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第8章 此処にいること
第45話 殻の外の現実
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市場へ向かって歩いて行く途中。
「ミヤさんは何も聞かないんですね」
カリーナちゃんが歩きながらそんな言葉を口にした。
何についてかは何となくわかる。
カリーナちゃんが何故ずっと此処にいられるのか、カレンさん達と何故別れたのか、先程の2人とはどういう関係なのか……
そういった事一切についてだろう。
「特に必要ないしね」
「大人なんですね、ミヤさん」
いや、多分違う。
「別に私はできた人間じゃない。それにこういった事に年齢は関係ないと思う。駄目なのはいくら年を取っても駄目なままだから。
カリーナこそ落ち着いていて、よく出来た人間だと思うよ。前に一度慰めて、いや気分的に助けてもらったし。涙がとまらなくなった時」
母や父が死んだと実感してしまったあの時だ。
カリーナちゃんやラッキー君のおかげで助かったというか、何とか復活できた。
まあその後少しばかりぐだぐだにはなったけれど。
なんて思って、そして全く関係ない事を思いつく。
折角カリーナちゃんと外出しているのだ。
なら気分転換ついでに……
「何ならいつもの買物と違うけれど、新しい服を探したり何処かの食堂で御飯を食べたりしてみる? 折角外出しているんだし、お金はそこそこ余裕があるから」
カリーナちゃん、いつも同じ服を着ている気がする。
それはまあ私もなのだけれど。
この世界に来てからまだ服を買った事が無かったから。
着たまま魔法で洗濯に近い事が出来るから替えが必要無いし。
「そうですね。ミヤさんが一緒なら大丈夫な気がします。あ、でもラッキーちゃんがいるから食事は家で食べる方がいいです。服もどうせなら下調べしてからの方がいいかなって気がしますし。
だから今日は予定通りいつものお買い物に行きましょう。私も自分で市場へ行くのはものすごく久しぶりですし、それだけで充分楽しみですから」
「わかった」
確かに服屋はネットで評判を調べてからの方がいいかもしれない。
日本の普通の服屋以上に振り幅が大きそうな気がするし。
それに久しぶりの市場なら、それだけでも充分楽しめるだろう。
あと『ミヤさんが一緒なら大丈夫』と言ってくれたのが正直凄く嬉しかったりする。
だから今日は少しばかりリッチにお買い物してみてもいいかもしれない。
◇◇◇
「スケリア島って島なんですよね。だから当たり前なのかもしれないですけれど、こんなに海鮮が充実しているとは思いませんでした」
私自身は自炊しない派。
だから市場の魚屋のある辺りまでは出向かない。
カリーナちゃんも買物を人に頼んでいた。
だから最近はよくある野菜とか牛豚鶏といったメジャーなお肉くらいしか買っていなかったそうだ。
彼女に御願いされる買物リストの食材もそういったものがほとんどだったし。
しかしカリーナちゃんの言葉通り、此処は島だ。
しかもケルキラは港街。
だから行くところへ行けば海鮮はしっかり揃っている。
そしてカリーナちゃんは私と違って料理を楽しむ人だ。
結果、思い切り大人買いをしてしまった。
「お魚を丸のまま買ってさばいてお刺身にするの、楽しみです。何かお祭りとか特別な日って感じで良くないですか?」
帰り道でカリーナちゃんがいかにも楽しみという感じでそう話す。
しかし私にはそのような高度な技能や高尚な趣味はない。
出来るのはただ曖昧に頷く事だけ。
「やっぱり新鮮なお魚はまずお刺身ですよね。マトウダイは半身を刺身、半身をバター焼きにしましょうか。甲イカはやっぱりイカそうめんにして、一部は肝あえというか塩辛にして。
もう考えるだけで楽しいです」
私、やっぱり曖昧に頷くしかない。
「海老は刺身とフライと天ぷらと、あとはサガナキも作ってみたいです。ずっと前に何処か南部の港街で食べたのが美味しかったですから」
ここで私、あれ? と思う。
「サガナキってチーズの揚げ焼きじゃなかったっけ?」
「一人前のフライパンで調理される料理は全部サガナキなんです。基本的にはフェタチーズを焼いたものがメジャーですけれど、小エビやムール貝で作る料理にもサガナキはあるんです。こちらもチーズをたっぷり使うんですけれど」
なるほど。
「ギリシャ料理なのによく知っているよね」
「此処ではギリシャ料理が標準で、それプラス日本の普通の料理という感じです。オデッセイアを世界設定の参考にしていて、此処もギリシャの実在の場所をベースにしているようですから」
そこまで言って一呼吸開け、そして少し声のトーンを落として続ける。
「ただ材料や料理する過程は外の世界そっくりに見えても、本当に同じ味や臭い、かみ応えなのかはわからないんですけれどね。
ミヤさんはどう思いますか、そのあたりは」
難しい質問だ。
ちょっと考えて要点をを整理し、それから口に出す。
「私には此処で今感じている全てが仮想だとは感覚的にはわからない。勿論設定とかで日本と違うというのはわかるよ。魔法なんて力は向こうにはないし、オートコンプリートなんて便利な機能もないし。
それでも私が感じる全ての感覚は、これを仮想だとは感じていない。知識では知っていてもそう思えない。そんなところ」
そこまで言って、そう言えばと思い出して付け加える。
「カレンさんと行った寿司屋でもそんな話を聞いた。魚や貝なんて食材も外に存在しているものは実物を解体してデジタイズしているらしいって。
だから外と違って外れやムラが無いという違いはあるけれど、外でもしっかりお金を出していい素材を使って貰えば、この味になるんだって。だから技法を試したりするのにも此処は便利だって。
つまり感覚そのものについては違いはわからない。それが普通の感覚だと思う」
「違いはない。そう思っていいんですね」
「うん」
私が頷いたのを見て、そしてカリーナちゃんは続ける。
「なら良かったです。
ただ本当はギリシャという遠い国では無く、私の身体がいる筈の日本をベースにした世界の方が良かったです。その方がより現実の世界に近い気がしますから。
ただ現代日本を舞台にしたVRMMOゲームっていいのが無いんです。設定が複雑すぎたり衣装が特殊だったり、操作や動き、感覚に違和感を覚えたり。
だから此処、一番現実に近い動きと感覚で楽しめると言われている、この『パイアキアン・オンライン』にいます。
ところでミヤさんは、何故此処を選んだんですか?」
これは簡単に答えられる。
「日本で一番プレイヤー人口が多いからかな。よく知らないから一番一般的な場所にしようと思って。
あとは中で何をしてもいいという自由さも理由。次は必ず●●しなければならないというのはどうも好きになれない気がしたから」
答えながら感じる。
何か話題、微妙に危険な方へ行っているような気がすると。
「私の場合はさっき行った通り、一番外の世界に近いとされているからです。
同じ理由で病院組、さっきの人の言い方だと殻人の大部分はここに来ています。
殻人というのは没入型機器という殻から外に出られないという意味です。何処かの小説に使われていた殻人という言葉を誰かが自嘲的に使ったのが最初だと言われていますけれど」
「ミヤさんは何も聞かないんですね」
カリーナちゃんが歩きながらそんな言葉を口にした。
何についてかは何となくわかる。
カリーナちゃんが何故ずっと此処にいられるのか、カレンさん達と何故別れたのか、先程の2人とはどういう関係なのか……
そういった事一切についてだろう。
「特に必要ないしね」
「大人なんですね、ミヤさん」
いや、多分違う。
「別に私はできた人間じゃない。それにこういった事に年齢は関係ないと思う。駄目なのはいくら年を取っても駄目なままだから。
カリーナこそ落ち着いていて、よく出来た人間だと思うよ。前に一度慰めて、いや気分的に助けてもらったし。涙がとまらなくなった時」
母や父が死んだと実感してしまったあの時だ。
カリーナちゃんやラッキー君のおかげで助かったというか、何とか復活できた。
まあその後少しばかりぐだぐだにはなったけれど。
なんて思って、そして全く関係ない事を思いつく。
折角カリーナちゃんと外出しているのだ。
なら気分転換ついでに……
「何ならいつもの買物と違うけれど、新しい服を探したり何処かの食堂で御飯を食べたりしてみる? 折角外出しているんだし、お金はそこそこ余裕があるから」
カリーナちゃん、いつも同じ服を着ている気がする。
それはまあ私もなのだけれど。
この世界に来てからまだ服を買った事が無かったから。
着たまま魔法で洗濯に近い事が出来るから替えが必要無いし。
「そうですね。ミヤさんが一緒なら大丈夫な気がします。あ、でもラッキーちゃんがいるから食事は家で食べる方がいいです。服もどうせなら下調べしてからの方がいいかなって気がしますし。
だから今日は予定通りいつものお買い物に行きましょう。私も自分で市場へ行くのはものすごく久しぶりですし、それだけで充分楽しみですから」
「わかった」
確かに服屋はネットで評判を調べてからの方がいいかもしれない。
日本の普通の服屋以上に振り幅が大きそうな気がするし。
それに久しぶりの市場なら、それだけでも充分楽しめるだろう。
あと『ミヤさんが一緒なら大丈夫』と言ってくれたのが正直凄く嬉しかったりする。
だから今日は少しばかりリッチにお買い物してみてもいいかもしれない。
◇◇◇
「スケリア島って島なんですよね。だから当たり前なのかもしれないですけれど、こんなに海鮮が充実しているとは思いませんでした」
私自身は自炊しない派。
だから市場の魚屋のある辺りまでは出向かない。
カリーナちゃんも買物を人に頼んでいた。
だから最近はよくある野菜とか牛豚鶏といったメジャーなお肉くらいしか買っていなかったそうだ。
彼女に御願いされる買物リストの食材もそういったものがほとんどだったし。
しかしカリーナちゃんの言葉通り、此処は島だ。
しかもケルキラは港街。
だから行くところへ行けば海鮮はしっかり揃っている。
そしてカリーナちゃんは私と違って料理を楽しむ人だ。
結果、思い切り大人買いをしてしまった。
「お魚を丸のまま買ってさばいてお刺身にするの、楽しみです。何かお祭りとか特別な日って感じで良くないですか?」
帰り道でカリーナちゃんがいかにも楽しみという感じでそう話す。
しかし私にはそのような高度な技能や高尚な趣味はない。
出来るのはただ曖昧に頷く事だけ。
「やっぱり新鮮なお魚はまずお刺身ですよね。マトウダイは半身を刺身、半身をバター焼きにしましょうか。甲イカはやっぱりイカそうめんにして、一部は肝あえというか塩辛にして。
もう考えるだけで楽しいです」
私、やっぱり曖昧に頷くしかない。
「海老は刺身とフライと天ぷらと、あとはサガナキも作ってみたいです。ずっと前に何処か南部の港街で食べたのが美味しかったですから」
ここで私、あれ? と思う。
「サガナキってチーズの揚げ焼きじゃなかったっけ?」
「一人前のフライパンで調理される料理は全部サガナキなんです。基本的にはフェタチーズを焼いたものがメジャーですけれど、小エビやムール貝で作る料理にもサガナキはあるんです。こちらもチーズをたっぷり使うんですけれど」
なるほど。
「ギリシャ料理なのによく知っているよね」
「此処ではギリシャ料理が標準で、それプラス日本の普通の料理という感じです。オデッセイアを世界設定の参考にしていて、此処もギリシャの実在の場所をベースにしているようですから」
そこまで言って一呼吸開け、そして少し声のトーンを落として続ける。
「ただ材料や料理する過程は外の世界そっくりに見えても、本当に同じ味や臭い、かみ応えなのかはわからないんですけれどね。
ミヤさんはどう思いますか、そのあたりは」
難しい質問だ。
ちょっと考えて要点をを整理し、それから口に出す。
「私には此処で今感じている全てが仮想だとは感覚的にはわからない。勿論設定とかで日本と違うというのはわかるよ。魔法なんて力は向こうにはないし、オートコンプリートなんて便利な機能もないし。
それでも私が感じる全ての感覚は、これを仮想だとは感じていない。知識では知っていてもそう思えない。そんなところ」
そこまで言って、そう言えばと思い出して付け加える。
「カレンさんと行った寿司屋でもそんな話を聞いた。魚や貝なんて食材も外に存在しているものは実物を解体してデジタイズしているらしいって。
だから外と違って外れやムラが無いという違いはあるけれど、外でもしっかりお金を出していい素材を使って貰えば、この味になるんだって。だから技法を試したりするのにも此処は便利だって。
つまり感覚そのものについては違いはわからない。それが普通の感覚だと思う」
「違いはない。そう思っていいんですね」
「うん」
私が頷いたのを見て、そしてカリーナちゃんは続ける。
「なら良かったです。
ただ本当はギリシャという遠い国では無く、私の身体がいる筈の日本をベースにした世界の方が良かったです。その方がより現実の世界に近い気がしますから。
ただ現代日本を舞台にしたVRMMOゲームっていいのが無いんです。設定が複雑すぎたり衣装が特殊だったり、操作や動き、感覚に違和感を覚えたり。
だから此処、一番現実に近い動きと感覚で楽しめると言われている、この『パイアキアン・オンライン』にいます。
ところでミヤさんは、何故此処を選んだんですか?」
これは簡単に答えられる。
「日本で一番プレイヤー人口が多いからかな。よく知らないから一番一般的な場所にしようと思って。
あとは中で何をしてもいいという自由さも理由。次は必ず●●しなければならないというのはどうも好きになれない気がしたから」
答えながら感じる。
何か話題、微妙に危険な方へ行っているような気がすると。
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同じ理由で病院組、さっきの人の言い方だと殻人の大部分はここに来ています。
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