ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
58 / 78
第8章 強すぎる敵

58 本当の無茶とは

しおりを挟む
「こんな物、使っていいのかよ」

「だから先生達には出来ない無茶っていう訳。まあこの方法に気づく人は、そういないとは思うけれど。高浜先輩が似たような事をするけれど、あの人が扱うのは主にユダヤ教系一神教の聖遺物だし。
 剣の腕そのものは秀美の方が上だけれど、万が一の場合に生き残れる確率を考えて佐貫に託すわ。一応刀の知識も導入済みでしょ」

 確かに委員長や松戸の記憶から、ある程度の技を身につけている。

「私が消えると同時に、あの敵をこの空間を維持したまま切り結んで。飛行は使っていいわ。ただ斬りはじめたら止める事無く最後まで完全に切り結んで。そうしないとこの刀の真の力が出ない」

「それであの敵を倒せるのか」

 松戸は頷く。

「ええ。その刀は概念を切り結べる刀。切り結びさえすれば、あのタイプの存在なら充分に倒せる筈。鞘から出して構えてみて」

 言われるとおり構えてみる。
 不思議な程しっくりときた。
 そして刀も不思議と新品のような輝きを見せる。

「やはり神龍系の力を持っている佐貫はこの刀に好かれているようね。それでは私は仕掛けに行く。私が消えると同時に作戦開始よ、いいわね」

 松戸はそう言うと姿を消す。
 ならば俺も作戦開始だ。

 敵がいる場所は、指揮管制が無くとも神眼でわかる。
 低く飛び立ち、私鉄線路沿いに北上。
 直ぐに国道上に敵が確認出来た。

 何故か動きが止まっている。
 更に前方へとエネルギーを放出。
 いきなり学校狙いか。

 だがそのエネルギーは、敵の前方10mで散って消える。
 何が起こっているのだろう。詳細不明だ。

 しかし攻撃にはちょうどいい。
 高度を一気に上げ、真上から敵を襲う。

 敵がこちらに気づいた気配。しかし、もう遅い。
 飛行速度に重力を足して、頭から叩き斬る。
 位置エネルギーと運動エネルギーが切れる頃。
 ようやく敵は切断された。

  敵の気配が薄れていくのを感じる。
 事実姿も薄れてきている。
 そして、灰のように散って……

 前方から何かの姿が現れる。
 そして俺は気づいた。
 敵が何故足を止めたのか。何に対してエネルギーを放射したのか。
 そして襲撃寸前まで俺に気づかなかったのは何故か。

 松戸だった。
 俺のより遙かに長い刀を鞘に仕舞い、そしてふらっと倒れかける。

 危ない。
 とっさに駆けつけた俺の手は間に合った。
 何とか倒れる寸前の松戸を抱える。
 右手の先に刀をもったままという、大変危ない姿勢でだけれども。

「何を無茶しているんだよ」

「とりあえず、刀」

 松戸が左手で俺の刀の鞘を取り出す。
 松戸が倒れないのを確認してから、俺は鞘を受け取って松戸に返す。
 松戸はどこへともなくそれをしまい込んで、そして俺に小さく告げた。

「取り敢えず部室へ行くわよ。さすがに少し疲れたわ」

 ◇◇◇

 異動したのはエアストリーム内、後部のでっかいベッド前。
 松戸はそこに倒れ込むように横になる。

「さすがに疲れたわ。神的存在には慣れたと思ったけれど、やはり敵対すると相当消耗するわね」

 やばそうなので神眼で確認してみる。
 左半身はかなり酷い火傷。普通の人間ならショックだけで死んでいる。
 一応分け与えた俺の能力で何とかなってはいるけれど。

 少しずつは回復している。
 しかし治るのは相当かかりそうだし、何より見るだけで痛そうだし苦しそう。
 こいつの事だから痛覚遮断くらいはしているかもしれないけれど。

 松戸の意志を無視し、問答無用で唇を奪う。
 松戸という個体を保ったまま無理矢理エネルギー注入。

 慣れてきたせいもあり、5分程度でかなり回復。
 ここからは何もしないでも、30分程度で何とかなるだろう。
 今ので自力治癒力もまた上昇した筈だし。

「無茶するなよ。まあ言っても無駄なんだろうけれど」

「まあね。それに敵の足止めをするためにも、佐貫の一撃を確実に決めるためにも、そして万が一佐貫が失敗した時の為にも必要な手だった。エネルギー波は刀で概念ごと散らしたし、この白衣も特殊繊維で燃えないようになっている。それでもちょっと限界近かったかな。あ、ちょっと待って」

 松戸はちょっと目を瞑る。

「ごめん、指揮所の事忘れていたから三郷先輩と馬橋先生に連絡入れた。全員解放して解除するって」

「解放して大丈夫なのか」

「一応ね。馬橋先生が何とかしてくれるって。勿論校長とか幹部教師の何人かには事情を説明するけれど、それも全部馬橋先生の方でやってくれるって。でも」

 その後の事は言わなくてもわかる。
 いつもの3人が駆け込んできた。

 ◇◇◇

「ん、つまり神や概念まで切断できる刀を2振り使って、ユーノが牽制と陽動と足止め、佐貫が斬った訳か」

 委員長が状況を簡単にまとめる。

「そうなるわね。あと私が使った刀と佐貫が使った刀、見かけは違うけれども同じ物よ。佐貫が使ったのが石上神宮に祀られている初代の布都御魂剣で、私が使ったのが鹿島神宮に祀られている二代目の布都御魂剣。効能というか効果は同じ」

「ん、わかったけれどあんまり無茶しないでよ。ユーノは確信犯だから言っても無駄だとは思うけれど」

「同意」

「あと、何故三郷先輩を巻き込んだですか」

 みらい、ちょっと怒っている。

「私の能力では指揮所の全員を眠らせたり気絶させるのは無理だからね。かと言って国宝を持ち出して刺し違え覚悟で敵を倒してきますなんて言えないじゃない。あの場で一番話を通じさせやすくてその能力も持っているのが三郷先輩だったの。結果的には馬橋先生にも協力して貰ったけれどね」

「わかったのですけれど、ちょっと悔しいのです」

 みらいも一応納得したようだ。

「なら特訓しなきゃね。三郷先輩と同等に力を使えるようになるように」

 みらい、明らかにげっ! って顔をした。

「ううっ、特訓は苦手なのです。でも仕方ないのです」

「お願いね、みらい。さて、私と佐貫は一応馬橋先生に欠席届を出して貰う予定だからいいけれど、秀美に美久にみらいは閉会式出ないとまずいでしょ。出席取るし一応優勝したんだから。お願いね。私はちょっと休んで回復するから」

「ん、わかった。佐貫、ユーノが無理しないように見張り頼むな」

「よろしくです」

 3人は出て行く。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

鋼殻牙龍ドラグリヲ

南蛮蜥蜴
ファンタジー
歪なる怪物「害獣」の侵攻によって緩やかに滅びゆく世界にて、「アーマメントビースト」と呼ばれる兵器を操り、相棒のアンドロイド「カルマ」と共に戦いに明け暮れる主人公「真継雪兎」  ある日、彼はとある任務中に害獣に寄生され、身体を根本から造り替えられてしまう。 乗っ取られる危険を意識しつつも生きることを選んだ雪兎だったが、それが苦難の道のりの始まりだった。 次々と出現する凶悪な害獣達相手に、無双の機械龍「ドラグリヲ」が咆哮と共に牙を剥く。  延々と繰り返される殺戮と喪失の果てに、勇敢で臆病な青年を待ち受けるのは絶対的な破滅か、それともささやかな希望か。 ※小説になろう、カクヨム、ノベプラでも掲載中です。 ※挿絵は雨川真優(アメカワマユ)様@zgmf_x11dより頂きました。利用許可済です。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

処理中です...