フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
39 / 139
第7章 中級薬剤の威力確認

第39話 対ゴースト戦訓練開始

しおりを挟む
 門から中へ入った処にある広場で、いつも通り魔魂草を一通り採った後。

「ミヤさんはゴースト等の死霊系の魔物と戦った事はありますか?」

 カリーナちゃんがそんな質問をしてきた。

「まだ。旧要塞はここの広場までで、あとはコソンキョーリの森の2時間以内で行ける範囲くらいまでだから」

「なら一度ゴーストと戦ってみた方がいいと思いますけれど、どうでしょうか? この先上級の薬草や薬鉱石を採りに行く際、ほぼ間違いなく死霊系の魔物と出会う事になりますから。
 ゴーストは死霊系の基本です。他の死霊系も戦い方は同じなので、まずはゴーストに慣れる事です」

 そうなのか。
 でも死霊系の敵とは聖魔法を使える上級職でない限り戦わない方がいい。
 そう攻略サイトには書いてあった気がする。
 理由は確か……

「物理攻撃が効かなくて動きが速くて魔法を撃ってくるんだよね、死霊系って。さっきの薬剤を使えば攻撃は効くようになるんだろうけれど大丈夫かな」

「そのかわり魔法や精神攻撃、あと魔物不活性化剤イナクティアンデット・死霊系魔物攻撃強化剤ペスティチェ、あと聖水なんかが良く聞きます。攻撃が効けば基本的にHPもDEFも低いので、倒すのは簡単です」

 しかし問題は他にもある。

「でも魔法を使ってくるんだよね、確か」

「ええ。でも魔法も起動して瞬時に発動する訳ではありません。ミヤさんや私のように没入型の筐体を使っていれば、発動したのが見えてから対処しても大抵間に合います」

 えっ?

「見えてからって、見えるの、魔法?」

「ええ」

 カリーナちゃんは頷いて、そして続ける。

「魔法は発動時にその系統特有の光を発するんです。ゴーストが使う水・冷気系統の魔法なら青白い光ですね。その光が発動すべき場所へと飛んで、そして発動して効果を発生するという仕組みになっています。

 ですから発動する前のその光を避ければ魔法を受ける事はありません。他に剣技等をその光にぶつけて魔法を消滅させるなんて方法もあります。

 ですから攻撃魔法も発動が早い特殊なもの以外はそれほど怖くはありません」

 つまり脳筋方式で魔法にも対処出来るという訳か。

 本音を言うと私、そこまで強くなったり錬金術師を極めたりしなくても別に構わなかったりする。
 現実に居場所がなくて、かといって一人で部屋に籠もっているのはあまりに退屈だからゲーム内ここにいるだけ。
 だからある程度の知人と会話して、ラッキー君とまったり生活出来ればそれで充分。

 でもカリーナちゃんと私の間の話題、今のところこのゲームの攻略関係しかない。
 そしてカリーナちゃんが私に教えるという形が一番形として自然だ。
 更に言うとカリーナちゃんとの一緒の生活はラッキー君と2人だけの生活より楽しい。

 だから当分はカリーナちゃんの言う通りゲーム攻略側に動いてみよう。
 という事で返答だ。

「わかった。それじゃゴースト、手頃な場所はどの辺?」

「この正面の建物の中、1階部分が一番手頃です。あまり多数集まってくると魔法への対処が面倒なので、大声でおびき寄せたりせず、ゆっくり探りながら歩いて行く形になります」

「森の中を歩くのと同じ感じでいい?」

「ええ。ゴーストが動くと気配というか特有の音がします。それを聞いて対処する形です」

 幽霊ゴーストの移動音か。
 やっぱり怪談等でよくあるヒュードロドロドロドロという感じなのだろうか。
 多分違うだろうなきっと。
 まあ自分達が立てた音以外に注意すればそう難しくないだろう。

「わかった。じゃあ真っ直ぐ行くね」

「ええ」

 先程入った門と同じような形の扉のない入口を中へ。
 外よりは暗いが灯火魔法が必要な程ではない。
 煉瓦造りの建物の中を注意しながらゆっくり歩く。
 何の気配もないまま交差点というか左右に続く廊下との交点へと到着。

「まっすぐ進むとまた外へと出てしまいます。左右どちらへ行ってもいいのですけれど、とりあえず今日は左から行ってみましょうか」

「わかった」

 廊下の幅は3mくらいと結構広い。
 2人と1匹横並びで歩いて行く。

 どうやらカリーナちゃん、私が歩く速度にあわせてくれているようだ。
 ラッキー君も私とカリーナちゃんの間、ほぼ横並び位置で大人しく歩いている。
 尻尾が立っているのでそれなりに警戒している感じだけれど。

 コーッ、コーッ。
 右前方から聴音検査の低い方に似た感じの音がした。
 これがゴーストの音だろうか。

 私は足を止める。
 音の方に注意しながら短剣ショートソードをいつでも振れるよう、剣の切先を左後方に向ける形で構える。

 対象は廊下の先の方右側。
 白いもやのような何かがすーっと近づいてきた。
 よく見ると輪郭が人間っぽい。
  
「攻撃するね」

「御願いします」

 カリーナちゃんがそう返答するという事は、これがゴーストなのだろう。
 とりあえず先手必勝。
 いつものように剣を横薙ぎに振るう。

『剣技:エア・スラッシュ!』

 見えない刃が波紋のように半円を描いて広がっていく。
 その先端がゴーストらしきものを捉えた。

 キーン!
 高周波音のような響きが一瞬した後。
 白いもやのようなものがふらっと崩れ、すっと姿を消す。
 
『ゴーストを倒した。経験値25を獲得。ゴーストの魔石入手可能です。収納しますか?』

 あっさりいつもの表示が出た。
 剣技の攻撃力が高いのか、アンデット・死霊系魔物攻撃強化剤ペスティチェの威力のおかげなのか。
 いずれにせよ思った以上にあっさり倒せた。
 魔法も特に撃ってこなかったし、こんなものなのだろうか。

 いや、1回だけならまぐれとか運がよかったという可能性がある。
 もう少し回数をこなして確認しておこう。

「それじゃ次、行きます」

 私は再びゆっくり歩きはじめる。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...