ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第9章 激闘冬合宿!~新型猛獣女子、襲来~

64 夜の惚気と御伽話(1)

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 弁当やおかず、お茶等色々買ってトレーラーに戻る。
 メインテーブルのある場所はベッドと化しているので補助テーブルを出し、買ってきた食品を並べた。
 1,000円強の予算でも量・品目的に結構豪華だ。

 ちなみに行ってきたのは新今宮駅のすぐ近く、ド派手な黄色と赤の看板が目印の24時間営業のスーパーだ。
 店付近で若干異臭を感じたが、気にしてはいけない。
 その分確かに総菜類が安いから。

 タンブラーにお茶も注いでさあ食べるぞ、という時に左側で何か気配がした。
 黒色の流線形の機動ポッドが人型に変形する。

「食べ物の匂いなのです。おなかすいたのです」

 三郷先輩が起きてきた。
 夜のせいかサングラスを外している。

「夕飯の刺身盛り合わせは明日に変更だそうです。魚捌きに行った連中が疲れ果てていてそれどころじゃないみたいなので」

「頭と尻尾落とした状態で60kg以上ある大物なのです。素人が扱えば、それだけで疲労困憊するのは当然なのです」

 三郷先輩はこの顛末を予期していた模様。

「よくそんなの釣り上げましたね」

「釣り上げていないです。釣りは足止めに使っただけで、あとは接近してとどめさして血抜きして異空間移動かけたです。切断も異空間移動の時に空間面を使って切ったです」

 チートに能力を使いまくっているようだ。
 しかも異空間移動は三郷先輩自身の能力ではなく、乗っている機械の能力の筈。
 この天然的な能力の使い方こそが管制能力の神髄なのだろうか?

 三郷先輩は調理場から箸とタンブラーを持ってきて、俺の横に座る。
 自分でペットボトルのお茶をタンブラーに注いで一気飲み。

「うーん、起きがけの一杯最高なのです」

 そう言って、今度は俺の夕食の方に視線をやる。

「悪いスーパーを使っているです。女の子が買い物に行けない場所なのです」

 そういいつつも、何の予備動作もなく右手の箸がイカ大根の大根をかっさらった。

「ん……味はまあ及第点なのです」

「先輩これ俺の夕食……」

「焼肉定食、じゃなくて弱肉強食なのです」

 三郷先輩は高らかにそう宣言する。
 そして今度は2個98円のおにぎりの片方を箸で取った。

 まずい、これでは俺の分が無くなる。
 慌てて俺も夕食を開始する。
 俺が残ったおにぎりを食べ、48円の白身フライを食べ一服しているうちに、三郷先輩は俺のメイン予定だった120円の豚肉ごはん弁当をしっかり食べ終えた。
 更に俺がおやつ代わりに買った80円のロールケーキを丸かじり。

「うーんまあまあです。腹5分目位ですが、今日はこの位にしてやるです。次は沖縄のキロ弁希望なのです」

「三郷先輩、燃費が悪いですね」

 つい俺はそう言ってしまう。

「うーん、ヒサシゲにもそう言われているです」

 ヒサシゲ……ちょっと考えて該当者が思い当たる。
 狂科学研の開発担当、後台久重先輩だ。
 そう言えば三郷先輩が乗っているこの機体も、後台先輩作だったな。

「ついでだからちょっと外をお散歩しませんか、です」

 という事で俺は先輩と外に出る。

 いつのまにか外は完全に夜になっていた。
 でも夜だけれど相変わらず明るい。

 今日は満月ではない。
 それでも月と星の光、そして白い砂浜が優しい光を放っている。

「最近、みらいが楽しそうで安心していたです」

 ぽつり、と三郷先輩は呟くように言った。

「みらいも私と同じでずっと指揮所詰めで、同じ学年の友達とあまり交流ないから心配だったです。でも高校部になってから、特に夏頃から、すごく楽しそうな感じになったから安心したです。それまではずっと、私とかユカリとかアカリとか指揮所常駐組ばかりとつるんでたですから」

「三郷先輩は? 三郷先輩こそ中学部かそれ以前から指揮所詰めだったんだろ」

 三郷先輩は俺に笑顔を見せる。

「転入生なのに詳しいですね」

「色々聞きました」

「私の場合はヒサシゲがいたです。指揮所詰めになる前から」

 三郷先輩は星砂の上に腰を下ろす。
 俺も横に座る。

「ちょっと惚気るですよ」

 先輩はそう言って話し始める。

「私がここの小学部に来て、最初から世話になったのがヒサシゲです。当時私は車椅子生活だったのですが、車椅子を動かす程の腕力すら無かったです。なので当時から移動だの何だのでヒサシゲに世話になっていたです。
 ヒサシゲは魔族で、小1の時から短距離異空間移動が使えたです。腕力も普通の人間以上なので、車椅子を動かすのも不自由なく出来たです」

 つまり三郷先輩は、小1の頃から後台先輩の世話になっていた訳か。 

「私の寮は体が不自由な子用だったので寮内では不自由はあまり感じなかったです。でも学校では結局ほとんどの時間ヒサシゲに付き添ってもらっていたです。それは小学4年の夏まで続いたです。ヒサシゲが夏休み、宿題を全部さぼって先生に大目玉喰らってまでして最初の作品を作るまで。
 それは私専用の義足だったです。ヒサシゲの魔力を貯めて一日中歩いたり座ったりしても大丈夫な、私専用の義足だったです」

 三郷先輩はそこで、ちょっと息を継ぐ。

「勿論、今の義足ほど完成度は高くないし、見かけもそこまで良くはなかったです。でも私一人で一通りの生活をするには充分な出来だったです。
『お前もレディーになるんだから、いつまでも俺とだけつるんでいないで、もっと自分で動いて自分の世界を広げろよ』って恰好つけて言われたのを憶えているです。
 ついでに次の日の朝ヒサシゲの寮の部屋に行って『ここのフィット加減が今一つだから調整して欲しい』ってパンツ脱いで義足の調整迫った時の顔も憶えているです。
 時にはトイレで世話して貰う事すらあったのに何を今更と思ったのですが、男の子なんてそんなものなんでしょうか」

 そんなものです、と俺は心の中で叫ぶ。
 無自覚な美少女なんて思春期の男子にとって大変危険な代物だ。
 今でも時折強く強く実感している位に。

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