フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

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第6章 認知と理解と感情の時間差

第36話 薬を試しに出かけよう

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 話が重くなった。
 どう返答していいかわからない。
 わからないまま、無言の時間が過ぎる。

 最初に動いたのはラッキー君だった。
 私の前からカリーナちゃんの前へと移動してお座りし、お手の姿勢をとる。
 
 カリーナちゃんはラッキー君のお手に右手を添えた。
 ラッキー君はすぐ反対の手でおかわりをする。

 ふっと空気がかわった音がした。
 もちろん実際に音がしたわけではない。
 そう私が感じただけだ。

「すみません。余分な事まで言ってしまいました」

「ううん、ありがとう」

 私もカリーナちゃんも少しぎこちなく言葉を交わして、そして。

「それでは料理を続けます」

「うん、それじゃ私は中級に向けて勉強するね。あとこのタオル、ありがとう」

 とりあえずこれで普段に少し戻れただろうか。
 まだ微妙に緊張感が抜けないけれども。

 とりあえずラッキー君には感謝だ。
 ただしサービスしてやる必要はない。
 今のペースだといつも以上にカリーナちゃんにお裾分けを貰いそうだから。

 あとカリーナちゃんの現状、現実での現状についても今は考察したりする事はやめておこう。
 話してくれた時に聞けばいい。
 私が逃げているだけなのかもしれないけれど。

 錬金術の勉強に戻ろう。
 初級の錬金術における調合は治療薬ポーション類が中心だった。

 しかし中級以上になると攻撃補助や魔物忌避等に使える薬が増えてくる。
 例えば一時的に身体能力を強化する薬とか、散布するだけで死霊系の魔物を弱体化するような薬とか。
 ただし作り方そのものは初級で習った治療薬ポーション類とそう変わらない。
 混ぜて呪文を唱え魔力を注ぐだけ。

 ひととおり読んで、中級と認められるのに必要な薬の調合は概ね理解した。
 それでは実践してみるとしよう。

「それじゃお風呂場で幾つか調合してくる。錬金釜を借りるね」

「わかりました」

 私は教本を片手に風呂場へ……

 ◇◇◇

 午前中、本を見ながら調合した薬剤は6種類。
 ○ アンデット・死霊系魔物忌避剤エラービ
 ○ アンデット・死霊系魔物攻撃強化剤ペスティチェ
 ○ アンデット・死霊系魔物不活性化剤イナクティ
 ○ 一般魔物・魔獣忌避剤アボウレ
 ○ 身体強化薬コンフィルマ
 ○ 鎮痛薬アナジェジア

 どうやら人や動物に使うのが薬で、ばらまいたり道具等に塗布したりするものは剤という名前になる模様だ。
 ちなみに魔物不活性化剤イナクティだけ1回調合に失敗して、効力7割程度のものを作ってしまった。
 それ以外は一発で成功。
 まあ本を見ながらだけれども。

 これでギルド認定錬金術師(中級)を取るのに必要な薬剤はひととおり作った事になる。
 薬草もひととおり覚えたので、あとは錬金術ギルドへ行って試験を受けるだけ。

 明日か明後日にでも受けてこようか。
 試験は3時間くらいかかるらしいので、カリーナちゃんの予定を聞いてからだけれども。

 使った錬金釜や金属バット等に清浄魔法をかけたり、風魔法を使って空気を入れ換えたりしていたところでカリーナちゃんから声がかかった。

「きりがいいところで昼ご飯にしませんか」

「わかった。片付け次第行くね」

 清浄魔法をかけたものをアイテムボックスに仕舞って、窓を閉じてからリビングへ。
 パン、スープ、ハム、サラダ、牛乳という健全なメニューがテーブルに並んでいた。

「いつも御飯ありがとうね」

「いいえ。それより調合の方はどうでした?」

「中級の薬剤はひととおり出来た。1回だけ失敗して効力7割の魔物不活性化剤イナクティが出来ちゃったけれどね」

「なら午後、出来た薬剤を試しに行ってみませんか?」

 試しに行くか。

「でも雨だよね、外」

「多分もうすぐ止みます。一日中降りっぱなしという事は滅多にありませんから。雨さえ止めば森や街道は無理でも、旧要塞あたりは問題無いと思います」

「水スライムとか残っていないかな」

「屋外部分は多少残っていると思います。でもミヤさんの剣技で水スライムくらいなら一掃できる筈です。多少水が残っていても3回くらい全滅させればもう出てこない筈です」

 なるほど。
 それなら行きたい。
 それに旧要塞入ってすぐの場所のスケルトン退治と魔魂草の採取、カレンさんに頼まれているし。

 ただ何となく気になる事がある。
 ここは行く前に確認しておこう。

「ところで薬剤を試すのって、旧要塞のどの辺り?」

「内部を少し回ってみようと思っています」

 カリーナちゃん、私がいつも行っているより奥まで行くつもりのようだ。

「大丈夫? 私は手前、門から入ってすぐの場所までしか行った事が無いけれど」

「これでも一番奥、ボス2体までクリア済みです。ミヤさんの腕と今回作った薬剤があれば全然問題はありません」

 経験者が言うのならきっとそうなのだろう。
 でもそういう場所だと……

「ラッキー、連れて行って大丈夫かな?」

「途中でアンデット・死霊系魔物忌避剤エラービを軽く垂らしてやれば大丈夫です。この薬剤は魔獣には害は無いですし、臭いもそれほどありませんから」

 なら大丈夫か。
 でも一応、本人に聞いておこう。

「ラッキー、この後旧要塞に薬剤を試したり薬草を採りに行ったりするけれど、一緒に行く?」

 ラッキー君、ビシッと座ったいい子のポーズになって私の方を見る。
 これは連れて行けと言っているのだろう。
 まあラッキー君に聞いたらそうなるだろうなとはわかっていたけれど。
 基本的に一緒にいたがるから。

「それじゃゆっくり支度して、雨が止んだら出ようか」

「そうですね」
 
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