フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

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第22章 昔いた街

第124話 気分は観光旅行?

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 現実では回転寿司屋にペットなんて、絶対に駄目だろう。
 しかしここでは大型犬サイズのラッキー君も文句を言われない。

「こちらへどうぞ」

 まだ時間が早いのか店内は空いている。
 だからか4人用のテーブル席へと案内された。

「それではこちらがメニュー兼注文用の魔法石版タブレットになります」

「わかりました」

 回転寿司なのだが現在はベルトが撤去されている。
 魔法石版タブレットによる注文で持ってきてくれるタイプになっているようだ。
 店員さんが行った後、カリーナちゃんと話す。

「この魔法石版タブレット、画面も操作体系も現実そと のタブレットそのものだよね」

「外装に石や木材を使っているだけのようです。理屈や世界観より利便性を重視したんだと思います」

仮想この世界ならではの利便性ってところかな。それじゃ注文しようか」

「ええ。何にしましょうか」

 ここはやっぱり北海道らしいもので行くべきか。
 いや、素直に食べたいもの中心にしよう。

「まずはお互い食べたい物5皿くらい注文して、それからにしようか」

「そうですね。それでは私から注文していいですか」

「勿論。私の方はすぐに決まりそうにないし」 
  
 正直結構目移りしている。
 マグロのいいのは頼みたいし、炙りしめ鯖なんてのもそそられるし、毛ガニのほぐし身軍艦なんてのも……
 なので魔法石版タブレットをカリーナちゃんに渡し、反対側から注文を眺めている。

 カリーナちゃんはささっと操作して、
  ○ 生サーモン
  ○ 帆立貝
  ○ まぐろ
  ○ いか
  ○ 甘エビ
と注文した。
 どれもなかなか美味しそうだ。

「カリーナの注文したのを1カンもらっていい?」

「勿論です。その方が種類を多く頼めます」

 なら遠慮なくそうしよう。
 とすると私が選ぶべきは、カリーナちゃんが頼まなかったもの。
 炙りしめ鯖、毛ガニほぐし身軍艦、生ウニ、ニシン三升漬、タラ昆布締め……
 そうだ、あとは。

「寿司5皿の他に汁物とかも注文していい?」

「あ、そうですね。私は岩のりの味噌汁を頼みます」

 ◇◇◇

「ちょっと討伐場所を確認という感じではなくなってしまいました。少し早いですけれど宿へ向かいましょうか」

 感じではなくなった、という原因の9割は私だ。

「ごめん。頼みすぎた」

 以前カレンさんに連れて行って貰ったケルキラの寿司屋は確かに美味しかった。
 しかしここはここで悪くない、というか充分に美味しい。
 その結果、思い切りよく食欲を優先させてしまったのだ。

 お皿にして40枚分以上をしっかり頼んだし、その7割位は間違いなく私。
 ラッキーくんにもおこぼれを数皿分やってはいるけれど。

 それでも忘れずに道の反対側の店で鶏の半身揚げを購入。
 そしてもと来た道の方へ。

「直接歩くと4kmちょっとありますし、路面電車を使いましょう」

「最寄りはさっきの駅?」

「ええ。あまり近くはないですけれど」

 先程と同じ道をこんどは逆に辿っていく。
 やはり塀がなくて屋根が違って窓が小さめ。
 わかって見てみると結構違和感を覚えるつくりだなと思いつつ歩いていき、市場へ行く際に降りた路面電車の停留所へ。
 すぐ来た路面電車に乗って、ギルドや港とは反対方向へ向かう。

「この辺の町並みは実物よりこの世界の背景に合わせてある感じです」

 路面電車が大きく右へと曲がったあたりでカリーナちゃんがそんなことを言った。

「そうなの?」

 見た感じは商業ギルドがあった付近と同じ感じ。
 3階建ての石造りや煉瓦造り、あるは疑洋風の木造の建物が並んでいる。

「ええ。この辺は普通に鉄筋のビルや高いマンションがありますから」

「栄えている街なんだ」

「函館の中では、ですけれど」

 ただ少し動くとすぐに周囲は2階建てくらいの建物が中心となる。たまに3階建てくらいの建物。そしてほとんどが住宅か住宅兼用の店という感じだ。
 建物の様式は和風と擬洋風が3対1という感じ。
 きっと建物の規模や用途は現実そとに準拠して、様式は時代背景というか雰囲気にあわせているのだろう。

 終点のひとつ手前、『湯の川温泉』  で降りて川沿いを数分歩く。
 5分程度歩いたところで、目的地の宿についた。
 看板が出ているので間違いない。

 外観は和風で白い土壁と黒塗りの木材、武家屋敷なんかで見たようなつくり。
 瓦も他の家とは違い陶製の瓦だ。
 瓦の形そのものは少し違う気がしないでもないけれど。

「ちょっと入りにくいですね。こういう場所は慣れていません」

「大丈夫だよ。ギルドで貰った案内に書いてあるくらいだし」

 カリーナちゃんだけじゃない、私だって入りにくい。
 しかもラッキーくんまで一緒だし。
 ただドレスコード等があるならギルドの案内にも書いてあるだろう。
 だからここは堂々と胸を張って。

「行こうか」

 私先頭で中へ。
 一応全員の服その他に清浄魔法をかけ、いつも通りを意識しながら宿の入口へ。

「いらっしゃいませ」

 ここで怯んではいけない。

「本日から3泊したいです。予約はとっていませんけれど大丈夫でしょうか」

「ええ。ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」

 その言葉にほっと一息。
 案内されるままフロント前に幾つかある応接セットへ。

「お客様は2名と従魔1体で宜しいでしょうか」

「ええ」

「本日から3泊となりますと、空いているお部屋とプランはこちらとなります。部屋代がそれぞれこちらで、朝食と夕食がこちらとなります」

 部屋と食事をそれぞれ選んでプランが決まるらしい。
 そうお高くない部屋もある。
 しかし此処はやっぱり……

「カリーナ、これとこれのプランでいい?」

 やはり此処へ来たからには露天風呂がついた部屋だろう。
 料理もそれなりに楽しめるもので。

 ただ部屋はそこまで広くなくてもいいし、料理も珍しいけれど美味しさ的にはいまいちなものはいらない。
 そうなると部屋は7種類あるうち高い方から3番め、料理もやはり7種類あるうちの3番めとなる。

「ええ、それがいいと思います」

 ラッキー君も頷いた。
 きっとわかってはいないだろうけれど。

「ならこれで3泊お願いします。支払いは先払いでいいですか?」

「ええ、そうしていただけると助かります」

 合計で3円、つまりギルドの案内に出ていた『1部屋2人で1泊1円』と同じ。
 手持ちのお金の半分以上を使ってしまうけれど、何なら明日以降に商業ギルドで預金から下ろせばいい。

 仮想この世界では私達はそこそこ金持ちなのだ。
 問題は全くない。
 強いて言えば3円だと支払いに若干細かいお金を使ってしまう点くらい。
 2円は50銭銀貨4枚で払えるけれど、残り1円は10銭銀貨10枚になってしまうから。

 高い金額の硬貨も持っておくべきだったかな。
 少しだけ後悔。
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