フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

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プロローグ VRMMO世界初日

第5話 そして再び平原へ

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 シルラは役場で魔物の死体を換金するところまで案内してくれた。

「役場はだいたい街の中心にあるよ。受付方法は街によって違うけれど、入ってすぐの場所にいる案内の人に、魔物や魔獣の褒賞金と言えば案内してくれるから」

 なおケルキラの役場は、
  ① 案内の人に用件を言って、窓口番号が書かれた金属板を受け取る
  ② 金属板が振動したら窓口へ行って金属板を渡す
  ③ 窓口担当から言われる通り、魔物の死体を出す
  ④ 窓口担当から別の窓口番号が書かれた金属板を受け取る
  ⑤ 金属板が振動したら書かれている窓口へ行って金属版を渡し、褒賞金と買い取り代金を合わせた額を受け取って、受け取り証にサインする
という手続きだった。

 ちなみに受け取った金額は合計で1,540Cカルコス
 ノロイグアナ1匹の討伐褒賞金が100Cカルコス、肉や素材としての死体買い取り代金が1匹当たり40Cカルコスという計算だ。

「だいたい宿屋が朝食付きの個室で400Cカルコス、共同部屋で200Cカルコス。宿屋や一般的な食堂での食事が1食70Cカルコスくらいだよ。もちろんもっと高級な宿や食堂もあるけれどね。
 これでチュートリアルは終わりだけれど大丈夫かな?」

 充分だ。
 これでこの世界でも生きていく自信がついた。

「ええ、ありがとう。助かりました」

 ただこれでお別れかと思うとちょっと心細いし寂しい。

 シルラはおそらくAIで動いているのだろう。
 向こう側に人がいる訳じゃない。
 それでも久しぶりに会話らしい会話が出来たような気がする。
 ゲーム機設置業者との会話とか店員さんとの受け答えとかじゃなくて。

 だからつい聞いてしまった。

「またシルラさんに何処かで会えるでしょうか?」

「うーん、シルラはパイアキアに来たばかりの人担当。だから他で会えるって事はないかな。

 でも援助妖精は世界中にいるし、パルキアの使いの援助妖精は全部が同一存在、私みたいなものだからね。貴方が他の援助妖精に会ったらシルラもその事がわかるし、シルラの事もその援助妖精に聞けばわかるよ。

 さしあたって次に出会う私はティアルラかキラティナかな? 何処で会えるかは言えないけれど」

 ティアルラやキラティナというのは他の援助妖精の名前なのだろう。
 何処にいるのか、どんな役割なのかは知らないけれど。
 
「わかりました。それではお元気で」

「そちらこそ元気でね。じゃあまた」

 シルラがいた場所がキラキラっと光る。
 次の瞬間、彼女の姿はその場から消えていた。
 流石神の使いで妖精だけある。

 もちろんこれはゲームだ。
 シルラの姿が消えたのだって、単にそうプログラムされているから。
 それはわかっていても、まるで現実のようだった。
 魔獣を倒した時の手応えも、シルラとの会話も、私の五感全てで感じている世界も。

 まるで異世界転移したようだな。
 そんな事をふと思う。
 よし、今度からこの世界をゲームと思わず、異世界転移したと思う事にしよう、
 その方が楽しそうだから。

 なんて思って、そして気付く。
 このゲーム、元々そういう設定だったなと。
 思考が一周回った結果、ゲームの設定通りになった訳だ。

 でもまああいいか
 それだけこのゲームが良くできているという事だから。

 そう思った途端、私の視野右端に何かが点滅する。
 これはゲーム外からのメッセージがあるという表示だ。

 あまりいい予感はしないけれど確認してみる。
『郵便物が届きました』
 ポストに設置したオートスキャナからのメッセージだ。

 オートスキャナは郵便受けに入れられたものの表裏両面をスキャンして、ネット内へデータを送ってくれる。
 葉書等なら裏表両面読める。
 でも手紙の場合は中身はわからない。

 それでも差出人である程度中身の見当はつくだろう。
 私は窓口待ち用の椅子に腰掛け、視界をゲーム世界とのオーバーラップ表示に変更する。

 来ていたのは葉書4通と、封書5通。
 葉書は4枚とも小学校や中学校時代の同窓生からのもの。
 会いたいから連絡をくれとの内容だ。

 このうち2通は同じ人間から、残り1通ずつは違う人間から。
 3人のうち2人は名前を聞いた事がある程度。
 2通寄こした奴ははっきりいって仲が悪かった奴。
 どうせどれも金の無心だろう。

 封筒5通はいずれもお世話になった事がない宗教団体やNPO、一般社団法人からのもの。
 重要なんて表に書いてあるけれど、私にとっては重要ではない内容だ、きっと。

 何せこの手の手紙、見飽きるほど見ている。
 いままでのところはどれも寄付の要求だった。
 今回もきっと同じだ。

 なお宛先住所は全て旧住所。
 つまり実家からの転送となっていた。
 まだこのマンションについては連中にばれていないようだ。
 良かったと感じるのはそのくらい。

 あとでまとめて処理しよう。
 郵便物が溜まってオートスキャナから連絡が来た時くらいに。
 このペースだと1週間程度で一杯になりそうだけれど。

 しかし外の世界の1週間は、こちらでは5ヶ月くらい。
 5ヶ月に1回程度なら、まあそのくらいは我慢してもいい。

 それにしても何と言うか気分がダウンしまくった。
 向こうの嫌な事を忘れるには、こちらでこの世界ゲームを楽しむのが一番だ。

 よし、もう一度討伐に行くとしよう。
 私はノロイグアナハンターの称号を与えられた、才能ある討伐者なのだ。
 本当の職業は錬金術師だけれど、またそれらしい事はしていない。
 技能&お金&道具が足りなくて出来ないから。

 シルラはもういないけれど、もう一度コルフ平原へ。
 私はオーバーラップ表示を解除し立ち上がって、役所の出口へ向けて歩き出した。
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