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第22章 昔いた街
第122話 昔住んでいた街
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「まずは市場を見てみましょう」
さっきギルドまで上ってきた坂を今度は下りて、そして路面電車の駅へ。
全体は赤色、窓付近がクリーム色で窓枠が木製のいかにも古い形の電車が近づいてくるのが見える。
「あれに乗るの?」
「ええ、街の中心はここから少し離れていますから」
いつもならそれくらい歩くか走るところだ。
カリーナちゃん、他人がいる閉じた空間にいるのは得意ではなかった筈だから。
どうにも此処ハコダテへ来てからカリーナちゃんの様子、ちょっとおかしい。
理由は一応想像つく。
きっとカリーナちゃん、現実の函館を知っている。
ひょっとしたら住んでいたのかもしれない位に。
だから現実にいた頃の記憶だの思いだのをどうしても感じてしまうのだろう。
なおかつ現実にいた記憶を元に動いてしまうのだろう。
その結果がきっと、私からみておかしいと感じる挙動。
やってきた電車はいかにも昔のといった雰囲気だった。
後部にある開けっぱなしの扉から中へ。
壁も床も天井も木造で、通勤電車等と同様進行方向に長い横向きシートは赤色モケット。
造りはいかにも昔という感じだが木材もシートも物そのものは新しい感じだ。
新製したレトロ車両というところだろうか。
中には他に3人連れの客が1組いただけ。
座ると同時にやってきた車掌にカリーナちゃんは慣れた感じで告げる。
「ホリカワタウンまで2枚」
「わかりました。合計で2銭になります」
カリーナちゃんが支払って、そして券を私に渡してくれる。
「ありがとう」
「いいえ。ここは慣れていますから」
カリーナちゃんがなにか言おうとしているのを感じた。
だからあえて問い返さずに頷くだけにする。
「もうミヤさん、気づいていますよね」
カリーナちゃんがそう言ってきた。
ここはごまかさないほうがいいだろう。
「カリーナがこの街を知っているだろうという事?」
「ええ、そうです」
カリーナちゃんは頷いて、そして続ける。
「私が仮想世界に来る前にいたのが函館です。身体の方は今でも市内の病院にいる筈です。
勿論ここの街は現実とは違います。それでも 現実に実在する街を参考に作っているせいか、地理はほぼ同じですしやっぱりあの街を感じるんです。
この電車もそうです。レトロ車両としてほぼ同じものが私の知っている現実でも走っています。というよりこちらが現実の実物を真似て作ったのでしょうけれど」
やっぱりそうなのか、なら……
「何なら別の街に行こうか。テストプレイを終わらせてもいいし」
「いえ、大丈夫です。というか、なにかもう少し見て回りたい気がします。私自身は今までこの街を嫌っていたと思っていました。でも実際にこうやって感じてみるとそうでもない気がします。なにか妙な気分です」
ならいいけれど……
「無理はしなくていいから。特にテストプレイで何をしろとかも言われていないし」
私としてはこれくらいしか言えない。
「大丈夫です。それに知っている場所とリンクしているから、むしろ今は便利です。これから行く市場も現実では知っている場所ですから」
何か不安に感じる。
根拠はあまり無いけれど。
しかしカリーナちゃんにそう思わせたらまずい気がする。
だから今回はカリーナちゃんの今の言葉にあわせておこう。
「わかった。それでこれから行く市場って有名な場所なの? 観光ガイドには駅の近くに市場があるような事が書いてあったような記憶があるけれど」
北海道全体の観光ガイドを見た時にそんな事が書いてあったような覚えがある。
函館には行く予定がなかったのでちらっとしか覚えていないけれど。
「函館駅の横にある朝市は観光客向けです。地元で毎日使うにはちょっとお高いですから。
これから行くところは三大市場の中でいちばん昔の市場っぽいところです。大人に言わせると昔に比べれば大分活気が無くなったという事ですけれど」
「わかった。それじゃ楽しみにしているから」
右も左もわからないのでカリーナちゃん頼みだ。
勿論運営からもらった資料を読めばある程度のことはわかる。
しかし今はカリーナちゃん任せで歩いてみようと思う。
カリーナちゃんの目線でどう感じるのか、私自身も感じてみたいから。
実のところいつも下調べなくカリーナちゃんに任せっぱなしだったりもするけれど。
別に昔からそうだった訳では無い。
むしろ出かける際等は自分から徹底して下調べをする方だった。
何事も人任せに出来ず、全部自分で調べて納得出来ないと動けない性格だったような気すらする。
こうやって人任せにして流れているのはパイアキアン・オンライン に来てから。
何も知らない、常識さえもいまいち自信がない世界にきて、私自身も心理的に衰弱していた。
そんな状況で頼れる人・頼って良さそうな人が次々出てきてくれた。
援助妖精のシルラちゃん、カレンさん、そしてカリーナちゃん。
結果そのまま流された感じだ。
今みたいにある程度人任せにも出来る私だったら、現実 でも上手く折り合いをつけていられただろうか。
パイアキアン・オンラインに逃げ込まずに。
相談できる相手がいなかった訳では無い。
学校の担当教官だった教授は親身になって心配してくれたし、弁護士だって商売とは言え色々アドバイスをしてくれた。
しかし私にはそんな味方はほとんど見えなかった。
むしろ敵ばかり多く感じた。
だから結局、耐えられなくて現実から逃避した。
この仮想世界に。
さっきギルドまで上ってきた坂を今度は下りて、そして路面電車の駅へ。
全体は赤色、窓付近がクリーム色で窓枠が木製のいかにも古い形の電車が近づいてくるのが見える。
「あれに乗るの?」
「ええ、街の中心はここから少し離れていますから」
いつもならそれくらい歩くか走るところだ。
カリーナちゃん、他人がいる閉じた空間にいるのは得意ではなかった筈だから。
どうにも此処ハコダテへ来てからカリーナちゃんの様子、ちょっとおかしい。
理由は一応想像つく。
きっとカリーナちゃん、現実の函館を知っている。
ひょっとしたら住んでいたのかもしれない位に。
だから現実にいた頃の記憶だの思いだのをどうしても感じてしまうのだろう。
なおかつ現実にいた記憶を元に動いてしまうのだろう。
その結果がきっと、私からみておかしいと感じる挙動。
やってきた電車はいかにも昔のといった雰囲気だった。
後部にある開けっぱなしの扉から中へ。
壁も床も天井も木造で、通勤電車等と同様進行方向に長い横向きシートは赤色モケット。
造りはいかにも昔という感じだが木材もシートも物そのものは新しい感じだ。
新製したレトロ車両というところだろうか。
中には他に3人連れの客が1組いただけ。
座ると同時にやってきた車掌にカリーナちゃんは慣れた感じで告げる。
「ホリカワタウンまで2枚」
「わかりました。合計で2銭になります」
カリーナちゃんが支払って、そして券を私に渡してくれる。
「ありがとう」
「いいえ。ここは慣れていますから」
カリーナちゃんがなにか言おうとしているのを感じた。
だからあえて問い返さずに頷くだけにする。
「もうミヤさん、気づいていますよね」
カリーナちゃんがそう言ってきた。
ここはごまかさないほうがいいだろう。
「カリーナがこの街を知っているだろうという事?」
「ええ、そうです」
カリーナちゃんは頷いて、そして続ける。
「私が仮想世界に来る前にいたのが函館です。身体の方は今でも市内の病院にいる筈です。
勿論ここの街は現実とは違います。それでも 現実に実在する街を参考に作っているせいか、地理はほぼ同じですしやっぱりあの街を感じるんです。
この電車もそうです。レトロ車両としてほぼ同じものが私の知っている現実でも走っています。というよりこちらが現実の実物を真似て作ったのでしょうけれど」
やっぱりそうなのか、なら……
「何なら別の街に行こうか。テストプレイを終わらせてもいいし」
「いえ、大丈夫です。というか、なにかもう少し見て回りたい気がします。私自身は今までこの街を嫌っていたと思っていました。でも実際にこうやって感じてみるとそうでもない気がします。なにか妙な気分です」
ならいいけれど……
「無理はしなくていいから。特にテストプレイで何をしろとかも言われていないし」
私としてはこれくらいしか言えない。
「大丈夫です。それに知っている場所とリンクしているから、むしろ今は便利です。これから行く市場も現実では知っている場所ですから」
何か不安に感じる。
根拠はあまり無いけれど。
しかしカリーナちゃんにそう思わせたらまずい気がする。
だから今回はカリーナちゃんの今の言葉にあわせておこう。
「わかった。それでこれから行く市場って有名な場所なの? 観光ガイドには駅の近くに市場があるような事が書いてあったような記憶があるけれど」
北海道全体の観光ガイドを見た時にそんな事が書いてあったような覚えがある。
函館には行く予定がなかったのでちらっとしか覚えていないけれど。
「函館駅の横にある朝市は観光客向けです。地元で毎日使うにはちょっとお高いですから。
これから行くところは三大市場の中でいちばん昔の市場っぽいところです。大人に言わせると昔に比べれば大分活気が無くなったという事ですけれど」
「わかった。それじゃ楽しみにしているから」
右も左もわからないのでカリーナちゃん頼みだ。
勿論運営からもらった資料を読めばある程度のことはわかる。
しかし今はカリーナちゃん任せで歩いてみようと思う。
カリーナちゃんの目線でどう感じるのか、私自身も感じてみたいから。
実のところいつも下調べなくカリーナちゃんに任せっぱなしだったりもするけれど。
別に昔からそうだった訳では無い。
むしろ出かける際等は自分から徹底して下調べをする方だった。
何事も人任せに出来ず、全部自分で調べて納得出来ないと動けない性格だったような気すらする。
こうやって人任せにして流れているのはパイアキアン・オンライン に来てから。
何も知らない、常識さえもいまいち自信がない世界にきて、私自身も心理的に衰弱していた。
そんな状況で頼れる人・頼って良さそうな人が次々出てきてくれた。
援助妖精のシルラちゃん、カレンさん、そしてカリーナちゃん。
結果そのまま流された感じだ。
今みたいにある程度人任せにも出来る私だったら、現実 でも上手く折り合いをつけていられただろうか。
パイアキアン・オンラインに逃げ込まずに。
相談できる相手がいなかった訳では無い。
学校の担当教官だった教授は親身になって心配してくれたし、弁護士だって商売とは言え色々アドバイスをしてくれた。
しかし私にはそんな味方はほとんど見えなかった。
むしろ敵ばかり多く感じた。
だから結局、耐えられなくて現実から逃避した。
この仮想世界に。
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