フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

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第22章 昔いた街

第123話 お昼を食べに行く道で

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 カリーナちゃんが案内してくれた市場はなんというか、昔懐かしい昭和の庶民の商店街&屋根付き市場という感じだった。
 外周部は寂れた田舎の街のアーケードも何もない元商店街の外れという感じ。
 建て直して店ではなくなった家とか、昔は店だったという感じの建物とか、空地になっている区画とか。

 しかし屋根付きの市場とかその周辺はまだまだ生きている感じ。
 店頭に品物と手書きの値札を並べて売っているという昔ながらのスタイルの店がそこそこ並んでいるし、人もいる。

「わざとレトロかつ庶民的に作っているのかな。寂れた感じを含めて」

「令和○○年の函館でも此処はこんな場所です。ただ活気は現実そとよりこっちの方があると思います」

「建物とかもこんな感じ?」

「そうです。その辺のボロさは現物そのままだと思います。うろ覚えですけれど」

 市場というとすぐ思いつくような魚や野菜等だけでなく、惣菜だのも売っているし、薬局だの理髪店なんてのまである。
 いわゆる昭和を詰め込んだ感じだ。
 リアルタイムでは私、昭和どころか平成も知らないのだけれど。

 ケルキラには無かった日本風の食材、カニだのタラコだのかまぼこ、更には豚肉だけれど焼き鳥、豆腐や豆腐コロッケなんてものまで購入してアイテムボックスへ。

「こういう食べ物って懐かしいよね。ケルキラには無かったし」

「そうですね。ものすごく久しぶりで食べるのが楽しみです。そう言えばお昼ですけれど何か食べたいものってありますか?」

 食べたいものか。
 個人的にはせっかく北海道に来たのだから寿司とか海鮮とかを食べたいところだ。
 冒険者ギルドでもらった案内図にもおすすめの店が幾つか載っている。

 でもカリーナちゃん、何か食べに行きたいものがあるように感じる。
 だからここはカリーナちゃんに聞いてみよう。

「おすすめってある?」

 カリーナちゃんは少し考えるような素振りをした後、冒険者ギルドで貰った案内図を見て、そして小さく頷いてから口を開く。

「せっかく函館に来たので最初はお寿司はどうでしょうか」

 まさにそう思っていたのでありがたい。 

「いいね。たしかに海鮮、美味しそうだし」

「観光目線で見ればきっと駅前の市場で海鮮丼とかが一般的です。でも今日は特別ではないものを多種類食べてみたいので回転寿司ではどうでしょう」

「もちろん。その方が絶対楽しい気がする」

「ならちょっと此処から歩きますけれどいいですか。早足で10分ちょいだと思います」

 全く問題はない。

「勿論。ケルキラでは普通にそのくらいは歩いていたし」

「そうですね。なら行きましょうか」

 路面電車の通りを渡って南方向へ歩いていく。
 この辺はなんというか普通の住宅地だ。
 ただ私にとっておなじみの東京近郊に比べると何処か違う感じがする。
 少し歩いてみて、そして気づいた。

「この辺の家って塀が無いんだね」

「雪かきの時に不便だからと聞いたことがあります。あと除雪車が通ると壊れるからとか。
 あと屋根も日本家屋っぽい陶器の瓦が少ないって聞きました」

 言われて改めて見て確認してみる。

「本当だ。トタン屋根か、陶製じゃない薄い瓦」

「実は他の地域がどうなのかはよく知らないんです。小学校でそう習っただけですから。それにこの辺は元お店っぽい建物が多いので、完全な住宅地とはまた少し違うかもしれません」

 確かに普通の戸建よりもう少し大きな箱型の建物が多い。
 玄関というか出入口の開口部が大きく、元は店だったような建物も。

「街の中心が移ったのかな」

「函館自体の人口が減っているんです。日本全体の人口減少以上の速さで。毎年三千人以上減っていると聞いています。結果、お店なんかも廃業してただの住宅になったりしているんです。
 目立った産業は観光以外何もないから仕方ないです。大学に行くならどうせ出ていくし、そうしたら仕事がないから戻らないだろう。小学校5年の時点でそう思っていました。
 まさかこんな形で戻れなくなるとは思いませんでしたけれど」

 まずい話題になっただろうか。
 何気なさを装いつつカリーナちゃんの様子を伺う。
 カリーナちゃんの様子はいつもと変わらない。

 いや、ケルキラにいた頃とは少し違うような気がする。
 しかし危険な感じ、心配しなければならない様子はない。
 少なくとも現在、私の感じる限りでは。

 大通りに出た。
 向かい側にあるチェーン店風の食堂の駐車場の先に海が見える。
 でも海が気になるけれど、実は今いる交差点のすぐ横の店も気になる。

 鶏屋さんらしいメニューが出ている。
 しかし店内で食べるメニューよりもテイクアウトの方がひかれる。
 具体的には……

「今は回転寿司の気分だけれど、後でこの半身揚げのテイクアウトも買っていい?」

「ええ。小樽の有名店の支店でわりと評判はいいみたいです。勿論現実そとでの話ですけれど」

「 現実そとのこの場所にもこのお店があるんだ」

「確か……ええ、今もあるみたいです」

 どうやらネットを検索して調べた模様。
 さて、目的地らしい回転寿司店は交差点のすぐ先に見える。
 念のため確認しておこう。

「その回転寿司店だよね、目的地」

「ええ。お店が大きくて景色も良くて、駅前の市場より安いです。現実そとでは最寄り駅が無いから車で来るしかないのですけれど」
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