ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第7章 勝ち抜け、武闘大会!

47 小吉クラブの実力

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 昨日の夜食も今日の朝食も美味しかったらしい。
 なぜ推定かというと、俺は食べなかったからだ。

 食べられる状態じゃなかった。
 委員長と松戸にボコボコにされたからだ。

 委員長は薙刀の有段者。松戸は憑依やリーディングで過去の剣術の達人の動きをマスター済み。
 こいつらが異空間で数十次元もの方向から打ち込んでくるのだ。

 しかも俺は攻撃不可。防御すら不可。
 ひたすら避け続けろというとんでもない訓練。

「ん、流石吸血鬼の反射神経。2人掛かりでもなかなか有効打出ないね」

「私も本気で打ち込んでいるんだけどね。なかなかしぶどいなあ」

 そんな事を言いながら、1年生最強の2人が本気で打ちかかってくるのだ。

「私も明日の試合があるからこれくらいにしようかな」

 松戸がそう言う頃には、全身の皮膚が内出血バリバリ状態になっていた。
 飛行能力で体を支えないと立つことすら出来ない。
 痛いのがわかっているから痛覚遮断をしているけれど。

 歩けないので、飛行能力でエアストリームの長椅子までたどり着き、倒れる。
 哀れに思ったのか綾瀬が料理を持って来て食べさせてくれようとしたのだが、料理が喉を通る状態ですらなかった。

 ちなみに夜食はサンドイッチ、朝食はスパゲティとアクアパッツア。
 特に朝食はすごく美味そうだった。バジリコペースト入りスパゲティもアクアパッツアも食べたかった。
 でも身体が拒否していた。残念だ。

 結局昨日の夜から今日の陽が暮れる今までずっと俺は長椅子の上で寝ていた。
 何とももったいない。

 他の面々は俺の特訓が終了した後は水着に着替えて遊んでいた。
 こいつらの水着姿はいいかげん見慣れてしまったので別にどうでもいい。
 でも俺だけ遊べないのは癪に障る。

 かと言って寮の部屋に帰ると新聞部の猛攻を受けそうだ。
 だから冷房をガンガンにかけた車内でひたすら動かず回復を待つしかなかった。
 それで眠って起きたら今という訳だ。

 痛覚遮断を解除してみる。
 少しあちこちが痛むがほぼ内出血その他は治ったようだ。

 綾瀬が俺のすぐ向かいで夕食の準備をしている。
 俺が目を覚ましたのもベーコンを焼くいい香りがしたからだ。
 食欲も感じる。今度は食べるぞ!
 そう思って俺は起き上がる。

「あ、佐貫、復活ですぅー!」

「さすが佐貫ね。あれだけの怪我からもう動けるようになったんだ」

「ん、頑丈なのと自己回復が早いのは確認済みだから、心配はしてなかったけどね」

 昨日の犯人2名には全く罪の意識はない模様だ。
 まあ昨日の訓練で何か掴めたような気もするのは事実だけれど。

 松戸が立ち上がり、綾瀬の手元から皿を持って来て並べ始める。
 夕食は分厚いベーコンエッグ、サラダ、スープ、パンというメニューのようだ。

「活動開始っぽいメニューにしてみた」

 そう綾瀬。なかなか美味しそうだ。
 いただきますを言って食べ始める。
 うーん、厚切りベーコン最高。

「そう言えば学校新聞の件どうなった」

「そうね、次の試合の時に号外でも出ていたら貰ってくるね」

 つまり何も対策せずという事か。
 まあいいけど。

「そう言えば今日は学校、出席取るのか?」

「大会中はクラス別になる事はないから大丈夫だよ」

「じゃあ今日は基本的にここにいても大丈夫か」

「ん、学校新聞が面倒臭そうだし、私達はここでお留守番かな」

「そうね。私達もここで第8試合がはじまるころに行って、試合終了したらすぐ帰ってくるつもり」

 そんな事をしゃべりながら俺は約1日ぶりの食事をありがたくいただく。
 ん、そう言えばこのパン。

「綾瀬、ひょっとしてこのパン」

 綾瀬は頷く。

「開店直後に買ってきた。美味しいし外れが無い。値段も高くない」

 この前デートもどきで行った八王子のパン屋のパンだ。
 独特なパンが多いのですぐわかる。

「2軒目のパン屋も美味しかったけど、開店が遅いし値段が高い」

 その判断は正しいと俺も思う。
 そんな感じでのんびり夕食を食べていると、気が付けばもう21時30分近い。

「そろそろ第7試合かな」

「うー、わかったです」

 音声と画面が入る。

「さあまもなく第7試合、小吉クラブ対強攻妖撃会です。本日も実況は私六町と」

「青井でお伝えします。さて六町さん、双方のチームの解説をお願いします」

「はい。まず小吉クラブですが、出場選手は三郷選手、小林選手、安食選手。このうち三郷選手はご存じ指揮特化型で戦闘能力は期待できません。また小林選手、安食選手ともに小柄で速さが売りの選手ですがその分打撃力は劣ります。
 一方、強行妖撃会は下館選手、下妻選手、岩井選手3名とも強力な術と強靭な体力を誇る攻撃型の半妖人です。攻撃妖術は今回の規定で使用できませんが、それでも強化術と高速攻撃能力を持ち、戦力としては小吉クラブを圧倒しています」

「戦力的にはどう考えても小吉クラブには勝ち目は無いですね」

「ええ、それを三郷選手の指揮能力が何処までカバーするか。さあ開始です」

 試合開始を告げる電子音が鳴る。
 ふっと試合会場が揺らいだ。
 異空間とは違う術だ。
 小吉クラブ側の選手が何重にも重なって見える。

「小吉クラブ、いきなり仕掛けてきました。これは蜃気楼の術式。気温と湿度の操作で視界を歪ませる初歩的な術式だが、さあ強行妖撃会はどう出るか」

「下館選手が何か術式を唱えていますね。対抗術式で一気に……あっ!」

「下館選手、いきなりダメージ超過です。いきなりの小吉クラブの攻撃だ」

「今のは六町さん、どういう攻撃でしょうか」

「攻撃自体は2名による単純な槍による突きですね。ただ蜃気楼術式に隠蔽術式、更に気温操作による音声や気配の攪乱を行っている模様です。どれも初歩的な術式だから発動が早いし感知しにくい」

「下妻選手、岩井選手動き始めました。その場にとどまっていると同じような攻撃を受けると判断したのでしょうか」

「愚策ね」

 あっさり松戸がそう切って捨てる。
 その理由は俺にもわかった。

 今こそ逆に動きを止めて最大限に気配に気を配るべきなのだ。
 所詮は初歩的な術式、格闘戦圏内まで近づけば何らかの気配は漏れる。
 そこを突けばまだ勝ち目はあったのだろう。

 しかし。

「今度は岩井選手がやられた。同じく2名による槍攻撃だ」

「今度は下妻選手、飛行開始だ。上空へ逃げるとともに全体を把握するつもりか」

「ん、上に出たらいい目標だよね。地上より動きが遅くなるし」

 委員長の言葉通り背後からあっさり投槍に襲われる。
 だが今度はぎりぎり、ダメージは許容範囲内だ。

 そして上空の下妻先輩は何かを見つけたらしい。
 急激に下降して拳を構える。

「ゲームセット」

 綾瀬の言葉と同時に、下妻先輩は両脇から槍に襲われた。
 今度は完全にダメージ超過だ。

 霧が一気に晴れていく。
 下妻先輩のわずか3メートル先に三郷先輩。
 自分の姿をあえて見せて下妻先輩を誘導したのだろう。

 3対0。
 終わってみれば小吉クラブの圧勝だ。
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