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第7章 勝ち抜け、武闘大会!

46 学年最強格闘家の実力

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「青井さん、現場はどうでしょうか」

 映像で映っているのは試合会場の校庭だが、放送内容は別のようだ。

「はい、こちらは青井です。只今混合術式研究会の部室消失現場に来ております」

 何だと!

「状況を再度繰り返します。本日21時40分過ぎ、混合術式研究会の使用しているキャンピングトレーラーが消失するという事案が発生しました」

 なんとニュースになってしまった。
 松戸がばつの悪そうな顔をしている。

「いきなり脱走はまずかったかなあ」

「なお記者によりますと、取材の為トレーラーの扉をノックして学校新聞である旨告げたところ、『もう日経と読売とヘラルド取っているんで大丈夫です!』という返答とともにトレーラーが消失したという事です」

「青井さんは事態をどう見られますか」

「はい、事案そのものはトレーラーごとの異世界移動に間違いないですね。移動の痕跡もしっかり残っています。
 つまり混合術式研究会側が、学校新聞の取材に応じたくない何らかの理由があって、トレーラーごと逃走したものと見られます」

「逃走先は判明しませんか。青井さんも異空間能力者ですよね」

「異空間移動の痕跡ははっきり残っているのですが、あからさまに妨害術式がかかっています。追跡はしない方が賢明と判断しました」

「わかりました。なおこの件について、混合術式研究会側の顧問をしております牛久先生のコメントが入っております。『日経と読売とヘラルドなんてブルジョワだ、取るなら東スポかSUNにしておけ』との事です。この件につきましては、現在学校新聞と放送研究会の記者により合同調査を実施中です。新たな情報が入り次第お伝えします」

 おいおいおい。
 大事になっていないか。

「私より牛久先生の方がセンスがいいかなあ。次は人民日報とニューヨークポストにしようかしら」

 松戸が変なところで共感している。

「ん、牛久先生がああ言っているって事は大丈夫だね」

 本当か委員長。

「食料は大丈夫。美味しいのを買い溜めしてある」

「合宿決定ですう!」

 いいのか本当に。

「まあ問題を一つ二つ起こしたところで今更でしょ、私達」

 問題を自発的に起こしているのは松戸だろう!

「さて第3試合。TRICKSTERS対修験道クラブ。実況及び解説は青井さんが現場の為、いつもの六町一人でお送りします。さてこの試合は、TRICKSTERSは友部選手を始め近接格闘戦に秀でた選手の層が厚くて有利……っと、今回は友部選手が一人で戦うようだ。大丈夫でしょうか。友部選手は異空間操作をほとんど使えない筈です。
 一方修験道研究会は異空間操作を含む機動力ある選手が多く在籍しています。今回出場の名取選手、太子堂選手、長町選手3名とも異空間移動を使える選手です。
 さあ、まもなく試合開始です」

 電子音が鳴る。
 同時に修験道研究会3人の姿が消えた。

「修験道研究会3名の姿が消えました。どうも異空間からの攻撃を企図している模様です。一方友部選手は動かない。拳を構えた姿勢のまま目を閉じて動かない」

 映像は不気味な静けさに襲われる。

「委員長、友部先輩って知っているか」

「ん、勿論知っているよ」

 当然のように委員長は答える。

「本当に異空間とか術とか使わないのか。狸系だろ」

「ん、そうだけど友部先輩が術を使うところは見たことが無いな。まあ使う必要も無かったんだろうけれど」

「どういうこと?」

 松戸が食い付く。

「ん、見ていればわかるよ。あの人に術が必要ない理由」

 画面上の友部先輩は武器も持っていない。
 ただよく見るとダメージカウンタ付き手甲やブーツ、膝あてや肘あてを装備中。
 つまり徒手空拳ステゴロタイプの格闘家という訳か。

 不意に友部先輩が軽く体をひねり、肘で何かを突くと共に右足で何か蹴り上げる。
 明らかな打撃音が響いて、また静寂に戻った。

 表示板にダメージ判定の状況が映し出される。
 友部先輩のダメージ値が少し増えているが、修験道研究会のうち2名のダメージ値が既定の半分以上まで達している。

「凄いわね。異空間からの2人同時攻撃を異空間術式等無しで迎撃している」

「ん、友部先輩ならそれくらいは出来るよ。相手が同じレベルなら別かもしれないけれど」

 今度は友部先輩が大きく空に舞った。
 軽く回転しながら両手と足とが同時多発的に攻撃を迎撃している。

 更に両手で何かを掴み、投げる動作をした。
 何もない空間から男子生徒2名がいきなり現れ、後方に飛ばされる。

 2人とも既にダメージが規定以上。
 残る1人もダメージの残りは4分の1程度だ。
 
 また静かな画面に戻る。
 友部先輩は今度は両腕を大きく広げたポーズを取り、そして動かない。

「ん、勝負は見えたかな」

 委員長がそう呟くと同時に、一気に画面が動いた。

 一見、突然太刀が後ろに飛んで、前に倒れた男が出現したように見える。
 だが守谷の高精度な情報収集能力が捉えたのは、高速かつ繊細な防御と反撃。

 異空間から軸を変えて突きに来た太刀の切っ先を、太刀の背を軽く叩くことで軌道を逸らせ、次の瞬間に手元を下から蹴りあげて太刀を飛ばし、更に前のめりになった敵の下に入り込んで投げ飛ばす。
 異空間からの見えない筈の攻撃があっさりと破られた。

「あんなの反則です。見えていない攻撃に反撃するなんて非常識です」

 守谷の台詞に、今回だけは俺も同意する。

「ん、完全に見えない訳じゃないよ。異空間でも接近されれば気配は感じるし、攻撃の意思が強ければ殺気なり何なり感じるしね。だから近いレベルで格闘が出来る人が異空間を充分に使いこなせれば、それなりの勝機はあるよ。まあ準決勝まで戦うことは無いけど出て来たら私が相手する。多分今のも私宛のメッセージだろうし」

「委員長宛て?」

 委員長は頷く。

「ん、1年しか年が離れていないし色々あるのよ。仲が悪い訳じゃないけれど」

 そう言われれば思い当たる節が無い訳でも無い。

 旧校舎の時、TRICKSTERS部室の後ろ部分、柿岡先輩と神立先輩の方にTRICKSTERSの他の誰かが来るのを見たことが無いし、逆に委員長が部室の前の方に行ったのも見たことが無い。
 それに委員長。狸の里出身という生え抜きなのにあえてTRICKSTERSに所属していない。

 今までは単に、思考を読み取られるのが嫌とかそんな思いに遠慮してとかだけと思っていた。
 しかし他にも、色々理由があるのかもしれない。

「さて、このレベルが続くならうちの主戦力も鍛えておきましょうか。明日の第七試合まで注目カードも無いし。秀美、力を貸してくれる」

 えっ、うちの主戦力は松戸と委員長だろ。
 非常に嫌な予感が……

「ん、いいよ。全速で佐貫の相手をすればいいのかな」

 委員長の言葉からすると、やっぱり対象は俺?

「そう。私と2人でね。私達2人で異空間制御フルに使って攻撃するのを防げれば、どんな相手でも対処できるでしょ。佐貫なら大怪我しても治るしね。みらいは管制お願い。美久はご飯よろしくね」

「えーっ、釣りや探検はどうなるのですか」

「佐貫が動けなくなったら遊びの時間ね」

 おい、俺を殺す気か。

「ん、どうせ殺しても死なないでしょ」

 委員長それはないだろう。
 おい、頼む。誰か助けてくれ!
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