フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
110 / 139
第19章 ケルキラ『新』要塞攻略⑵

第109話 ボス部屋の前まで

しおりを挟む
「ひょっとしてメアリー、それで今日、私に着いてきたんですか?」

 メアリーさんはにやりと笑う。

「もし競合相手が奥義書を取ったんなら、こっちも作戦を進めないとまずいだろ。その辺を確認するってのは確かに理由の一つさ。
 ただよく考えたらそんな可能性は無かったかもな。チャージャーとかカマロとかだったら逃げるどころかその場でアピールするだろうしさ。大体あいつら学業的にはアホの子だから正攻法で満点賞なんて無理だしな」

 チャージャーとかカマロってのは、メアリーさんと同じようにパイアキアン・オンラインこのせかいを中心に活動している配信者だ。
 パイアキアン・オンラインこのせかいの情報集の為にあちこちのサイトをのぞいたから知っている。

 ただサイトを見たのは2人とも情報収集時に見た1回だけ。
 何というか大した事が無いのにやたら騒ぐ感じで、見ていて疲れたから。
 アホの子というのはなんとなくわかる気がする。

「それだけではないでしょう、きっと。メアリーはわりとお節介ですから」

「それはどうかな。それにミヤさんが興味深いというのは事実だよ。
 それはそうともうすぐ分岐だ。今回は上と下、どっちに行くんだい?」

 新要塞も旧要塞と同様ボスは2体いる。
 地下2階にいるのがエキンムという名の魔法を使う悪霊。
 地上5階にいるアフカルは戦斧使いのグール系上位種。
 難易度は旧要塞のリッチーやスケルトンジェネラルと同程度とされている。

「まずは上の予定です。今使っている斧ほどではないけれど、それなりに強力な斧を落とす事があるそうですから」

 私が一番使いやすい武器は戦斧だ。
 しかし斧、どうやらパイアキアン・オンラインこのせかいではメジャーな武器ではないらしい。

 例えば剣士や槍術士はいるのに斧使いという職業はないとか。
 普通の武器屋では斧はあまり扱っていないとか。
 大亀オブクラリス高速討伐の賞品の神武器にも斧は無かったし。

 それでも私の体格や戦闘スタイルの場合、剣より重く一撃が強力な斧の方が使いやすい。
 だからカリーナちゃんと話して、斧を手に入れられる可能性があるアフカルを優先する事にした訳だ。

「斧優先ってのはカレンの影響かい、やっぱり」

「わかりますか?」

 カレンさんは今は斧を使っていないと聞いている。
 だから斧からカレンさんを連想できるのは、昔のカレンさんを知っている人だけだろう。
 
狂戦士バーサーカー戦斧バトルアックスはカレンが昔使っていた武器だからさ。ここの時間で言ったらもう十数年前の話だけれど」

 やはりその頃のカレンさんを知っていたか。
 さて、ラッキー君とサラちゃんが先で立ち止まって待っている。
 見ると少し広いホールになっているようだ。
 行ってみると階段、そして左右にそれぞれ通路が続いていた。

「ここは上でいい?」

「ええ、5階まで上がって下さい。階段を上るとアルグルが3体扉を護っています。その扉の中がボス部屋です」

「わかった」

 アルグルはグールの上位種で、鎧と長剣を装備している。
 難易度的にはスケルトンナイトと同じようなものらしい。
 なら念のため、ここは武器をチェンジしておこう。
 ただのグレイブから神槍にバトンタッチ。

 さてこの階段、5階までとなると結構長い。
 現実そとの私だと途中で1回休憩を入れたくなるところだ。
 こちらでは元脳筋だから楽だけれど。
 10段あがって踊り場でUターンして10段上がるのを8回繰り返す。

 ラッキー君とサラちゃんが最後の1段を上らずに待っていた。
 上ると敵が戦闘モードになるとわかっているのだろう。
 階段を上ったところは下と同じようにホールになっている。
 ホールの左右に扉が有り、左の立派な扉の前に鎧を着装したグールっぽいのが3体、剣を持って立っていた。

 あれがアルグルで、あの扉の中がボス部屋か。
 天井が充分高く左右もそこそこ広い。
 これなら武器、神槍よりこちらだな。
 狂戦士バーサーカー戦斧バトルアックスに持ち替える。

「それでは一気に行きます」

「わかりました」

 カリーナちゃんの返答を確認して、私は斧を右後ろに構えた体勢で階段を上りきる。
 動き始めたアルグル3体に向け、斧を左へと全力で振りきった。

『斧技:パワースラッシュ!』

 ガラガッシャーン! 大きな音が響く。
 アルグル3体がまとめて吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた音だ。
 これでアルグルは倒せただろう。
 しかし他にゲンエイグアナとかいると不味いので、念のために周囲全体を確認。

『奥義:面制圧突!』
 
 壁や床に3カ所違和感を覚えた。
 いるな、間違いなく。

 アルグルが動かない事を確認して、そしてラッキー君へ。

「ゲンエイグアナはお願い」

 ラッキー君、ダッシュ!
 もうこの辺の作業は安心して見ていられる。
 あっという間に3体のゲンエイグアナを倒した。

『アルグル3体、ゲンエイグアナ3体を倒した……』

 うん、これでこのホールは片付いたようだ。

「メインのアルグルは一撃かい。何というか、カレン以上に力業だね」

「これが一番手っ取り早いですから。エア・スラッシュより攻撃力が高いですし、倒せなくてもまとめて端に吹っ飛ぶから処理しやすいですし」

「斧技って確か STRわんりょくが相当高くないと使えないんじゃなかったっけ。多少はDEXきようさAGIすばやさで補正がかかるみたいだけれどさ」

「ミヤさんは限りなくエルフらしくないステータスでしたから。講習でINTちりょくは上がりましたけれど」

 カリーナちゃんがそう解説。

「だよな。獣人とかならもう少しわかるけれど。誰にでも出来る方法じゃない。確かに効果的かつ効率的だし見ていて壮快だけれどさ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】バグった俺と、依存的な引きこもり少女。 ~幼馴染は俺以外のセカイを知りたがらない~

山須ぶじん
SF
 異性に関心はありながらも初恋がまだという高校二年生の少年、赤土正人(あかつちまさと)。  彼は毎日放課後に、一つ年下の引きこもりな幼馴染、伊武翠華(いぶすいか)という名の少女の家に通っていた。毎日訪れた正人のニオイを、密着し顔を埋めてくんくん嗅ぐという変わったクセのある女の子である。  そんな彼女は中学時代イジメを受けて引きこもりになり、さらには両親にも見捨てられて、今や正人だけが世界のすべて。彼に見捨てられないためなら、「なんでもする」と言ってしまうほどだった。  ある日、正人は来栖(くるす)という名のクラスメイトの女子に、愛の告白をされる。しかし告白するだけして彼女は逃げるように去ってしまい、正人は仕方なく返事を明日にしようと思うのだった。  だが翌日――。来栖は姿を消してしまう。しかも誰も彼女のことを覚えていないのだ。  それはまるで、最初から存在しなかったかのように――。 ※第18回講談社ラノベ文庫新人賞の第2次選考通過、最終選考落選作品。 ※『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しています。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...