フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
126 / 139
第22章 昔いた街

第125話 メッセージの遅配?

しおりを挟む
 部屋はなかなか、いやかなりいい感じだ。
 寝室は大きいふかふかのベッドが2つ。
 更にテーブルとソファーがあるリビングか応接室という感じの部屋が寝室とは別に1つ。

 シャワーがある洗い場と浴槽がある風呂があって、そこから屋外の露天風呂に出ることが可能。
 露天風呂がある庭は勿論この部屋専用で、広いとは言えないがそれでも100㎡くらいある。
 高い板塀で囲まれているから覗かれる心配はない。

 更には簡単なキッチンもリビング端についている。
 買ってきたものを調理して食べるなんてことも出来るようだ。

「これで1泊1人1円、2千カルコスならすごく安いよね」

 パイアキアンこの ・オンラインせかい内では宿賃、いままで見た中での最高クラス。
 しかし2千カルコス現実そとの日本の物価水準にすると2万円くらいだろう。 
 ラッキー君を含めた2人と1匹で1泊2万円、しかも朝夕食付き。
 そう考えるとどう考えても安い気がする。

「そうなんですか」

「絶対。現実 そとならこの寝室部分だけで1泊1万円以上は余裕で取られると思う。部屋にこれだけきっちりお風呂がついていたらどれくらいだろ。泊まったことはないけれど4~5万はすると思う」

 そこまでお高いお宿なんて流石に縁がない。
 せいぜい旅行パンフでチラ見した位の経験値だ。 

「それじゃ早速露天風呂入ってみようか。カリーナはどうする?」

「少し此処の資料を読んでみようと思います。運営からの資料、かなり多いので」

 あ、確かにそれはやった方がいいだろう。
 カリーナちゃん任せにするだけではなく、私自身も。

 パイアキアン・オンラインこのせかいに来てから何かと他人に頼りっぱなしだ。
 特に途中からはカリーナちゃんにおんぶに抱っこ状態。 
 これからは少しは私自身も自分の知識で判断できるようにしておかないと。

 ただ、だからといって机やテーブルに向かう必要はない。

「なんならお風呂に入りながら読めば?」

 運営からの資料なら別Windowを開いて読むことになる。
 それなら風呂に浸かりながら読んでも問題は無い筈だ。

「そうですね。折角ですからそうしましょうか。2人で入っても充分な広さはありそうですし」

 プラス、ラッキーくんが入っても問題はなさそうだ。
 浴槽だけで現実そと のうちの風呂場全体より広そうだし。

 それではお風呂だ。
 部屋の隅、風呂の手前で服を脱ぐというよりそのままアイテムボックスに放り込む形で脱衣。

 鏡に映った自分の姿を見ると、少しばかり成長具合が悲しくなったりする。
 もちろん外見年齢中学生のエルフだから現実そとの自分と全く見た目は違う。
 しかし悲しいかな微妙に共通な部分があったりもするのだ。
 具体的にはどこぞの成長具合とかボリュームとかが足りないところ。

 本当に中学生なら今後の成長に期待してもいい。
 しかし22歳女子はもう成長への期待なんて持ち得ないのだ。
 いいんだいいんだ、どうせその辺が必要な相手もいないし大きいと重くて肩がこるらしいから。
 なんてしょうもない問答を頭の中で展開しつつ、お風呂場へ。

 さて、現実そとなら湯船につかるのは身体を洗ってからが鉄則。
 それはこういった専用風呂でも同じだ。
 垢が浮いたり浴槽についたら悲しいから。 

 しかしパイアキアン・オンライン ここには魔法がある。
 だから清浄魔法をかけて、あと邪魔にならないよう髪をまとめてタオルでガードすれば準備OK.

 一応ということでシャワーで全身を流した後、内湯の浴槽を飛ばして外の露天風呂へ。
 すぐそこまで太陽の光が届いていて空が青い中、裸というのはちょっとばかり背徳的な気分。
 別に変なことをするわけではないのだけれど。
 
 手でお湯の温度を確認、うん、これくらいぬるめなほうが長湯ができてよろしい。
 それではということで檜かなにかわからないけれど木の香りがする浴槽へ。
 お湯が溢れるのもまた贅沢だなんて思いながら入って、中で思い切り足というか全身を伸ばす。

「そっちへ行っていいですか」

 カリーナちゃんの声。

「勿論、浴槽広いし大丈夫。こっちのほうが中より蒸さないし気持ちいいと思うよ」

「それじゃおじゃまします」

 うん、カリーナちゃんはやっぱり美少女だ。
 胸がないところも好感が持てる、なんてちょっと私情が入ってしまった。

 そしてカリーナちゃんだけでなくラッキー君も一緒に露天風呂コーナーへと出てくる。
 入られると中で毛が浮きそうなので、清浄魔法を少し魔力多めにしてかけておいた。

 更にラッキーくんが飛び込んだ時、波が顔にかからないよう対策。
 具体的には身体を少し起こして顔の位置を上げておく。
 若干リラックス具合が減るけれど仕方ない。

「失礼します」

 カリーナちゃんが入ってきた。
 お湯がこぼれるけれど、それもまた風情。
 自分の家ではないので勿体ないと思わなくていい。

 ラッキーくんは温泉より庭の方に興味があるようだ。 
 この庭は露天風呂が主役で、それ以外は端のほうに笹がちょっと植わっているだけ。
 ほかは木の塀で囲われていて、地面は玉砂利だ。
 その玉砂利をジャリジャリ鳴らしつつ、端に沿ってくんくん匂いをかぎながら歩いている。

「縄張りの確認でしょか?」

「かもね。家でも帰ってきたら一通り匂いを確認するし。それにこのお湯、人間にはぬるめで長湯にちょうどいいけれど、わんこにはきっと熱すぎるから」

 さて、ラッキーくんに邪魔されないならちょうどいい。
 運営のメールにあった資料のページを読み込んでおこう。
 そう思った時、メッセージが届いたとの通知が表示された。

 差出人はメアリーさんだ。
 開いて中をさっと確認する。
 この前の動画、Webで公開を開始したという内容だ。

「メアリーさんからメッセージがきました。Webページにエキンム戦の動画を解説付きで載せたそうです」

 カリーナちゃんにもメッセージが届いたようだ。

「こっちにも来た。動画、見た?」

「これから見てみます。ただ……」

 ただ、何だろう。

「どうかした?」

「メッセージのタイムスタンプが狂っている気がします」

 カリーナちゃんに言われて確認。
 メッセージのタイムスタンプは3月9日18時08分となっている。
 何がおかしいのだろう、そう思ってそして気づいた。

「船の中では4月1日と言っていたよね、システムの表示で」

「そうです。3月9日は私達がケルキラを出港した日です。メアリーが出したのが3月9日だとしたら、このメッセージはもっと早く、船中かせめて港についた直後くらいに受け取っていないとおかしいです」

 うーん、確かにそうだ。

「テストマップだから受信処理に時間がかかるのかな」

「そういう事はないと思いますが……一応運営に連絡しておきます。こういう現象があったと。
 あとメアリーにもメッセージを出しておきます。諸事情で返信が遅くなってもうしわけないと」


※ 参考
  3月4日 オブクラリス討伐
  3月5日 80~85話まで
  3月6日 86~101話
  3月7日 102~115話
  3月8日 116~117話
  3月9日 118話(ケルキラ港出発)
 となっています。勿論パイアキアン・オンラインこの世界の暦の月日です。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】バグった俺と、依存的な引きこもり少女。 ~幼馴染は俺以外のセカイを知りたがらない~

山須ぶじん
SF
 異性に関心はありながらも初恋がまだという高校二年生の少年、赤土正人(あかつちまさと)。  彼は毎日放課後に、一つ年下の引きこもりな幼馴染、伊武翠華(いぶすいか)という名の少女の家に通っていた。毎日訪れた正人のニオイを、密着し顔を埋めてくんくん嗅ぐという変わったクセのある女の子である。  そんな彼女は中学時代イジメを受けて引きこもりになり、さらには両親にも見捨てられて、今や正人だけが世界のすべて。彼に見捨てられないためなら、「なんでもする」と言ってしまうほどだった。  ある日、正人は来栖(くるす)という名のクラスメイトの女子に、愛の告白をされる。しかし告白するだけして彼女は逃げるように去ってしまい、正人は仕方なく返事を明日にしようと思うのだった。  だが翌日――。来栖は姿を消してしまう。しかも誰も彼女のことを覚えていないのだ。  それはまるで、最初から存在しなかったかのように――。 ※第18回講談社ラノベ文庫新人賞の第2次選考通過、最終選考落選作品。 ※『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しています。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...