フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
67 / 139
第12章 コリション干潟攻略中⑴

第66話 ごはんがすすむ

しおりを挟む
 カリーナちゃんが言ったとおり、帰りはあっさりというかあっと言う間だった。
 半日苦労したのが嘘のようにメリティイースの森へと到着。
 昼食を食べた小屋から1時間もかかっていない。

「何と言うか、思った以上に近かったね」

 おかげでまだ15時過ぎだ。
 周囲はまだまだ明るい。

「そうですね。ついでですから薬草を採取しておきましょう。回復薬ポーションがあると楽ですから」

「確かにそうだね。疲れた時に飲むと楽になるなんて知らなかったし」

 メリティイースの森はカリーナちゃんの本拠地みたいなもの。
 だから何処に何が生えているか、私からみれば完璧と思う位に把握しているようだ。
 ここのところしばらく此処で薬草採取していない事もあって、収穫は大量。

「ごめん、私のアイテムボックス、ほぼ限界。帰りに冒険者ギルドに寄って魔石や素材を売っておけばよかったかなあ」

「確かにそうですね。明日の朝、寄っていきましょう。ただ素材のうち泥魚はギルドに出さないで下さい。泥さえ洗えばとっても美味しい魚だという情報があるから試してみたいんです」

 あれ? と思う。

「カリーナは前にここを攻略しているよね」

「ええ。でもその時は攻略組だったので料理に興味は無かったんです。
 此処でレベル上げをしようと思った時に調べ直して、それで泥魚の情報を知りました。この魚はケルキラ島ではコリション干潟でしか捕れないそうです。そしてコリション干潟のクエストは2人以上いないと受けられません。
 なので泥魚料理を試すのは今回がはじめてになります」

 なるほど。

「それじゃカリーナちゃん家におじゃまして、泥魚料理をおねがいしようかな」

「ええ、任せて下さい」

 そんな感じでカリーナちゃんの家には16時前に到着。
 あのカウンターがある部屋から中へと入る。
 ベッドやテーブルはケルキラの家に持って行ったからがらんとした状態だ。

「私はこれから泥魚料理を含め、夕食を作ろうと思います。ミヤさんはどれくらい泥魚、獲っていますか」

 アイテムボックス内を確認する。

「41匹、重さにして16.4キロあるけれどどれくらい出す?」

「全部御願いします。天ぷら、煮物、刺身、干物とひととおりつくってみたいんです」

 カリーナちゃんは部屋のどこからか金たらいそっくりの容器を出してきた。
 どうやら本気のようだ。

「わかった。出すね」

 アイテムボックスから金たらいに泥魚を出す。
 泥魚は形としてはでっかいハゼという形で、足は無いけれどどことなくカエルっぽくもある。

 ただグレイブで倒しているのでぶつ切りになったり頭がなかったりしているものが多い。
 手元まで飛んできたのはグレイブの柄で殴り倒しているので五体満足だけれど。
 それにしてもすごい量だ。
 こんなに料理できるのだろうか。

「これはやりがいがあって楽しそうです」

 カリーナちゃん、やる気満々のようだ。

「少し時間がかかると思います。ミヤさんとラッキーちゃんはのんびり待っていて下さい」 

 どれくらい待てばいいのだろう。
 そう思って、そう言えばやっておいた方がいい事を思いついた。

「お風呂場と錬金釜を借りていい? さっき採った薬草で治療薬ポーションを作っておきたいから」

 そうすればアイテムボックス内の薬草を減らす事が出来る。
 それに治療薬ポーション、疲れとりにもいいし飲むと爽快感があるしでなかなか有用だ。
 だから惜しげなく使えるよう、在庫を作っておきたい。

「御願いしていいですか?」

「任せておいて。まだ中級だけれど」

「なら錬金釜を出します」

 カリーナちゃんから錬金釜を借りてお風呂場へ持って行き、久々の錬金術師的な作業、開始だ。
 薬草を選別して出して清浄魔法で洗浄、分量通り錬金釜に入れたら後は念じるだけ。
 認定錬金術師のスキルで中級までの治療薬ポーションは全自動で完成だ。

 出来たら保存用の大瓶に入れてアイテムボックスに仕舞い、そしてまた薬草を出して……

 ◇◇◇

 錬金術師が業販用として使う3ℓの大瓶に、
  ○ 初級治療薬ポーション6本
  ○ 中級治療薬ポーション4本
ほど調合して入れた。

 空容器はあと大瓶2本、1ℓの中瓶4本、500mℓ小瓶5本、そのまま販売用の薬瓶100mℓ20個がある。
 けれど当座はこんなもので充分だろう。
 大量に採った薬草も7割近く消費したし。

 錬金釜を清浄魔法で洗ってやはり魔法で換気したところでカリーナちゃんの声がした。

「ごはんが出来ました。そちらはどうですか?」

「ちょうど終わったところ。今から行く」

 泥魚料理、どんな感じだろう。
 ハゼも釣りの話は以前聞いたことがある。
 けれど自分で食べたことはない。
 天ぷらとか美味しいらしいけれどな、なんて思いつつ部屋へ。

 おお、これは凄い。
 4人掛けくらいの広さがあるテーブル上にあれもこれもという感じで料理が並んでいる。
 和風、洋風、ただ中華はないようだ。

「こんなに作ったんだ」

「実はまだまだあります。明日以降のお楽しみです」

 何と言うか、これは解説してもらった方がいいだろう。
 イヤシい犬が早く寄こせという顔をしているけれど、カリーナちゃんに聞いてみる。

「説明して貰っていい?」

「ええ。まず生がこっちが刺身、あぶり、カルパッチョサラダ風」

 泥魚は赤っぽい身だ。
 赤身の魚とはまた少し感じが違う赤さで、透明に近い白身に赤色が混ざっているような感じ。

「そしてこっちが塩焼き、素揚げ、唐揚げ、天ぷら」

 この辺はまあ見たとおりだ。
 私が揚げ物をつくると天ぷらだろうが唐揚げだろうが何故か素揚げになってしまうのは個人的秘密という事で。

「これは蒲焼き、蒲焼きというより甘露煮っぽい感じですけれど。あとはお味噌汁にも入っています。
 あとはこの前作った塩辛、ご飯だしちょうどいいかなと思って。
 他にも作っていますけれど多くなったので、あとは明日以降に出します」

 確かにこれだけあれば充分だろう。
 いや充分という事はないかもしれない。
 大食いのイヤシ犬が出番を待っているから。
 それにしても美味しそうだ、そう思ってそしていつもと明らかに違う点に気付いた。

「今日は主食、ごはんだね」

 カリーナちゃんと一緒に暮らしてから、いやこの世界に来て以来、ごはんを食べたのは1回だけ。
 カレンさんに寿司屋に連れて行ってもらった時だけだ。

「泥魚のレシピは和風が多かったので。元々有明海に居るムツゴロウ料理を参考にしたみたいですから。
 だから今日はパンよりごはんの方があいそうなので、久しぶりに炊いてみました。でもミヤさん、パンの方がいいですか? それならすぐ用意しますけれど」

「ううん。これだとやっぱりごはんだよね」

 もう期待しかない。
 そしてそう思っている奴がもう1匹いるようだ。
 トントントン、床を前脚で叩いて催促したりなんてことまでやっている。

「ラッキーちゃんはさっき食べましたよね。だからこっちが食べ終わってからです」

 がっくり。そんな表情がかわいい。でも騙されてはいけない。奴は食べる気になれば幾らでも食べられる胃袋の持ち主だから。

「それじゃ食べようか」

「そうですね」

「いただきます」

 まずは甘露煮というか蒲焼きというか茶色いのをごはんに載せて。
 ああ、見た目通りの甘辛で美味しい、ごはんがすすむ……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】バグった俺と、依存的な引きこもり少女。 ~幼馴染は俺以外のセカイを知りたがらない~

山須ぶじん
SF
 異性に関心はありながらも初恋がまだという高校二年生の少年、赤土正人(あかつちまさと)。  彼は毎日放課後に、一つ年下の引きこもりな幼馴染、伊武翠華(いぶすいか)という名の少女の家に通っていた。毎日訪れた正人のニオイを、密着し顔を埋めてくんくん嗅ぐという変わったクセのある女の子である。  そんな彼女は中学時代イジメを受けて引きこもりになり、さらには両親にも見捨てられて、今や正人だけが世界のすべて。彼に見捨てられないためなら、「なんでもする」と言ってしまうほどだった。  ある日、正人は来栖(くるす)という名のクラスメイトの女子に、愛の告白をされる。しかし告白するだけして彼女は逃げるように去ってしまい、正人は仕方なく返事を明日にしようと思うのだった。  だが翌日――。来栖は姿を消してしまう。しかも誰も彼女のことを覚えていないのだ。  それはまるで、最初から存在しなかったかのように――。 ※第18回講談社ラノベ文庫新人賞の第2次選考通過、最終選考落選作品。 ※『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しています。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...