ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第10章 ある冬の日に

73 最後のカード

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『あのイケメン君は美久の作った別空間。秀美による回復術実施中です。力を使い過ぎて消耗酷いので、秀美に頼んだです。今はいないです』

 みらいが状況を説明してくれる。

『お前たちはどうする気だ。無茶する気じゃないよな』 

『無茶ではないです。私の本来の使用方法なのです』

 みらいの念話の先で、松戸の声が聞こえる。
 先程中断したのと同じ、何か呪文か祝詞を唱えているような声。

『私は指揮管制用の兵器として、人工的に作られたです。運よく助けられて人間扱いしてもらって、学校にも通えたです。ここ半年は特に楽しかったです。だから感謝しているですよ。でも今のままでは能力足りないのです。だから人格や思い出を消去して兵器に戻るです』

『同時に私の奥の手も使わせてもらうわ。神人憑依術、私の身体を憑代にして、戦闘に秀でた神をおこす。あの敵とも互角に戦える筈よ。ただ召喚が切れた後の私は保証外扱いだけどね』

『いいのかよそれで。松戸もみらいも!』

『私もユーノも、そうしたいと自分で思ったからそうするだけですよ』

 俺は止めたい。何としても止めたい。
 しかし今の俺にその余裕は無い。一瞬でも気を抜けば、俺がやられると同時に全滅の危機が訪れる。

 俺はこの場から逃げられない。
 必死に綾瀬や委員長、ミシェルに呼び掛けているが応答もない。

『美久の能力でこの閉鎖空間外に出てるです。呼びかけは効かないですよ』

『やめてくれ!』

『往生際が悪いです。この前ひん剥いた時を思い出すです』

 そんな事こんな時に思い出すな!

『それではそろそろお別れなのです。ユーノともども忘れないで欲しいです』

 これで終わりなのか! こんな終わりなのか!
 そう叫びたくなった、その瞬間だった。

『ちょっと待ったです!』

 突如、第三者の念話が割り込んだ。

『ユーノちゃん中止です!別方法で勝ちに行くですよ!』

 夜の色をした小さい機動ポッドの出現が、みらいから中継された。
 聞こえていた松戸の声が止む。 

『三郷先輩、どうして……』

『話は後です!みらい、コマンド079リンク開始。相手モデルCVer.26』

『え、何で三郷先輩それを知っているです……え!』

 みらいの驚いた気配。

『解答と解説は後ですよ』

 その言葉とともに、矢継ぎ早に情報が送られた。
 俺の敵を捉える視覚に、注釈や方向線が加わる。
 敵の弱点と動きの癖、そして直近の行動予測だ。

 行動予測に従い、俺は回避運動を取る。
 今までの余裕が無い回避と乱数機動よりも随分と楽になった。

 送られてくる映像から、ミシェルや委員長、綾瀬がこの空間に復帰したのも見える。
 そして改めて長太刀を構えなおす松戸の姿も。

 全員が動き出し、配置につく。

『面倒だから一撃で仕留めるですよ』

 聞こえる念話こえが三郷先輩かみらいか判別がつかない。
 でも俺への指示は、はっきりとわかる。

 今まで以上に単純な移動経路と攻撃方法。
 俺達は与えられた指示に、ただ従うだけ。

 指示された通りに飛ぶ。曲がる。
 そして迂回して刀を振りかぶり、振り下ろす。

 手ごたえを感じる。
 でもそれを確認せず、指示に従い下方へ脱出。そのまま後退。

 そして上空から落ちて来て頽れる影。
 影は次第に闇の色を濃くすると同時に、形を失う。
 ついには跡形もなく、姿を消した。

 敵を倒したのだ。

 今の攻撃の全容を説明できる言葉は、俺には無い。
 敵の今までの行動を蓄積して分析した、みらいか三郷先輩かが、敵の行動パターンの裏をかいた動きで俺達を動かして攻撃を集中。
 予備も含めた全てのコアを破壊され、敵は頽れた。
 それが全てだ。
 
 俺は集まりつつある仲間の元へと向かう。
 その中心にある黒色機動ポッドのキャノピーが開いている。

 中の人物に、みらいが抱き着いて泣いていた。
 三郷先輩はそんなみらいの背中を優しく撫でている。

「うえーんお姉ちゃんです逢いたかったです逢いたかったですう……」

 何がどうなってどうしているんだろう。
 状況がつかめない。
 それにこの空間、閉鎖されていて綾瀬以外は侵入できない筈じゃなかったのか。

 聞きたいことは山程ある。
 でもその前に言うべきことが多分ある。

「まずは、勝利おめでとう!なのですよ」

 先に三郷先輩に言われてしまった。

「積もる話もあるですけれど、まずはお祝いなのです!」

 三郷先輩はみらいを撫でつつそう宣言する。
 え、そう来るの?

「学校側は既に説明済みなのです。後は私が報告入れれば、今日は出席扱いで休めるです。今日は金曜日なので、寝て起きた明日土曜日朝9時からパーティなのです。場所はあのキャンピングカー内で、メンバーはこのメンバーなのです。そこのイケメンさんは参加どうですか」

「うーん、僕は色々ほっぽってここに来ちゃったからね。急いで戻らないとまずいし予定もあるから、残念だけど不参加かな」

「残念なのです。しょうがないから、今度もっと楽しい機会にまた会おうなのです」

「そうだね。じゃあまた!」

 ミシェルが姿を消した。

「あああイケメンさんと仲良くなれるチャンスだったのに残念です」

 いや待てそこの先輩!

「三郷先輩には後台先輩がいるでしょう」

「ヒサシゲは主食なのです。イケメンさんはおやつなのです」

「その台詞後台先輩に密告しますよ」

「それくらいで揺らぐヒサシゲではないのです。色々餌もやっていますし鍛えているのです」

 後台先輩、不幸な人だ。
 まあ、この不幸を甘受して楽しんでいる可能性も高いが。

「さて、学校へ帰るですよ。皆待っているです」

 皆?
 そこに疑問を持ちつつ、三郷先輩の座標にあわせて俺達も移動する。
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