1 / 139
プロローグ VRMMO世界初日
第1話 私、逃走する
しおりを挟む
風の音や周囲のざわめき、鳥の声。
潮の香りがする空気と乗っている船の揺れ。
船、周囲の人々、そして目の前に見える桟橋。
これはゲームのオープニング。
プレイヤーが遠くの世界から船でやってきて港に到着する、というシーンだ。
今、私の周囲を取り囲んでいるのが三輪彩花、いやミヤ・アカワと名乗るエルフがこれから住む世界。
確かに現実と見分けがつかないな。
そう思う。
見るだけではない。
音も臭いも、勿論触覚だって知らなければ仮想だとは気付かないだろう。
何か食べたら味だって現実と区別がつかないのに違いない。
まだ試してはいないけれど。
正直VR関係の技術をなめていた。
たかがゲームがこんなに進化しているなんて。
小さい頃からゲームに興味が無かったので今まで全く知らなかったのだ。
もっとも私が使用している機器のおかげもあるかもしれない。
TPOZ社製のDGJ-2411B12。
現時点で最高性能とされている全身没入型・生命維持装置付の最高級機だ。
これは中に入っている間、VRに接続するだけで無く、栄養・水分の補給、排泄、洗浄まで全部やってくれる優れもの。
勿論補充タンクに人間用の栄養液が入っていて、給水パイプや排水パイプをそれぞれ接続していればだけれど。
勿論VR機器としての性能も最高レベル。
全身をタンク漬けするだけあって通常のVR機器より反応速度や知覚同調度が十倍以上高いそうだ。
私は今までゲームをほとんどやった事がないから、その違いがどうゲームに影響するか、わからないけれど。
◇◇◇
ゲームをほとんどした事がない私が超高級接続器を使ってVRMMOなんて入ったのは、現実から逃避する為。
本当なら今頃は第一志望の会社で研修をうけている頃だった。
3月頃までは全てが順調だった。
一応は一流と呼ばれている大学を卒業し、第一志望の会社に4月から入社予定だったのだ。
大学時代最後の思い出を兼ねてゼミの友人と卒業旅行へ行って。
そして帰ってきたら、両親が自動車事故で死亡していた。
その事は私と両親が住んでいた家で待ち構えていた叔父と叔母から聞いた。
そして『これにサインすれば大丈夫よ』と私に書類を差し出したのだ。
私と叔父・叔母との養子縁組届書を。
何を意図しているのかはすぐにわかった。
両親が死んだ事による保険金と、この家。
叔母一家は金遣いが荒く、何度も家に金を無心に来ていた。
その辺の借用書が束になって家の金庫に入っている。
当然拒否し、電話でゼミを担当して貰っていた教授に相談して弁護士を紹介してもらった。
そして弁護士に依頼し、家から叔母一家を叩き出した。
更に家の中の金庫にあった借用書類も弁護士に渡し、伯母関係の対処を御願いした。
しかし叔母一家はしつこかった。
家の周辺で待ち構えて私を捕まえようとしただけではない。
従兄弟の1人が窓ガラスを破って私の家に侵入なんて事までした。
すぐに110番して警察に連れて行って貰ったけれど。
そうしたら今度は家に変な宗教だのNPOだのから寄付依頼等の電話がかかりまくるようになった。
更に中学や高校で名前を知っている程度の連中から無心の電話がかかってきたり。
どうやらこれも叔母一家の嫌がらせが原因らしい。
家に安心して住めなくなったので、とりあえずオートロックのマンションへ引っ越し。
家は家財道具等の処理も含め、全て業者に任せて処分した。
もう私が安心して近寄れる状態じゃなかったから。
携帯電話の番号も当然変更。
これで叔母一家も私と連絡がとれない筈だ。
そうしたら、今度は内定していた会社に電話がかかるようになった。
叔母一家だけでない。
怪しい宗教団体やNPO等、更には私の知り合いと言えるかいえないか位の人達からの電話まで会社にかかってくる始末。
叔母と叔母に至っては電話だけで無く本社まで直接やってきた。
おかげで就職前に内定を辞退する事になってしまった。
勿論これでは身動き取れないので弁護士経由で警察とも相談。
最終的には叔父、叔母、従兄弟2名、つまり叔母一家の全員が逮捕。
それ以外にも何人か検挙者が出た。
しかしもう私の安心出来る場所は自室の外の何処にもなかった。
マンションの外に出るのさえ怖い。
結果引っ越した先のマンション自室に閉じこもり、いや引きこもるようになってしまった訳だ。
ただ、引きこもるだけの状況には2週間で耐えられなくなった。
読書すら飽きてしまう。
でも外に出るのは怖い。
前の家にいた頃、家から出た途端に宗教団体の人やNPOを名乗る人に囲まれたなんて事が続いたから。
そんな時に思いついたのがVRMMO生活だ。
仮想世界で、私と識別出来ない状態でなら、私も他人を気にせず生きていけるかもしれない。
自分以外の人との会話だって出来るだろう。
ただ私はゲームというものをほとんど知らない。
今まで割と勉強一筋だったし、父母ともにゲームに興味がなかったから。
だから接続の為の機械、何をどう選んで揃えればいいのかもわからない。
なのでつい、Webページに載っていたTPOZ・DGJ-2411B12なんて超高級機器を買ってしまった。
保険金と両親の遺産と家を売ったお金でお金があったからというだけではない。
弁護士費用だの相続税だので金銭感覚が麻痺していたなんて理由も大きいだろう。
入るゲームは『パイアキアン・オンライン』にした。
理由は日本で一番プレイヤー人口が多いから。
あとは中で何をしてもいいという自由さも気に入った。
普通のゲームの『次は必ず●●しなければならない』いうのはどうも好きになれない気がしたから。
『パイアキアン・オンライン』は神々がいて魔物もいる、そんな世界を舞台にしたVRMMO。
つまりは『そこら中に良くある、一般的な設定』。
私のようなゲーム初心者にはちょうどいい。
ゲームについて一通り基本的と思われる事を調べ、いまいち見方がわからない攻略サイトもひととおり目を通す。
TPOZ・DGJ-2411B12を注文して一番広い部屋へ設置。
水道と排水管を接続し、人間用の栄養液の新品を2本機械にセット。
家賃や共益費等支払い、水道や電気料金等の支払いを口座から自動引き落としに設定。
更にマンションの郵便受けにオートスキャナーを設置し、VRMMO内からも届いた郵便物等の配達物がわかるよう設定。
長い間、現実に戻らずVRMMO世界にいても問題無いように全てを整えた後。
私は装置の中の人となったのだった。
潮の香りがする空気と乗っている船の揺れ。
船、周囲の人々、そして目の前に見える桟橋。
これはゲームのオープニング。
プレイヤーが遠くの世界から船でやってきて港に到着する、というシーンだ。
今、私の周囲を取り囲んでいるのが三輪彩花、いやミヤ・アカワと名乗るエルフがこれから住む世界。
確かに現実と見分けがつかないな。
そう思う。
見るだけではない。
音も臭いも、勿論触覚だって知らなければ仮想だとは気付かないだろう。
何か食べたら味だって現実と区別がつかないのに違いない。
まだ試してはいないけれど。
正直VR関係の技術をなめていた。
たかがゲームがこんなに進化しているなんて。
小さい頃からゲームに興味が無かったので今まで全く知らなかったのだ。
もっとも私が使用している機器のおかげもあるかもしれない。
TPOZ社製のDGJ-2411B12。
現時点で最高性能とされている全身没入型・生命維持装置付の最高級機だ。
これは中に入っている間、VRに接続するだけで無く、栄養・水分の補給、排泄、洗浄まで全部やってくれる優れもの。
勿論補充タンクに人間用の栄養液が入っていて、給水パイプや排水パイプをそれぞれ接続していればだけれど。
勿論VR機器としての性能も最高レベル。
全身をタンク漬けするだけあって通常のVR機器より反応速度や知覚同調度が十倍以上高いそうだ。
私は今までゲームをほとんどやった事がないから、その違いがどうゲームに影響するか、わからないけれど。
◇◇◇
ゲームをほとんどした事がない私が超高級接続器を使ってVRMMOなんて入ったのは、現実から逃避する為。
本当なら今頃は第一志望の会社で研修をうけている頃だった。
3月頃までは全てが順調だった。
一応は一流と呼ばれている大学を卒業し、第一志望の会社に4月から入社予定だったのだ。
大学時代最後の思い出を兼ねてゼミの友人と卒業旅行へ行って。
そして帰ってきたら、両親が自動車事故で死亡していた。
その事は私と両親が住んでいた家で待ち構えていた叔父と叔母から聞いた。
そして『これにサインすれば大丈夫よ』と私に書類を差し出したのだ。
私と叔父・叔母との養子縁組届書を。
何を意図しているのかはすぐにわかった。
両親が死んだ事による保険金と、この家。
叔母一家は金遣いが荒く、何度も家に金を無心に来ていた。
その辺の借用書が束になって家の金庫に入っている。
当然拒否し、電話でゼミを担当して貰っていた教授に相談して弁護士を紹介してもらった。
そして弁護士に依頼し、家から叔母一家を叩き出した。
更に家の中の金庫にあった借用書類も弁護士に渡し、伯母関係の対処を御願いした。
しかし叔母一家はしつこかった。
家の周辺で待ち構えて私を捕まえようとしただけではない。
従兄弟の1人が窓ガラスを破って私の家に侵入なんて事までした。
すぐに110番して警察に連れて行って貰ったけれど。
そうしたら今度は家に変な宗教だのNPOだのから寄付依頼等の電話がかかりまくるようになった。
更に中学や高校で名前を知っている程度の連中から無心の電話がかかってきたり。
どうやらこれも叔母一家の嫌がらせが原因らしい。
家に安心して住めなくなったので、とりあえずオートロックのマンションへ引っ越し。
家は家財道具等の処理も含め、全て業者に任せて処分した。
もう私が安心して近寄れる状態じゃなかったから。
携帯電話の番号も当然変更。
これで叔母一家も私と連絡がとれない筈だ。
そうしたら、今度は内定していた会社に電話がかかるようになった。
叔母一家だけでない。
怪しい宗教団体やNPO等、更には私の知り合いと言えるかいえないか位の人達からの電話まで会社にかかってくる始末。
叔母と叔母に至っては電話だけで無く本社まで直接やってきた。
おかげで就職前に内定を辞退する事になってしまった。
勿論これでは身動き取れないので弁護士経由で警察とも相談。
最終的には叔父、叔母、従兄弟2名、つまり叔母一家の全員が逮捕。
それ以外にも何人か検挙者が出た。
しかしもう私の安心出来る場所は自室の外の何処にもなかった。
マンションの外に出るのさえ怖い。
結果引っ越した先のマンション自室に閉じこもり、いや引きこもるようになってしまった訳だ。
ただ、引きこもるだけの状況には2週間で耐えられなくなった。
読書すら飽きてしまう。
でも外に出るのは怖い。
前の家にいた頃、家から出た途端に宗教団体の人やNPOを名乗る人に囲まれたなんて事が続いたから。
そんな時に思いついたのがVRMMO生活だ。
仮想世界で、私と識別出来ない状態でなら、私も他人を気にせず生きていけるかもしれない。
自分以外の人との会話だって出来るだろう。
ただ私はゲームというものをほとんど知らない。
今まで割と勉強一筋だったし、父母ともにゲームに興味がなかったから。
だから接続の為の機械、何をどう選んで揃えればいいのかもわからない。
なのでつい、Webページに載っていたTPOZ・DGJ-2411B12なんて超高級機器を買ってしまった。
保険金と両親の遺産と家を売ったお金でお金があったからというだけではない。
弁護士費用だの相続税だので金銭感覚が麻痺していたなんて理由も大きいだろう。
入るゲームは『パイアキアン・オンライン』にした。
理由は日本で一番プレイヤー人口が多いから。
あとは中で何をしてもいいという自由さも気に入った。
普通のゲームの『次は必ず●●しなければならない』いうのはどうも好きになれない気がしたから。
『パイアキアン・オンライン』は神々がいて魔物もいる、そんな世界を舞台にしたVRMMO。
つまりは『そこら中に良くある、一般的な設定』。
私のようなゲーム初心者にはちょうどいい。
ゲームについて一通り基本的と思われる事を調べ、いまいち見方がわからない攻略サイトもひととおり目を通す。
TPOZ・DGJ-2411B12を注文して一番広い部屋へ設置。
水道と排水管を接続し、人間用の栄養液の新品を2本機械にセット。
家賃や共益費等支払い、水道や電気料金等の支払いを口座から自動引き落としに設定。
更にマンションの郵便受けにオートスキャナーを設置し、VRMMO内からも届いた郵便物等の配達物がわかるよう設定。
長い間、現実に戻らずVRMMO世界にいても問題無いように全てを整えた後。
私は装置の中の人となったのだった。
15
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる