ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
54 / 78
第7章 勝ち抜け、武闘大会!

54 委員長の昔話

しおりを挟む
 そういう訳で、しばらく時間つぶし。
 4人で砂浜に座って、のんびりと会話。

「次の試合は委員長が友部先輩、俺が笠間先輩、綾瀬が稲田先輩相手でいいんだよな」

「ん、それでお願い」

「確かに委員長は強いけれど、友部先輩も相当だろ。1オン1じゃなくて3対3で戦ってもいいんじゃないか」

「ん、そうなんだけれどね、多分友部先輩は私と1対1で戦いたがっている。だからあえて1対1でやろうと思ってね。将来の敵対策というんじゃなくて、私とゆかり、友部先輩の個人的な因縁みたいなもの」

 聞き捨てならない言葉が聞こえた。

「将来の敵対策って、何だ」

「ん、ごめん。ユーノから聞いた」

「ごめんね。佐貫に前に言った、この大会後に現れる敵についても皆には言ってあるの」

 松戸がそう説明してくれる。

「そうか、俺は大会に夢中で忘れていたな」

「佐貫はそれでいい。悩んでも無駄なら考える必要は無い」

 綾瀬にそんな事を言われるが、これは褒めているのかけなしているのか。
 まあ綾瀬の事だから、単なる現状肯定以上の意味は無いのだろう、きっと。

「だから戦力として鍛えるため、わざと相手の土俵で戦って勝つというスタイルをやっていた訳。佐貫には言っていなかったけれどね」

「何か色々巻き込んじゃって申し訳ないな」

 そう。
 これは俺目がけてふりかかってくる災難だった筈だ。

「今更ね、皆わかっていてここにいる。みらいも含めてね」

「みらいもなのか」

 他はそれぞれ個人的に聞いている。
 でもみらいは例外だと思っていた。
 松戸は頷く。

「うん、実は夏の合宿よりも前に話をして、それでもいいならって協力を求めたの。笑顔であっさり同意してくれたわ。『敵として不足は無いのです』って言って」

 うーん、みらいの奴。
 よく考えているのか考えていないのかわからん。
 でも、まあ。

「わかった。なら……でも、安全第一でな。それで委員長の友部先輩との因縁って何なんだ」

「ん、まあ大した事じゃ無いけれどね。中等部の大会は高等部みたいなチーム戦じゃなくて個人戦なんだ。それで2年前、中学部の大会の個人戦で私と友部先輩が勝ち残って決勝になった。もともと同じ里の出身だしね。手の内もよくわかっている相手だった。
 それで決勝の時、私は既にその時神眼と初歩の加速術式は使えたんだけれどね。素のままの自分の実力が知りたかったからあえて術式も能力も一切試合では使わなかった。結果は相打ちで、双方準優勝扱いになったんだけどね、友部先輩は私が術式を使わなかったことを手を抜いたみたいに感じたらしい。それで友部先輩は賞を辞退した。友部先輩が辞退したならと私も賞を辞退した。それが多分引っかかっているんだと思う」

「それだけではないですよ」

 背後から声がした。
 みらいだ。

「起き出したら誰もいなかったのです。仲間はずれはずるいのです」

 いつものみらいと同じ感じだが、微妙に目が笑っていない。

「私だけ仲間はずれの罰という訳では無いですが、この際に全部話してしまった方が楽になれるです。私はそう思うです」

「みらい、何故知っているの」

「友部っちは指揮所の常連さんなのです。私のガードをしていた事もあるです」

 狭い学校、色々な人間関係があるようだ。
 委員長は軽くため息をつく。

「みらい、どこまで知っているのかな」

「友部先輩は、『秀美は確かに本物の秀美だけれど、私の幼馴染の秀美じゃない』そう言っていたです」

 ふと松戸が体を一瞬震わした。
 彼女はその言葉だけで何かに気づいたようだ。
 俺には全く見当がつかない。

「ん、ひょっとしてユーノも、ひょっとしたら美久も気づいた?」

「私も同類だからね」

「私の友達は今の秀美」

 あれ、気づいていないのは俺だけか?
 ひょっとしたら神眼を使えばわかるのかもしれない。
 そのつもりは無いけど。

 今の流れのまま、委員長の言葉を待つ。

「ん、しょうがないね。本当は春のユーノの事件の時に言っておくのが良かったんだろうけれどね、何か言い出しにくくて」

 そう言って委員長はため息を一つつき、続ける。

「長い話になるけれど、いい」

 俺達は無言で頷く。

「お兄がお茶会の時、自分だけマグカップを使っていた理由。あれば別にがぶ飲みするからじゃ無い。昔のお兄は取っ手が細いティーカップを持ちにくかったから。つい最近まで左手しか使えなかったから。慧眼を使うようになって右手も動かせるようになったけれどね。そして右手を失ったのは私のせい」

 いきなり強烈な告白が始まった。

「まだ私が4歳でお兄が6歳の時、住んでいた里が襲われた。私とお兄は小屋の中の隠し部屋に隠れた。でも最初の襲撃は陽動で、本命は里の奥に空間移動で出現した部隊だったらしい。この事は後で聞いたんだけれども」

 既に話の不穏感はMAXだが、委員長は淡々と続ける。

「突然隠し部屋の入口が開かれて、男が現れた。男は私を見つけると嫌らしい笑いを浮かべて刀を振りかぶった。振り下ろす瞬間まで見えた。私は動けなかった。
 その時私はちょっと記憶を失ったらしい。気が付いた時にはお兄に抱きかかえられていた。『さっきの男はやっつけたからもう心配ないし、隠し部屋の入口も家具を移動させて塞いだからもう大丈夫だよ』。お兄の言葉に安心してそのまま眠ってしまった。お兄が何故か右手を使っていなかったことの意味に気づかなかった。まもなく襲撃は撃退して、隠し部屋から私たちは助け出された。部屋の中には私達の他に折れた剣と、その折れた剣先が喉に刺さった状態で倒れている敵の死体があったと聞いた。剣には毒が塗ってあったとも。
 私は無傷で助かった。お兄はその後3日毒の後遺症で高熱で寝込んだ。次に会った時は右肩から先が無かった。それが今での、里におけるあの襲撃事件の公式見解。でも私が経験した襲撃事件は、実は違うの」

 そう言って委員長はいったん息をつく。

「そう、今話したのはきっとこの世界では正しい。けれど私の体験としては正確じゃない。私が最初にこの襲撃を経験した時にはね、お兄は死んだの。私をかばって必死になって敵に立ち向かっていって、それこそ全身ボロクズのようになって」

 そこで委員長はちょっと間をあける。
 俺達は何も言わない。

 委員長は、話を再開する。

「私はその後、何とかしてお兄を助けようと思った。幸い私のいた狸の里には使えそうな物があった。過去を見ることが出来る祠。本当は長老等が過去に失われた知識や過去の出来事を知るために使う場所。でも、うまく使えばあの時のあの場所へ行ける。あのときの私はそう思った。長老の部屋にあった本を盗み読みしたりして祠の使い方を覚えた。敵を倒すための技も覚えた。
 そして事件から1年後、私は祠にある過去の扉をくぐった」

 委員長はそこで、また少しだけ間をあけ、そして続ける。

「出たのはまさに、お兄が敵に立ち向かっているあの現場だった。でも違うところが一つあった。もう一人の私がいて、もう死んでいた。刀で袈裟懸けに切られて大量に出血して既に動かなくなっていた。
 私の出現で気を取られた隙をついて、お兄が折れた剣先を飛ばして敵を倒した。でも剣の毒でお兄も倒れて意識を失った。私はお兄の傷口から必死に毒を吸い出した。吸い出した毒で意識がかすれていく中、私の死体が消えていくのが見えた。何が起こったかわからないまま、私も毒で気を失った」

 委員長が言葉を止め、軽く一呼吸する。

「次に意識を取り戻した時、全ては悪い夢だったと思った。お兄が死んだところから私の死体が消えるところまでの全ては夢だったんだと思った。
 でもその後すぐに私は気づいた。里には過去の祠は無かった。木目が見える仕上げだった筈の神社の鳥居が真っ赤だった。他にも少しずつだけど私の記憶と世界が違っていた。
 一緒に遊んでいた友達も、私が私じゃないことに何となく気づいたんだと思う。仲間外れにされたわけじゃないけれど、少しずつ私から遠のいていった。1歳違いで当時仲が良かった友部先輩もその一人。あとは大人たちのうち、私の母親は気づいたかな。
 それで里の皆とはなんとなく疎遠になって。小学校でここに来たとき、里から離れて一人になれてほっとしたのを憶えている。
 お兄と神立先輩は、きっと全部知っている。神立先輩は祈祷師の訓練をしていて昔から他人の心を読めたし。お兄は現場にいて全部見ている筈だし。どっちも怖くて確認できないけれど。あの2人だけはずっと同じ距離で接してくれるから。
 だからオリジナルの秀美は既に死んでいる。私は別の世界からの異邦人」

 松戸は頷き、そして凄く軽い感じで返す。

「うーん、それだけ?」

 思わずええっ!という顔をする委員長。
 松戸は苦笑する。

「だってここの面子、訳ありばっかりでしょ。私はここがいくつめの世界か既にわからない状態。自分が死んだ可能性を何度もこの目で見てきたわ。綾瀬は人間どころか生物やめかけているし。みらいもまあ、言わないけど色々あるでしょ。佐貫もついでだからカミングアウトしたら?」

 うっ。俺にまで話が回ってきたか。
 でもこの際だ。思い切って言ってしまおう。

「ごめん、俺も実年齢は35超えてる。高校は2回目」

「ん、知っていたよ」

 委員長の簡単な反応。
 そうだったのか。格好悪いから必死になって隠そうとしていたのに。
 がっくりだ。

「そういうわけだから秀美、今後ともよろしくね」

「同意」

「よろしくですぅ」

「という訳で、夕食の準備をしましょ」

 松戸の言葉で、俺達はエアストリームに向かった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

鋼殻牙龍ドラグリヲ

南蛮蜥蜴
ファンタジー
歪なる怪物「害獣」の侵攻によって緩やかに滅びゆく世界にて、「アーマメントビースト」と呼ばれる兵器を操り、相棒のアンドロイド「カルマ」と共に戦いに明け暮れる主人公「真継雪兎」  ある日、彼はとある任務中に害獣に寄生され、身体を根本から造り替えられてしまう。 乗っ取られる危険を意識しつつも生きることを選んだ雪兎だったが、それが苦難の道のりの始まりだった。 次々と出現する凶悪な害獣達相手に、無双の機械龍「ドラグリヲ」が咆哮と共に牙を剥く。  延々と繰り返される殺戮と喪失の果てに、勇敢で臆病な青年を待ち受けるのは絶対的な破滅か、それともささやかな希望か。 ※小説になろう、カクヨム、ノベプラでも掲載中です。 ※挿絵は雨川真優(アメカワマユ)様@zgmf_x11dより頂きました。利用許可済です。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

処理中です...