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第24章 お別れ
第132話 構造
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「あとカレンさんに質問です。まず前提として、カレンさんの目的は規約に基づいて私のアカウントを消去する事ですよね」
「ええ、そうよ」
カレンさんは頷く。
いつもの表情に見えるからこそ感情が読めない。
「この函館マップは私の為に作ったんですよね」
「ええ。その通り」
「ならさっきメアリーさんが言ったように、これだけの手数を私に対してかけたのは何故なんでしょうか?」
これで話は振り出しに、そして本筋に戻ってきたわけか。
私の質問にカリーナちゃんが配慮してくれた結果かもしれない。
さっきの言葉でメアリーさんが此処へ来た理由がはっきりした。
だから次はカレンさんの理由の確認と詳細説明の順番だ。
そしてカリーナちゃんの質問はまだ続いている。
「この流れに何か、カレンさんからのメッセージを感じるような気がするんです。ただ規約に基づいてアカウントを消すためと言いながら何かを伝えようとしているように。
私の気のせいかもしれません。カレンさんの口から言えない事なのかもしれません。それでももし何かあるのなら、ヒントでもいいから教えて欲しいんです」
「そうねぇ」
カレンさんはそこで一呼吸おいてから話し始める。
「まず最初の前提から。普通はこの世界にいる状態で肉体が死を迎えると、プレイヤーキャラクターである分身の操作は自動停止するの。操作する人がいなくなるから当然よね。肉体的な死と脳の死は同時じゃないとかそもそも死の定義はとか細かい話は別として。
そうなると回線が切断されたとか強制リセットやログアウトをした時と同じような感じよ。命令が来なくなったから動かなくなる。戦闘中等そのまま動きが止まるとまずい場合は一時的に代行AIが動かしたりするけれど。
ただそうやって動いた代行AIは状況が終わったら動きを止めるように出来ているわ。代行AIに移行時、明示的に指示を受けていないから。
もし事前に指示を受けていたとしても、死亡や契約終了が確認されれば停止するように設定してある。
だから死んだ後に分身が自律的に動いているという事は、本来ならばありえないのよ。
ここまではいいかしら?」
カリーナちゃん、そして私は頷く。
「ええ。つまり私がこうして動いているのは普通ではない。そういう事ですね」
「そーゆーこと」
カレンさんは微妙にわざとらしいウィンクをして、そして続ける。
「だからカリーナちゃんのアカウントを普通に削除しようとしても出来ない可能性がある。そう運営管理統括としての私は判断した訳。
ならどうすればアカウントを削除出来るだろう。アカウント削除には何が必要なんだろう。
そのためにはカリーナちゃんが一見普通に動いている原因を突き止めなければならない。そうしないと今後も同じような事が発生するかもしれないから」
カレンさんは息継ぎをするかのように此処で一度言葉を停める。
此処までの考えというか動きには疑問はない。
私達の方をちらっと見た後、カレンさんは再び口を開く。
「カリーナちゃんの身体が死んでいる事は確認済み。没入治療槽から直接データとして受け取ったから間違いないわ。
それでもカリーナちゃんは以前と同じように見えたの。その頃はもうカリーナちゃん、森にこもっていたから私の代わりにモライティカ錬金術ギルドのセラに相乗りして観察していたんだけれどね。セラはNPCだからある程度私の意思で動かせるし感覚も共有できるから」
「それで納得しました。セラさんにどこかカレンさんを感じる事が多かったんです。ちょっとした仕草とか話し方とか」
カレンさんは微笑、あるいは苦笑とも取れる表情を浮かべた。
「気づかれていたのね。そんな感じはしていたけれど。
さて、カリーナちゃんの観察と平行して、運営管理統括としての私は原因究明の為に、カリーナちゃんの分身がどう操作されているかを確認しようとした。
ひょっとしたら何かのミスで代行AIが勝手に動いているだけではないか。観察した挙動は代行AIとは違う感じがしていたのだけれど。なんて事を思いつつね。
そうして分析しようとして、そして私は気づいたの。これは想像以上の事態だったという事に。運営管理統括AIでこの世界の最高権限を持っている私でも対処出来ない問題かもしれないって事に」
どういう事だろう。
カリーナちゃんもわからないようだ。
「カリーナちゃんの接続状況及び代行AIの稼働状況が確認出来なくなっていたのよ。CIツールからトレーサー、直接的な動的メモリダンプまで含め、ありとあらゆる方法を使ってみたのだけれど。
データを送ると正常な反応は返ってくる。ただ接続状況と代行AI動作状況がどうしても確認出来ない。エラーが帰ってくるだけ。
理論的にあり得ない事よ、勿論。でも実際に起きている以上認めるしかない。この時点でプログラム的、デバッグ的な方法では解決が不可能とわかった訳」
論理性の塊みたいなコンピュータプログラムの集合体なのにそんな不合理な事が起きるなんて。
まるで怪談だ、そう思って私は気づいた。
これは怪談そのものなのだ。
カリーナちゃんという死者が引き起こした。
※ CIツール
CI(Continuous Integration:継続的インテグレーション)ツール。日々の開発に必要な作業を自動化して安定した開発環境を継続していくためのもの
「ええ、そうよ」
カレンさんは頷く。
いつもの表情に見えるからこそ感情が読めない。
「この函館マップは私の為に作ったんですよね」
「ええ。その通り」
「ならさっきメアリーさんが言ったように、これだけの手数を私に対してかけたのは何故なんでしょうか?」
これで話は振り出しに、そして本筋に戻ってきたわけか。
私の質問にカリーナちゃんが配慮してくれた結果かもしれない。
さっきの言葉でメアリーさんが此処へ来た理由がはっきりした。
だから次はカレンさんの理由の確認と詳細説明の順番だ。
そしてカリーナちゃんの質問はまだ続いている。
「この流れに何か、カレンさんからのメッセージを感じるような気がするんです。ただ規約に基づいてアカウントを消すためと言いながら何かを伝えようとしているように。
私の気のせいかもしれません。カレンさんの口から言えない事なのかもしれません。それでももし何かあるのなら、ヒントでもいいから教えて欲しいんです」
「そうねぇ」
カレンさんはそこで一呼吸おいてから話し始める。
「まず最初の前提から。普通はこの世界にいる状態で肉体が死を迎えると、プレイヤーキャラクターである分身の操作は自動停止するの。操作する人がいなくなるから当然よね。肉体的な死と脳の死は同時じゃないとかそもそも死の定義はとか細かい話は別として。
そうなると回線が切断されたとか強制リセットやログアウトをした時と同じような感じよ。命令が来なくなったから動かなくなる。戦闘中等そのまま動きが止まるとまずい場合は一時的に代行AIが動かしたりするけれど。
ただそうやって動いた代行AIは状況が終わったら動きを止めるように出来ているわ。代行AIに移行時、明示的に指示を受けていないから。
もし事前に指示を受けていたとしても、死亡や契約終了が確認されれば停止するように設定してある。
だから死んだ後に分身が自律的に動いているという事は、本来ならばありえないのよ。
ここまではいいかしら?」
カリーナちゃん、そして私は頷く。
「ええ。つまり私がこうして動いているのは普通ではない。そういう事ですね」
「そーゆーこと」
カレンさんは微妙にわざとらしいウィンクをして、そして続ける。
「だからカリーナちゃんのアカウントを普通に削除しようとしても出来ない可能性がある。そう運営管理統括としての私は判断した訳。
ならどうすればアカウントを削除出来るだろう。アカウント削除には何が必要なんだろう。
そのためにはカリーナちゃんが一見普通に動いている原因を突き止めなければならない。そうしないと今後も同じような事が発生するかもしれないから」
カレンさんは息継ぎをするかのように此処で一度言葉を停める。
此処までの考えというか動きには疑問はない。
私達の方をちらっと見た後、カレンさんは再び口を開く。
「カリーナちゃんの身体が死んでいる事は確認済み。没入治療槽から直接データとして受け取ったから間違いないわ。
それでもカリーナちゃんは以前と同じように見えたの。その頃はもうカリーナちゃん、森にこもっていたから私の代わりにモライティカ錬金術ギルドのセラに相乗りして観察していたんだけれどね。セラはNPCだからある程度私の意思で動かせるし感覚も共有できるから」
「それで納得しました。セラさんにどこかカレンさんを感じる事が多かったんです。ちょっとした仕草とか話し方とか」
カレンさんは微笑、あるいは苦笑とも取れる表情を浮かべた。
「気づかれていたのね。そんな感じはしていたけれど。
さて、カリーナちゃんの観察と平行して、運営管理統括としての私は原因究明の為に、カリーナちゃんの分身がどう操作されているかを確認しようとした。
ひょっとしたら何かのミスで代行AIが勝手に動いているだけではないか。観察した挙動は代行AIとは違う感じがしていたのだけれど。なんて事を思いつつね。
そうして分析しようとして、そして私は気づいたの。これは想像以上の事態だったという事に。運営管理統括AIでこの世界の最高権限を持っている私でも対処出来ない問題かもしれないって事に」
どういう事だろう。
カリーナちゃんもわからないようだ。
「カリーナちゃんの接続状況及び代行AIの稼働状況が確認出来なくなっていたのよ。CIツールからトレーサー、直接的な動的メモリダンプまで含め、ありとあらゆる方法を使ってみたのだけれど。
データを送ると正常な反応は返ってくる。ただ接続状況と代行AI動作状況がどうしても確認出来ない。エラーが帰ってくるだけ。
理論的にあり得ない事よ、勿論。でも実際に起きている以上認めるしかない。この時点でプログラム的、デバッグ的な方法では解決が不可能とわかった訳」
論理性の塊みたいなコンピュータプログラムの集合体なのにそんな不合理な事が起きるなんて。
まるで怪談だ、そう思って私は気づいた。
これは怪談そのものなのだ。
カリーナちゃんという死者が引き起こした。
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