ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第10章 ある冬の日に

74 いわゆる一つの事後報告

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 出たのは見慣れた、学校の指揮所だった。
 そこで待っていた人影は。5人。
 真っ先に動いたのは、ひときわでかい体の一人だった。

「うおーぉ、秀美、良がったー!」

 柿岡先輩が、委員長を抱きしめる。

「お兄、苦しい。あと恥ずかしい」

「まあそこのシスコンさんのおかげで、事態を把握できたのよ。だから今回はあきらめなさい」

 これは神立先輩だ。
 他にいるのは、高浜先輩と牛久先生。
 あと見覚えのない、ごつい男性の先輩1人。

「私が状況を説明するね」

 神立先輩が口を開く。

「まずそこのでかいのが、慧眼で事態に気づいた。しかし空間が封鎖されて手が出ない。そこで空間移動の専門家である高浜君を呼んだ。しかし呼んだ直後に、高浜君でも事態が打開できそうにないと、慧眼で気づいた。
 でかいのはパニック状態になりつつも、慧眼で学校内をかたっぱしから調べる。結果、誰が適任かわかったでかいのは、何も考えず三郷さんの現在地に異空間移動。新義足調整中だった三郷さんと後台君の前にいきなり現れて土下座して、訳が分からない後台君と険悪な状態になりかける。
 そこに高浜君が私を連れて乱入。情報処理能力で事態を知った三郷さんと一緒に、後台君を納得させてここで待機。ついでだから当座の責任者を押し付けるために、牛久先生を呼んだ。そんな状況よ」

「あんな状態の時にいきなり現れて『頼む、三郷君を貸してくれ!』って土下座された時は、本当にどうしようかと思いましたよ。こっちの状況も状況でしたから」

 そういう事なら、このごつい男子が後台先輩だろう。
 状況が状況というのも、大体想像がつく。義足調整中なら、きっと三郷先輩があられもない恰好をしていたのだろうから。

「僕が神立を呼んだ理由は簡単だ。柿岡このバカは、弱点を突かれると簡単にパニックになる。そのままじっとしていれば対処が楽なんだが、なまじ慧眼持ちだから、パニック状態のまま的確な行動をとろうとする。でもパニック状態だから、誰も理解してくれない」

「それで私と高浜君とで付いて回って、周囲に理解を求めつつ、このでかいのをなだめるの。まあいつもの行動パターンよね。前回は神聖騎士団の攻撃の時だったっけ」

「そうそう、柿岡このバカをなだめるのが大変だった。そんな事をしたら周囲の通常空間まで壊しかねない、それをわかっている癖に、慧眼と術とで無理矢理閉鎖空間をこじ開けようとしたんだ、こいつは」

「で、なだめきれずに、別の異空間を作って無理矢理隔離したんだよね、あの時は」

「秀美ちゃん絡みだと簡単にパニックになるからな。それ以外は大丈夫なんだが」

 なるほど。
 まあシスコンなのは、俺も了解済みだ。
 何せ新入生に、いきなり菓子折り持って妹分のことを頼む位だし。

「言っておくが、今回異常だったのは僕だけじゃないからな!」

 あ、シスコンお兄が反撃。

「高浜も松戸さんがメンバーでいる事を知った途端、真面目に閉鎖空間への移動路を検討しだした癖に。まあおかげで助かったが」

「松戸さんの知識をここで消すのは損失だからね。僕の行動に問題はない」

 しれっと高浜先輩はそう言ってのける。

 うん、高浜先輩の方が役者は上だ。
 というか柿岡先輩がわかりやすすぎるのだ。慧眼持ちの癖に。

「あと春に言った佐貫君の警報の件、取り敢えずこれでいったん解除だな」

 お、それは有り難い。
 これで妙な特訓をしないで済む訳だ。

「まあ事象なんて力に寄ってくるものだしね。だから今後何も無いとは思えないわ」

 安心したと思った矢先に、神立先輩に微妙な事を言われてしまった。
 でもまあいい。今は警報解除を喜ぶとしよう。

 さて。俺は戦闘時に気になった事を思い出した。

「そう言えば、どうやってあの閉鎖空間に侵入できたんですか。神すら閉じ込める事が出来る状態だった筈です」

 高浜先輩がにやりとして答える。

「敵を閉じ込めるための封鎖だろ。ならば敵が出入出来ないルートなら、開いている可能性が高い。例えば敵を倒した未来。そこには敵は生きたまま到達できないだろう。そんな訳でそこから時間を遡って侵入させてもらった。多少のパラドックスが起こっても、因果関係さえしっかりしていればそう問題は起きないのさ」

「何せ色々問題を起こして実証しているもんね」

 うん、きっと色々あったんだな。
 高浜先輩も問題児らしいし。
 何か収集つかない言い合いを始めたところで、牛久先生の咳払いが場を鎮めた。

「さて、俺は不幸にも、この事案について報告書を書かなければいけない立場にある。だから取り合えず三郷、事情聴取するからこの場に残れ。他の者は解散。あと1年生組と三郷は本日の授業は出席扱いで休んでいい」

「ええ、3年組はもう出席とらないからいいですけれど、俺は」

「お前は三郷が心配だから、勝手にここにいただけだろう」

 あ、図星らしい。後台先輩が黙ってしまう。見かけはごついのに何か笑える。

「ごめんねヒサシゲ。その代わり日曜ディズニーOKですから」

「お、おう」

 更に後台先輩の様子を見て俺は確信。
 この人、少なくとも三郷先輩に対してはちょろい系だ。
 きっと、いや間違いなく。
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