フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
38 / 139
第7章 中級薬剤の威力確認

第38話 まずはいつもの相手から

しおりを挟む
 ラッキーの首筋にアンデット・死霊系魔物忌避剤エラービを3滴。
 あと短剣ショートソードアンデット・死霊系魔物攻撃強化剤ペスティチェをやはり3滴。
 
 狂戦士バーサーカー戦斧バトルアックスを選ばなかったのは大きさと重さ。
 通路や屋根のある場所では戦斧バトルアックスは少々大きすぎる。
 軽くて振り回しやすく剣技も出しやすい短剣ショートソードの方がいいだろう。

 カリーナちゃんがコートを脱いでアイテムボックスに仕舞った。
 更に肘くらいまである長い手袋を両手にはめる。
 白い革製で、所々に金属の部品がついたものだ。

「それが武器なの?」

「ええ、シルバーナックルです。爪がついたタイプもありますけれど、何もない方が拳技を出しやすいので。
 対魔属性がついていますから、ゴースト系などの打撃ではダメージを与えられない魔物相手でも大丈夫です」

 つまり戦闘態勢に入ったという事か。

「あと効力7割の魔物不活性化剤イナクティをいつでも出せるように意識しておいて下さい。ゴースト程度なら必要は無いですけれど、レイスが3体以上出た時は使った方が無難です」

「わかった」

 ポケット等に入れるよりアイテムボックスからの方が取り出しやすい。
 だから『意識しておいて下さい』という訳だ。

 ひととおり準備して、そして門のところへ。

「いつもは此処で大声を出してスケルトンを呼び寄せて、集まってきたところでまとめて倒しているんだけれど、今回もそれでいい?」

「御願いします。私の拳技は攻撃範囲があまり広くないので」

「わかった」

 あとはラッキー君にも言っておこう。
 視線をあわせて話しかける。

「これからスケルトンを狩るけれど、いいというまで私の前に出ないでね。わかった?」

 ラッキー君、私に向けてお手のポーズをする。
 本当にわかっているのだろうか。
 非常に不安だなと思ったところで。

「それじゃ私がラッキーちゃんを抑えています」

 カリーナちゃんがそう言ってくれた。

「ありがとう、御願い」

 それなら安心して私も剣技を出せる。
 今まで同様、門の入口から中へ向かってまずは一声。

「あー! おー! いー! うー! えーっ!」 

 威圧がかからない程度にしたので、すぐにスケルトンが動き出す。
 一番近いスケルトンが3m位になるまでひきつけ、短剣ショートソードを全力で横なぎ。

『剣技:エア・スラッシュ(強)』

 最近はこの剣技も大分慣れてきた。
 立ったまま素直に振るだけで強を出せる。
 攻撃が届いたスケルトン7体があっさり倒れて動かなくなった。

 この短剣ショートソード本体には対魔属性は無い。
 だから本当はスケルトンを倒すには最低でも半分以上の骨を切断する必要がある。
 それでは余りに大変、という訳で普段は対魔属性付きの狂戦士バーサーカー戦斧バトルアックスを使う訳だ。

 しかし今回、倒れたスケルトンはそのまま魔石に変わった。

「凄いね、アンデット・死霊系魔物攻撃強化剤ペスティチェの効果」

「アンデットや死霊系の魔物が持つ、物理攻撃の軽減や無効化をほぼ完全に阻害する効果があります。アンデットも死霊系もHPたいりょくDEFぼうぎょりょくは低めなので、物理攻撃さえ普通に通れば簡単に倒せるんです」

 とりあえずこれでアンデット・死霊系魔物攻撃強化剤ペスティチェの威力はわかった。
 あと気になるのは持続時間だ。

「3滴でどれくらいの時間持つの?」

「1時間くらいは効きます。ただし店頭販売価格が1瓶で20,000Cカルコスします。だから中級者くらいまでは使わない人が多いです」

 それだけ持つならこのままこの短剣で戦っても問題無い。
 次のスケルトンどもが近づいてくるのを注視しながら私は考える。
 
 確かに20,000Cカルコスは高価だ。
 うちの家なら3ヶ月近く借りられる。

 薬剤類が全てそこまで高価という訳でも無い。
 例えば初級治療薬ポーションなら1,000Cカルコスだ。
 この辺は材料費の関係なのだろうか。
 それとも需要と供給の関係で価格が違うという事なのだろうか。

 さて、そろそろ頃合いだ。
 スケルトン第2陣を倒すとしよう。

『剣技:エア・スラッシュ(強)』

 スケルトン4体が同時に倒れ、起き上がってこないのを確認しつつ私は話を続ける。

「結構高価なんだね、中級の薬剤は」

「薬草採取場所が結構遠くて魔物も強いですから。普通は冒険者が2日がかり位で採取してきて、その上で錬金術師が調合するんです。
 その上採取ミスや錬金失敗なんて事もあります。だからこれだけの値段でも妥当なところなんです」

 材料費のせいで高価だったようだ。
 納得したところで次のスケルトンに注意しながら計算してみよう。

 スケルトンは1体あたり200Cカルコス
 つまりスケルトンだけなら合計100体は倒さなければならない。
 此処でこうやって狩れるのは1日につき概ね20体前後。
 つまり5日間やらないとマイナスだ。

 しかし薬瓶1本は100ml程度入っている。
 1滴0.05mlとすると2,000滴分。
 つまりこぼしたり使いすぎたりしなければ666時間有効。
 そう考えると余裕で元は取れる。

 それでも初期投資額として1瓶で20,000Cカルコスと考えると、気軽に手を出せるものではない。
 中級の薬剤、やはり高価だ。

 さて、スケルトンが接近してきたので第3弾を出すとしよう。

『剣技:エア・スラッシュ(強)』

 こんな感じで第5弾までやったところでいつもの表示が出た。

『スケルトンを24体倒した。経験値288を獲得。スケルトンの魔石入手可能です。収納しますか?』

 当然はいを選んで、そしてカリーナちゃんに告げる。

「ここは終わったみたい。だから向こう側の庭で魔魂草を採取しようか」

「そうですね。魔魂草は何を作るにせよ使います。確保出来るときに確保しておいた方がいいです」

 2人と1匹で門の向こう側へと向かう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...