フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

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第4章 わんこと暮らせる家を借りよう

第22話 家、借りに行こう

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 別の街に行く、か。
 言われてみれば確かにそういう選択肢もある訳だ。
 その場合、此処で家を購入なんてしたら面倒な事になる。

「カレンさんはどうしてこの街にいるか、聞いてみていいですか?」

「この街のギルドが一番やりがいがあると感じたから、かしらぁ」

 少し考えるように間を置いて、そして続ける。

「ここケルキラの街はパイアキアン・オンラインのスタート地点で、なおかつこの島の出入口なの。だからゲームをはじめたばかりの初心者から、もうすぐこの島から旅立つ事になる中級者まで数多くの人がいるわ。武器や防具、道具等のレベルも下からそこそこ上のものまで揃っている。

 だから錬金術ギルドとしても初心者から中級者まで、幅の広い層を相手に出来る。お薬や道具だって誰でも買える安いものから完全復活可能なあたりまで用意しなければならない。

 つまりやる事の幅が広いワケ。その分工夫する余地があるし、ワタシの裁量で変えられる事が多いのよ。
 とまあ、そんな感じかな」

 なるほど。
 そう思ったら、まだカレンさんの話は続くようだ。

「もちろんケルキラのこの街にも欠点はあるわよ。周囲の街に比べると家賃を含めて物価が少しお高めだし、ある程度以上珍しい薬草が採取できる場所が近くにないしぃ。

 ただこのパイアキアン・オンラインの世界に慣れていなくて、なおかつそこそこ稼げる人だったら、最初の拠点としては悪くないと思うわよ。

 さっき言った通り、中級のものまで一通り揃っているし、珍しいというレベル以外のものは大抵手に入るしね」

 なるほど、カレンさん的にはこの街、結構おすすめという事か。
 なら取り敢えず最初の家はこの街でいいのかなと思う。
 どうせ時間はたっぷりあるのだし。

「家を借りるには商業ギルドへ行けばいいんですか?」

「そうよぉ。何なら今からでも行ってみる? 商業ギルドは遅くまでやっているからまだまだ間に合うわ。もし行くなら私も付き合うわよぉ」

 それは助かる。
 何せゲーム的常識もこの世界の常識もまだまだ足りない状態だから、私は。
 商業ギルドの場所すら知らなかったりするし。
 でもちょっと疑問と言うか不安はある。

「カレンさん、このギルドの方はいいんですか、留守にして」

「一般の受付はお店の方だし、心配はいらないわよぉ。それにこっちも私がいない間はデミオ君が対応してくれるしぃ」

「すみません。それではお願いしていいでしょうか」

「もちろんよぉ」

 カレンさん、ガッツポーズ。
 右腕の筋肉の盛り上がりが冗談みたいなレベルだ。

 ◇◇◇

 商業ギルドへ向かって歩きながら、どんな家がいいかを話し合う。

「ラッキーちゃんならある程度走り回れる広さの庭があった方がいいわよねぇ。錬金術師なら家やギルドで錬金する時間なんてのもあるしぃ」

 確かにそうだなと思う。
 ボーダーコリーは運動量が必要な犬種だ。
 ボーダーコリー系雑種に見えるラッキー君もきっとそうだろう。

「でもそれだと家賃、高くなりませんか?」

「街の中心部だと高いどころか物件そのものが無いと思うわよぉ。でも西側、森に近い方ならそうお高くないわ。街の中心から1kmくらい離れるけれど、自分で薬草採取するならそっち側の方が便利だしねっ♡」

 なるほど。

「そちら側だと薬草を採取できるんですか?」

「西北西にあるエブロプーリの森、南西のコソンキョーリの森どちらでも採れるわよぉ。コソンキョーリの森の方がいい薬草が多いけれど、その分魔物や魔獣が強いって感じ。

 でもまあ、あまり奥まで行かなければ今のミヤちゃんなら大丈夫だと思うわよぉ。具体的には森の中へ入って1時間以内の場所なら、出てもせいぜいスケルトンやスライム位だからぁ」

 確かにそのくらいなら大丈夫だ。
 何ならラッキー君だけでも問題ない。

「予算はどれくらいが相場ですか?」

「月あたり7,000Cカルコスくらいで充分じゃないかしら。それくらいなら今のミヤちゃんなら余裕よね」

「余裕という程でもないですけれど、大丈夫です」

 旧要塞でスケルトンいじめを2回やればそれくらいは稼げる。
 だから問題は全く無い。
 なんて思ったところでカレンさんは立ち止まった。 

「到着よん。この紋章が商業ギルドだから、他の街に行った時には思いだしてねっ」

 お金が入った革袋、という感じの紋章だ。
 わかりやすくていい。
 なお建物はやっぱり明るいテラコッタ風の色。
 ただ錬金術ギルドより大きく、人の出入りも多そうだ。

 中へ入る。
 間取りは役場と同じような感じ。
 入ってすぐの場所に受付カウンターがあり、奥にずらっと番号がかかれた窓口がある形。

「いらっしゃいませ。どんなご用件でしょうか?」

 受付カウンターのお姉さんから声をかけられる。

「貸家を見たいの。ケルキラの街壁内の一軒家でO・NE・GA・I♡」

「わかりました。3番の窓口になります。こちらをお持ちになってお待ち下さい」  
 
 カレンさんのウィンクに全く反応せず、受付のお姉さんは3と書かれた金属板を渡してくれる。
 きっとこのお姉さん、NPCなのだろう。
 カレンさんの判断方法では。

 待合スペースにはそこそこ人が多い。
 これは結構時間がかかるかな。
 そう思いつつ自分の番がくるのを待つ。

 3番の窓口は3箇所の応対スペースがあって、それぞれ係員が応対している。

錬金術うちのギルドもこれくらいお客さんが来る日を目指しているんだけれどねぇ」

「お店の方は結構繁盛しているじゃないですか」

「それでも店員2人と製作2人で間に合う程度だからねぇ」

 なんて話しているとカレンさんが持っていた金属板が振動を始めた。

「思ったより早かったわねぇ」

 立ち上がって、空いた窓口へ向かう。
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