ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第8章 強すぎる敵

57 敵襲、再び

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『連絡、侵入1個体。正体不明なれど強力な神聖系反応あり。現在飯農市街地付近。本校より東南東9.3キロメートル。敵対可能性9割以上』

 三郷先輩の声だ。
 早くも状況を確認したらしい。

『避難連絡、一般生徒は体育館に集合して下さい。繰り返します。一般生徒は体育館に集合して下さい』

 みらいも指示の連絡をはじめた。

『銃撃部隊1から指揮所。銃撃部隊1、集合準備中。集合次第、多峯主山拠点へ移動予定』

「俺達は?」

 いつの間にか現れた委員長に尋ねる。

「まもなく集合場所の指示があると思うよ」

 委員長がそう言った直後。

『指定生徒宛て。指定生徒は第1視聴覚室へ集合して下さい。繰り返します。指定生徒は第1視聴覚室へ集合して下さい』

 これか。

「ユーノはみらいと先に行った」

 これは綾瀬だ。あいつら、反応が早いな。

「なら行くか」

 俺達3人も、第1視聴覚室へと異空間移動した。

 ◇◇◇

 第1視聴覚室はかなり広い部屋だ。
 そして既に先着している面々が多数。
 例によって馬橋先生が集合した面子を確認している。

 そして指揮卓には、みらいや三郷先輩、校長や教頭が既に到着していた。

『敵と推定される個体は1体。父と子と聖霊教会が関与していると判明』

 父と子と聖霊教会か。
 はじめて聞く名だな。
 そう思ったところ、色々な情報が脳裏で展開される。

『父と子と聖霊教会とは、東方正教会から派生した異端の宗派であり秘密結社。南米に組織を持ち神聖騎士団とも交流がある。異教徒及び亜人種は悪魔の使徒として敵視し、小規模なテロを繰り返し実施している』

 これはきっと委員長の知識の一部だな。
 なかなか便利だ。
 さて、今の説明に出なかった事について、確認しておこう。

「委員長、このタイプの攻撃って過去にあったのか」

 委員長は首を横に振る。

「ん、無い。今回の敵は今まで確認されていないタイプ。聖霊教会が関わっている時点で敵には違いないけれどね」

『偵察部隊1、天覧山拠点に配置完了』

『指揮所了解』

『射撃部隊1配置完了』

『指揮所了解。射撃開始』

 少し遅れて遠くから音が聞こえる。
 しかし。

『敵に直撃弾3発。ただし敵に目立った損傷無し』

『了解、射撃部隊1離脱』

 その直後、敵のエネルギー反応が大きく膨らむ。

『偵察部隊1離脱』

 直後に、敵から何らかのエネルギーが放出された。

『多峯主山拠点消滅。射撃部隊1については離脱完了、人員の被害無し』

「重機関銃も効かないか」

 おいおい。
 重機関銃って、車両だって木っ端みじんになる威力だぞ。

『偵察ドローンより敵の画像、入ります』

 画像は指揮能力により各々に転送される。

 その姿は一見、ほぼ人間そのもの。
 白いゆったりとした服を纏った細面の長髪に髭を生やしている。

 しかし纏っている力は、とても人のものでは無いが、視線には意志というものは感じられない。
 その辺りがどことなく神聖騎士団の原罪なき者と似ている。

「神聖騎士団の原罪なき者と同じ、でも犠牲にした人の数が段違いの代物だわ」

 松戸の呟きが聞こえる。
 その呟きに、馬橋先生が反応した。

「えっ、それはどういう事かしら」


「あの敵です。技術としては原罪なき者と同じ、でも圧倒的に大勢の犠牲者の命を内包しています。おそらく南米で起こった昼の地震、それはあの敵を生み出すためのものだったのでしょう」

「ちょっと待って……確認したわ。間違いない」

 他に何人もの先生や生徒が反応している。
 松戸の台詞を、それぞれが現状把握能力で確認したらしい。

「そうすると、万人単位の人々を屠る威力の武器を使わないと倒せない訳か」

「さもなくば機関銃のような武器で削っていくか」

「さっきの銃撃部隊1のように反撃くらったら終わりだぞ」

 様々に巻き起こる議論。
 そして。

 不意に辺りが静まりかえった。
 議論を始めた先生も生徒も、机にもたれかかっている。

 俺は辺りを見回した。
 起きているように見えるのは俺、松戸、そして。

「馬橋先生、ありがとうございます」

 松戸が立ち上がって、一礼する。

「教員としては出来ない方法で相手をするつもりなのね」

「ええ」

 松戸は頷き、そして俺に説明。

「三郷先輩に相談して、指揮能力が及ぶ全員に強制睡眠をかけてもらった。さすがに校長や教頭、あと3年生の何人かはしぶとかったけれど、馬橋先生が協力してくれたから」

「超法規的措置、って奴ですね」

 三郷先輩がそんな事を言って、続ける。

「さて、残り時間は1時間無いですよ。それに私と馬橋先生の力でも、ここをこのままにしておくのは20分が限度だと思うのです」

「有り難うございます」

 松戸はもう一度、今度は三郷先輩に礼をして俺の方を向く。

「さて佐貫、行くわよ。神退治に」

 そして俺は何も説明されないまま、いきなり異空間移動させられた。

 ◇◇◇

 出たのは小高い丘の上だ。
 3人程うちの教員が倒れている。
 死んでいるのでは無く、眠っているようだ。
 これも三郷先輩なり馬橋先生なりの能力でなのだろう。

「説明するわ。あの存在は内部に人間数万人分の命を内包している。つまりそのレベルのダメージを与えなければ、倒せない」

 数万人レベルって、それだと……

「核兵器でも使わなければ無理、って事か」

「まあそうね。核兵器なら威力次第で倒せるかもしれないわ。もちろん通常空間側にも甚大な被害が出るし、学校も多分使えなくなるでしょうけれどね」

 おいおい。

「まさかそんなモノ、本気で使うんじゃ……」

「さすがに私でもそこまで無茶はしないわ。今回使うのはこの刀」

 古そうな黄土色の鞘に納められた日本刀が現れる。
 長さはそれほど長くない。
 竹刀や木刀の方と比べるとやや短いかな、という感じだ。

「この刀は」

「布都御魂剣。石上神宮から無断で借りた本物よ。あと刃がついている方が下だから。間違えて逆刃刀とか言って逆に使わないでね。国宝を折っちゃうとあとで誤魔化せなくなるから」
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