ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第9章 激闘冬合宿!~新型猛獣女子、襲来~

63 猛獣先輩は容赦無く

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 今日の昼食について、綾瀬と松戸が説明する。

「パンパーティにした」

「いつもはハード系食事パンばかりだから、たまにはこういうのもいいかなって」

 グローブ型のクリームパンや昔懐かしい感じのアンパン、更には棒状のパンやデニッシュ類まで様々なパンが比喩ではなくテーブル上にぎっしり並んでいる。

 いただきますと唱和した直後から、壮絶な戦いが始まった。
 この場に遠慮と言う言葉は無い。
 初参加の三郷先輩まで、しっかりこの場に馴染みきっている。

 負けじと俺も目の前のパンを取る。何だろう、この焼きパン粉がついたのは。
 食べてみると、焼きカレーパンだった。中のカレーのコクと表面のザクザク感がたまらない。

「ん、佐貫それ一人で食うな」

 委員長が、俺が2口かじったカレーパンを横取りする。
 間接キスなんて甘ったるい概念は、ここには無い。
 ああ、なかなか美味かったのに。

「それは東大和のサンサンベーカリーのカレーパン。有名じゃないけど美味しい店だよ。個人的にはあそこのクリームパンが好きだけど他も外れはないかな」

 松戸が解説してくれる。
 手にはクリームパン。

「そう、これ」

 松戸がちぎってクリームパンを分けてくれた。
 あ、確かに美味いかも。凄く普通だけど凄く美味しいクリームパンだ。
 パンがクリームを邪魔しないというかちょうどいい感じで、ちょいともったりした質感のクリームも最高。

 横では義足モードの三郷先輩が、丸い粒々のチョコが入ったパンを、食べてる途中の綾瀬から奪い取ってがっついている。

「代々木八幡の365日、クロッカンショコラ、私の知っている限り最高のチョコパン」

 綾瀬の解説。
 よっぽど美味しかったんだろう、まだ目がそのパンを追っている。

 委員長はお馴染みの、棒状のドライフルーツたっぷりのハード系パンを食べている。
 あれは見覚えがある。
 八王子のブールブールのパン、名前は忘れた。
 確かにあれは初めて食べるとはまる。

 俺は今度は見慣れない丸い形のサンドイッチに手を伸ばす。
 これはちゃんと切ってあるので4分の1だけ。

「それはマルイチベーグルのプレーンにクリームチーズを挟んだ奴」

 松戸がちゃんと解説してくれる。
 どう見ても40種類近くある菓子パンを、全部把握しているようだ。

「いったい何軒まわったんだ、今日は」

「残念ながら5軒回った時点で予算オーバー、それ以上回るのはあきらめたわ。本当はまだまだ回りたい店が山ほどあったんだけどね。でも店の系統が被らないように回ったから同じ種類のパンでも味に被りはない筈よ」

 どんだけパン好きなんだ、松戸&綾瀬おまえら

 でもまあ、確かにどれも美味い。
 焼きたてで美味いとか空腹だから美味いとかそういうのとは全然違う。
 どのパンもパン生地も中身も絶品だ。

「これは?」

「パーラー江古田のブルーチーズとナッツ」

 ハード系でがっちがちの外側に、いい感じでブルーチーズの味とくるみの風味が効いている。
 確かにこれも無茶苦茶美味い。

 そう思って食べていたら三郷先輩に奪われた。
 本当に容赦ないな、三郷先輩。

 気が付くと、あれだけあったパンがほとんど残っていない。
 俺はまだm正味4個分も食べていないのだけれども。

 その分見かけだけか弱そうな先輩が、豪快に他人から奪って食べていたような気がする。
 まさかそこまで管制能力使って?

「ふふふふふ、幸せ反応出ていて隙がある奴のパンをひたすら奪って食べてみたです。美味かったですご馳走様なのです」

 やっぱり自分の能力を無駄に使っていやがった。

「眠いのでひと眠りするです。魚をみらいと色々釣ってみたので次の食事は刺身盛り合わせを希望するです。では失礼するです」

 ちょっと移動して通路の広い所で小型流線形ボディに変形して、そのままベッドルーム方向へ消えていく。
 そのままひと眠りするつもりらしい。
 なんともやりたい放題で遠慮が無い先輩だ。

 パンを並べただけなので片付けは簡単。
 テーブル拭いてドリンクのタンブラーを集めて洗う位だ。

「そう言えばみらい、どんな魚釣ってきたの」

 みらいがプルプルと首を横に振る。

「……三郷先輩凄いのです。松戸家の魚専用冷蔵庫に入りきらなかったので、頭と尾はもったいないですけれど捨てたですが。現場映像を中継するです」

 俺達の脳に直接、松戸家の魚専用冷蔵庫内を俯瞰する映像が映し出される。
 新聞紙とビニル袋にくるまれた巨大な物体が、小さい商店のアイス陳列ケース位はある冷蔵庫の幅と高さを目いっぱい使ってやっと入っている。
 他に立派な赤い鯛だとかこの前と同じ巨大アジの姿も見えるが、そいつらが妙に小さく見えてしまう。

「何これ!」

 松戸が驚く姿を見せるのは珍しいのだが、三郷先輩がいるとそれも珍しくなくなっている。

「先輩はミナミマグロと言っていたです。頭と尾が無い今の状態でも60kg超すです。能力使って明らかに狙って釣っていたです」

「……美久、これ捌ける?」

 綾瀬は力なく首を横に振る。

「さすがに自信ない。ここの台所では無理」

 それはそうだ。載せられる場所すらトレーラー内にはない。

「寮の台所でも辛そうだし、うちの家の台所借りてがんばろうか。腕力も要りそうだし秀美も手伝ってもらっていい。あとみらいも」

 総力戦で挑むつもりのようだ。

「ん、面白そう」

「お魚さん捌くのはじめてです!」

 女性陣の次の予定は決まってしまった。
 しかし豪快と言うか型破りすぎるだろう、三郷先輩。
 いままで充分に凶悪だと感じていた4人すら、おとなしく感じてしまう。

 こんな猛獣、他ではどうやって扱っているんだろう。
 それとも学校等ではおとなしいのだろうか。
 うーん、2年の他の先輩に後でこっそり聞いてみたい。

 ◇◇◇

 女性陣が全員、松戸家へ魚を捌きに行ってしまった。
 だから俺は一人で、のんびりと過ごすことにする。
 実際昨夜から今朝までは学校だったから寝ていないし。

 ベッドではなく、寝慣れたいつもの長椅子で横になる。
 いつの間にか意識が落ちていた。

 気が付くと4時間以上過ぎている。
 料理に行った連中が、帰ってくるような気配はない。

 外は大分影が伸びてきている。
 夕暮れも近い。

 出て行った連中は大丈夫だろうか。
 学校に出ていた時間を合わせて、20時間以上は寝ていない計算になるが。

 そう思ったとたん空間が歪んだ。
 眼にクマつけた4人の帰還だ。
 その様子を見た俺は、テーブルを外しベッドの準備をする。

「ん、悪い佐貫。眠いから御飯起きてから」

「一応マグロも捌いてサクにまではしておいた。ちょっとそろそろ限界。ごめん」

 綾瀬とみらいはもう、しゃべる気力すらなさそうだ。
 合宿時と同じ割り振りで、松戸と綾瀬は固定ベッドの方へ。
 委員長とみらいは俺が大急ぎでセットしたリビング変形のベッドにそれでも一応シーツしいて。

 ばたり、という感じで倒れるように横になりそのまま寝入る。
 松戸家では、相当疲れるような活動をしていたのだろうか。
 それとも単に起きている時間の限界だったのだろうか。

 機動ポッドは全く動く気配はない。
 三郷先輩はまだまだ睡眠中のようだ。

 俺はやることないし若干お腹もすいてきた。
 よし、自分用だけの軽い買い出しに出かけるとしよう。
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