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第24章 お別れ
第133話 推論
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「私が使用してきた今までのバグフィックス等の方法論では解決出来ない。そう知った私は解決方法を現実の世界に求めたの。関連・類推する情報をひたすら集めては解決に役立ちそうな内容を探して。
結果、何もわからなかった。少なくともこうなっている理由を説明出来る理論はなかった。
ならばということで考え方を変えてみた。どうなっているかという技術的なアプローチではなくて、どうしてこうなったのかという理由から考えるアプローチに。
私は探して、そして考えた。カリーナちゃんが此処に居る理由。ここに居なければならない、もしくは此処を去れない理由。去ることを拒んでいる理由。あるいは此処に残している未練をね」
カリーナちゃんが小さく頷いたように見えた。
ただ私にはわからない。
カリーナちゃんがそういった何かを持っていたようには感じなかった。
むしろ何もそういった事が無いまま、何も望まないまま、ただ静かに暮らしていたように私には見えた。
少なくともメリティイースの森にいた頃のカリーナちゃんは。
「ただその理由、目的、未練が何か、カリーナちゃんを観察してもわからなかった。いいえ、カリーナちゃん自身もわかっていないように見えた。
だから私はミヤちゃんを送り込んだの。この状況を変化させる起爆剤になる事を期待して。
その辺はミヤちゃん、ごめんね。意図を隠したまま何も話さなくて。確かに勉強になるというのは本当だしミヤちゃんがこの世界に慣れるのにもいいだろうと思ってもいた。
でも主な目的はカリーナちゃんの現在を変える事だったの。私はそのためにミヤちゃんを利用した。そこは怒ってくれても恨んで貰ってもかまわないわ。事実だから」
怒る、恨むか。
言われてもそんな感情は出てこない。
「それは無いです。カリーナちゃんと出会えて良かったと思っていますから」
たとえこの後、どんな結論が待っているとしても。
なんて事は勿論言わないし言えない。
私の心の何処かがそれを恐れている気がするから。
「ありがと。それじゃ続けるわね。
思った通りミヤちゃんはカリーナちゃんを連れ出してくれたわ。メリティイースの森の外へ、もう一度。
カリーナちゃんとミヤちゃんの相性は悪くなさそうだった。脳筋と言いつつミヤちゃん、繊細な心遣いが出来る人だったし。まあその辺を信じられそうだったからカリーナちゃんにつけたのだけれど。
そこでカリーナちゃんにこの世界での出来語を追体験して貰う為にミヤちゃん達をレベル40までアップさせるという目標を出した。更にこの函館もどきの街を作って準備した。カリーナちゃんがパイアキアン・オンラインでの事を充分に思い返せるようになる事を期待しながら」
『パイアキアン・オンラインでの事を充分に思い返せる』
カレンさんはそう言った。
どういう事を思い返せるのか、何となく今の私はわかる気がする。
「コリション干潟から帰ってきた辺りで確信したわ。ミヤちゃんをつけた目的はほぼ達成したって。もちろん私は人間じゃないから本当の事はわからない。でもカリーナちゃんの表情が昔に戻っていたように感じたから。
だから次、今度は現実を思い出して貰える場所へと送り込んだ。もうわかっていると思うけれどそれがここ、ハコダテよ。
予定ではもっと時間をかけるつもりだった。いえ、かかるつもりだった。ただカリーナちゃんの方が先に私の意図に気づいた。まあメアリーが気づいて動いたというのもあるけれどね。
さて、ここでカリーナちゃんにある意味残酷かもしれない質問をするわ。
カリーナちゃんは気づけたかしら。カリーナちゃんがここにとどまり続けていた理由?」
カリーナちゃんは頷いた。
「何か意味があって欲しかった。せめて楽しくあって欲しかった。それが私の未練で、ここにとどまらせている理由。
カレンさんはそう判断したんですね、きっと」
カレンさんは頷く。
「そうよ。それが私、運営管理統括AIにして独立した人格と思考を持ってこの世界を観察しているカレンの結論。
カリーナちゃんはどう判断したのかしら。私の推論が正しかったのか正しくなかったのか。もし答もしくは反証を見つけられたのならそれはどんな形なのかしら。
その答を私は知りたいわ?」
「わかりました」
カリーナちゃんは頷いた。
「私自身は私がどうやって此処にとどまっていたのかはわかりません。そして私自身が本当はどう思っていたのか、そしてパイアキアン・オンラインにとどまり続けていた原因がそうなのかもわかりません。
ただ以前メリティイースの森に引きこもっていた頃の私について、カレンさんが推論した事はきっとあっていると思います。
私には何も無かった。現実でも、パイアキアン・オンラインでも。不幸にも病気になって、その後も楽しい事も嬉しいこともなく、希望も何もないままただ死んでいく。何も無かった無駄な人生。そう思っていたのは確かです。
だからきっとこうも思っていたんだと思います。楽しいものであって欲しかった、そうでなくてもせめて意味があって欲しかったと」
「間違っても此処は糾弾の場ではない。辛かったら無理はするなよ」
「大丈夫です」
カリーナちゃんはそう言って、そして続ける。
「でも気づいたんです。
確かに今の病気になった事は不幸だとは思います。でも不幸だったばかりじゃありません。実際は楽しい事、嬉しい事もいっぱいあった。ただそれを忘れていただけだったと」
結果、何もわからなかった。少なくともこうなっている理由を説明出来る理論はなかった。
ならばということで考え方を変えてみた。どうなっているかという技術的なアプローチではなくて、どうしてこうなったのかという理由から考えるアプローチに。
私は探して、そして考えた。カリーナちゃんが此処に居る理由。ここに居なければならない、もしくは此処を去れない理由。去ることを拒んでいる理由。あるいは此処に残している未練をね」
カリーナちゃんが小さく頷いたように見えた。
ただ私にはわからない。
カリーナちゃんがそういった何かを持っていたようには感じなかった。
むしろ何もそういった事が無いまま、何も望まないまま、ただ静かに暮らしていたように私には見えた。
少なくともメリティイースの森にいた頃のカリーナちゃんは。
「ただその理由、目的、未練が何か、カリーナちゃんを観察してもわからなかった。いいえ、カリーナちゃん自身もわかっていないように見えた。
だから私はミヤちゃんを送り込んだの。この状況を変化させる起爆剤になる事を期待して。
その辺はミヤちゃん、ごめんね。意図を隠したまま何も話さなくて。確かに勉強になるというのは本当だしミヤちゃんがこの世界に慣れるのにもいいだろうと思ってもいた。
でも主な目的はカリーナちゃんの現在を変える事だったの。私はそのためにミヤちゃんを利用した。そこは怒ってくれても恨んで貰ってもかまわないわ。事実だから」
怒る、恨むか。
言われてもそんな感情は出てこない。
「それは無いです。カリーナちゃんと出会えて良かったと思っていますから」
たとえこの後、どんな結論が待っているとしても。
なんて事は勿論言わないし言えない。
私の心の何処かがそれを恐れている気がするから。
「ありがと。それじゃ続けるわね。
思った通りミヤちゃんはカリーナちゃんを連れ出してくれたわ。メリティイースの森の外へ、もう一度。
カリーナちゃんとミヤちゃんの相性は悪くなさそうだった。脳筋と言いつつミヤちゃん、繊細な心遣いが出来る人だったし。まあその辺を信じられそうだったからカリーナちゃんにつけたのだけれど。
そこでカリーナちゃんにこの世界での出来語を追体験して貰う為にミヤちゃん達をレベル40までアップさせるという目標を出した。更にこの函館もどきの街を作って準備した。カリーナちゃんがパイアキアン・オンラインでの事を充分に思い返せるようになる事を期待しながら」
『パイアキアン・オンラインでの事を充分に思い返せる』
カレンさんはそう言った。
どういう事を思い返せるのか、何となく今の私はわかる気がする。
「コリション干潟から帰ってきた辺りで確信したわ。ミヤちゃんをつけた目的はほぼ達成したって。もちろん私は人間じゃないから本当の事はわからない。でもカリーナちゃんの表情が昔に戻っていたように感じたから。
だから次、今度は現実を思い出して貰える場所へと送り込んだ。もうわかっていると思うけれどそれがここ、ハコダテよ。
予定ではもっと時間をかけるつもりだった。いえ、かかるつもりだった。ただカリーナちゃんの方が先に私の意図に気づいた。まあメアリーが気づいて動いたというのもあるけれどね。
さて、ここでカリーナちゃんにある意味残酷かもしれない質問をするわ。
カリーナちゃんは気づけたかしら。カリーナちゃんがここにとどまり続けていた理由?」
カリーナちゃんは頷いた。
「何か意味があって欲しかった。せめて楽しくあって欲しかった。それが私の未練で、ここにとどまらせている理由。
カレンさんはそう判断したんですね、きっと」
カレンさんは頷く。
「そうよ。それが私、運営管理統括AIにして独立した人格と思考を持ってこの世界を観察しているカレンの結論。
カリーナちゃんはどう判断したのかしら。私の推論が正しかったのか正しくなかったのか。もし答もしくは反証を見つけられたのならそれはどんな形なのかしら。
その答を私は知りたいわ?」
「わかりました」
カリーナちゃんは頷いた。
「私自身は私がどうやって此処にとどまっていたのかはわかりません。そして私自身が本当はどう思っていたのか、そしてパイアキアン・オンラインにとどまり続けていた原因がそうなのかもわかりません。
ただ以前メリティイースの森に引きこもっていた頃の私について、カレンさんが推論した事はきっとあっていると思います。
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だからきっとこうも思っていたんだと思います。楽しいものであって欲しかった、そうでなくてもせめて意味があって欲しかったと」
「間違っても此処は糾弾の場ではない。辛かったら無理はするなよ」
「大丈夫です」
カリーナちゃんはそう言って、そして続ける。
「でも気づいたんです。
確かに今の病気になった事は不幸だとは思います。でも不幸だったばかりじゃありません。実際は楽しい事、嬉しい事もいっぱいあった。ただそれを忘れていただけだったと」
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