フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

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第3章 はじめての依頼と新しい仲間?

第17話 採取活動、開始します

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 翌日朝8時52分。
 私は無事ヴィード島の桟橋へと到着した。

「それじゃ気をつけてな」

 船がスケリア島へと戻っていくと急に不安に感じる。
 無人島に1人、取り残された感じで。
 まあ実際その通りなのだけれど。

 こういった時にパーティを組んでいればもっと気分が楽なのだろうか。
 しかし今の所中身が人間の知り合いはカレンさんだけ。
 そしてカレンさんは基本的に錬金術ギルドから離れられない。

 こういうゲームで仲間を作るのはどうすればいいのだろう。
 リアル現実でも私は積極的に他人と付き合う方ではなかった。
 だから知り合いはゼミ関係とか元クラスメイトくらいだ。
 慣れていないゲームでどうやって信頼できる友人を作れるかなんてわかるわけがない。

 大体 NPCかプレイヤーかなんて、私には見た目では判断できないのだ。
 まさかカレンさんと同じ方法で見分ける訳にもいかないし。

 まあ今回は1人でも問題はないだろう。
 カレンさんが大丈夫だと言ったのだから。
 天気も今の所快晴。
 急変しそうな兆候なんて何一つ無いし。

 それでは予定通り動くとしよう。
 まずは西へ歩いて岩場と草地の境で治害草を採取。

 治害草は解毒作用がある薬草で、毒消し薬の他にも広く使われている。
 今回の採取ノルマは5kg。
 でも出来れば10kgは採っておきたい。

 ちなみに度重なるレベルアップで私のアイテムボックス容量は60kg程ある。
 装備一式で10kgちょい使っているけれど、それでも残り50kg近く大丈夫。
 ほとんどの薬草は採取方法さえ間違えなければ遅くとも数日で完全再生すると講習で習った。
 だからガンガン採取していこう。

 石作りの桟橋から陸地へ上がりかけたところで、早くも表示が出る。

『治害草を発見しました。採取しますか?』

 枠囲みの中に見えるのは、小さく肉厚の葉と茎を持つ握りこぶしくらいに広がった植物。
 岩場と草地の間の砂部分に生えているようだ。
 勿論採取を選択。

 3株117gが収納された。
 思ったより量が少ない。
 これはノルマ分採るだけでも大変かもしれないな。
 そう思いつつ、草地の端を西へ一歩踏み出す。

『治害草を発見しました。採取しますか?』

 またこの表示が出た。
 先程採取した場所から1mも離れていない場所に、また数株生えている。
 どうやらこの治害草、ひたすら数を稼ぐタイプの薬草のようだ。

 そんな訳で歩いては採って、歩いては採ってを繰り返す。
 実際に手で採取するとなかなか難儀な作業だろう。
 ほとんど1歩ごと、長くても4歩目には出てくる表示に肯定するだけでも面倒だと感じるのだ。

 歩いて採取メッセージに対して肯定してを繰り返す事を数十回。
 海沿いにこれ以上進めないという場所まで来た。
 ここから先は急傾斜の林で、海沿い部分は崖になっている。
 崖の高さは10m位だろうか。
 歩いて行くのは無理だ。

 アイテムボックス内の治害草は4.8kg。
 ぎりぎりノルマに足りない。
 つまり島の反対側の海岸でも採取する必要がある訳か。
 
 なら次、道をのぼって避難所の確認。
 先程の船着場から左へ右へという感じに内陸部の高い所へ登る道がある。
 そこまで戻って、そして道を上へ。
 
 道は石畳で、端部分は雑草に侵食されている。
 道の左右は雑草や背の低い木が生えている雑木林。
 薬草の反応はない。
 やはり何処でも生えている訳では無いのだな、そう思いつつ道を登る。
 
 白っぽい石作りの小屋が見えてきた。
 1階建てで四角い感じの建物だ。
 スケリア島の建物と比べるとカラフルさに欠けるが頑丈そうだ。
『いざという時の為に頑丈に作ってあるし……』
 カレンさんがそう言っていたなと思い出す。

 窓はなく、頑丈そうな扉だけ。
 開けて大丈夫だろうか、中に怪しいのがいないだろうか。

 扉に耳をつけて確認してみる。
 中から音はしない。
 周囲から草や木の枝がたてるガサガサ音がするだけだ。

 思い切って開けてみる。
 何も出てこない。
 いや、かび臭い空気が中から流れ出てくる。
 特に気配は感じない。

 中を見てみる。
 壁も床も天井も石作りで何も無い部屋だ。
 本当に非常時に中へ閉じこもるだけの作りの模様。

 窓がないのは魔物等が入ってこないようにだろう。
 頑丈に作ってあるのもきっとその為。
 冒険者や採取者なら灯火魔法くらいは使えるから、明かり取りの窓はいらない。

 しかしトイレすら無いというのは強烈というか厳しいつくりだ。
 もよおしたくなったらどうするのだろう。
 少し考えたけれどアレな想像しか出ない。

 うん、使わなければ問題ないのだ、だから大丈夫。
 でも一応中に清浄魔法をかけて、更に風魔法で空気を入れ換えておく。
 これで万が一の時もまあ、大丈夫だろう。

 時間を確認、まだ10時になっていない。
 今のところ順調だ。
 まだ治害草しか採取していないし、治害草もノルマに少し足りない状態だけれど。

 空気を入れ換え終わったので扉を閉める。
 さて、これから先は魔物が出るのだよな。
 まずは集落跡に出るというゾンビだ。
 
 狂戦士バーサーカー戦斧バトルアックスを出して両手で持つ。
 すっかり手に馴染んで重さはあまり感じない。

 それでは行くとしよう。
 私はゆっくりと道を先へと歩きはじめる。

 相変わらず草はあるけれど薬草の発見は無いな。
 そう思ったら。

『魔魂草を発見しました。採取しますか?』

 表示が出た。
 勿論採取して、そして周囲を伺う。

 魔魂草が生えているという事は、そろそろゾンビが出るという集落跡なのだろうか。
 そう言えば何か異臭がするような気がする。
 生ゴミが腐ったような嫌な感じの異臭が。
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