フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

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第4章 わんこと暮らせる家を借りよう

第21話 実はクエストだったのです

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 ラッキー君を船に乗せるのは全く問題なかった。
 
「この島にも犬がいたんだな。人がいなくなって大分経つし、犬ももういなくなったと思っていた」

 船を出してくれたおじさんがそう言っただけ。
 ラッキーも大人しく船に乗ってくれた。
 海は荒れることもなく、快晴で風も波も穏やかな状態。
 なのであっさりケルキラの港へと戻って来る事が出来た。

 街でも首輪をしたりリードで繋いだりする必要はなかった。
 他にも魔犬らしい犬を連れて歩いている人がいたし、それを周囲の人が咎めたり奇異な目で見ていたりなんて事も無い。

 ラッキー君も街では大人しく私の横をついて歩いてくれた。
 やっぱりこの子、賢い。
 あと時々振り返って私を確認する仕草が可愛い。

 港からまっすぐカレンさんが待つ錬金術ギルドへ。
 ただギルドの建物内にラッキー君が入っていいかはわからない。
 だから入口から中を覗き込んで声をかける。

「ただいま帰りました」

「あらお帰り、ミヤちゃんそこでどうしたの?」

「仲間にしたわんこが一緒なんです。ですから入っていいかわからないので」

「大丈夫よぉ。一緒に入っていらっしゃぁい」

 おっと一安心。
 でも一応私とラッキー君に清浄魔法をかけて、それから中へ。

「お疲れ様。かわいいわんちゃんね。島で一緒になっテイムしたのぉ?」

 ラッキー君、カレンさんを見ても特に警戒するような様子はない。
 そこにちょっと安心しつつ、頷いて返答する。

「ええ。チャペルのところで」

「それにしてもあの島にわんこがいたなんて知らなかったわぁ。今まで調査や採取、整備で何人か行って貰っているけれど、そういう報告はなかったしね」

 いつもの通りのカウンターの席に腰掛けると、ラッキー君は足下にお座りする。
 なでなでしようと思って手を伸ばしたが微妙に届かない。
 仕方ないので椅子から降りてラッキー君の横にしゃがみ、なでなでしながら会話継続。

「そんな事まで報告を受けているんですか?」

「当然よぉ~。薬草を採りに行った人が危険な目にあったらまずいでしょお。
 ちょっと待ってね。わんちゃん用にお水を用意するからぁ」

「ありがとうございます」

 カレンさん、見た目や口調と違って気がきくし、言っている内容もまともなんだよな。
 なんて失礼な事を思ったりする。

 深めのお皿に水が入り、ラッキー君がぴちゃぴちゃやり始めたところで話を再開。

「それで薬草の方はどぉ?」

「ノルマはクリアしました。ここで出していいですか?」

「勿論よぉ。O・NE・GA・I♡」

 なら遠慮無く。
 立ち上がってアイテムボックスから50kg近い薬草を一気に出す。
 これだけでカウンター、目一杯だ。

「ありがと。今ここで計算するからまっててぇ」

 カレンさんは薬草を全てアイテムボックスに収納した後、猛烈な速度でメモをする。
 メモを私に見せて確認。

「今回の薬草、この量でいいか確認御願い」

 見てみる。
 種類ごとの量だけでなく、金額までしっかり入っていた。

「こんなに早く確認と金額計算まで出来るんですか」

「うふっ、簡単よぉ。アイテムボックス収納で種類と分量をだして、オートコンプリートで書いているだけだからぁ」

 なるほど、そんな技もある訳か。
 そう思いつつ数値に目を通す。
 大丈夫、私のアイテムボックスに入っていた量と同じだ。
 カレンさんのする事だから疑ってはいないけれど。

「確認しました。大丈夫です」

「それじゃ買い取り代金よぉ。これも確認してね」

 銀貨大小、銅貨大小で渡されたお金を確認。
 大丈夫、4,970Cカルコスある。

「確認しました。確かにあります」

「それじゃこれで『ヴィード島薬草採取クエスト』終了ねっ」

 クエスト?
 この言葉には覚えがある。
 確かゲーム内で何らかの条件を満たすと発生する、サブシナリオの事だ。

「この薬草採取、クエストだったんですか?」

「実はそーなのよぉ」

 バチッと火花が散るようなウィンクひとつした後、カレンさんは続ける。

「このクエストは
 ① ゾンビを1人で倒せる実力があって、
 ② 基本薬草5種類を知っている錬金術スキル持ちが
 ③ ケルキラの錬金術ギルドここを訪問すること
で発生するのぉ。
 もちろん発生させるかどうかは支部長マスターである私がある程度決められるのだけれどね。

 標準の報酬はテント、シート、寝袋、マット、食器といった長期旅行用セット一式。これは隣の売店で売っている物と同じよぉ」

 なるほど。
 そうすればだ。

「それじゃこの斧、いいんですか? クエストの報酬外ですよね」

「私はもう使わないしね。それに前も言ったけれど、確実に使える子に有効に持って貰った方がいいでしょ♡」

「ありがとうございます」

 有り難く使わせて貰うとしよう。
 それじゃ次の質問だ。

「魔犬がテイム出来たのも、そのクエストのおかげですか?」

NON・NONノン・ノン。その子はクエストとは別の条件だと思うわよぉ。このクエスト、NPCなら既に2人程やらせてみたけれど、わんこをテイムして帰ってきた子はいなかったからぁ♡。

 というか、ヴィード島にわんこがいるという話そのものを聞いた事が無いわ。
 何らかの事情で最近島にやってきたのか、それとも何か出会うのに必要な条件があるのか。その辺はわからないけれどねっ」

 なるほど。

「さて、それでミヤちゃん、この後住む場所とかどうするの? 今日は此処の部屋でいいとして、ずっと此処だとその子、運動不足になっちゃうでしょ。
 何処か別の街へ行くなら別だけれど、そうでなければ家を借りた方がいいと思うわよぉ」

 そうだ、その事をカレンさんに相談しようと思っていたのだ。
 しかし別の街へ行くなんて選択肢は考えていなかった。

「別の街へ行くってどういう事ですか?」

「ケルキラはパイアキアン・オンラインこのゲーム最初の街だからね。出てくる魔物なんかが弱いし、お金も稼ぎにくいのぉ。
 一般にゲームとして楽しむなら、より魔物なんかが強くて稼げる方へ行くのよ、プレイヤーの大部分は」

 そう言われても、その感覚がわからない。
 魔物や魔獣が弱いのなら住みやすくて良いのではないだろうか。
 東の要塞でスケルトンいじめをすれば、それなりにお金を稼げるし。

「わざわざ魔物が強い場所へ行くんですか?」

「ゲーマーってそんなものなのよぉ。まあ私もそうだったんだけれどねぇ」

■■■■■■■■■■

※ 魔犬に出会う条件は『出会う可能性がある場所に行った際、身体からゾンビやグールの腐臭がしていない事』です。
 魔犬は嗅覚が優れている為、その辺りの魔物の臭いを嫌っている、というのが理由です。
 また他に隠しパラメーターのCHRみりょく値が高い等の条件があったりもします。
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