36 / 139
第6章 認知と理解と感情の時間差
第36話 薬を試しに出かけよう
しおりを挟む
話が重くなった。
どう返答していいかわからない。
わからないまま、無言の時間が過ぎる。
最初に動いたのはラッキー君だった。
私の前からカリーナちゃんの前へと移動してお座りし、お手の姿勢をとる。
カリーナちゃんはラッキー君のお手に右手を添えた。
ラッキー君はすぐ反対の手でおかわりをする。
ふっと空気がかわった音がした。
もちろん実際に音がしたわけではない。
そう私が感じただけだ。
「すみません。余分な事まで言ってしまいました」
「ううん、ありがとう」
私もカリーナちゃんも少しぎこちなく言葉を交わして、そして。
「それでは料理を続けます」
「うん、それじゃ私は中級に向けて勉強するね。あとこのタオル、ありがとう」
とりあえずこれで普段に少し戻れただろうか。
まだ微妙に緊張感が抜けないけれども。
とりあえずラッキー君には感謝だ。
ただしサービスしてやる必要はない。
今のペースだといつも以上にカリーナちゃんにお裾分けを貰いそうだから。
あとカリーナちゃんの現状、現実での現状についても今は考察したりする事はやめておこう。
話してくれた時に聞けばいい。
私が逃げているだけなのかもしれないけれど。
錬金術の勉強に戻ろう。
初級の錬金術における調合は治療薬類が中心だった。
しかし中級以上になると攻撃補助や魔物忌避等に使える薬が増えてくる。
例えば一時的に身体能力を強化する薬とか、散布するだけで死霊系の魔物を弱体化するような薬とか。
ただし作り方そのものは初級で習った治療薬類とそう変わらない。
混ぜて呪文を唱え魔力を注ぐだけ。
ひととおり読んで、中級と認められるのに必要な薬の調合は概ね理解した。
それでは実践してみるとしよう。
「それじゃお風呂場で幾つか調合してくる。錬金釜を借りるね」
「わかりました」
私は教本を片手に風呂場へ……
◇◇◇
午前中、本を見ながら調合した薬剤は6種類。
○ アンデット・死霊系魔物忌避剤
○ アンデット・死霊系魔物攻撃強化剤
○ アンデット・死霊系魔物不活性化剤
○ 一般魔物・魔獣忌避剤
○ 身体強化薬
○ 鎮痛薬
どうやら人や動物に使うのが薬で、ばらまいたり道具等に塗布したりするものは剤という名前になる模様だ。
ちなみに魔物不活性化剤だけ1回調合に失敗して、効力7割程度のものを作ってしまった。
それ以外は一発で成功。
まあ本を見ながらだけれども。
これでギルド認定錬金術師(中級)を取るのに必要な薬剤はひととおり作った事になる。
薬草もひととおり覚えたので、あとは錬金術ギルドへ行って試験を受けるだけ。
明日か明後日にでも受けてこようか。
試験は3時間くらいかかるらしいので、カリーナちゃんの予定を聞いてからだけれども。
使った錬金釜や金属バット等に清浄魔法をかけたり、風魔法を使って空気を入れ換えたりしていたところでカリーナちゃんから声がかかった。
「きりがいいところで昼ご飯にしませんか」
「わかった。片付け次第行くね」
清浄魔法をかけたものをアイテムボックスに仕舞って、窓を閉じてからリビングへ。
パン、スープ、ハム、サラダ、牛乳という健全なメニューがテーブルに並んでいた。
「いつも御飯ありがとうね」
「いいえ。それより調合の方はどうでした?」
「中級の薬剤はひととおり出来た。1回だけ失敗して効力7割の魔物不活性化剤が出来ちゃったけれどね」
「なら午後、出来た薬剤を試しに行ってみませんか?」
試しに行くか。
「でも雨だよね、外」
「多分もうすぐ止みます。一日中降りっぱなしという事は滅多にありませんから。雨さえ止めば森や街道は無理でも、旧要塞あたりは問題無いと思います」
「水スライムとか残っていないかな」
「屋外部分は多少残っていると思います。でもミヤさんの剣技で水スライムくらいなら一掃できる筈です。多少水が残っていても3回くらい全滅させればもう出てこない筈です」
なるほど。
それなら行きたい。
それに旧要塞入ってすぐの場所のスケルトン退治と魔魂草の採取、カレンさんに頼まれているし。
ただ何となく気になる事がある。
ここは行く前に確認しておこう。
「ところで薬剤を試すのって、旧要塞のどの辺り?」
「内部を少し回ってみようと思っています」
カリーナちゃん、私がいつも行っているより奥まで行くつもりのようだ。
「大丈夫? 私は手前、門から入ってすぐの場所までしか行った事が無いけれど」
「これでも一番奥、ボス2体までクリア済みです。ミヤさんの腕と今回作った薬剤があれば全然問題はありません」
経験者が言うのならきっとそうなのだろう。
でもそういう場所だと……
「ラッキー、連れて行って大丈夫かな?」
「途中でアンデット・死霊系魔物忌避剤を軽く垂らしてやれば大丈夫です。この薬剤は魔獣には害は無いですし、臭いもそれほどありませんから」
なら大丈夫か。
でも一応、本人に聞いておこう。
「ラッキー、この後旧要塞に薬剤を試したり薬草を採りに行ったりするけれど、一緒に行く?」
ラッキー君、ビシッと座ったいい子のポーズになって私の方を見る。
これは連れて行けと言っているのだろう。
まあラッキー君に聞いたらそうなるだろうなとはわかっていたけれど。
基本的に一緒にいたがるから。
「それじゃゆっくり支度して、雨が止んだら出ようか」
「そうですね」
どう返答していいかわからない。
わからないまま、無言の時間が過ぎる。
最初に動いたのはラッキー君だった。
私の前からカリーナちゃんの前へと移動してお座りし、お手の姿勢をとる。
カリーナちゃんはラッキー君のお手に右手を添えた。
ラッキー君はすぐ反対の手でおかわりをする。
ふっと空気がかわった音がした。
もちろん実際に音がしたわけではない。
そう私が感じただけだ。
「すみません。余分な事まで言ってしまいました」
「ううん、ありがとう」
私もカリーナちゃんも少しぎこちなく言葉を交わして、そして。
「それでは料理を続けます」
「うん、それじゃ私は中級に向けて勉強するね。あとこのタオル、ありがとう」
とりあえずこれで普段に少し戻れただろうか。
まだ微妙に緊張感が抜けないけれども。
とりあえずラッキー君には感謝だ。
ただしサービスしてやる必要はない。
今のペースだといつも以上にカリーナちゃんにお裾分けを貰いそうだから。
あとカリーナちゃんの現状、現実での現状についても今は考察したりする事はやめておこう。
話してくれた時に聞けばいい。
私が逃げているだけなのかもしれないけれど。
錬金術の勉強に戻ろう。
初級の錬金術における調合は治療薬類が中心だった。
しかし中級以上になると攻撃補助や魔物忌避等に使える薬が増えてくる。
例えば一時的に身体能力を強化する薬とか、散布するだけで死霊系の魔物を弱体化するような薬とか。
ただし作り方そのものは初級で習った治療薬類とそう変わらない。
混ぜて呪文を唱え魔力を注ぐだけ。
ひととおり読んで、中級と認められるのに必要な薬の調合は概ね理解した。
それでは実践してみるとしよう。
「それじゃお風呂場で幾つか調合してくる。錬金釜を借りるね」
「わかりました」
私は教本を片手に風呂場へ……
◇◇◇
午前中、本を見ながら調合した薬剤は6種類。
○ アンデット・死霊系魔物忌避剤
○ アンデット・死霊系魔物攻撃強化剤
○ アンデット・死霊系魔物不活性化剤
○ 一般魔物・魔獣忌避剤
○ 身体強化薬
○ 鎮痛薬
どうやら人や動物に使うのが薬で、ばらまいたり道具等に塗布したりするものは剤という名前になる模様だ。
ちなみに魔物不活性化剤だけ1回調合に失敗して、効力7割程度のものを作ってしまった。
それ以外は一発で成功。
まあ本を見ながらだけれども。
これでギルド認定錬金術師(中級)を取るのに必要な薬剤はひととおり作った事になる。
薬草もひととおり覚えたので、あとは錬金術ギルドへ行って試験を受けるだけ。
明日か明後日にでも受けてこようか。
試験は3時間くらいかかるらしいので、カリーナちゃんの予定を聞いてからだけれども。
使った錬金釜や金属バット等に清浄魔法をかけたり、風魔法を使って空気を入れ換えたりしていたところでカリーナちゃんから声がかかった。
「きりがいいところで昼ご飯にしませんか」
「わかった。片付け次第行くね」
清浄魔法をかけたものをアイテムボックスに仕舞って、窓を閉じてからリビングへ。
パン、スープ、ハム、サラダ、牛乳という健全なメニューがテーブルに並んでいた。
「いつも御飯ありがとうね」
「いいえ。それより調合の方はどうでした?」
「中級の薬剤はひととおり出来た。1回だけ失敗して効力7割の魔物不活性化剤が出来ちゃったけれどね」
「なら午後、出来た薬剤を試しに行ってみませんか?」
試しに行くか。
「でも雨だよね、外」
「多分もうすぐ止みます。一日中降りっぱなしという事は滅多にありませんから。雨さえ止めば森や街道は無理でも、旧要塞あたりは問題無いと思います」
「水スライムとか残っていないかな」
「屋外部分は多少残っていると思います。でもミヤさんの剣技で水スライムくらいなら一掃できる筈です。多少水が残っていても3回くらい全滅させればもう出てこない筈です」
なるほど。
それなら行きたい。
それに旧要塞入ってすぐの場所のスケルトン退治と魔魂草の採取、カレンさんに頼まれているし。
ただ何となく気になる事がある。
ここは行く前に確認しておこう。
「ところで薬剤を試すのって、旧要塞のどの辺り?」
「内部を少し回ってみようと思っています」
カリーナちゃん、私がいつも行っているより奥まで行くつもりのようだ。
「大丈夫? 私は手前、門から入ってすぐの場所までしか行った事が無いけれど」
「これでも一番奥、ボス2体までクリア済みです。ミヤさんの腕と今回作った薬剤があれば全然問題はありません」
経験者が言うのならきっとそうなのだろう。
でもそういう場所だと……
「ラッキー、連れて行って大丈夫かな?」
「途中でアンデット・死霊系魔物忌避剤を軽く垂らしてやれば大丈夫です。この薬剤は魔獣には害は無いですし、臭いもそれほどありませんから」
なら大丈夫か。
でも一応、本人に聞いておこう。
「ラッキー、この後旧要塞に薬剤を試したり薬草を採りに行ったりするけれど、一緒に行く?」
ラッキー君、ビシッと座ったいい子のポーズになって私の方を見る。
これは連れて行けと言っているのだろう。
まあラッキー君に聞いたらそうなるだろうなとはわかっていたけれど。
基本的に一緒にいたがるから。
「それじゃゆっくり支度して、雨が止んだら出ようか」
「そうですね」
20
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!


ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる