ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第7章 勝ち抜け、武闘大会!

50 最強の追跡者

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 しかしだ。
 圧倒的なまでの存在を前にしているのに、松戸が不敵な笑みを浮かべているのがわかる。

 彼女は何か不明な言語で呪文を唱え、灰白色の石を前方にかざした。
 石には五本の線が刻まれ、中心に目の形が彫られている。

 目が光を放つ。
 光がその巨大な異形を覆っていく。
 異形の存在はその光を浴びると苦しむように体をのけぞらせ、姿を消していった。

 松戸の視界が背後の綾瀬を見て動く。 
 綾瀬が頷いて姿を消した。

「さて試合は次のフェーズに入りました。六町さん、もう大丈夫です。なので中継お願いします」

「はい、知覚遮断から戻ってきた六町です。今は眼では見えませんが、異空間で壮絶な追跡劇が行われている最中です。田中選手は魔力を使い果たしたらしく異空間を逃げ回っています。さすがお散歩クラブ設立者の1人だけあって私でも軸が多すぎて追い切れない。しかし綾瀬選手、着実に田中選手を追い詰めていきます。さすがに十数軸の異空間を使っても5m制限は辛いか。あ、ついに綾瀬選手が田中選手を捕らえました。一撃です。背後方向からの一撃が決まった」

 再び会場内を俯瞰する視界に入れ替わる。
 電子音が鳴った。

「試合終了です。第二回戦第一試合は、混合術式研究会の勝利に終わりました。まず連絡です。会場で失神したり狂気に襲われた方は教職員と生徒会の指示に従って治療に向ってください」

「それで青井さん、試合経過はどうだったのでしょうか。見ることが出来なかった方の為にも全体の解説をお願いします」

「それでは順を追って解説します。まず田中選手は第一回戦と同様、多数の邪神の使いを召喚して攻撃をかけました。それに対し混合術式研究会は松戸選手が更に多数の式神を使って応戦。式神は邪神の使いを撃破して反撃に出ます。
 田中選手はここでナイトゴーントを召喚して式神の動きを止め、呪文を唱える時間を稼ぎます。
 そして田中選手により、旧支配者の一柱ともされる存在が召喚されました。本来この存在は、近くで存在を感じただけで異形の恐怖に心を掴まれ正気を失うとされています。離れた放送席にいて、かつ精神抗力に自信があるわたくし青井でもかなり厳しい状態でした。正直私も召喚体とは言え旧支配者を目撃するのは初めてです。これこそが田中選手の切り札だったのでしょう。
 しかし松戸選手はその事態を予期していたのでしょう。何らかの品物アイテムで旧支配者を撃退。その後は綾瀬選手が異空間移動で逃げる田中選手を追撃し、一撃で試合を決めました。試合経過は以上です」

「了解しました。それにしてもそんなアイテムは一般的なものなのでしょうか」

「あのアイテムは旧神の印と思われます。しかし本来は、これほどの威力があるものではありません。仮に旧神の印だとしても流通しているものでもないし使用するにもいわゆる禁断の知識が必要です。正直今何が起こったか解説できるとすれば、松戸選手自身か相手の田中選手、お散歩研究会の高浜部長、2年生だと呪文専門に研究している新木君、あと両研究会の顧問の布佐先生位でしょう」

「なかなかにレアなアイテムの可能性が高いですね」

「高浜部長あたりは欲しがるでしょうね。それくらいの逸品アイテムの可能性があります。それを使用する松戸選手は何者なのでしょうか?ますます謎が深まる混合術式研究会、本日発売の学校新聞の号外で特集しております。一部50円ですので是非ご購入下さい」

 宣伝に入ったところで中継が切れた。
 しかし、綾瀬と松戸がなかなか帰ってこない。

 誰も心配はしていないけれど。
 どうせまた海外で買い物をしているのだろう。
 そう思っていたのだが。

 ドンドン!
 エアストリームのドアをノックする音がする。

「入っています」

「ごめん、私」

 松戸の妙に疲れた声がする。

「ごめん、私と美久の全力をもってしても振り切れなかった」

 何事かと委員長がドアを開けた先にいたのは、松戸、綾瀬の他に男子生徒1名。

「いや悪いね。ちょっと本気で後をつけさせて貰ったよ」

 この声は指揮所で聞いた。
 お散歩クラブ元部長にして校内最強の異空間能力者、3年生の高浜先輩だ。

「ごめんね。私の能力不足で」

「ユーノは悪くない。私の技量不足」

 委員長も肩をすくめる

「ん、高浜先輩の本気じゃ振り切るのは無理かもね。最初に目視できる距離にいれば、追いかける方が絶対的に有利だし」

「でもなかなかの逃げっぷりだったよ。11軸全てを使ったのは久しぶりだ」

 見かけは好青年という感じだが、何か微妙に怪しい雰囲気。
 前に委員長が俺と似ていると言っていたけれど、確かに吸血鬼系の血は感じる。
 しかし全体的には、どちらかというと俺より松戸系だ。

「ん、折角だからどうぞ」

 委員長が招き入れて、高浜先輩を含む全員がエアストリーム内に入る。

「うーん、いい部屋だね。これじゃ研究会棟の部屋を使わないのも道理かな」

「ん、一応空いている部屋はあるとは言われているんですけどね。ここの方が便利ですから」

 委員長がよそ行きモードで応対している。

「さて、次の試合、ここで観戦できるかな」

「みらい、お願いしてもいい」

「了解であります」

 変な語調で守谷が了解して中継を開始する。

「さて次の試合はTRICKSTERS対マカデミアンナッツ。TRICKSTERSは今度は友部選手、笠間選手、稲田選手の3人だ」

「これは現在のTRICKSTERSでは最強の布陣ですね。いずれも近接格闘戦に秀でた選手で、笠間選手は妖術と飛行術を、稲田選手は欺瞞術と異空間移動術をそれぞれ使用可能です。また友部選手については既に1回戦でおわかりの通りです」

「さて、マカデミアンナッツの方はどうでしょう」

「瓜連選手、静選手、千住選手ですね。全員飛行可能で高速格闘戦に秀でた選手です。また格闘戦の他に及び投げナイフによる投擲攻撃もあります。なおチーム名は学年ごとに変化していて、本来の研究会名は高速戦闘愛好会です。ちなみに昨年はカーニバルナイツという名称でした」

「それではこの試合、六町さんはどう見るでしょうか」

「TRICKSTERSの圧勝だね」

 高浜先輩はそうあっさり言ってのける。

「高速戦闘愛好会も弱くはない。でも今年のTRICKSTERSの最強メンバーに仕掛けるには全方面において能力が足りない。すぐに結果が出るだろう。それにしても凄い中継能力だね。これも守谷さんの指揮管制能力かな」

「戦力を探りに来ても答えませんです」

 高浜先輩は苦笑する。

「僕は大会のスパイに来た訳じゃないよ。あれはあくまで後輩達の戦いで僕が介入する必要は無いし介入してはいけない。彼らのためにならないからね」

「ん、事実ね。高浜先輩は嘘を言っていないよ」

 委員長がそう言うという事は事実だろう。
 俺の神眼よりも委員長の神眼の方が、オリジナルだけあってより高度な能力を持つ。
 そして俺の神眼でも、高浜先輩に嘘は見えない。
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