フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
18 / 139
第3章 はじめての依頼と新しい仲間?

第18話 ゾンビ蹂躙と新たな出会い

しおりを挟む
 進むごとに異臭はますます強くなる。
 蛋白質の腐った臭いというか、生ゴミが更に腐ったような臭いというか、とにかく悪臭だ。

 まだ集落っぽい場所は見えていない。
 しかしそろそろ危険な感じがする。
 大声作戦を開始するとしよう。

「あー! おー! いー! うー! えーっ!」 

 大声、ただし威圧にならない程度で。
 この辺りは東の要塞でスケルトン相手にやっている。
 だから大分慣れた。

 ガサッ、ズサッ。
 ズーズーズー。
 明らかに今までと違う音と気配がした。
 危険な悪臭がいっそう強くなる。

 そうだ、悪臭防護オードルプライブ
 講習で学んだ魔法を起動する。
 本来は作成途中にとんでもない悪臭を放つ薬を調合する時に使う魔法。
 でもゾンビの悪臭にも効果があるらしい。

 悪臭が一気に5%位まで減った。
 全く無くなる訳ではないけれど、大分楽にはなった。
 それでは一狩り、はじめよう。

 出てきた出てきた。
 灰色や緑色に腐った感じの、元人間という感じの魔物が。
 服も破れたり変色していたりしているが一応着てはいる。
 ただし顔は半ば腐り落ちていて生前どんな顔だったかはわからない。

 映画等に出てくるゾンビというよりもっと『腐った死骸』という感じ。
 それがひいふうみい……見えるだけで6体はいる。

 ただし動きは無茶苦茶遅い。
 スローモーションがかかっている感じだ。

 衛生的に危険そうで出来れば近寄りたくない。
 しかし危険回避の為には倒してしまった方がいいだろう。

 なら捕まれたりする前に先手必勝。
 一気に近づいて斧で思い切り胴体の中心を薙ぎ払う。

 重くてどろっとした感じの手応えがした。
 ゾンビは断ち切られた胴体部分からくしゃっと横へと倒れる。

 しかしまだ油断はしない。
 倒れた頭に斧を振り下ろす。
 くしゃっという感触とともに頭が潰れた。

 他のゾンビを警戒しながら、倒したゾンビを少しだけ観察。
 どうやらこれで動かないようだ。
 いきなり足首を捕まれるというゾンビお約束の展開もない。
 勿論注意はしているのだけれど。 
    
 では一気に倒してしまおう。
 薙ぎ払って、どついて、叩き潰して。
 動きが遅いから横方向や後ろ方向から一気に近づけば、ゾンビが反応する前に片付けられる。

 倒して、そしてまた次を倒して。
 都合8体倒したところでメッセージが出た。

『腐乱ゾンビを8体倒した。経験値112を獲得。腐乱ゾンビの魔石を入手可能です。収納しますか?』

 メッセージが出たという事は、この場所のゾンビは以上という事だろう。
 魔石は勿論回収、あと自分と斧に清浄魔法をかけて、そして更に先へ。

 左へのカーブを曲がると廃屋が見えた。
 蔓性の植物に覆われているけれど、石造りだからか建物の形はしっかりしている。

『魔魂草を発見しました。採取しますか?』

 採取しつつ考える。
 まだまだゾンビ、いるだろうなと。
 ならば先程と同じ、大声作戦だ。

「あー! おー! いー! うー! えーっ!」 

 ガサッ、ズズズーッ。
 先程と同じ様な気配が周囲からしはじめた。
 私は斧を構え、そして周囲を観察して一番近いゾンビをめがけ……

 ◇◇◇

「あー! おー! いー! うー! えーっ!」 

 大声作戦をしてももうゾンビは出てこない。
 ひととおり倒した様だ。

 ここまで対ゾンビ戦を4回。
 倒した数は合計33体。
 稼ぎそのものはいいのだろうけれど、この悪臭、髪や服に染み付いていないだろうか。
 一応戦闘終了事に清浄魔法をかけてはいるけれど気になるところだ。

 それでも念の為、もう一度全身に清浄魔法をかける。
 ゾンビはいないようだし、歩くのに邪魔なので斧をアイテムボックスに収納。
 石畳の道を北、坂を登る方向へと進む。

 ギルドに帰ったら薬草風呂でも入ろうかな。
 臭い消し薬の調合も習っているし。
 なんて事を考えながら更に進むとようやく今までと異なった雰囲気の建物が出てきた。

 これがカレンさんが言っていたチャペルだろう。
 ならここで一気に薬草採取が出来る筈だ。
 そう思って近づこうとした時、ふと何かの気配を感じた。
 斧を出すべきだろうか、一瞬考える。

 ガサガサ、ガサガサ。
 ゾンビでは無い。
 草丈よりやや低めの何かのようだ。
 斧を出した方がいいだろうか。

 カレンさんの説明によると、此処に出てくる魔物や魔獣は、
  レイス、グール、ゾンビ、ノロイグアナ、スライム、デミスライム
だった筈。

 この中だとノロイグアナかスライムか。
 どちらも急に飛びかかってくるタイプではない。
 なら少し様子を伺おう、そう思った時だった。

 白い塊が草をかき分けて出てきた。
 スライム? いや犬だ。

 白っぽい色でやや毛が長めで顔の周辺にたてがみ風の毛があるサモエド、いやボーダーコリー系の雑種という感じのわんこ。
 大きさは大型犬と中型犬の間くらいだろうか。
 ただ大きさの割に足がぶっとい。
 あと全身に白くて長い毛がもっさり生えている。

 見た感じ敵意は無さそうだ。
 昔犬を飼っていたのである程度はわかる自信がある。

 わんこはお座りしてこちらを見ている。
 ピンクの鼻と茶色い目がなかなか可愛い。
 やはり襲おうとか敵意がありそうな感じでは無い。
 何か言いたげに様子を見ているという感じだ。

「どうしたの?」

 試しに声を出して聞いてみる。
 わんこは鼻先を上げてこちらを見た。
 やはり何か言いたげ。
 でもお座りしたままだ。

「誰か待っているの? それとも私に何か用事?」

 わんこは頷くように頭をくんくんと上下させ、きゅう、と小さな声で鳴いた。

 近づいても大丈夫かな、そう思って思い出す。
 アイテムボックス内に昼食用に買ったギロスがあったなと。

 アイテムボックスからギロスの肉部分だけを出す。
 しかし味つけしてある肉は犬の健康には良くない。
 だから一度自分の口の中に入れて、ソースだの香辛料だのをなめ取ってから手に出す。
 行儀は悪いがしかたない。

 手で持っていくとがぶりとされる可能性が否定できない。
 わんこだっていきなり手を近づけられては怖いだろう。
 だから薬品調合時に使う平皿をアイテムボックスから出して、清浄魔法をかけた後に中に肉を入れる。

 肉の入った皿を持って、ゆっくりと近づく。
 5mくらい、まずはこれが限度かな。
 皿を置いて、そして私は3mくらい下がる。

「食べていいよ。私が口に入れたのを見れば毒じゃないのはわかるでしょ」

 言葉が通じるかは不明。
 でもわんこって案外賢い。
 言葉そのものがわからなくても、言わんとしている事を雰囲気で理解出来る生き物だ。
 人に可愛がられている、あるいは可愛がられていたわんこなら。

 わんこはゆっくり皿に近づいて、まずは肉を一なめ。
 大丈夫と判断したようで、バクバクと食べる。
 あっという間に皿の中が空になった。
 しっかり皿の中をなめ尽くしてから、わんこは私の方を見る。

 きゅう、きゅう。

 毎度お馴染み半透明のメッセージが出た。

『魔犬が仲間になりたがっています。連れて行きティムしますか?』

 魔犬?
 このわんこ、ひょっとして魔獣なのだろうか?
連れて行きティムしますか?』なんて聞かれたけれど、連れて行っていいのだろうか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】バグった俺と、依存的な引きこもり少女。 ~幼馴染は俺以外のセカイを知りたがらない~

山須ぶじん
SF
 異性に関心はありながらも初恋がまだという高校二年生の少年、赤土正人(あかつちまさと)。  彼は毎日放課後に、一つ年下の引きこもりな幼馴染、伊武翠華(いぶすいか)という名の少女の家に通っていた。毎日訪れた正人のニオイを、密着し顔を埋めてくんくん嗅ぐという変わったクセのある女の子である。  そんな彼女は中学時代イジメを受けて引きこもりになり、さらには両親にも見捨てられて、今や正人だけが世界のすべて。彼に見捨てられないためなら、「なんでもする」と言ってしまうほどだった。  ある日、正人は来栖(くるす)という名のクラスメイトの女子に、愛の告白をされる。しかし告白するだけして彼女は逃げるように去ってしまい、正人は仕方なく返事を明日にしようと思うのだった。  だが翌日――。来栖は姿を消してしまう。しかも誰も彼女のことを覚えていないのだ。  それはまるで、最初から存在しなかったかのように――。 ※第18回講談社ラノベ文庫新人賞の第2次選考通過、最終選考落選作品。 ※『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しています。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...