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第10章 ある冬の日に
77 ちょい待て! それはないだろう!
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そして不意に、三郷先輩がにやりと笑う。
「少しここの雰囲気が重くなり過ぎたです。なので一気に雰囲気を変えられる、楽しい事実を公表するのです。以前ちょっと気づいて用意していたです。佐貫君、この紙を見て思った事を言うです」
三郷先輩は俺に、2枚の紙を渡す。
見ると、市役所等で発酵する、戸籍の全部事項証明だ。
1枚は三郷先輩のだ。名前はみどり。
両親の名も記してある。
父親は三郷麻旺、母親は三郷朱里。何か父親の名前に、猛烈な既視感と、嫌な予感。
2枚目も三郷家の戸籍の全部事項証明。本当はこっちが1枚目のようだ。
筆頭者は三郷朱里、配偶者が三郷麻旺。三郷麻旺の、父と母の欄の姓が佐貫だ。
ちなみに俺の親父と名乗っていた男の名は、佐貫麻旺。
これは、まさか……。
「もうわかるですよね。お兄ちゃん」
「えっ!」
三郷先輩と俺以外の視線が、俺の方へと集中する。
「えっとつまり、俺の父親が再婚して三郷先輩の父親だと」
「つまり佐貫君は私のお兄ちゃんという訳なのです」
そう言われても困る。だいたい、この戸籍はだ。
「でもどっちも本当の親というわけじゃないだろ。そもそもこの戸籍だって、間違いなく偽造だろ。父となっている朝旺は東欧出身で、実年齢は400歳を超えてるぞ」
「でも日本のお役所は、この関係を正式にこうやって文章で証明してくれるのです。つまり佐貫君は、義理ではあるけれど、間違いなく立派に兄なのです。公的機関の証明以上に正しい関係は、少なくともこの国にはない筈なのです。以上、わかりましたかお兄ちゃん」
「つまりお姉ちゃんの兄だから、私の兄でもあるのです……でしょうか」
これはみらい。
「ん、出来のいい妹と出来の悪い兄の見本だね」
この悲しい意見は委員長だ。
「同意」
綾瀬が委員長の意見に頷いてしまった。
そして、更に、松戸がとどめを刺す。
「私も同感だわ。学年下に出来の悪い兄がいるとは先輩も不幸ね」
とりあえず、三郷先輩が言ったとおり、重い空気は無事解消された。
しかし、何がどうなっているのか。
あまりの展開に、俺自身がついて行けていない。
三郷先輩がニヤニヤ笑いながら説明を始める。
「まあ種明かしするです。この世界には、妖怪や亜人種を不当な方法で利用しようとする勢力に対抗する財団があるのです。麻旺君はそこで働いているです。そして財団では、佐貫君のような歴史の遺物の保護もするし、私のいた研究所の襲撃や制圧や証拠隠滅もするです。だから佐貫君を養ったり、私を保護したりするのも、なりゆき上ありうる事なのです」
そこは少しばかり、抗議をさせて貰おう。
「俺を養うと言っても、それこそ子供の頃から年単位で放っておかれたぞ」
「麻旺君は、飽きっぽくて忘れっぽくて惚れっぽいのです。うちの母親役が言っていたのです。一つ任務をこなすと前の任務は忘れるです。おまけに行く先々で恋をしては入籍して、離婚してを繰り返しているのです。私も数年会っていないので良く知らないけれど、そういう事らしいのです」
うーむ。何というか、どうしようもな奴だ。
まあ以前からそう感じてはいたのだが。
そう俺が思ったところで、委員長がとんでもない事を言う。
「ん、つまり佐貫は、そんな天性の浮気者の血を引いていると」
思わず俺は抗議する。
「おいちょっと待て。奴は名目上は父親だが、血縁じゃないぞ」
「血縁ではあるらしいのです。遺伝子上は兄弟らしいのです。麻旺君がずっと前に言っていたです」
何だぞの新事実は。全く俺は聞いていないぞ!
何というか、俺はもうお腹いっぱいだ。勘弁してくれ。
「ん、つまり佐貫は兄に養ってもらっていて、かつ妹の後輩になっていて、浮気者の血を引いている駄目人間って事でいいのか?」
「そうね、結論としてはそうなるわね。更に妹の妹に対して血を吸ったり、ベッドでキスして抱きしめたりした、変態の称号もあげてもいいかも」
「あ、確かに私のファーストキスは佐貫にあげてしまったです。これって近親相姦一歩手前なのです。禁断の愛なのです!」
「変態と認定」
何か色々と、俺に対して酷いことになっている。
しかし少なくとも、あのベッドインの件は、俺のせいじゃない。
松戸の企みで、俺以外の合意の上での行動だった筈だ。
更に三郷先輩が悪ノリする。
「ねえお兄ちゃん。明日彼とディズニーシーでデートするんですので、おこづかい頂戴です!」
「あ、なら私もです! 妹の妹で近親相姦被害者なのです。慰謝料なのですおこづかい要求するです!」
思わず委員長直伝チョップを出しそうになるが、ここは我慢。
そんなものを今出したら、絶対謝罪と賠償を要求される。
よろしいならば戦争だ! 残念ながらそう言える程、俺は神経が太くない。
ならば三十六計……
そこで俺は気がついた。異空間移動できない!
松戸が、いかにも悪そうな笑みを浮かべる。
「こんな楽しい話のネタを逃がす訳ないじゃない」
三郷先輩がウィンクしてみせた。
「ちょっと空間閉鎖かけちゃったのです。ごめんねお兄ちゃん!」
俺にとって地獄のような時間は、こうして続く……
「少しここの雰囲気が重くなり過ぎたです。なので一気に雰囲気を変えられる、楽しい事実を公表するのです。以前ちょっと気づいて用意していたです。佐貫君、この紙を見て思った事を言うです」
三郷先輩は俺に、2枚の紙を渡す。
見ると、市役所等で発酵する、戸籍の全部事項証明だ。
1枚は三郷先輩のだ。名前はみどり。
両親の名も記してある。
父親は三郷麻旺、母親は三郷朱里。何か父親の名前に、猛烈な既視感と、嫌な予感。
2枚目も三郷家の戸籍の全部事項証明。本当はこっちが1枚目のようだ。
筆頭者は三郷朱里、配偶者が三郷麻旺。三郷麻旺の、父と母の欄の姓が佐貫だ。
ちなみに俺の親父と名乗っていた男の名は、佐貫麻旺。
これは、まさか……。
「もうわかるですよね。お兄ちゃん」
「えっ!」
三郷先輩と俺以外の視線が、俺の方へと集中する。
「えっとつまり、俺の父親が再婚して三郷先輩の父親だと」
「つまり佐貫君は私のお兄ちゃんという訳なのです」
そう言われても困る。だいたい、この戸籍はだ。
「でもどっちも本当の親というわけじゃないだろ。そもそもこの戸籍だって、間違いなく偽造だろ。父となっている朝旺は東欧出身で、実年齢は400歳を超えてるぞ」
「でも日本のお役所は、この関係を正式にこうやって文章で証明してくれるのです。つまり佐貫君は、義理ではあるけれど、間違いなく立派に兄なのです。公的機関の証明以上に正しい関係は、少なくともこの国にはない筈なのです。以上、わかりましたかお兄ちゃん」
「つまりお姉ちゃんの兄だから、私の兄でもあるのです……でしょうか」
これはみらい。
「ん、出来のいい妹と出来の悪い兄の見本だね」
この悲しい意見は委員長だ。
「同意」
綾瀬が委員長の意見に頷いてしまった。
そして、更に、松戸がとどめを刺す。
「私も同感だわ。学年下に出来の悪い兄がいるとは先輩も不幸ね」
とりあえず、三郷先輩が言ったとおり、重い空気は無事解消された。
しかし、何がどうなっているのか。
あまりの展開に、俺自身がついて行けていない。
三郷先輩がニヤニヤ笑いながら説明を始める。
「まあ種明かしするです。この世界には、妖怪や亜人種を不当な方法で利用しようとする勢力に対抗する財団があるのです。麻旺君はそこで働いているです。そして財団では、佐貫君のような歴史の遺物の保護もするし、私のいた研究所の襲撃や制圧や証拠隠滅もするです。だから佐貫君を養ったり、私を保護したりするのも、なりゆき上ありうる事なのです」
そこは少しばかり、抗議をさせて貰おう。
「俺を養うと言っても、それこそ子供の頃から年単位で放っておかれたぞ」
「麻旺君は、飽きっぽくて忘れっぽくて惚れっぽいのです。うちの母親役が言っていたのです。一つ任務をこなすと前の任務は忘れるです。おまけに行く先々で恋をしては入籍して、離婚してを繰り返しているのです。私も数年会っていないので良く知らないけれど、そういう事らしいのです」
うーむ。何というか、どうしようもな奴だ。
まあ以前からそう感じてはいたのだが。
そう俺が思ったところで、委員長がとんでもない事を言う。
「ん、つまり佐貫は、そんな天性の浮気者の血を引いていると」
思わず俺は抗議する。
「おいちょっと待て。奴は名目上は父親だが、血縁じゃないぞ」
「血縁ではあるらしいのです。遺伝子上は兄弟らしいのです。麻旺君がずっと前に言っていたです」
何だぞの新事実は。全く俺は聞いていないぞ!
何というか、俺はもうお腹いっぱいだ。勘弁してくれ。
「ん、つまり佐貫は兄に養ってもらっていて、かつ妹の後輩になっていて、浮気者の血を引いている駄目人間って事でいいのか?」
「そうね、結論としてはそうなるわね。更に妹の妹に対して血を吸ったり、ベッドでキスして抱きしめたりした、変態の称号もあげてもいいかも」
「あ、確かに私のファーストキスは佐貫にあげてしまったです。これって近親相姦一歩手前なのです。禁断の愛なのです!」
「変態と認定」
何か色々と、俺に対して酷いことになっている。
しかし少なくとも、あのベッドインの件は、俺のせいじゃない。
松戸の企みで、俺以外の合意の上での行動だった筈だ。
更に三郷先輩が悪ノリする。
「ねえお兄ちゃん。明日彼とディズニーシーでデートするんですので、おこづかい頂戴です!」
「あ、なら私もです! 妹の妹で近親相姦被害者なのです。慰謝料なのですおこづかい要求するです!」
思わず委員長直伝チョップを出しそうになるが、ここは我慢。
そんなものを今出したら、絶対謝罪と賠償を要求される。
よろしいならば戦争だ! 残念ながらそう言える程、俺は神経が太くない。
ならば三十六計……
そこで俺は気がついた。異空間移動できない!
松戸が、いかにも悪そうな笑みを浮かべる。
「こんな楽しい話のネタを逃がす訳ないじゃない」
三郷先輩がウィンクしてみせた。
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俺にとって地獄のような時間は、こうして続く……
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