ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第7章 勝ち抜け、武闘大会!

56 勝負は、そして

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 一度エアストリームに戻って夜食。
 ちょっと早いが夜半過ぎから試合。なので軽くスパゲッティをいただき、取り敢えず休憩。
 そう思ったら松戸が、何かA4何枚か刷りの紙をテーブルの上に置いた。

「何だ、それ」

「学校新聞よ。うちの研究会を特集している奴。わりと良く書けているわ。読む?」

「ん、私達は午後の試合の時にも読めるから、後でいい」

「同意」

 ならという事で、ありがたく読ませて貰う。
 表面にはスポーツ紙のような怪しげなタイトルがずらずら。

『混合術式研究会、秘密裏に結成された謎の研究会』

『部室と称する豪華キャンピングカーの中身は!』

『疑惑の活動歴に迫る!』

『女子4人男子1人!佐貫君のハーレム疑惑!』

 気になったので一番最後の記事を読んでみる。

『……特に委員長を務める柏秀美(16)と一緒に行動することが多い。なおクラスメイトに取材したところ、匿名希望の虎男氏(15)は『あれをハーレムと呼ぶのなら、俺達はハーレムなどいらない!』と何故か恐怖感を露わに語った。なお複数の男子生徒からも同様の反応及び意見を聴取しており、同研究会が佐貫龍洋(16)のハーレムである可能性は残念ながら低い……』

 ハーレム疑惑を晴らしてくれたお礼に、勝田君には学食のラーメンおごってやろう。
 そう思いつつ他の記事もひととおり読んでみる。

 なかなかよく調べてあるなというのが俺の印象。
 神聖騎士団侵攻時の俺達の行動一覧、エアストリームを夏合宿に使った際の早朝集合時の目撃談、挙句の果てには服装チェックまで掲載している。

 ちなみに服装チェックによると、委員長は偽JK風、綾瀬はGU派、松戸は西海岸系ファストファッション、守谷はセブンティーン系、俺はヒキニート系だそうだ。
 少なくとも俺の中身はバレている。笑えない。

 各々の戦力分析とかも載っている。
 ちなみに総合評価が一番低いのが俺だ。

 他にも色々とよく調べて書かれている。
 流石に松戸の世界消失企図事案は載っていなかったけれど。

「そろそろ準決勝第2試合、スタートするですよ」

 みらいの言葉とほぼ同時に中継が入った。

「さあ準決勝の第2試合は神仙協会と小吉クラブです。どうですか、青井さん」

「そうですね。例によって戦闘力そのものは神仙協会なのですが、これも小吉クラブが勝つのでしょうね」

「何か投げ遣りですね青井さん」

「ええ、確かに。実はお散歩クラブが小吉クラブに負けるとは、思っていなかったもので。あ、でも小吉クラブの出場選手が替わっていますね。三郷選手はそのままですが、残り2人が町屋選手と根津選手になっています。これはどうなんでしょうか、六町さん」

「うーん、これは主力の2人を大事を取って休ませたと思っていいのではないでしょうか。町屋選手も根津選手もあまり戦闘向きの選手ではありません。どちらもそれなりの妖術は使えますけれど、そして神仙協会は術にめっぽう強い事で定評があります」

「でもそれですと大幅に神仙協会が有利という事になりますよね」

「デモンストレーションね、私達に対しての」

 松戸がそうつぶやく。

「デモンストレーションって、何をする気だ」

「三郷先輩自身の戦闘能力のデモンストレーションよ。私達が1回戦をみらいに任せたのと同じ。補助脚にして両方の補助腕に槍を構えているわ」

「ん、そうだね。やる気だよ」

 委員長まで同意する。
 とすると、まさか……

 試合開始の電子音が鳴る。
 その次の瞬間、いきなりダメージメーターが一つ動いた。

「三郷選手、速攻! 神仙協会乃木選手早くも……えっ!」

 みらいの能力でやっとわかる今の攻撃。
 試合開始と同時に、11軸全てを使った上での最短ルートで、乃木先輩を背後下から攻撃したのだ。
 その速さは異空間を使用し、更に時間軸も使用したみらいの全速と互角。

 更に軸を湾曲させて同時に残り2人の先輩を狙う。
 八幡先輩はかろうじてダメージ半分で済んだが、赤坂先輩はダメージ超過だ。

 そして更に槍2本を別の軸経由で投擲。
 三郷先輩自身も飛行形態に変形して八幡先輩を襲う。

 瞬殺、と言っていいのだろう。
 開始後10秒もたたないうちに終了の電子音が鳴った。

「これは……驚きました。戦闘力が無いと思われた三郷選手による圧倒的攻撃です」

「異空間を使った強襲に、多次元多目標同時切断、さらに槍の投擲ですね。どれもお散歩クラブの内原選手が得意としている高難易度の異空間戦闘術です。まさか他に使う選手がいたとは……」

「前の試合で内原先輩が使ったのを見て、指揮能力で自分自身と補助機械を操作してやったわけか。怖いわね」

 松戸が解説。

「見ただけで、そんな事が出来るのか」

「ん、理論上はね。みらいは1度の行動だけでも、全て動きを解析する事が可能だよね。その動きを元にして最大指揮能力を自分自身に対して使っただけ。ただ実際に出来るというのは凄いな」

「私にはまだあれは無理なのです。モニターと解析までは出来るのですが、あそこまでの指揮というか操作はまだ出来ないです。まずいのです。大変なのです」

 みらいがパニクっている。

「まあそれはしょうがないわ。私達は出来る事で作戦を組むしかない。それにあの攻撃、佐貫は一応対処できるでしょ」

 松戸が言っている意味は、今の俺には理解できた。

「そうか、だから松戸と委員長によるダブル攻撃なんてやったのか」

 松戸も委員長も頷く。

「そう。それに私も同じような攻撃方法を持っている。だから基本的には作戦は最初と同じ。佐貫とみらいで三郷先輩を食い止めて。私が残り2人を相手にするから」

「もし全員でユーノを狙ったらどうするですか」

「異空間へ逃げるまでね。三郷先輩の能力でも、他の2人を異空間へ移動させて戦うまでは出来ないだろうし。異空間に逃げても三郷先輩が私を追ってくるようなら、その時は佐貫の出番ね。それでいいでしょ」

「ジャミングを使ったらどうするのですか」

「基本的には同じ程度のジャミングで対抗して。個別にかけたり強さを調節したりする可能性があるからそのあたりは注意してね。例外として私にかけたり佐貫にかけたりした場合は三郷先輩以外の2人を対象にジャミングをかける。それでいい」

「ん、そうだね」

「うーん、了解なのです」

「ある程度ケースバイケースでやるしかないわね。こっちは全員念話が使えるからジャミングを全員にかけない限り連絡に困らないし」

 まあそうだろう。というかそれしかない。
 若干の不安を残したまま決勝戦を迎える。

 ◇◇◇

 試合5分前。
 異空間移動を使って指定の位置へ移動。
 グラウンド一塁側の試合開始線。
 横一列でみらい、俺、松戸だ。

 小吉クラブは三郷先輩、小林先輩、安食先輩。
 準決勝以外の時と同じ布陣。
 これがベストメンバーのようだ。

 放送委員会の解説が流れているが、もう聞かない。
 そして試合開始の電子音が鳴る。

 速攻で来た。みらい狙いの三郷先輩の槍を右手の剣で弾き返す。
 そのままみらい側に位置して、三郷先輩の猛攻を受ける。

 稲田先輩よりは厳しい。
 それでもみらいのサポートがあれば、異空間経由の槍の攻撃筋もわかる。
 わかってしまえば、速さそのものは委員長と松戸のダブル攻撃より遅い。

 防御に加え細かい攻撃を入れて手数を稼ぐ。
 致命傷を与える事を望む程ではない。
 相手も避けるのにリソースを食われる程度に。

 俺が望むのは膠着状態。体力差で追い詰めるせこい作戦。
 三郷先輩と俺の能力で俺の方が圧倒的に有利なのが体力。

 ただ、問題なのがジャミングだ。
 俺だけにかけられた場合の次の一撃の躱し方。
 だからあえて異空間は使わない。
 相手の槍筋を確認しつつ、あくまで堅実に打って返してを繰り返す。

 そして。

 視界が突然奪われる。神眼もきかない。
 俺は最後に残った足の触覚で膝を曲げ、後方へと身体をひねりジャンプする。
 腹ばいに着地できるように。

 何も見えないし感じない中だから、多少のダメージは出るだろう。
 でも次の瞬間の一撃を躱すのには有効だ。

 あとは俺は待ち続けるだけ。
 五感が回復するのを。みらいからの指示が来るのを。

 松戸はうまくやっているのだろうか。みらいはどうか。
 俺はあの2人を信じるしかない。

 そして。唐突に五感が回復する。
 状況は。

 戦闘中の気配はない。
 神眼で確認。試合は終了している。
 ダメージメーターは俺が残り9割、松戸が残り5割、みらいがダメージ無し。
 勝っている。

『ダイジェストで説明するですよ』

 みらいから念話と映像が送られてきた。

 俺にジャミングをかけると同時に三郷先輩が攻撃に出る。
 だが俺は最後の跳躍でぎりぎり攻撃を躱した。

 次の瞬間みらいがジャミングを三郷先輩に仕掛ける。
 三郷先輩は仕方なく俺達全員にジャミングをかける。
 みらいも同様。

 あとは三郷先輩とみらいの体力差。
 結果、ジャミングから一番早く抜け出たのは松戸だった。
 ジャミングがかかったままの3人を倒してゲームセットだ。

 勝った。勝った、けどなあ。
 実感がわかない。
 何せ俺、倒れたままだったしさ。

 でも、まあ。取り敢えず優勝して良かった。
 これで研究会設立もあのエアストリームも認められるだろうし。

 そう思った時だった。
 俺の神眼が猛速度で危険を告げた。

 次の瞬間。あの不吉なサイレンが鳴り響いた。
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