フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
2 / 139
プロローグ VRMMO世界初日

第2話 初期設定とチュートリアル開始

しおりを挟む
 ゲームという物には色々とお約束があるらしい。
 最初に初期設定として分身アバターを作るなんてのもお約束のひとつのようだ。

 ここで種族、性別、一括してステータスと呼ばれる能力値、職業、宗教なんてものを決める。
 しかしこのステータス関係、ATKこうげきりょくが何だとか、STRわんりょくVITせいめいりょくがどう違うのかとか、私にはまったくわからない。

 だからネットで情報を集め、攻略サイトなんてものを読んだ。
 そして理解した。
 結局よくわからないという事と、個人的好みで選んでも問題無いという事を。

 ゲームの謎を解くとか強い敵を倒すとかが目的なら、それなりに有利な選択が存在するのだろう。
 しかし私はそういった事が目的では無い。
 ならば少しでも共感出来そうな自分の分身を作った方がいい。

 他にも充分下調べはした。
 だから問題は無いと思う。
 多分きっと。

 さて、私というか分身アバターのゲーム内における現在地は『パイアキアン・オンライン』内の初期配置位置であるスケリア島ケルキラの街にある『はじまりの港』。

 ゲームのオープニングで私は『遠くの世界から船でやってきて港についた』という状況。 
 これから『入国審査を受ける』という形で、自分の分身アバターを作る作業に入る。

「おまたせしました。入国審査の準備が調いましたので、自分の種族と性別の窓口へとお進み下さい」

 ここでどの窓口を選ぶかによって種族が決定する。
 人間男性、人間女性、長寿族エルフ男性、長寿族エルフ女性、獣人男性、獣人女性。
 ちなみにドワーフとかハーフリングとかは無い。
 NPCにはいるらしいけれども。

 何を選ぶかは既に決まっている。
 長寿族エルフの女性だ。

 このゲーム内の時間は現実の24倍の早さ。
 現実の1時間で1日が経過する。
 つまり人間を選ぶと現実時間で3年すれば老人になってしまうのだ。
 長期没入する予定の私にとっては短すぎる。

 しかし長寿族エルフの寿命は800歳前後。
 しかも成人したら老衰で死ぬまで外見が変わらない。
 その上レベルアップして超長寿族エルダーエルフになれば事実上無限大。
 だから長寿族エルフを選んだ訳だ。

 性別はまあ自分と同じ女性で、年齢も同じ22歳で。
 その方が分身アバターとして違和感がないだろうから。

 さて、能力はどうなるかな。
 職業は錬金術師と決めているけれど。
 そう思いながら私は長寿族エルフ女性と書かれた窓口を目指して歩きはじめて、そしてふとある事に気付いて足を止める。

 まだ分身アバターの性別も種別も決まっていない今の私はどんな姿なのだろう。
 ゲームに必要無いから設定していないという事は無いだろう。
 味覚以外の感覚は感じているし。

 周囲の人は男女、身長、種族、年齢バラバラという感じ。
 ただこれらはきっとプレイヤーの分身アバターではなくお飾り的な存在だろう。
 
 顔を見るために鏡がないか見てみたけれど、残念ながらなさそうだ。
 手は普通の人間の手という感じで、男女はわからない。
 服装は男女どちらともとれる黄土色のパーカーにパンツ、靴は普通の革靴
 身長は周囲の人の見え方から推測するに、概ね160cm程度。

 顔はわからないけれどきっと男女どっちともとれそうな中性的な外見にしているのだろう。
 それにどうせ分身アバターの種族と性別が決まった時点で外見は変わるのだ。
 だから今の外見を確認する必要性は全くないだろう。

 そう判断し、私は再び歩きはじめる。

 ◇◇◇

 入国審査というよりは運転免許申請のような感じで窓口を回りながら分身アバターを作っていく。

 証明写真を撮る場所で外見を選ぶシステムはなるほどなと思った。
 まあ初期設定で選べる外見はそれほど選択肢が多くないけれど。

 私の場合はとりあえずエルフ女性の標準そのままで。
 こういった世界では何が可愛くて何が綺麗なのか、今ひとつよくわからないから。
 それに標準そのままという人はほとんどいないだろう。
 そこを狙ったというのも実はあったりするけれど。

 ただひとつ失敗したのは年齢設定。
 どうやらこの世界、長寿族エルフの22歳は大人ではない模様。
 その結果、出来た分身アバターの外見が14歳位の金髪碧眼の白人美少女になってしまった。
 本当は設定年齢も外見年齢も自分に近い分身アバターにしたつもりだったのに、

 訂正しようかと思ったけれど、年齢の訂正は外見の訂正とは違う窓口でやや面倒。
 それに10年もすれば大人の外見になる。
 現実世界の1ヶ月がVR世界ではほぼ2年。
 つまりここでの10年は現実世界なら5ヶ月ちょい。

 それに見た目的にも悪くない。
 この外見では元の私とはわからないだろう。
 だからもう、このままでいいやという事にした。

 外見を決めた後は、能力を決める為の窓口を幾つか回る。
 これらの窓口、入国審査という名目なのに中身はスロットゲームだのダーツだのサイコロだののミニゲーム風。

 入国審査でこれというのは少し違和感を覚えたが、まあこれくらいは仕方ない。
 数値を決めるにはこれらの方法がわかりやすいだろうから。

 なおこのダーツは妙に狙いやすかった気がした。
 回転速度はそこそこ速いけれど文字は読めるし狙える程度。
 これはまあ、そういう設定になっているのだろう。
 ゲーム熟練者ならある程度狙った能力に出来るように。

 だから一応、狙えるところは高い数値を取っておいた。
 能力値が高い分には問題無いだろう。
 そう深く考えずに進む。
 
 10箇所くらいの窓口やミニゲームを経て、やっと私の分身アバターが完成。
 決まった能力や職業その他のステータスが書かれたパスポートと、職業ごとに決まった初期装備を受け取れば分身アバター作製は完了だ。

 入国審査場を出る前にパスポートを開いて確認してみる。
『ミヤ・アカワ 長寿族エルフ女性 22歳 錬金術師 Lv.1 HP:032……』

 書いてあるのは名前と、いわゆるステータスとよばれるもの。
 名前は現実での本名、三輪みわ彩花あやかのアナグラム。
 ファーストネームを呼ばれても違和感がなく、かつ全体として異世界っぽい名前にしたつもりだ。
 
 他に書いてあるのは職業、レベル、称号といった関係と、ステータスと呼ばれる能力を示す細かい数値。
 ステータスの数値が意味するところは結局よくわからないまま。
 しかしどっちにしろ錬金術師になってしまったのだから関係ないだろう。
 だから分析はパス。

 途中で入国審査の係員に、
『本当にこの能力で錬金術師でいいんですか?』
と念を押されたけれど、きっと間違いを防ぐための措置なのだろう。

 入国審査場を出る。
 石畳や煉瓦の道、石や煉瓦作りの建物が並んでいる。
 ヨーロッパ近世風の港街といった雰囲気だ。
 ハウステンボスとかイクスピアリと言われればそんな気がしないでもないけれど。

「ようこそ、パイアキアへ!」

 ふと耳元で小さな声が聞こえた。
 私は右側を振り向く。
 手のひらサイズの女の子が背中に生えた羽根を細かく動かして空中に浮いていた。

「はじめまして。私は平和と冒険の女神パルキアの使い、援助妖精のシルラだよ。

 このパイアキアでは放っておくと魔物や魔獣が増えちゃうの。だから討伐してくれる人が多いと助かるんだ。

 それでもし良ければ魔物の倒し方について簡単に説明するけれど、どうかな?」

 シルラと名乗る妖精に被さるように、半透明な白色文字が視界に表示される。

『選択:チュートリアルへのお誘い
 シルラによる魔物討伐のチュートリアルを受けますか?
 受ける場合はシルラにそう返答して下さい。受けない場合は無視して立ち去れば、シルラは次の相手を探して飛び去ります』

 なるほど、こうやって選択肢が出る訳か。
 視界に文字が表示されるなんてのは現実ではありえない。
 流石VR世界。

 これはゲームのお約束、チュートリアルという奴だ。
 もちろん事前情報でこの事は把握している。

 このシルラによるチュートリアルは常識的過ぎる内容で面倒なだけ。
 攻略サイトにはそう書いてあった。
 しかし私にはゲームの常識というものが足りない。
 だからここは受けるの一択だ。

「御願いします」

「ありがとう。それじゃまず、魔物や魔獣がいる場所へ案内するから私について来て。危ない場所じゃないし怪我したら回復魔法をかけるから大丈夫だよ」

 この先何処へ向かうかはわかっている。
 今居る場所からおよそ300mくらい南にある、コルフ平原と呼ばれている場所だ。
 
 ところでこの妖精、やっぱり飛行原理は魔法なのだろうか。
 羽ばたいている訳ではないし、ジェット噴射をしたり等もないようだから。
 そんな事を思いながら私は、ふわふわと肩の高さくらいを飛ぶシルラの後ろをついていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

ミッシング・ムーン・キング

和本明子
SF
月が消失してから百年後の地球で出逢った、青年“ライト”と月の化身“ルナ”の物語。

処理中です...