で爆発が発生。見えないからとにかく周囲を攻撃している様だ。周囲の樹木、塀、そして家の一部までが爆発で壊れ崩れる。

 大丈夫。私は爆発は、魔法は怖くない。人よりは怖くない。しかしこれでは煩いし移動の邪魔。静かにしておいて貰おう。

 私は途中が密閉されているとその先へ魔法を行使できない。おそらく奴も同じだろう。だから奴の上を蓋してしまえばいい。

 もったいないがアコチェーノで仕入れた間伐材の丸太を20本並べて穴の上に出し、即座にその上に土を大量に出す。
 木材と土で蓋した形だ。無理に壊すと生き埋めになる。これでどうだ。

 静かになった。私の意図を察したようだ。

 それでは行こう。彼女を助けに。
 元門番だった土の塊の横を通り塀の中へ。更に収納して壁がなくなった部分を通って家の中へ。地下への階段を降りる。

 さてどうしよう。彼女も知らない人に近づかれると怖いだろう。盗賊でないともわからないだろうし。
 人=怖いという状態になっている可能性もある。

 考えてもいい案は思い浮かばない。仕方ない。正攻法で行こう。
 私は階段を降りたところで呼びかける。

「私は通りすがりの冒険者。盗賊は全員行動不能にした。これからそちらへ行くけれど怖がらないで。危害を与えるつもりはない」

 返答はない。でも聞こえている。視線が少しだけ動いた。表情は無表情のままだけれど。

 あえて足音をさせて歩く。扉を開けようとするが開かない。鍵がしまっている。

「鍵を壊して入る。心配しないで。助けに来ただけ」

 そう宣言してから熱魔法で鍵を壊して扉を開く。
 彼女は無表情のまま視線だけをこっちを向ける。直接目で見ると思ったより小さく幼い。10歳前後か、もうすこし上か、その程度。

「お姉さんは?」

 急に聞かれた。思わず一瞬後ずさりしそうになる。
 耐えろ私、怖がるべきなのは私ではなくあの子の方だ。そう自分に言い聞かせる。

「通りすがりの冒険者。途中でこの盗賊団に襲われた。だから返り討ちにした。盗賊は全員動けなくした。安心して」

 大丈夫、怖くない。私も彼女も。自分に言い聞かせながらゆっくり近づく。

 彼女は私を怖がらない。私が女の子だからだろうか。それならいい。だがもっとまずい可能性もある。
 しかしとりあえずは拘束を外すところからだ。

「鎖を壊す。少しだけ熱を感じるかもしれない。動かないで」

 足枷の鍵部分だけ一気に高熱をかけて外す。大丈夫、熱くはなかった筈。外すために足枷を手で持っている私も大丈夫だったから。

「傷を治療する。少し待って」
 
 どの傷も深くはない。死なない程度に虐めるという目的で傷つけたからだろう。そんな行為に吐き気がする。
 でも大丈夫、この程度なら私の水属性レベル2の治療魔法で完全治癒可能だ。

 傷が全て消えるようにイメージをして念入りに治療魔法をかける。よし、傷は全部消えた。
 あとは服だ。手持ちは私の服しかない。でも私は小さい方だしサイズ調整が出来る服だから大丈夫だろう。

「大丈夫? 身体は動く?」

 女の子は右手を動かし、傷の無くなった皮膚を不思議そうな目で眺めた。
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