123 / 139
第22章 昔いた街
第122話 昔住んでいた街
しおりを挟む
「まずは市場を見てみましょう」
さっきギルドまで上ってきた坂を今度は下りて、そして路面電車の駅へ。
全体は赤色、窓付近がクリーム色で窓枠が木製のいかにも古い形の電車が近づいてくるのが見える。
「あれに乗るの?」
「ええ、街の中心はここから少し離れていますから」
いつもならそれくらい歩くか走るところだ。
カリーナちゃん、他人がいる閉じた空間にいるのは得意ではなかった筈だから。
どうにも此処ハコダテへ来てからカリーナちゃんの様子、ちょっとおかしい。
理由は一応想像つく。
きっとカリーナちゃん、現実の函館を知っている。
ひょっとしたら住んでいたのかもしれない位に。
だから現実にいた頃の記憶だの思いだのをどうしても感じてしまうのだろう。
なおかつ現実にいた記憶を元に動いてしまうのだろう。
その結果がきっと、私からみておかしいと感じる挙動。
やってきた電車はいかにも昔のといった雰囲気だった。
後部にある開けっぱなしの扉から中へ。
壁も床も天井も木造で、通勤電車等と同様進行方向に長い横向きシートは赤色モケット。
造りはいかにも昔という感じだが木材もシートも物そのものは新しい感じだ。
新製したレトロ車両というところだろうか。
中には他に3人連れの客が1組いただけ。
座ると同時にやってきた車掌にカリーナちゃんは慣れた感じで告げる。
「ホリカワタウンまで2枚」
「わかりました。合計で2銭になります」
カリーナちゃんが支払って、そして券を私に渡してくれる。
「ありがとう」
「いいえ。ここは慣れていますから」
カリーナちゃんがなにか言おうとしているのを感じた。
だからあえて問い返さずに頷くだけにする。
「もうミヤさん、気づいていますよね」
カリーナちゃんがそう言ってきた。
ここはごまかさないほうがいいだろう。
「カリーナがこの街を知っているだろうという事?」
「ええ、そうです」
カリーナちゃんは頷いて、そして続ける。
「私が仮想世界に来る前にいたのが函館です。身体の方は今でも市内の病院にいる筈です。
勿論ここの街は現実とは違います。それでも 現実に実在する街を参考に作っているせいか、地理はほぼ同じですしやっぱりあの街を感じるんです。
この電車もそうです。レトロ車両としてほぼ同じものが私の知っている現実でも走っています。というよりこちらが現実の実物を真似て作ったのでしょうけれど」
やっぱりそうなのか、なら……
「何なら別の街に行こうか。テストプレイを終わらせてもいいし」
「いえ、大丈夫です。というか、なにかもう少し見て回りたい気がします。私自身は今までこの街を嫌っていたと思っていました。でも実際にこうやって感じてみるとそうでもない気がします。なにか妙な気分です」
ならいいけれど……
「無理はしなくていいから。特にテストプレイで何をしろとかも言われていないし」
私としてはこれくらいしか言えない。
「大丈夫です。それに知っている場所とリンクしているから、むしろ今は便利です。これから行く市場も現実では知っている場所ですから」
何か不安に感じる。
根拠はあまり無いけれど。
しかしカリーナちゃんにそう思わせたらまずい気がする。
だから今回はカリーナちゃんの今の言葉にあわせておこう。
「わかった。それでこれから行く市場って有名な場所なの? 観光ガイドには駅の近くに市場があるような事が書いてあったような記憶があるけれど」
北海道全体の観光ガイドを見た時にそんな事が書いてあったような覚えがある。
函館には行く予定がなかったのでちらっとしか覚えていないけれど。
「函館駅の横にある朝市は観光客向けです。地元で毎日使うにはちょっとお高いですから。
これから行くところは三大市場の中でいちばん昔の市場っぽいところです。大人に言わせると昔に比べれば大分活気が無くなったという事ですけれど」
「わかった。それじゃ楽しみにしているから」
右も左もわからないのでカリーナちゃん頼みだ。
勿論運営からもらった資料を読めばある程度のことはわかる。
しかし今はカリーナちゃん任せで歩いてみようと思う。
カリーナちゃんの目線でどう感じるのか、私自身も感じてみたいから。
実のところいつも下調べなくカリーナちゃんに任せっぱなしだったりもするけれど。
別に昔からそうだった訳では無い。
むしろ出かける際等は自分から徹底して下調べをする方だった。
何事も人任せに出来ず、全部自分で調べて納得出来ないと動けない性格だったような気すらする。
こうやって人任せにして流れているのはパイアキアン・オンライン に来てから。
何も知らない、常識さえもいまいち自信がない世界にきて、私自身も心理的に衰弱していた。
そんな状況で頼れる人・頼って良さそうな人が次々出てきてくれた。
援助妖精のシルラちゃん、カレンさん、そしてカリーナちゃん。
結果そのまま流された感じだ。
今みたいにある程度人任せにも出来る私だったら、現実 でも上手く折り合いをつけていられただろうか。
パイアキアン・オンラインに逃げ込まずに。
相談できる相手がいなかった訳では無い。
学校の担当教官だった教授は親身になって心配してくれたし、弁護士だって商売とは言え色々アドバイスをしてくれた。
しかし私にはそんな味方はほとんど見えなかった。
むしろ敵ばかり多く感じた。
だから結局、耐えられなくて現実から逃避した。
この仮想世界に。
さっきギルドまで上ってきた坂を今度は下りて、そして路面電車の駅へ。
全体は赤色、窓付近がクリーム色で窓枠が木製のいかにも古い形の電車が近づいてくるのが見える。
「あれに乗るの?」
「ええ、街の中心はここから少し離れていますから」
いつもならそれくらい歩くか走るところだ。
カリーナちゃん、他人がいる閉じた空間にいるのは得意ではなかった筈だから。
どうにも此処ハコダテへ来てからカリーナちゃんの様子、ちょっとおかしい。
理由は一応想像つく。
きっとカリーナちゃん、現実の函館を知っている。
ひょっとしたら住んでいたのかもしれない位に。
だから現実にいた頃の記憶だの思いだのをどうしても感じてしまうのだろう。
なおかつ現実にいた記憶を元に動いてしまうのだろう。
その結果がきっと、私からみておかしいと感じる挙動。
やってきた電車はいかにも昔のといった雰囲気だった。
後部にある開けっぱなしの扉から中へ。
壁も床も天井も木造で、通勤電車等と同様進行方向に長い横向きシートは赤色モケット。
造りはいかにも昔という感じだが木材もシートも物そのものは新しい感じだ。
新製したレトロ車両というところだろうか。
中には他に3人連れの客が1組いただけ。
座ると同時にやってきた車掌にカリーナちゃんは慣れた感じで告げる。
「ホリカワタウンまで2枚」
「わかりました。合計で2銭になります」
カリーナちゃんが支払って、そして券を私に渡してくれる。
「ありがとう」
「いいえ。ここは慣れていますから」
カリーナちゃんがなにか言おうとしているのを感じた。
だからあえて問い返さずに頷くだけにする。
「もうミヤさん、気づいていますよね」
カリーナちゃんがそう言ってきた。
ここはごまかさないほうがいいだろう。
「カリーナがこの街を知っているだろうという事?」
「ええ、そうです」
カリーナちゃんは頷いて、そして続ける。
「私が仮想世界に来る前にいたのが函館です。身体の方は今でも市内の病院にいる筈です。
勿論ここの街は現実とは違います。それでも 現実に実在する街を参考に作っているせいか、地理はほぼ同じですしやっぱりあの街を感じるんです。
この電車もそうです。レトロ車両としてほぼ同じものが私の知っている現実でも走っています。というよりこちらが現実の実物を真似て作ったのでしょうけれど」
やっぱりそうなのか、なら……
「何なら別の街に行こうか。テストプレイを終わらせてもいいし」
「いえ、大丈夫です。というか、なにかもう少し見て回りたい気がします。私自身は今までこの街を嫌っていたと思っていました。でも実際にこうやって感じてみるとそうでもない気がします。なにか妙な気分です」
ならいいけれど……
「無理はしなくていいから。特にテストプレイで何をしろとかも言われていないし」
私としてはこれくらいしか言えない。
「大丈夫です。それに知っている場所とリンクしているから、むしろ今は便利です。これから行く市場も現実では知っている場所ですから」
何か不安に感じる。
根拠はあまり無いけれど。
しかしカリーナちゃんにそう思わせたらまずい気がする。
だから今回はカリーナちゃんの今の言葉にあわせておこう。
「わかった。それでこれから行く市場って有名な場所なの? 観光ガイドには駅の近くに市場があるような事が書いてあったような記憶があるけれど」
北海道全体の観光ガイドを見た時にそんな事が書いてあったような覚えがある。
函館には行く予定がなかったのでちらっとしか覚えていないけれど。
「函館駅の横にある朝市は観光客向けです。地元で毎日使うにはちょっとお高いですから。
これから行くところは三大市場の中でいちばん昔の市場っぽいところです。大人に言わせると昔に比べれば大分活気が無くなったという事ですけれど」
「わかった。それじゃ楽しみにしているから」
右も左もわからないのでカリーナちゃん頼みだ。
勿論運営からもらった資料を読めばある程度のことはわかる。
しかし今はカリーナちゃん任せで歩いてみようと思う。
カリーナちゃんの目線でどう感じるのか、私自身も感じてみたいから。
実のところいつも下調べなくカリーナちゃんに任せっぱなしだったりもするけれど。
別に昔からそうだった訳では無い。
むしろ出かける際等は自分から徹底して下調べをする方だった。
何事も人任せに出来ず、全部自分で調べて納得出来ないと動けない性格だったような気すらする。
こうやって人任せにして流れているのはパイアキアン・オンライン に来てから。
何も知らない、常識さえもいまいち自信がない世界にきて、私自身も心理的に衰弱していた。
そんな状況で頼れる人・頼って良さそうな人が次々出てきてくれた。
援助妖精のシルラちゃん、カレンさん、そしてカリーナちゃん。
結果そのまま流された感じだ。
今みたいにある程度人任せにも出来る私だったら、現実 でも上手く折り合いをつけていられただろうか。
パイアキアン・オンラインに逃げ込まずに。
相談できる相手がいなかった訳では無い。
学校の担当教官だった教授は親身になって心配してくれたし、弁護士だって商売とは言え色々アドバイスをしてくれた。
しかし私にはそんな味方はほとんど見えなかった。
むしろ敵ばかり多く感じた。
だから結局、耐えられなくて現実から逃避した。
この仮想世界に。
19
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる