ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第9章 激闘冬合宿!~新型猛獣女子、襲来~

65 夜の惚気と御伽話(2)

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「それで私は、介助無しで生活できるようになったのです。それでも結局、小学部の時はヒサシゲにべったりだったし、中学部に入ってからも、何やかんやで色々世話になってたです。
 義足も年に1度は新型を作っているですし、休日で寮の御飯がない時はヒサシゲの部屋に押しかけて飯を食わせてもらうですし。腕力無くて買い物でもそれ程持てないし、フライパンも重すぎて料理大変なのです。だからヒサシゲに食べさせてもらっているです。結局付き合いが長くて一番安心できるです」

 完全に後台先輩に寄生しているようだ。

「今つけている義足の装着確認していた時も、面白かったのです。あの日は私も少しはヒサシゲの事を考えて、ビキニの下を穿いて行ったです。で、下半身はそれ以外脱いで、肌に当たる部分の微調整をお願いしたです。
 それでヒサシゲが目を背けているもんだから『下の毛は処理しておいたから見ても大丈夫ですよ』と言ったら『もっと見えてはいけないものが丸見え!』と怒られたです。確かに足無いとビキニ外れ易いです。全部ずれて穿いている意味無い状態だったです。盲点です。
 でもあの時のヒサシゲの顔は傑作でしたのでしっかり憶えているです」

 それはいくら何でもあんまりだと、俺は思う。
 そんな事をされたら、思春期男子は壊れるぞ。
 よく後台先輩も我慢しているな、本当に。

 今度後台先輩と、猛獣女子被害者の会でも結成しようか。
 きっと先輩、フラストレーションを色々ためている事だろう。

「でもまだヒサシゲは一線越えてくれないのです。下半身も見られたり測られたり拭いたりしてもらっただけですし、上半身はキスもおっぱいもまだなのです。屈強な魔族男子を押し倒せる補助腕もヒサシゲに注文中なのですが、未だに作ってくれないです」

 何かすごくえぐい事を言っているような気がするが、おそらく気にしてはいけない。
 というか、仮にもほぼ全寮制の学校で、一線を越えてはまずいだろう。

 それにそんな補助腕、後台先輩が作らない方に一か月分の小遣い賭けてもいい。
 どう使われるか簡単に想像できるだろうし。

 というかそんな環境で、よく後台先輩が日常生活を送れているなと感心する。
 絶対色々溜まりまくっているのは、間違いない。

「私にはヒサシゲがいるです。だから私は大丈夫なのです。でもみらいはそんな相手もいないし、心配だったのです。やっと同級生の友達が増えて一安心なのです」

「でもみらいを引き入れたのは松戸ですよ。お礼なら松戸に言う方が良くないですか」

 三郷先輩は頷く。

「それは知っているです。勿論ユーノちゃんには感謝しているです。でも」

 先輩は俺の方を見る。

「この集団の中心は佐貫君なのです。例え発言権がなくても佐貫君なのです。その事は意識して欲しいです。何かあったら自分だけ犠牲になればいいとか、そんな事は絶対しないで欲しいです。みらい含めてあの4人の運命を背負っているという自覚を忘れないで欲しいです」

 まるで何かが見えているかのように、三郷先輩は言う。
 例えば俺がこの合宿前から悩んでいる事とか。
 だから聞いてみる。

「もし、勝ち目がなさそうな相手と戦わなければならないとしたら」

「そんな時こそ、自分が一人でない事を意識するです。間違えても被害を抑えるために自分一人で、なんて考えてはいけないのです。考えるべきなのは仲間を使って勝率を上げる事です。使えるモノは使って勝率を少しでも上げるよう頑張るのです」

 俺の状況がわかっているかのような台詞。
 だから更にちょっと聞いてみる。

「ひょっとして委員長か松戸に何か聞いている」

「私が聞いたのは訓練を手伝って欲しいという事だけです。後は私の経験と直感がそう言っているだけです」

 神眼は三郷先輩が嘘を言っていない事を告げている。
 なら本当に経験と勘でそう言っているのだろう。
 だとすれば凄い洞察力だ。

「焦ることは無いです。このチームは今の時点で既に強いです。今朝の訓練はそれをわかった上で、あえて意地悪したです。まだまだ強くなれるです。期待してもらっていいです」

「先輩、ありがとうございます」

 たった1学年差、しかも実際の年齢は俺の方が遥かに上の筈。
 でもそれでも三郷先輩の視点が俺より遥かに上にあるのを感じる。

「礼はいらないですよ。本人には絶対内緒にして欲しいですけれど、私はみらいの5人の姉に頼まれているです。絶対断れない状況で頼まれているので契約破棄できないです」

 その話は初耳だ。
 みらいにそんなに姉がいたとは聞いていない。
 そもそも姉妹がいるという話すら知らない。

「それって」

「絶対内緒です。みらいに聞くのも禁止です」

 三郷先輩はそう言って、今言った事がどういう意味なのか、それ以上は教えてくれなかった。

「そろそろ寝るです。おやすみなさいです」

 三郷先輩はそう言い、トレーラーに戻っていく。
 俺もしばらく海を見た後、眠くなったのでトレーラー内のいつもの長椅子に戻る。

 ◇◇◇
 
 次の朝は、何か内臓が求めているようないい匂いで目が覚めた。
 俺の真横のキッチンで、綾瀬が何やら作っている。

「おはよ。何作っているの」

「昨日出たあらで出汁を取っている。これをやっておけば後で色々使える」

 こういった手間暇であの美味しい料理が出来るわけか。

 そう感心していると固定ベッドの方からふらふらと、みらいがやってくる。

「いい匂いです胃を刺激するです」

 その顔が一瞬、昨晩の誰かと重なって見えた。
 昨日の委員長の言葉をふと思い出す。

 でも俺は、今はその謎は追及しない事にした。
 多分今、答えを急ぐ必要は無い。
 神眼の能力のせいじゃないけど感じるのだ。
 答え合わせの機会は今じゃないと。
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