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第23章 終着点

第128話 待っていた人物

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「何が起きているのかわかりますか? 運営が何か企んでいるんですか?」

 ベータテストだと思っていたがそうではない。
 そして此処はタイムスタンプすら狂う、本来使われないはずの場所。
 そんな事が出来るのは運営くらいだろう。

「企んでいるというか、運営は本来業務をやっているだけだ。ただ企んでいるというのも正しい。ミヤさんは巻き込まれた形だ」

 巻き込まれたか。

「ならカリーナちゃんに何かあるんですか」

「ああ。ただ時間が惜しい。ミヤさんはできるだけ早くカリーナと合流してくれ。多分それは可能な筈だ。
 この件でミヤさんには・・・・・・直接的な不利益は出ない筈だ。だからそこは安心していい」

 何か変だ。理由はすぐにわかる。メアリーさん、明らかに言及を避けている事があるのだ。
 肝心な事を言っていない、聞いていない。言わないようにしている。

「言いたくない事情と言えない事情、どっちですか?」

 思い切ってずばり聞いてみた。

「両方だ。今はあくまで私の勘で動いている。その勘があっているかどうかわからないから詳細まで言えない。それでも手遅れにはしたくない。だから理由を言わないまま急かしている。
 もし私の勘があっているのなら運営のターゲットはカリーナだ。動いている理由は規約第10条。

 そっちのアドレスは掴めた。私もできるだけ速くそっちへ行く。しばらく連絡がとれなくなるけれど心配しないでくれ。
 ミヤはカリーナを探す事に専念。そこのマップから出ていない筈だし、そもそもそんなに広い範囲を作ってあるとも思えない。そっちの領域の大きさを考えるとコルフ島の半分程度までだろう。
 以上、あまり長い事接続かけていると運営にバレちまうから切る」

 ウィンドウが自動で閉じた。
 連絡終了という事のようだ。

 何なんだろう。言っている言葉はわかるけれど意味が繋がらない。
 運営にばれる、運営は本来業務をやっているだけ。運営のターゲットはカリーナちゃん。理由は規約第10条。

 それでも今は急ぐべき状況のようだ。
 だから移動しながら考えよう。

 私は今習った講習内容から地理についての知識を引っ張り出す。
 カリーナちゃんが行くと言っていたのは街の北側、キキョウ町やその先の山の方。
 そちらへ向かう最短経路はどうだろう。

 路面電車が走る道を自分の足でハコダテ駅まで行って、そこから汽車に乗ってキキョウ駅へ向かうのが最短らしい。
 路面電車よりは私の足のほうが速いけれど、私の足より汽車が速いし、ハコダテ駅からキキョウ駅は結構遠い。
 なおキキョウ町は駅の東側、結構広いエリアのようだ。

 ハコダテ駅へ向かって走りながら別Windowを出す。
 規約第10条を調べるためだ。
 すぐに規約の文面が出てきた。
 
『第10条(会員の解約)
 1 会員は当社所定の方法にて当社に届け出る事により、会員としての登録を解除し、解約することが出来るものとする。
 2 当社は以下の会員については、登録を解除し解約すること出来るものとする。
  ① 最終ログインから1年以上経過している会員
  ② 死亡が確認された会員
  ③ 当規約に違反する行為を行う等、他会員及びシステムに多大な損害を与えていると認められる会員』

 思ってもいなかった内容だった。
 このどこにカリーナちゃんがひっかかるのだろうか。

 まず①はありえない。
 病気で24時間ログインしっぱなしの筈だし。
 かと言って③はカリーナちゃんの性格的にありえない気がする。

 そして②、死んでいるというのはもっとありえない筈だ。
 つい今朝、カリーナちゃんと話をしたばかり。
 そして今のこの状況、此処ハコダテへ来る前から始まっているはずだから。

 第10条から離れ、状況を整理するために考える。
 今回の事態はいつ頃から起こったのかと。

 この場所は本当はベータテストではないらしい。
 ならベータテストの話そのものが運営が作った嘘なのだろう。
 カリーナちゃんをこの場所へ引き込む為の。 

 では何故この場所へ引き込んだのだろう。
 わざわざ函館、カリーナちゃんの出身を模した街まで作って。

 技術的にはこの街を作る事はそれほど難しくはないと思う。
 大学でもどこかのサークルが学内ほぼ全域を仮想モデリング化なんてしていたから。
 その気になれば航空写真やグーグル等のストリートビューデータ、国土地理院の電子地図を使って数日で出来るらしい。
 オンラインゲーム用に大型サーバを持っている会社ならそれほど難しくは無いだろう。

 しかし単に規約違反を退会させるだけならそんな事をする必要はない。
 32条違反の馬鹿どもに対処したように、その場であの武装天使っぽいのを出して連行すればいいだけ。

 わからない、けれど不穏な予感がする。
 いや私、本当にわからないのだろうか。
 わからないふりをしているだけではないのだろうか。

 そうだとしてもこの場にありそうな答えを具体的に表層思考に出す事が出来ない。
 理由は怖いからだ、多分。
 怖いまま、わからないまま、私は走る。

 一応信号は守るし交通事故には気をつけるけれど、ほぼ全開の速度で走り続ける。
 停留所に停まろうとしている路面電車を追い越し、信号待ちで車の前、交差点の先端に出て信号とともにダッシュかけて。

 路面電車の停留所にハコダテ駅前と書いてある。
 このさき左側、広くなっていそうなところが駅のようだ。
 運よく信号が青だったので交差点を一気に駆け抜け、見えた駅らしい建物へ一気に駆け込もうとした時。

「思ったより早かったわねぇ」

 知っている声がした。
 誰かはすぐにわかる。

 何も不思議なことはない。
 私やカリーナちゃんを此処へ誘ったのは彼女だったのだから。
 そして私、思わないようにしていただけで実際は想定済みだったのだろう。
 彼女が関わっている事に。
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