87 / 139
第15章 ケルキラ旧要塞攻略⑴
第86話 海の塔へ向かう前に
しおりを挟む
今日も朝から旧要塞だ。
朝8時過ぎに本館の攻略を開始して、地下2階と5階は無視して一通り回る。
地下1階から4階までを片付けるのには1時間かからない。
9時ちょっと前にひととおり終えて、1階にある入ったのとは違う出口から外へ。
そこそこ広く海が見える広場で薬草を採った後、小休止。
「今日のおやつはあんパンを作ってみました。美味く出来たかどうか自信は無いですけれど」
おお、確かに外見はあんパンだ。
ふくれた楕円形で上の中央にへそ部分があるところまで、間違いなくあんパン。
皮の色は綺麗な茶色。
手で半分に割ってみる。
簡単に割ける系生地で、かつパン生地そのものは薄い。
その分あんこがぎっしり詰まっている。
「これ、カリーナが作ったの?」
「ええ。この辺りの市場には小豆は無いので作れないだろうと思っていたのですけれど、たまたまネットで黒目豆と黒いんげん豆であんこを作るレシピを見つけたので。
小豆とは少し味が違うかもしれませんけれど」
見てみると確かにあんに白っぽい部分と黒っぽい部分があるような気がする。
よく混ぜてあるのでいまひとつはっきりしないけれど。
それでは食べて確認、うん、違いがわからない。
ただ間違いなく美味しい。
あんの甘さも、少し粒感が残っていてねっとりだけれど少しざらっとした感じの所も。
「私だと普通のあんこと区別できない。あとあんパンとしてあんもパンも凄く美味しい。これ、パンを焼いたのもカリーナなんだよね」
「ええ」
カリーナちゃんは頷く。
「パンは魔法を使って簡単に焼けるレシピがあるんです。あとクリームパンも作ってみましたので、午後の休憩はそれでいいですか」
「勿論!」
日本と雰囲気がかなり異なるこの世界で日本でお馴染みのこういった食べ物を食べるのは何か特別感がある。
舌が知っている系統の味というのもあるだろう。
あとこのパン自体がそもそも出来がいい。
少なくともスーパーで売っている袋入り量産品よりずっと。
それにしてもこれの他にクリームパンもあるのか。
そう聞くとつい食べたくなる。
この世界では食べて太るという現実はない。
なら……
ラッキー君ともどもカリーナちゃんに訴える。
「ごめんカリーナ、クリームパンも食べてみたいけれど、いい?」
「勿論です。どうぞ」
おお、ちゃんとグローブ形状だ。
これも割ってみて確認、あんパンよりやや生地が厚めで、クリームは卵の主張か黄色みが強い。
うん、見た目通り卵感が強いカスタードクリームだ。
食感は違うけれどプリンに近い感じの味。
バニラと、あとちょっとだけ洋酒の香りがするのもいい。
つまり無茶苦茶美味しい。
「何というかカリーナって、攻略じゃなくてこういった食べ物系のお店でも充分成功する気がする。ケルキラの市場でこういった日本的な食べ物は見たことないし、少なくとも日本サーバなら需要はかなりあるだろうし」
「そういえば生産系での攻略という方法もあるんですよね、この世界は。武器や防具等で何度かお世話になっているのについ忘れてしまいます。
ただ私自身は人と会うのはあまり得意ではありません。だから自分と仲間だけで黙々と出来る冒険者があっている気がします」
そう言えばそうだったなと思い出す。
それに考えてみると……
「確かに冒険者の方がいいかもしれない。パイアキアン・オンラインなら生活費を稼ぐのは簡単だし、何処へ行っても何をしてもいいし」
「そうですね。攻略をしないで、新しい料理を試したり知らないお店を見てみるだけでも楽しいですから」
それについては何というか申し訳ない。
「ごめん。カリーナ的には足踏み状態だよね。私とラッキーのレベル上げに協力して貰っているから。攻略もレベル上げも」
「いえ、それでも楽しいんです。多分きっと、パイアキアン・オンラインに来てから今が一番。ラッキーちゃんも可愛いですし、現実世界のレシピを元にここにない料理とかを作るのも楽しいですし」
何、呼んだ? 呼んだなら何かくれる?
そんな感じでラッキー君がカリーナちゃんの前に座ってお手をする。
確かにラッキー君は可愛い。
食欲その他に忠実に生きているけれど。
私は楽しいのだろうか、ふとそんな事を思う。
カリーナちゃんやラッキー君との生活を楽しんでいるのは確かだ。
2人とも可愛いし、料理も美味しいし。
レベル上げ作業だって嫌いじゃない。
特に戦斧でバッサリやるのは爽快感最高だ。
ちまちま出てくる小型の敵は苦手だけれど、今ではラッキー君がそういった敵を片付けてくれる。
そう、これでいい、少なくとも今は。
話題を変えよう。
「次は海の塔だっけ?」
「ええ」
カリーナちゃんは頷く。
「海の塔は屋外部分と屋内部分があります。
まずは病院跡の横の広場を通り、その先にある階段で丘の上にあがります。この階段から先全体が海の塔というダンジョン扱いです。
最初の階段を上りきったところの広場が第1階層、そこから次の階段を上ったところが第2階層。ここから海の塔内部へと入ることが出来ます。
海の塔に入った部分を第2階層とすると、その上に第3階層、第4階層があって、第2階層の下に第1階層があります。この第1階層にボスがいますので、当座は屋内第1階層以外の敵を倒していく形になります」
何やらややこしい。
頭の中で整理する。
「つまり4階建ての建物で、2階から出入りすると思えばいい?」
「そんな感じです」
なんとなく理解した。
朝8時過ぎに本館の攻略を開始して、地下2階と5階は無視して一通り回る。
地下1階から4階までを片付けるのには1時間かからない。
9時ちょっと前にひととおり終えて、1階にある入ったのとは違う出口から外へ。
そこそこ広く海が見える広場で薬草を採った後、小休止。
「今日のおやつはあんパンを作ってみました。美味く出来たかどうか自信は無いですけれど」
おお、確かに外見はあんパンだ。
ふくれた楕円形で上の中央にへそ部分があるところまで、間違いなくあんパン。
皮の色は綺麗な茶色。
手で半分に割ってみる。
簡単に割ける系生地で、かつパン生地そのものは薄い。
その分あんこがぎっしり詰まっている。
「これ、カリーナが作ったの?」
「ええ。この辺りの市場には小豆は無いので作れないだろうと思っていたのですけれど、たまたまネットで黒目豆と黒いんげん豆であんこを作るレシピを見つけたので。
小豆とは少し味が違うかもしれませんけれど」
見てみると確かにあんに白っぽい部分と黒っぽい部分があるような気がする。
よく混ぜてあるのでいまひとつはっきりしないけれど。
それでは食べて確認、うん、違いがわからない。
ただ間違いなく美味しい。
あんの甘さも、少し粒感が残っていてねっとりだけれど少しざらっとした感じの所も。
「私だと普通のあんこと区別できない。あとあんパンとしてあんもパンも凄く美味しい。これ、パンを焼いたのもカリーナなんだよね」
「ええ」
カリーナちゃんは頷く。
「パンは魔法を使って簡単に焼けるレシピがあるんです。あとクリームパンも作ってみましたので、午後の休憩はそれでいいですか」
「勿論!」
日本と雰囲気がかなり異なるこの世界で日本でお馴染みのこういった食べ物を食べるのは何か特別感がある。
舌が知っている系統の味というのもあるだろう。
あとこのパン自体がそもそも出来がいい。
少なくともスーパーで売っている袋入り量産品よりずっと。
それにしてもこれの他にクリームパンもあるのか。
そう聞くとつい食べたくなる。
この世界では食べて太るという現実はない。
なら……
ラッキー君ともどもカリーナちゃんに訴える。
「ごめんカリーナ、クリームパンも食べてみたいけれど、いい?」
「勿論です。どうぞ」
おお、ちゃんとグローブ形状だ。
これも割ってみて確認、あんパンよりやや生地が厚めで、クリームは卵の主張か黄色みが強い。
うん、見た目通り卵感が強いカスタードクリームだ。
食感は違うけれどプリンに近い感じの味。
バニラと、あとちょっとだけ洋酒の香りがするのもいい。
つまり無茶苦茶美味しい。
「何というかカリーナって、攻略じゃなくてこういった食べ物系のお店でも充分成功する気がする。ケルキラの市場でこういった日本的な食べ物は見たことないし、少なくとも日本サーバなら需要はかなりあるだろうし」
「そういえば生産系での攻略という方法もあるんですよね、この世界は。武器や防具等で何度かお世話になっているのについ忘れてしまいます。
ただ私自身は人と会うのはあまり得意ではありません。だから自分と仲間だけで黙々と出来る冒険者があっている気がします」
そう言えばそうだったなと思い出す。
それに考えてみると……
「確かに冒険者の方がいいかもしれない。パイアキアン・オンラインなら生活費を稼ぐのは簡単だし、何処へ行っても何をしてもいいし」
「そうですね。攻略をしないで、新しい料理を試したり知らないお店を見てみるだけでも楽しいですから」
それについては何というか申し訳ない。
「ごめん。カリーナ的には足踏み状態だよね。私とラッキーのレベル上げに協力して貰っているから。攻略もレベル上げも」
「いえ、それでも楽しいんです。多分きっと、パイアキアン・オンラインに来てから今が一番。ラッキーちゃんも可愛いですし、現実世界のレシピを元にここにない料理とかを作るのも楽しいですし」
何、呼んだ? 呼んだなら何かくれる?
そんな感じでラッキー君がカリーナちゃんの前に座ってお手をする。
確かにラッキー君は可愛い。
食欲その他に忠実に生きているけれど。
私は楽しいのだろうか、ふとそんな事を思う。
カリーナちゃんやラッキー君との生活を楽しんでいるのは確かだ。
2人とも可愛いし、料理も美味しいし。
レベル上げ作業だって嫌いじゃない。
特に戦斧でバッサリやるのは爽快感最高だ。
ちまちま出てくる小型の敵は苦手だけれど、今ではラッキー君がそういった敵を片付けてくれる。
そう、これでいい、少なくとも今は。
話題を変えよう。
「次は海の塔だっけ?」
「ええ」
カリーナちゃんは頷く。
「海の塔は屋外部分と屋内部分があります。
まずは病院跡の横の広場を通り、その先にある階段で丘の上にあがります。この階段から先全体が海の塔というダンジョン扱いです。
最初の階段を上りきったところの広場が第1階層、そこから次の階段を上ったところが第2階層。ここから海の塔内部へと入ることが出来ます。
海の塔に入った部分を第2階層とすると、その上に第3階層、第4階層があって、第2階層の下に第1階層があります。この第1階層にボスがいますので、当座は屋内第1階層以外の敵を倒していく形になります」
何やらややこしい。
頭の中で整理する。
「つまり4階建ての建物で、2階から出入りすると思えばいい?」
「そんな感じです」
なんとなく理解した。
18
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
【完結】バグった俺と、依存的な引きこもり少女。 ~幼馴染は俺以外のセカイを知りたがらない~
山須ぶじん
SF
異性に関心はありながらも初恋がまだという高校二年生の少年、赤土正人(あかつちまさと)。
彼は毎日放課後に、一つ年下の引きこもりな幼馴染、伊武翠華(いぶすいか)という名の少女の家に通っていた。毎日訪れた正人のニオイを、密着し顔を埋めてくんくん嗅ぐという変わったクセのある女の子である。
そんな彼女は中学時代イジメを受けて引きこもりになり、さらには両親にも見捨てられて、今や正人だけが世界のすべて。彼に見捨てられないためなら、「なんでもする」と言ってしまうほどだった。
ある日、正人は来栖(くるす)という名のクラスメイトの女子に、愛の告白をされる。しかし告白するだけして彼女は逃げるように去ってしまい、正人は仕方なく返事を明日にしようと思うのだった。
だが翌日――。来栖は姿を消してしまう。しかも誰も彼女のことを覚えていないのだ。
それはまるで、最初から存在しなかったかのように――。
※第18回講談社ラノベ文庫新人賞の第2次選考通過、最終選考落選作品。
※『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しています。

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる