フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

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第3章 はじめての依頼と新しい仲間?

第18話 ゾンビ蹂躙と新たな出会い

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 進むごとに異臭はますます強くなる。
 蛋白質の腐った臭いというか、生ゴミが更に腐ったような臭いというか、とにかく悪臭だ。

 まだ集落っぽい場所は見えていない。
 しかしそろそろ危険な感じがする。
 大声作戦を開始するとしよう。

「あー! おー! いー! うー! えーっ!」 

 大声、ただし威圧にならない程度で。
 この辺りは東の要塞でスケルトン相手にやっている。
 だから大分慣れた。

 ガサッ、ズサッ。
 ズーズーズー。
 明らかに今までと違う音と気配がした。
 危険な悪臭がいっそう強くなる。

 そうだ、悪臭防護オードルプライブ
 講習で学んだ魔法を起動する。
 本来は作成途中にとんでもない悪臭を放つ薬を調合する時に使う魔法。
 でもゾンビの悪臭にも効果があるらしい。

 悪臭が一気に5%位まで減った。
 全く無くなる訳ではないけれど、大分楽にはなった。
 それでは一狩り、はじめよう。

 出てきた出てきた。
 灰色や緑色に腐った感じの、元人間という感じの魔物が。
 服も破れたり変色していたりしているが一応着てはいる。
 ただし顔は半ば腐り落ちていて生前どんな顔だったかはわからない。

 映画等に出てくるゾンビというよりもっと『腐った死骸』という感じ。
 それがひいふうみい……見えるだけで6体はいる。

 ただし動きは無茶苦茶遅い。
 スローモーションがかかっている感じだ。

 衛生的に危険そうで出来れば近寄りたくない。
 しかし危険回避の為には倒してしまった方がいいだろう。

 なら捕まれたりする前に先手必勝。
 一気に近づいて斧で思い切り胴体の中心を薙ぎ払う。

 重くてどろっとした感じの手応えがした。
 ゾンビは断ち切られた胴体部分からくしゃっと横へと倒れる。

 しかしまだ油断はしない。
 倒れた頭に斧を振り下ろす。
 くしゃっという感触とともに頭が潰れた。

 他のゾンビを警戒しながら、倒したゾンビを少しだけ観察。
 どうやらこれで動かないようだ。
 いきなり足首を捕まれるというゾンビお約束の展開もない。
 勿論注意はしているのだけれど。 
    
 では一気に倒してしまおう。
 薙ぎ払って、どついて、叩き潰して。
 動きが遅いから横方向や後ろ方向から一気に近づけば、ゾンビが反応する前に片付けられる。

 倒して、そしてまた次を倒して。
 都合8体倒したところでメッセージが出た。

『腐乱ゾンビを8体倒した。経験値112を獲得。腐乱ゾンビの魔石を入手可能です。収納しますか?』

 メッセージが出たという事は、この場所のゾンビは以上という事だろう。
 魔石は勿論回収、あと自分と斧に清浄魔法をかけて、そして更に先へ。

 左へのカーブを曲がると廃屋が見えた。
 蔓性の植物に覆われているけれど、石造りだからか建物の形はしっかりしている。

『魔魂草を発見しました。採取しますか?』

 採取しつつ考える。
 まだまだゾンビ、いるだろうなと。
 ならば先程と同じ、大声作戦だ。

「あー! おー! いー! うー! えーっ!」 

 ガサッ、ズズズーッ。
 先程と同じ様な気配が周囲からしはじめた。
 私は斧を構え、そして周囲を観察して一番近いゾンビをめがけ……

 ◇◇◇

「あー! おー! いー! うー! えーっ!」 

 大声作戦をしてももうゾンビは出てこない。
 ひととおり倒した様だ。

 ここまで対ゾンビ戦を4回。
 倒した数は合計33体。
 稼ぎそのものはいいのだろうけれど、この悪臭、髪や服に染み付いていないだろうか。
 一応戦闘終了事に清浄魔法をかけてはいるけれど気になるところだ。

 それでも念の為、もう一度全身に清浄魔法をかける。
 ゾンビはいないようだし、歩くのに邪魔なので斧をアイテムボックスに収納。
 石畳の道を北、坂を登る方向へと進む。

 ギルドに帰ったら薬草風呂でも入ろうかな。
 臭い消し薬の調合も習っているし。
 なんて事を考えながら更に進むとようやく今までと異なった雰囲気の建物が出てきた。

 これがカレンさんが言っていたチャペルだろう。
 ならここで一気に薬草採取が出来る筈だ。
 そう思って近づこうとした時、ふと何かの気配を感じた。
 斧を出すべきだろうか、一瞬考える。

 ガサガサ、ガサガサ。
 ゾンビでは無い。
 草丈よりやや低めの何かのようだ。
 斧を出した方がいいだろうか。

 カレンさんの説明によると、此処に出てくる魔物や魔獣は、
  レイス、グール、ゾンビ、ノロイグアナ、スライム、デミスライム
だった筈。

 この中だとノロイグアナかスライムか。
 どちらも急に飛びかかってくるタイプではない。
 なら少し様子を伺おう、そう思った時だった。

 白い塊が草をかき分けて出てきた。
 スライム? いや犬だ。

 白っぽい色でやや毛が長めで顔の周辺にたてがみ風の毛があるサモエド、いやボーダーコリー系の雑種という感じのわんこ。
 大きさは大型犬と中型犬の間くらいだろうか。
 ただ大きさの割に足がぶっとい。
 あと全身に白くて長い毛がもっさり生えている。

 見た感じ敵意は無さそうだ。
 昔犬を飼っていたのである程度はわかる自信がある。

 わんこはお座りしてこちらを見ている。
 ピンクの鼻と茶色い目がなかなか可愛い。
 やはり襲おうとか敵意がありそうな感じでは無い。
 何か言いたげに様子を見ているという感じだ。

「どうしたの?」

 試しに声を出して聞いてみる。
 わんこは鼻先を上げてこちらを見た。
 やはり何か言いたげ。
 でもお座りしたままだ。

「誰か待っているの? それとも私に何か用事?」

 わんこは頷くように頭をくんくんと上下させ、きゅう、と小さな声で鳴いた。

 近づいても大丈夫かな、そう思って思い出す。
 アイテムボックス内に昼食用に買ったギロスがあったなと。

 アイテムボックスからギロスの肉部分だけを出す。
 しかし味つけしてある肉は犬の健康には良くない。
 だから一度自分の口の中に入れて、ソースだの香辛料だのをなめ取ってから手に出す。
 行儀は悪いがしかたない。

 手で持っていくとがぶりとされる可能性が否定できない。
 わんこだっていきなり手を近づけられては怖いだろう。
 だから薬品調合時に使う平皿をアイテムボックスから出して、清浄魔法をかけた後に中に肉を入れる。

 肉の入った皿を持って、ゆっくりと近づく。
 5mくらい、まずはこれが限度かな。
 皿を置いて、そして私は3mくらい下がる。

「食べていいよ。私が口に入れたのを見れば毒じゃないのはわかるでしょ」

 言葉が通じるかは不明。
 でもわんこって案外賢い。
 言葉そのものがわからなくても、言わんとしている事を雰囲気で理解出来る生き物だ。
 人に可愛がられている、あるいは可愛がられていたわんこなら。

 わんこはゆっくり皿に近づいて、まずは肉を一なめ。
 大丈夫と判断したようで、バクバクと食べる。
 あっという間に皿の中が空になった。
 しっかり皿の中をなめ尽くしてから、わんこは私の方を見る。

 きゅう、きゅう。

 毎度お馴染み半透明のメッセージが出た。

『魔犬が仲間になりたがっています。連れて行きティムしますか?』

 魔犬?
 このわんこ、ひょっとして魔獣なのだろうか?
連れて行きティムしますか?』なんて聞かれたけれど、連れて行っていいのだろうか?
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