フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

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第4章 わんこと暮らせる家を借りよう

第23話 私とラッキーの家探し

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 30代前半くらいの男性担当に提示した条件は、
  ○ 予算は月額8,000Cカルコスまで
  ○ 敷地の広さ300m²以上
  ○ ケルキラの街壁の内側
の3点。

 この条件で担当さんが持ってきてくれた物件資料は8件。
 その中からカレンさんに助言して貰いつつ絞る。

「この物件は街中心部まで近いですよね」

「でもその辺、治安は良くないわよぉ。ミヤちゃんなら腕力で制圧できるとは思うけれどぉ」

 そういう事態は想定したくない。

「やめときます。なら、これは?」

「程度Dというのがちょっとねぇ。そのままでは住めないから補修が必要という意味よ、これぇ」

「なるほど、わかりました。ならやめておいた方がいいですね」

 DIYはやった事が無いから却下だ。
 現実の不動産探しと同じだなと私は思う。
 安い物には訳がある。
 よほどの場合を除いては掘り出し物というのは無い模様。

 そんな感じで検討を重ねた結果。

「これがベストでしょうか。庭が広いですし、程度Bですし、場所も南西の門と錬金術ギルドの中間くらいですから」

 家は平屋でそう大きくない。
 でも1人暮らしなら充分以上。
 敷地面積が300m²ちょいあるので、ラッキー君が走り回るのにいいだろう。

 欠点は日常の買物をする市場まで1km、スケルトンいじめと魔魂草採取が出来る東の旧要塞まで1.5kmあるところ。
 でもそれくらいの距離、東京の通勤事情を思えば大した事はない。 
 なお家賃は月額7,000Cカルコス
 カレンさんが最初に言った通りだ。

「そうね。森で薬草採取と魔物・魔獣討伐をするという条件ならこれが一番だと思うわぁ。ミヤちゃんのこれからの生活パターン、それでいいのよね」

 その通りだ。
 ラッキー君がいるから屋外活動中心の方がいい。

「ただ決める前に実際に見てみた方がいいわ。これって下見、できるわよねぇ」

 担当さんは頷く。

「ええ。案内はつきませんが御自分の目で見て確かめる事が出来ます。ご覧になりますか」

「勿論よ、御願い♡」

「わかりました。それではこれが魔法鍵です。明日の正午まで有効ですので、それまでに下見をして、鍵をご返却下さい」

 カード状の鍵を受け取って、早速下見だ。
 商業ギルドから西側へ向かう通りを歩いて行く。
 左右は1階は店舗、2階と3階は集合住宅という建物が多い。

「この辺りのお店もほとんどはNPCなんですか?」

「9割はNPCよ。でもプレイヤーのお店や現実のお店とのタイアップなんてのもあるから、じっくり見てみると面白いわよぉ」

 幾つかブロックを過ぎたら完全な住宅地になった。
 一戸建て庭付きという家が並んでいる。
 家や庭の広さは日本のニュータウン等よりやや広めかな。
 壁や塀の色がテラコッタ等の暖色系で、少し日本の住宅地とは雰囲気が違う。

 ふと疑問が生じたので聞いてみた。

「私はラッキー君がいるから庭付きが欲しいと思ったんですけれど、他の人は庭を何に使っているんでしょうか?」

「色々よぉ。冒険者が訓練用に使っている事もあるし、ガーデニングが趣味という人もいるわ。錬金術だって炎を上げたりして特殊な建物か屋外でしか出来ないような錬成方法があるしね。
 家も生活場所の他に工房として使っている人もいるし。現実で出来ない事をするのもゲームの楽しみ方だしねっ♡」

 なるほど、ゲームと言ってもこういったVR系だと人によって楽しみ方は異なると。

「あと塀が高くて頑丈そうですね。治安が悪いんですか?」

「侵入盗対策ではないわよぉ。この塀は魔法・魔術対策♡ ある程度の威力の魔法を中でぶっ放しても、外に影響が出ないようによぉ」

「塀で魔法を防げるんですか?」

「都市破壊級の大魔法なら別だけれどね。もちろん壁そのものの物理的強度だけではなく、魔術的な措置もしてあるのよ。私のダーク☆エンジェル☆ラッシュでもヒビが入る程度だからぁ」 

 ちょっと待ってくれカレンさん。

「試したんですか!?」

「考察と検証は重要よぉ。特に攻略勢にとってはねっ♡」

 そんな話をしながら、時折交差点に出ている住所表示を確認しつつ歩く事10分弱。
 大通りから3ブロックほど入った塀の長さ的には高級住宅街という感じの場所に物件があった。

 金属製の頑丈そうな門に魔法鍵を当てる。
 カチッと音がした。
 カレンさんがノブを捻ると、門扉が開く。
 中は……

「あらあら、お庭は整備が必要な感じねぇ」

 思い切り雑草だの雑木だのが蔓延っている。
 庭と言うよりむしろ雑木林という感じだ。

「これって専門の業者を呼んだ方がいいんですか?」

 私が草刈り、いや開拓できるような状態とは思えない。
 でもカレンさんは首を横に振る。

NON-NONノンノンこんなの簡単よぉ。ミヤちゃんなら10分もかからないと思うわ。もちろん現実そとの時間じゃなくてゲーム内こっちの時間でねっ」

 とてもそうは思えない。

「どうするんですか?」

「まずは門をしっかり閉めて、家のすぐそばまで行くわ。そこまでの道は私が拓くから安心してねっ♡」

 カレンさんはそう言って門扉を閉め、そして右手に剣を取り出す。
 刀身が短めかつ分厚く湾曲している剣だ。

「私専用に乱戦用として作った柳葉刀よ。戦闘以外にこういった場所での草刈りにも便利なのぉ」

 そう説明した後、ばっさばっさと前方の雑木や雑草を切り裂いていく。
 20m近く切り拓いてやっと玄関まで到着した。

「家そのものは割と最近整備されたようですね。色も綺麗ですし」

「この辺は永続魔術を使っているという設定よ。さて、まずは中を確認するわ。この家で良ければ庭の整備方法を実践するわよぉ」

 そんな訳で中を確認。
 外見も内装も洋式の造りに見えるけれど、玄関は靴を脱いであがる形式。
 これは日本用の仕様としてこうなっているのだろうか。

 さっと一通り部屋を見てみる。
 間取りは書類に書いてあったとおり、2LDK&作業室兼倉庫という造り。

 部屋や廊下等の壁や天井、床は暗めの色の木製で落ち着いた感じ
 トイレも風呂もちゃんとあるし、そこそこ清潔で問題無い。
 リビングも寝室2つも窓が大きくて明るくいい感じ。
 リビングダイニングの対面式キッチンも使いやすそうだ。

 ベッドやテーブル等、最低限の家具はある。
 それぞれ1つずつ、つまり1人用という感じだけれど。

 布団やテーブルクロスは買ってこなければならないし、鍋釜類なんてのも包丁も無い。
 でもクエスト報酬で貰った寝袋や野宿セットを使えば今日から生活出来そうだ。

「中は結構いいと思います。だからあとは庭ですね」
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