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第13章 事件発生

第96話 街の手前で

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 釣り、海産物採取。そんな感じで遊んだり美味しいものを食べたりだけではない。

 一応冒険者らしく討伐もしているし薬草等の採取もしている。スライムやゴブリン以外の魔物も狩った。リディナが買った植物図鑑で海辺に生えそうな薬草もチェックして、気がついたら収納なんてのも常にやっている。

 更には毎夜、ゴーレム関連の魔法について勉強をしていたりもする。本を何冊も買ったしバーボン君という見本もいるのだ。何とかしてゴーレムを作って操れるようになりたい。

 ただどの本にもゴーレムの作り方についての詳細が載っていなかった。その辺は企業秘密みたいなものなのだろうか。理論も製法については微妙にぼかした書き方になっている。

 だから現時点で可能なのはゴーレムの改良だ。そしてバーボン君には今すぐ手をつけたい部分がある。

 勿論それは足の遅さだ。力はあるのだけれどやっぱり遅い。せめて今の倍、普通の荷馬車と同じくらいの速度は出せるようになって欲しいのだ。

 昼間は基本的にリディナと一緒にする活動の時間だ。魔物討伐や薬草採取、そして移動の。魔物討伐は夜にもやるけれど。

 だから本を読んだり細かい作業をしたり、バーボン君の整備をしたりするのは夜になる。

 夜ではなく朝にやった方が健康的という意見もあるだろう。日本では朝活なんて事をする人もいたらしいし。

 しかし私には無理だ。自称低血圧だから朝に弱い。血圧を測った事は実は無いのだけれど。

 しかもこの国の皆さんは朝が早い。6の鐘、日本の朝6時くらいには既に皆さん動き始めている。それより早く起きて朝活するなんて絶対に無理。
 
 そんな訳で夜は本を読んで勉強したり、バーボン君を出して分解整備をしつつ構造を確認したりなんてやっている。それにも集中できなくなると偵察魔法で魔物狩りをしたりも。

 そんな事を夜にやっていると必然的に睡眠時間は少なくなる。だから余計に朝に弱くなったりする。

 朝だけではなく昼も暇なときはふっと眠くなったりする。集落から離れて魔物もほとんどいなくなり、植物も見慣れたものばかりで道も単調だったりすると特に。

 ある程度意識して魔法を操らないとバーボン君は動かなくなる。だから居眠り運転なんて事態は起こらない。他の人や馬車等が近づいた時は魔法で気づくから相手のいる人身事故も起こらない。
 それでも……

 ガタッ、ゴーレム車が急停止したショックで気づく。やってしまったか。

 もちろん事故ではない。一瞬睡魔に襲われてゴーレム操縦魔法が途切れ、バーボン君が急停止をしてしまったのだ。

「大丈夫フミノ、疲れていない? 小休止しようか?」
「問題ない」
「何ならこの次の大きな街、パスカラでは何日か滞在しようか。フミノ最近寝不足気味でしょ。遅くまで何かやっているみたいだし」

 リディナにばれていたようだ。

「今夜はちゃんと寝るようにする」
「何なら操縦、私がやろうか?」

 一応リディナもゴーレム操縦が出来る事を確認している。少しだけれど練習もして貰った。

 しかしゴーレム関係は完全に私の趣味。いくら馬車代わりに使っているからと言ってリディナに任せてしまうのは申し訳ない気がする。

 それに毎日ゴーレムを操縦しているとゴーレム関係の魔法の適性も上がるかもしれない。この辺について知られている属性と同じように考えていいかはわからないが可能性はある気がする。

 それに私なら誰かが近づいてきた事が偵察魔法等でわかる。更に上からのアラウンドビューも使える。
 だから何かやむを得ない理由が出来るまでは私がやった方がいい。

「大丈夫。とりあえずは私がやる」
「無理はしないでね。あと眠かったら止めて休んでいいからね。急ぐ旅じゃないし」
「わかった」

 麦芽飲料をコップに入れ、脱水魔法で量を半分にする。思い付きで作った眠気覚まし用のドリンクだ。カフェインは多分入っていないけれども。
 それでも冷却魔法でキンキンに冷やして飲むと苦さと冷たさである程度眠気を追いやれる。

 何ならエナジードリンクでも作ろうかな。でもカフェインは何から抽出できるだろう。この国にはお茶の木もカカオの木も無さそうだが、何か他に代わりになる物があるだろうか。

 ◇◇◇

 天気が悪いからゴーレム車に乗りっぱなし。ただずっと乗って動いていると遅いなりにも結構進む。

 空はもうすぐ夕空。ピネトーという小さな村を過ぎて2時間半。旧道が新道に合流し、もう2離4km程度でパスカラというこの辺で一番大きな街に出る。そんな場所だった。

 いきなり私の偵察魔法が警報を発した。必死になって堪えていた眠気が一気に吹っ飛ぶ。

「リディナ、妙なのがいる。パスカラ側に半離1km先、右側の崖の上に中年の男2人が潜んでいる。高台だからリディナの監視魔法でも見える筈」

「見てみるね」

 嫌な感じがする。こっちから見えないように街道を見ているという事は、ひょっとして……

「盗賊ね。ステータスにも出ている。かなりタチが悪そう」

 そうか、ステータスを見ればいいのだ。今更ながら気づく。

 アコチェーノ滞在中は誰もが魔法属性があるか調べる為ステータスを見まくった。その反動で今は逆に他人のステータスを見ないようにしているのだ。やっぱり個人情報だし。

 しかしこういう場合はせめて称号や職業だけでも見た方がいいしそうするべきだろう。かつて私がリディナにはじめてあった時にそうしたように。

 ゴーレム車を操縦したまま偵察魔法で怪しい2人のステータスを確認する。

 間違いなく盗賊、それもかなりタチが悪い奴だ。職業が盗賊で、称号に殺人犯とか営利誘拐犯とか極悪非道とかがある。

「どうする?」
「出来れば倒した方がいいよね。あんなのがいるようだとこの辺の人全員が迷惑するし」

 対人戦は気乗りしない。粗暴な連中は生理的に苦手でもある。

 しかしリディナの言っている事は正しい。あんなのがその辺にいたら善良な皆様も生活に支障が出るだろう。迷惑くらいでは済まない可能性も高い。誘拐とか殺人なんて称号もあるし。

 悪徳商人とか悪辣な貴族とかのみ相手にする本物の義賊なんてものなら見逃してもいい。

 しかしああいう輩のほとんどはそんな粋な奴ではない。強い奴には逆らわずに弱い所から奪っていく腐った奴らだ。表立っていい顔している奴らほど。
 かつて被害者だった私は良く知っている。

 だから私がした決断も義務ではない。私個人の意思だ。
 かつてのいじめられっ子としてはそういう奴らは大嫌い。だから倒すぞという。江戸の敵を長崎で討つという奴だ。

 でも構わない。私は正義の味方ではないから。それに被害者がでなくなるなら悪い事ではない。やらない善よりやる偽善。ちょっと違うか。

「倒そう。どうしようか」
「ある程度ゴーレム車で行った方が向こうも近づきやすいと思う。歩きより得るものが多そうだし。このゴーレム車でも矢は防げるしね」

「火矢は流石に無理」
「物を奪う事を考えているなら火矢は使わないと思うよ。使っても私の水属性魔法で何とか出来るし。
 ただ盗賊の捕縛はフミノ頼りになっちゃうけれどいい? いざという時は私も風属性を使うけれど、あれを使うと生きたまま捕縛は無理だから」

 風の刃ヴェントス・ファルルムだけではない。リディナはつい最近風属性がレベル5になって新しい攻撃魔法も使えるようになった。風裂斬ヴェントス・レィジウムと言って風の力でみじん切りにする魔法。

 どっちを使っても盗賊の命はない。盗賊相手なら殺しても悪い称号や職業にはならないけれど。

「首から下を埋めるとかの措置でいい?」
「それが一番いいと思う。そうやって捕まえておいて、明日一番で街へ行って訴えれば」
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