ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
68 / 78
第9章 激闘冬合宿!~新型猛獣女子、襲来~

68 答が見えない

しおりを挟む
 昼食の爆食、結果を言うと大丈夫ではなかった。
 皆食べ過ぎで倒れている。
 午後の訓練など出来る状態ではない。

 みらいは食後真っ先にダウンし固定ベッド行き。

 三郷先輩は、
「変形できない!」
と嘆いた後、義足付きでサングラスをかけたまま、固定ベッドの守谷の脇に倒れた。

 残った4人で何とか食器類やらテーブルやらを、気力だけで片付ける。
 松戸もそこで遂にダウン。
 いつもの俺の指定席である長椅子を奪って伸びた。

 委員長も気力だけでテーブルをベッドに変形させた後、シーツをかけずにそのままその上に倒れ込んでいる。
 綾瀬は行方不明。

 そしてそこまで暴食していない分余裕がある俺は、のんびり島の風景を見ていた。
 エアストリーム内に居場所が無いので外へ出たが、特にやる事は無い。

 本当は釣りでもしたいところだ。
 でも食料はまだ山ほどあるようなので、やめておく。

 少し散歩でもするか。
 そう言っても道路など無い。
 無人島で大型哺乳類がいないので、獣道すら無い。

 だから散歩と言っても空中散歩。
 道が無いので川をさかのぼる。
 このコースは前にも来たなあ、と思いつつ川を遡上。

 やがて濁った水が澄んで、湧水を湛えた池だか泉かに辿り着く。
 そしてそこに、Tシャツ姿のまま目を閉じて、水上に浮くようにして横たわって涼んでいる綾瀬がいた。
 何かすごく涼しげで、気持ちよさそうだ。
 絵のようにきれいにまとまっている感じ。

 ちょっとこれは、お邪魔するのは悪いかな。
 そう思って引き返そうとした時。

『来ないの?』

 念話で聞かれる。
 気付かれていたようだ。

 ならばと思って綾瀬の横に着地。
 脚をつけた瞬間は冷たいと感じたが、慣れるとちょうどいい水温だ。

『空飛ぶときの要領。ちょっとだけ水面に着くくらいで上向きで浮いていると気持ちいい』

 言われた通り、真似してみる。
 あ、確かに涼しくて気持ちいいかも。
 直射日光も崖に遮られて届かないし。

「確かにこれ……」

 しゃべろうとすると、口に水が入りそうになった。
 綾瀬が念話で会話していた理由を遅まきながら理解。

『確かにこれは気持ちいいな。程よく涼しくて』

 言い直す。
 綾瀬がちょっと笑った気配。
 今言い直した理由がばれたようだ。

『ちょっと食べ過ぎた。室内に居場所がないのでここに来てみた。ここは結構好き』

『確かに美味しかったからな。最終仕上げは綾瀬だろ。ありがとう』

『今回は素材が良かった。それだけ』

『でも海鮮丼のたれや漬けや味噌汁は、綾瀬が作ったんだろ。それに刺身を切り揃えたのも』

 大体は綾瀬が料理を担当する。
 でもたまに他の面子が料理を作ったりするので、傾向はわかっている。

 一番わかりやすいのが松戸。
 こいつはレパートリー豊富で腕もあるのだが、繊細さがない。

 切り方が大雑把、分量が多め、熱通し過ぎ。
 味付けも和風なら市販そばつゆ多用、洋風ならコンソメかブイヨンで基本OK。
 何かにかけるソースも基本的に市販品そのまま、ケチャップやマヨネーズ、市販ドレッシングかたまにオリーブオイルと岩塩という感じ。

 繊細なようで、どこかいい加減な委員長。
 例えば味噌汁の出汁の量が違ったり。
 あと味が基本的に薄味。

 みらいは教科書通りの作り方だが、材料も教科書通りで応用がきかない。
 袋入りインスタントラーメンすら、裏の説明通りに作る。

 だから作るところを見ていなくても、大体誰が作ったか位はわかるのた。
 今日の海鮮丼の仕上げは、間違いなく綾瀬。

『そう言ってくれると嬉しい。作り甲斐がある』

『まあ今日は調子に乗って食べ過ぎたけどな』

『だから夕食は遅めに作って、さっぱり食べられるものにしようと思う。後で買い出しに行く。付き合ってくれると助かる』

『いいよ。どうせ他の連中は動け無さそうだし。何処へ行く』

『日本の安いスーパーがいい。生麺とキュウリとトマトが買えれば充分』

 スーパー玉出じゃまずいよな。
 業務スーパーか千歳屋か西友あたりかな。
 どうしても前に学校があった、多間センター付近の店が思い浮かぶ。
 そろそろ別の場所も開拓したいところだ。

『どの店がいいかな』

『今日はそれほど買い物しない。どこでも大丈夫』

 まあいいや、行く時に考えよう。

『ところで昨日の夜、少しだけ話が聞こえた』

 唐突に話題が変わる。

『昨日の夜って、三郷先輩の惚気話』

『それもある』

 色々聞こえていたようだ。
 ちょっと昨日の話の内容を思い出してみる。
 大丈夫、綾瀬に聞かれて困る話は無い筈だ。

『だからあえて佐貫に言いたい。1人で勝手に何処かに行ってしまうって事、絶対にしないで欲しい』

 俺の返事を待たずに綾瀬は続ける。

『この前の侵攻の時もそうだ。だからこの場で答えて欲しい。1人で勝手に何処かへ行ってしまうという事はないと言って欲しい』

 ちょっと考える。
 この場でそう言うのは簡単だ。

 でもそうするのを正直躊躇っている俺がいる。
 今、対策で訓練している癖に、未だこいつらを連れて行きたくない俺自身がいる。
 巻き込みたくないと思う俺自身がいる。

 もうすでに巻き込んでいるのに、それでもまだ躊躇している。
 その癖、簡単な嘘さえつけずに固まっている。

 どう答えるのが正解か。
 今の俺には見えない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

鋼殻牙龍ドラグリヲ

南蛮蜥蜴
ファンタジー
歪なる怪物「害獣」の侵攻によって緩やかに滅びゆく世界にて、「アーマメントビースト」と呼ばれる兵器を操り、相棒のアンドロイド「カルマ」と共に戦いに明け暮れる主人公「真継雪兎」  ある日、彼はとある任務中に害獣に寄生され、身体を根本から造り替えられてしまう。 乗っ取られる危険を意識しつつも生きることを選んだ雪兎だったが、それが苦難の道のりの始まりだった。 次々と出現する凶悪な害獣達相手に、無双の機械龍「ドラグリヲ」が咆哮と共に牙を剥く。  延々と繰り返される殺戮と喪失の果てに、勇敢で臆病な青年を待ち受けるのは絶対的な破滅か、それともささやかな希望か。 ※小説になろう、カクヨム、ノベプラでも掲載中です。 ※挿絵は雨川真優(アメカワマユ)様@zgmf_x11dより頂きました。利用許可済です。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

処理中です...