フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
104 / 139
第17章 間奏曲

第103話 目的達成

しおりを挟む
 ギルドへ向かって歩きながら、視界に別窓を出す。
 以前カリーナちゃんに教わった攻略サイトでデータベースを検索。

『拳技 オブクラリス 高速討伐 本』

 残念ながらこの検索では出てこない。
 ならこの条件ではどうだろう。

『拳技 奥義書』

 11件ヒット。
 ただどれも掲示板の雑談で、信頼できそうな情報は無い。
 そろそろオブクラリス高速討伐を格闘家でクリアした人が書き込んでいるかと期待したのだが、まだの模様だ。

 でもまあ格闘家用の奥義書っぽいものはきっとあるだろう。
 最悪なくても満点賞の賞品でカリーナちゃんかラッキー君に使えるものがあればいい。
 それすら無くても私のINTちりょくが最高まで上がれば損にはならない。
 なんて既に満点賞を取った位の勢いで思考しながら冒険者ギルドへ。

 通常は冒険者ギルドが混むのは朝一番と夕方と聞いている。
 朝一番は貼り出された依頼から出来るだけいい条件のものを選ぼうとする冒険者。
 夕方は依頼を終えた冒険者が依頼達成報告にやってくるから。

 しかし今日はこの時間でも人が多い気がする。
 以前講習を受けに行った時以来だけれど、あの時よりずっと多い。
 中へ入ると何故混んでいるかがすぐにわかった。
 人の列、列、列点々
 列の一番後ろには『講習受付窓口・最後尾』なんてプラカードを持った人がいて、声を張り上げて案内している。

「講習受付窓口への列はここが最後尾です。講習を希望される方は申込用紙を記載の上、こちらにお並びください」

 何というか凄いことになっているようだ。
 ただし列の動きは結構早い。
 これなら大丈夫かなと思いつつ、講習申込用紙をオートコンプリートでささっと書いて列に並ぶ。

 選んだ科目は中学校卒業程度の数学1科目だけ。
 高認試験程度の数学、物理、化学は前にやったから選べない。
 それに今回は満点賞狙い、だから多少簡単でも確実に狙える方が正しいだろう。
 カリーナちゃんとラッキー君が待っているから1科目だけ、そのかわり今回はきっちり見直しまでする予定。
 
 並びながら他の人の会話を何となく聞く。

「これで満点取れればあの攻略で使える本が取れるって本当かなあ?」

「槍の本は既に何人かが取ったと報告しているしさあ。動画でも出ていたから間違いないだろ。問題は満点を取れるかってところだ」

「確かにそうだよなあ。にしてもまさかゲームまで勉強が必要とは。運営に裏切られた気がする」

「で、何を選ぶんだ?」

「当然アニメ&ゲームだろ。この科目だけを3回申し込んで、2回はあえて点数を取らずに内容とパターンを確認。猛勉強して明日に満点を狙う!
 評定がBランク以下なら同じ科目を受けても問題ない」

 ……世の中には私が考えつかない攻略法を実行する人がいるようだ。
 確かにそうやって得意分野で出題傾向を掴んだ後、挑戦するという技はあるだろう。
 けれど……まあいいか。
 やりやすい方法なんてのもきっと人それぞれだから。
 
 他の人の会話も耳をすましてみる。
 大半は満点賞の商品、それも技の奥義書が目当てのようだ。
 そして複数回受験組が多い模様。

 どうやら一発で満点賞を狙うというのは難しい事らしい。
 まあ私も高認程度の化学では満点を逃したし、そんなものだろう。

 思った以上に列はガンガン進んでいく。
 列の途中まで来て理由がわかった。
 講習受付窓口を5つも開設してさばいている。
 これなら1分で5人くらい列が進むのも当然だ。

 おかげであまり待たずに私の番になった。

「はい、講習の申し込みですね。講習の内容は冒険者用教養講習。科目は中学校卒業程度の数学。申し込みは1科目のみ1回で宜しいでしょうか」

 受付のお姉さん、今日はやたら早口だ。
 声の波長は上がっていないけれど、動作や発音は2倍速モードといった感じ。

「はい、それで」

「わかりました。それでは2,000Cカルコスになります」

 話しながらものすごい速度で書類を作成している。

「わかりました」

 何というか人間離れした動きだと思いつつ、アイテムボックスから1,000Cカルコス銀貨2枚を出して小皿に入れる。

「ありがとうございます。こちらが受講証兼領収書になります。それでは試験は2階、12番教室で受験となります。中央の階段を上って右へお進みください」

「わかりました」

 受付を出て階段へ歩きつつ、ふと気づく。
 そういえば前に講習を受けた時、教室は12個も無かったよなと。
 そもそもこの建物、12個も講習用の教室をとれるような大きさではなかった筈だ。

 わからないことは検索だ。
 階段を上りながら検索してみる。
 運営からのお知らせページがヒットした。

『現在、スケリア島内の冒険者ギルドにおいて、冒険者用教養講習の申込件数が激増しています。出来る限り多くの方の要望に迅速に応える為、以下のように処理の高速化を狙った対策を行いますのでご了承願います。
 〇 受付職員NPCの増員及び処理高速化
 〇 講習部屋の増室』

 なるほど、要望に応える為にその辺対応していると。
 外見以上に教室数を増やすなんて仮想世界でなければ無理だ。
 
 ただこういった事を『リアルじゃない』と嫌う人もいるのかもしれない、なんて事も思ったりする。
 その辺の意見は人それぞれだから。
 先ほど読んだ運営からのお知らせも、そういった方面からの文句を抑えるためのものだろうし。

 そんな事を思いつつ2階へ。
 どう見ても建物の外見以上に長い廊下。
 本来は窓がある筈の道路側も含め両側にずらりと並んだ教室の出入口。

 12番教室は階段から数えて3番目、右側。
 入口に『科目:中卒程度数学』と書いてある出入口から私は中へ入った。

 ◇◇◇

 うん、危ういところだった。
 2回見直さないと気付かないケアレスミスが1問あった。
 しかししっかり見直したおかげで、無事満点賞を獲得。

「こちらが成績表になります。今回の講習でINTちりょくは7増えて40になりました。現在の上限値ですので以降は進化してINTちりょくの上限が高い上位種にならない限り、冒険者用教養講習は受講できません」

 言われてそうかと改めて気づいた。
 もし満点賞を取れずにINTちりょくが上限になっていたら、もうどの教科であっても満点賞を狙う事は出来なかった訳だ。
 レベル60になってハイエルフあたりに進化するまで。

 見直しをして良かった。
 そう心から思う。

「成績表の通り今回は満点です。ですので満点賞の賞品をひとつ選ぶ事が出来ます。
 こちらがそのリストです。賞品はどちらになさいますか」

 周囲の冒険者からの視線を感じつつ、私はリストをざっと見る。
 あった、『格闘術奥義皆伝』。
 名前が槍術のものとほぼ同じだし間違いないだろう。
 それでも念のため他もざっと見て確認。
 うん、大丈夫。 

「それではこの『格闘術奥義皆伝』をお願いします」

 どよめきに似た何かを感じた。
 気にしないそぶりを徹底する。

「わかりました。それではこちらになります」

 装幀は『槍術奥義皆伝』と色以外ほとんど同じ。
 厚めの和紙風の黄色い表紙で厚さもほぼ同じ。

「ありがとうございます」

 受け取ってすぐにアイテムボックスへ仕舞う。
 周囲の視線が微妙に怖い。
 しかし隙を見せたらまずい。
 ここは気づかないふりを続ける。

「それではこれで手続きは終了です。本日は講習受講お疲れ様でした」

「こちらこそありがとうございました」

 受付嬢さんに頭を下げ、そしてくるっとターンして。
 入口までのルートを確認、障害物が無いコース選定完了。

 私は全力ダッシュで走り出す。
 もちろん妙な奴に声をかけられるのを避ける為だ。
 入口の扉が開いたままになっているおかげでそのまま冒険者ギルドを脱出成功。

 念のため更にダッシュを続ける。
 曲がり角を4つ曲がったところで背後を確認。
 どうやら妙な追跡者はいないようだ。
 ただどうしても不安は消えない。
 
 時間を確認、11時10分だ。
 まだお昼まで余裕がある。

 ふと錬金術ギルドに寄ってみようかと思いついた。
 予定ではカレンさん、今日まではいる筈だ。
 雑談して時間を潰してから帰れば少しは安全だろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...