フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

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第12章 コリション干潟攻略中⑴

第66話 ごはんがすすむ

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 カリーナちゃんが言ったとおり、帰りはあっさりというかあっと言う間だった。
 半日苦労したのが嘘のようにメリティイースの森へと到着。
 昼食を食べた小屋から1時間もかかっていない。

「何と言うか、思った以上に近かったね」

 おかげでまだ15時過ぎだ。
 周囲はまだまだ明るい。

「そうですね。ついでですから薬草を採取しておきましょう。回復薬ポーションがあると楽ですから」

「確かにそうだね。疲れた時に飲むと楽になるなんて知らなかったし」

 メリティイースの森はカリーナちゃんの本拠地みたいなもの。
 だから何処に何が生えているか、私からみれば完璧と思う位に把握しているようだ。
 ここのところしばらく此処で薬草採取していない事もあって、収穫は大量。

「ごめん、私のアイテムボックス、ほぼ限界。帰りに冒険者ギルドに寄って魔石や素材を売っておけばよかったかなあ」

「確かにそうですね。明日の朝、寄っていきましょう。ただ素材のうち泥魚はギルドに出さないで下さい。泥さえ洗えばとっても美味しい魚だという情報があるから試してみたいんです」

 あれ? と思う。

「カリーナは前にここを攻略しているよね」

「ええ。でもその時は攻略組だったので料理に興味は無かったんです。
 此処でレベル上げをしようと思った時に調べ直して、それで泥魚の情報を知りました。この魚はケルキラ島ではコリション干潟でしか捕れないそうです。そしてコリション干潟のクエストは2人以上いないと受けられません。
 なので泥魚料理を試すのは今回がはじめてになります」

 なるほど。

「それじゃカリーナちゃん家におじゃまして、泥魚料理をおねがいしようかな」

「ええ、任せて下さい」

 そんな感じでカリーナちゃんの家には16時前に到着。
 あのカウンターがある部屋から中へと入る。
 ベッドやテーブルはケルキラの家に持って行ったからがらんとした状態だ。

「私はこれから泥魚料理を含め、夕食を作ろうと思います。ミヤさんはどれくらい泥魚、獲っていますか」

 アイテムボックス内を確認する。

「41匹、重さにして16.4キロあるけれどどれくらい出す?」

「全部御願いします。天ぷら、煮物、刺身、干物とひととおりつくってみたいんです」

 カリーナちゃんは部屋のどこからか金たらいそっくりの容器を出してきた。
 どうやら本気のようだ。

「わかった。出すね」

 アイテムボックスから金たらいに泥魚を出す。
 泥魚は形としてはでっかいハゼという形で、足は無いけれどどことなくカエルっぽくもある。

 ただグレイブで倒しているのでぶつ切りになったり頭がなかったりしているものが多い。
 手元まで飛んできたのはグレイブの柄で殴り倒しているので五体満足だけれど。
 それにしてもすごい量だ。
 こんなに料理できるのだろうか。

「これはやりがいがあって楽しそうです」

 カリーナちゃん、やる気満々のようだ。

「少し時間がかかると思います。ミヤさんとラッキーちゃんはのんびり待っていて下さい」 

 どれくらい待てばいいのだろう。
 そう思って、そう言えばやっておいた方がいい事を思いついた。

「お風呂場と錬金釜を借りていい? さっき採った薬草で治療薬ポーションを作っておきたいから」

 そうすればアイテムボックス内の薬草を減らす事が出来る。
 それに治療薬ポーション、疲れとりにもいいし飲むと爽快感があるしでなかなか有用だ。
 だから惜しげなく使えるよう、在庫を作っておきたい。

「御願いしていいですか?」

「任せておいて。まだ中級だけれど」

「なら錬金釜を出します」

 カリーナちゃんから錬金釜を借りてお風呂場へ持って行き、久々の錬金術師的な作業、開始だ。
 薬草を選別して出して清浄魔法で洗浄、分量通り錬金釜に入れたら後は念じるだけ。
 認定錬金術師のスキルで中級までの治療薬ポーションは全自動で完成だ。

 出来たら保存用の大瓶に入れてアイテムボックスに仕舞い、そしてまた薬草を出して……

 ◇◇◇

 錬金術師が業販用として使う3ℓの大瓶に、
  ○ 初級治療薬ポーション6本
  ○ 中級治療薬ポーション4本
ほど調合して入れた。

 空容器はあと大瓶2本、1ℓの中瓶4本、500mℓ小瓶5本、そのまま販売用の薬瓶100mℓ20個がある。
 けれど当座はこんなもので充分だろう。
 大量に採った薬草も7割近く消費したし。

 錬金釜を清浄魔法で洗ってやはり魔法で換気したところでカリーナちゃんの声がした。

「ごはんが出来ました。そちらはどうですか?」

「ちょうど終わったところ。今から行く」

 泥魚料理、どんな感じだろう。
 ハゼも釣りの話は以前聞いたことがある。
 けれど自分で食べたことはない。
 天ぷらとか美味しいらしいけれどな、なんて思いつつ部屋へ。

 おお、これは凄い。
 4人掛けくらいの広さがあるテーブル上にあれもこれもという感じで料理が並んでいる。
 和風、洋風、ただ中華はないようだ。

「こんなに作ったんだ」

「実はまだまだあります。明日以降のお楽しみです」

 何と言うか、これは解説してもらった方がいいだろう。
 イヤシい犬が早く寄こせという顔をしているけれど、カリーナちゃんに聞いてみる。

「説明して貰っていい?」

「ええ。まず生がこっちが刺身、あぶり、カルパッチョサラダ風」

 泥魚は赤っぽい身だ。
 赤身の魚とはまた少し感じが違う赤さで、透明に近い白身に赤色が混ざっているような感じ。

「そしてこっちが塩焼き、素揚げ、唐揚げ、天ぷら」

 この辺はまあ見たとおりだ。
 私が揚げ物をつくると天ぷらだろうが唐揚げだろうが何故か素揚げになってしまうのは個人的秘密という事で。

「これは蒲焼き、蒲焼きというより甘露煮っぽい感じですけれど。あとはお味噌汁にも入っています。
 あとはこの前作った塩辛、ご飯だしちょうどいいかなと思って。
 他にも作っていますけれど多くなったので、あとは明日以降に出します」

 確かにこれだけあれば充分だろう。
 いや充分という事はないかもしれない。
 大食いのイヤシ犬が出番を待っているから。
 それにしても美味しそうだ、そう思ってそしていつもと明らかに違う点に気付いた。

「今日は主食、ごはんだね」

 カリーナちゃんと一緒に暮らしてから、いやこの世界に来て以来、ごはんを食べたのは1回だけ。
 カレンさんに寿司屋に連れて行ってもらった時だけだ。

「泥魚のレシピは和風が多かったので。元々有明海に居るムツゴロウ料理を参考にしたみたいですから。
 だから今日はパンよりごはんの方があいそうなので、久しぶりに炊いてみました。でもミヤさん、パンの方がいいですか? それならすぐ用意しますけれど」

「ううん。これだとやっぱりごはんだよね」

 もう期待しかない。
 そしてそう思っている奴がもう1匹いるようだ。
 トントントン、床を前脚で叩いて催促したりなんてことまでやっている。

「ラッキーちゃんはさっき食べましたよね。だからこっちが食べ終わってからです」

 がっくり。そんな表情がかわいい。でも騙されてはいけない。奴は食べる気になれば幾らでも食べられる胃袋の持ち主だから。

「それじゃ食べようか」

「そうですね」

「いただきます」

 まずは甘露煮というか蒲焼きというか茶色いのをごはんに載せて。
 ああ、見た目通りの甘辛で美味しい、ごはんがすすむ……
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